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剣と魔女と魔王の乱舞(ディソナンスワイルドダンス)  作者: 知翠浪漫
第一部 魔王降臨
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第一章 壊れた日常






 *




 ボスン、とクッションに倒れ込む感触で目を覚ました。


「ゴホッ、ゴホ。な、なんだぁ?」


 巻きあがったホコリにむせながら、穂群智貴ほむらともきは上体を起こす。

 周りを見渡してみれば、金属の手すりと壁際に設置されたソファ型の座席。天井には大量のつり革がぶら下がっている。壁には一面の窓と、両開きの扉が複数設置されていた。


 見まごうことなき電車の中である。


「そう言えば電車で新宿に行こうとしてたんだっけ……?」


 しかし車両の中に自分以外の姿が見当たらないのはどういうことだろう?

 更に言えば車両の中はまるで何年も放置されていたかのようにホコリやゴミが堆積している。智貴がむせたのも、それが原因だろう。


 ハッキリしない頭のせいか、現状が上手く理解できない。

 いや、現状は理解できるが、何故自分がこんなところにいるのか、それがわからない。

 どうもいきなりのことに少々混乱しているようだ。


 智貴は順を追って思い出す。

 今日は確か日曜日。朝の十時過ぎに妹の電話に叩き起こされた。

 内容は今すぐ新宿に出て来い、と言うものである。

 そしてなぜそんな電話が来たかと言えば、あらかじめその時間に待ち合わせをしていたからだ、智貴は寝過ごしたのだ。

 新作のゲームをプレイするため、智貴は仮病で学校を一日だけ休もうとした。その対価として出されたのが妹を日曜に買い物に連れていくこと。そしてその待ち合わせを朝の十時に新宿アルタ前に決めたのである。


 今思うと何故同じ家に住んでいるのにわざわざ外で待ち合わせをするのか疑問だったり、何故学校を休む対価が買い物に連れていくことなのか疑問は尽きない。

 ちなみに母はすでにいない。父は仕事で家にめったに帰ってくることはない。そのせいか学校を休もうとすると、何故か妹にお伺いを立てなければいけないのが穂群家の決まりになっている。


 閑話休題。とにかく、色々突っ込みどころがある約束だったが、したものは仕方がない。智貴は仕方なく、条件に出されていた手持ちの中でもそれなりにいい服に袖を通して家を出て、そして適当な電車に乗って新宿に向かったのである。


 しかし二日連続で朝の五時までゲームしていたのが響いたのだろう。智貴は新宿に向かう道中で突如睡魔に襲われ――そう言えばなんだか変な夢を見た気がする――そして目が覚めたらこうなっていた。


「いや、ちょっと意味がわからないですね」


 あまりにも前後が繋がらないからか、思わず敬語になってしまった。

 とりあえず、電車は動いていないようだ。ならば外に出るべきだろう、と考えて、そこで智貴は異常に気付く。


 智貴は地下鉄で新宿に向かおうとしていた。だと言うのに、なぜこんなにも電車の中が見えるのか。電灯はもちろん機能していない。疑問に思って窓を覗くと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 巨大な穴が外に続いており、上空に虹色の空が広がっている。


