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両親転生  作者: 八神ひろ
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プロローグ

 それは1本の電話から始まった。


 両親の葬式を終え、ようやく落ち着いてきた夕暮れ時。自分以外は誰もいなくなった家に、やけに大きく聞こえる着信音が流れた。ポケットから取り出した携帯に表示された通知は、両親とともに失われたはずの携帯番号から。俺は瞬間的に頭の中が真っ白になって、ハッと我に返った後もパニックになって、たっぷり8回は鳴り続けただろうか、ようやく着信ボタンを押して恐る恐る話しかける。


「もし……もし?」

『お!やーーっと繋がったか!()()()()!』

「え?その声は」


 と会話しているスピーカーの向こうから、聞きなじみのある、だけれどももう二度と聞けないと思っていた女性の声も聞こえる。


『とうさん、それじゃあオレオレ詐欺になっちゃうでしょ!次はいつ繋がるんだか分からないんだから、ちゃんと状況説明してよ?!』

『あーはいはい。タクト聞こえるか?父さんだ』

「え???本当に父さんなの?」


 黄泉の国から聞こえてきた声は、やけに元気だった。


「父さん!今どこにいるの?身体は何ともないの?事故したの覚えてる?車ごとどこに消えてたんだよ!本当にもう、こっちは大変だったんだよ。お金は無いし、借金はあるし、妹は…」

『あー、父さんたちな、死んで転生して勇者になったんだわ』


 はいぃー?!1年ぶりの親子の会話はまったく噛み合わなかった。



 ◇◇◇



 俺の名は、天乃拓人あまのたくと。高校3年生だ。今は妹と二人暮らしなんだが、妹はもうずっと病院に入院しているから、家には俺だけしかない。


 両親は、1年とちょっと前に車の事故でいなくなってしまった。いなくなったというのは文字通り消えたということだ。奇妙な失踪事件は、両親の事故の映像とともに全国ニュースでも度々取り上げられた。


 その日のことは鮮明に覚えている。通っている高校から帰ろうとしていたところ警察から電話がかかってきて事故だと知らされた。両親の車は割と目立つ青いスポーツカーで、50歳が近いのに喜々として乗っており、これは完全に両親の趣味だ。うちの両親は、父親のとおるが車全般の組み立て・修理工を、母親のあかりが自動車の設計士を職としている。根っからの自動車愛好家が選んだ車だから、派手でも仕方ない。


 その青い車が映った映像を警察署で見せられた。ナンバープレートもはっきりと映っており、父さんの愛車に間違いない。映っていた場所は俺の記憶が正しければ、家からそんなに遠くない山道だ。映像は後続車のドライブレコーダーから取り出したものだそうだ。警察官は車が両親のものかどうかを確認するために俺を呼んだらしい。さらに対向車らしき車から撮られただろう映像を見せられた俺は、


「たしかにこの青い車に載っているのは両親です」


 と証言した。


 そして、おそらくこれから告げられることをさとり始めた俺は、これ以上なく意気消沈しかけるが、警察官は予想を上回る発言を浴びせてくれた。


「拓人さんにはとても辛いでしょうが、この後の映像もできれば見てほしい」

「は?」

「……」

「――えーと、俺に両親が死ぬところを見ろ、と?」


 そんなひどいことがあっていいのか?と思ったが、どうやら違うらしい。


「ご両親は、実は亡くなっているかどうかまだわからないのです。この後の映像から事故に巻き込まれたのは確実ですが、消えるのです」


 それは思った以上に現実的ではない映像だった。後続車の映像をコマ送りで見れば、山道を猛スピードで下ってきたトレーラーがカーブを曲がり切れずにセンターラインをはみ出し、両親の車に衝突――ここは思わず目を逸らしたくなった――、そのまま後続車も巻き込み、ガードレールを突破し、崖を転がろうかというところでホワイトアウト、次の瞬間には車が横倒しになったらしき映像が表示される。


「確実に事故に巻き込まれているはずなのですが、ご両親はおろか、この青い車の破片も消えたのです。この映像は今日の10時03分。さらにこの後続車の後ろの車が119番と110番をしてくださったので、救急車も警察も現場に10時10分頃には着いているのですが、それから20人体制で山を捜索したにも関わらず見つかりませんでした。事故相手のトレーラーも見つかっておらず、見つかったのは、後続車と後続車のドライバー、そしてトレーラーのドライバーだけです」


 頭がこんがらがってきた。俺はこめかみに指をあて落ち着けと念じた。一呼吸ついて、俺は携帯を取り出す。


「両親の番号にかけてみてもいいですか?」

「どうぞ」


 父親にも母親にもかけてみたがつながらない。


『おかけになった電話は、現在使われていないか、電波の届かないところに…』


 意地になって、ショートメッセージやメールも送ってみるが全く反応がない。


「つまり、あんなに大きなトレーラーも、うちの派手な色の車も、破片も残らず消えたってことですか?」

「そうとしか考えられません。崖下には川もないので、流されたというのも考えにくいですし、木が生い茂っていますから、転がり続けるというのも有り得ません。明日も捜索を続けてみますが……」

「わかりました。明日は俺も捜索に参加します」



 こうして、両親は異世界転生した。いや、残された俺らどーすんの……。

2019.10.07:主人公が高校を卒業したことになっていたのを修正しました。

2019.10.23:漢字とルビ修正。どこまで漢字にしてどこまで仮名にひらくか、なかなか安定していなくてすみません。

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