「な、なんだこりゃあ……?」


 まるでオーロラのように揺らめく空に、智貴はしばし呆然と上を眺めているのだった。






 *




 電車を出て、覗いていた大穴へ向かう。

 不思議と智貴の乗る車両だけ無事だったが、それ以外の車両はなんと言うか存在していなかった。


 傍にひしゃげた巨大な鉄くずが一つだけ転がっていたが、他にそれっぽいものは存在していない。

 大穴は直径十五メートルほど。傾斜はところどころ違いはあるが三十度ほどだ。凹凸が激しいので上るだけなら難しくはないだろう。

 なにをどうしたらこんな穴が開くのかは非常に気になるところだが、見た所、傍にこんな穴を開けられそうな怪獣や、ミサイルは見当たらない。


 智貴は慎重に周囲を警戒しながら穴をのぼり、外に出た。すると一面の緑が智貴を歓迎した。


「ここは……代々木公園か?」


 地面がデコボコし、見知らぬ植物があちらこちらに生えているが、間違いない。

 ここは渋谷区にある東京でも有数の公園。代々木公園だ。


 やはり空は虹色で、周囲にはところどころに廃墟化したビルと――そしてあまりに目立つ、不可解な物を智貴は発見する。


 それは北の方、新宿の方に存在していた。

 この世全ての不吉を凝縮したような黒。それが空に向かって伸びていたのである。

 それがなんなのかはわからない。そしてどれほどの高さまで伸びているのかはわからない。

 ただそれはまるで、神話にある神々に崩されてしまった塔をどこか彷彿とさせた。


 なんとなく、あまりよくない物のように思う。


 あれは一体なんなのだろう。そんな風に気を取られていたのが悪かったのかもしれない。

 気付けばすぐ背後にそれは迫っていた。悪意を持った不幸、そうとでも呼ぶべき存在が。


 ガラガラガラ。まるで赤子をあやすガラガラのような騒がしい音。そしてなにかが地を這うような音。

 智貴の脳裏に一つだけ、該当する音を出す生物が思い出される。しかし智貴の記憶上ではその生物が出す音はもっと小さいものだ。


 嫌な予感に駆られながら、智貴は「ギギギギギ」と音がしそうなほど、ぎこちない動きで振り返る。

 そして背後に迫るその生物を見た。

 額に第三の瞳を持つ、象を丸呑みできそうなほどに巨大な蛇。頭だけで車程のサイズがある。一言で言って化物だ。


 ゆっくりとすり足で横に動く。蛇の視線がそれを追いかける。どうやら完全にロックオンされているらしい。


 蛇は肉食。しかも丸のみにされて骨までさっぱり溶かされるらしい。検索もしてないのに脳内データベースからそんな情報が提示される。

 よし、逃げよう。考えるのと同時に、智貴は全力で走り出した。


 ガラガラガラガラガラガラ!


 背後からさっきよりも激しい音が聞こえてきた。

 振り返るまでもなく追ってきているようだ。しかも推測だが音の迫って来る速度は、智貴の走る速度より速い。


 智貴は一瞬の思考の後、進行方向を変更する。向かう先は公園内の木が乱立する林だ。

 目論見通り、蛇の巨体では木々の隙間を通ることができず動きを止める――ことはなかった。


 バキバキバキ。


 よほど頑丈な体皮なのだろう。木々をなぎ倒しながら追いかけてくる。


「化物かよ!?」


 いや、車並みに大きい蛇は十分化物だ。化物でなかったらなんだというのか。走りながら智貴は自分に突っ込む。

 だが木々のおかげで蛇の追跡速度は遅くなった。

 これならば逃げきれるかもしれない。


 智貴は速度を上げる。敷地を抜けて道路に出る。しかし蛇は諦めない。

 むしろ遮蔽物がなくなったことで蛇の追跡速度が戻る。このままでは捕まって食べられてしまうだろう。


 もちろん食べられたくはない。

 なにか、なにかないか。走りながら智貴はなにかいいモノがないか周りを探し、そして見つける。道路わきに転がる一台の廃車を。


 一瞬、妙案が脳裏に走る。だがうまくいくだろうか?

 さっきの林での失敗が智貴を臆病にするが、しかし迷っている暇はない。既に蛇は智貴の真後ろ。そこで智貴は一度足を緩める。

 そしてそんな智貴を丸呑みにすべく蛇は大口を開け、そこで智貴は今までの最高速で前に跳んだ。


 着地先は廃車のボンネット。そしてそのまま駆け抜けるように、廃車のルーフの上を転がったところで勢い余った蛇の牙が廃車に突き刺さる。

 蛇が牙を引き抜こうともがき、廃車を持ち上げた。


 すんでの所で智貴は廃車から飛び降りる。蛇の方は廃車と格闘していて智貴を気にしている場合ではないようである。

 どうやら助かったようだ、と胸を撫で下ろすにはまだ早い。


 いつ蛇が廃車から解放されるかわからないのだ。一刻も早くこの場を離れるべきだろう。

 智貴は一瞬呼吸を整えてから、走り出し、蛇が通れなさそうな路地裏を抜ける。そして、


「うっそだろ……!」


 なにかの肉を貪るワニ頭の巨人。そんな化け物と目が合った。






 *




 それからどうなったのか、よく覚えていない。

 ワニ頭の化物に追いかけられて、全力で走り回った。どこをどう走ったかは疲労もあって覚えていない。

 ただ逃げている間に、他の化物も追いかけてきたことは覚えている。


 逃げて、逃げて、逃げ続けて、酸欠で頭が朦朧としてきたところで、気付けば浮遊感に捕らわれていた。

 どうやら足場が崩落したらしい、と気付いた時には地面が目の前に迫っており、直後に智貴は意識を失った。


 意識を取り戻したのはおよそ五分前。

 智貴は瓦礫の山の傍に倒れていた。どのくらい意識を失っていたのかはわからない。だが体は痛みこそあれ五体満足。そしてワニ頭の化物が追ってきている気配はない。どうやら智貴のことは諦めてくれたらしい。


 不思議の連続だったが、どうやらやっと一息つけるようだ。

 大きく息をついて、へたり込む。そして考える。

 はてさて、これはどういうことなのだろうか?

 街は廃墟になって新宿からは黒い柱がそびえ立ち、空はオーロラよりも虹色で、地上には化物がはびこっている。


 ここはどこだ? 智貴のよく知る東京ではないのか?

 だが智貴の知っている東京は廃墟化もしていなければ、あんな化物もはびこっていない。


 東京によく似た異世界と言う奴だろうか? 最近よく聞く異世界召喚と言う言葉が脳裏をよぎる。


 異世界に召喚されたのなら、お約束の美少女の神様に会って、チート能力を与えて欲しいものである。

 ひょっとしたら覚えていないだけで夢の中で美少女の神様にはあっているのかもしれないが、チート能力は与えてはくれなかったようだ。もしもそんなモノがあれば、少なくともさっきのような逃走劇を繰り広げることはなかっただろう。


 他にありそうなのは、電車で意識を失っている間に東京がこうなってしまった可能性か。

 東京が受胎でもしたのだろうか。


 ……自分で言っておいてなんだが、思いついた可能性がその二つ、と言うのはどうなのだろう。

 あまりに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい。ゲームのやりすぎかネット小説の読みすぎかもしれない。

 いや、それよりも考えるべきはこれからどうするべきかだろう。


 この世界の事情も気になるが、今優先すべきがそれなのかと問われれば首を傾げざるを得ない。

 今一番優先度が高いのは……その優先度を決める事だろう。


 どうやらまだ混乱が抜けきっていないらしい。

 自分がなにをすべきなのか、あるいはしたいのかが思いつかない。


 とりあえずすべきことを思いつくだけ挙げてみる。

 ここがどうなっているか、人がいるのかの探索。食料の調達。あとは……そこまで考えて、智貴は重大なことを忘れていることに気が付いた。


「そうだ……奏多!」


 穂群奏多。智貴の妹。彼女が新宿にいたはずだ。あの黒い柱の見える新宿に。


 奏多は無事なのだろうか?

 智貴はとっさにスマホを取り出すが、何故か電源が落ちていた。電源を入れようとボタンを押すが、しかし反応がない。

 壊れたのか、あるいは電池が切れたのだろうか? とにかくスマホは使えないようだ。


 智貴は走り出そうとして、しかし理性を総動員してその足を縫い留める。

 駄目だ、よく考えろ。ここで無作為に飛び出すのは愚策でしかない。


 なにが起きたのかはわからない。

 だがここが智貴のよく知る東京だと仮定した場合、わずかな時間でここまで変貌するとは考えにくい。

 スマホの電池がなくなっていることからも、それなりの時間が経過しているはずだ。


 街の状態から見て、少なくとも数ヶ月以上。

 そんなに前になるなら、今はもう奏多は新宿にはいないだろう。ならば新宿に向かう意味はない。

 むしろ今この地には、大量の化物が跋扈ばっこしているのだ。下手な行動は自分の首を絞めかねない。


 改めて、よく考えろ。

 どう動くのが最善か。

 今一番気になるのは家族のーーいや、妹の安否だ。


 母は既にいない。父親はいるがあれは規格外なので考慮に値しない。

 なにせ文字通り裸で紛争地帯に放り込まれても、一ヶ月後にはブランド物のサングラスをかけて帰宅し、土産として大量のマカダミアナッツとアロハシャツを持って来るようなぶっ飛んだ存在だ。心配するだけ無駄だろう。


 それに比べて、妹は小学生だ。父親に似て変態的なまでに優秀だがまだ子供である。

 一度冗談半分で喧嘩して、飛びつき式腕ひしぎ十字固めを決められたりした覚えがあるが、それでもこんな状況下であれば心細い思いをしているに違いない。


 ……そうなのだろうか?


 存外、逞しく暮らしている気がしてきた。

 だが智貴があちらの状況がわからないように、向こうも智貴の安否確認はできていないはずだ。ならば自分の無事を知らせる意味で、連絡を入れる必要はあるだろう。


 これで目標は決まった。なら次は、その目標の為にどう動くかだ。

 一番いいのは直に妹に会えること。次点で連絡を取れること。


 それを成すにはとにかく人間を探すべきだろう。

 世界全体がどうなっているかは正直わからない。だが、こうして智貴が生きている以上、人類全てが滅んだと言うことはないはずだ。


 そして人間に会うことさえできれば後はどうとでもなるだろう。

 つまり人間を見つけて、その人物とコンタクトをとること。それが今の智貴がこなすべき小目標である。


 ならば。


 ならば、どうすれば人間をいち早く見つけることができるだろうか。

 智貴は目を瞑って熟考する。

 考えていた時間はおよそ五分。それだけの時間をかけて、智貴は成すべき初動を決定する。


「よし、飯にしよう」






 *




 腹が減っては戦はできぬ。昔の人はいいことを言ったものだ、と智貴は思う。

 腹が減ったら、他のなにを差し置いてもそれを理由に食事を取れるのだ。


 人類が生み出した発明で一番素晴らしいものが料理なら、三番目がこの言葉だろう。

 ちなみに二番目は文字、あるいは会話だ。それがなければ前途の言葉は生まれなかったのだから。


 それにしても腹が減った。よくよく考えてみれば、今朝は電話で叩き起こされて、すぐに家を出た為朝食を取っていない。その上で化物どもと命がけの鬼ごっこを行えば、それは腹も減るだろう。


 妹の安否確認も大切だが、その前に空腹で動けなくなってはどうしようもない。だからこれは必要な行為なのである。

 妹よりも飯を優先させたわけでは断じてない。

 誰にともなくそんな言い訳を内心でしながら、智貴は猪によく似た生物を捌いていた。


 場所は、智貴が落ちた地下から続いていたとある百貨店の屋上である。

 捌く獲物の方は足が六本あり、目の代わりに角が生えているが、それ以外は普通の猪と変わりない。

 なにせ、昔に祖父から教わった猪用の罠に捕まっていたぐらいである。ならば猪と同じように食べられるだろう。


「それにしてもこんだけボロボロになってても、色々残ってる物だな」


 さすが元百貨店と言うべきか。猪罠の材料に、複数の刃物。挙句には調味料まで。建物の中を漁ると必要な物はすべて揃った。

 刃物は錆びて使えない物ばかりだったが、砥石もあったので助かった。流石に刃物なしで肉を捌くのは不可能である。そんな方法は祖父から教わっていない。


 智貴は鼻歌混じりでイノシシを解体し、拾った調味料で味付けをした後、廃材で火を起こして焼き始める。

 焼き方は小さく切った肉を、適当に用意した串に刺して焼くシンプルな方法だ。


「おー、いい匂いがしてきたぜ」


 智貴の知っている猪とは少し違う臭い――おそらくは食べているものが違うからだろう――だが、実に食欲をそそる臭いである。

 こんなところにいる生き物だから、ひょっとしたら食べられないかもしれないと思っていたが、こんな匂いをさせているなら大丈夫だろう。


 十分に火が通ったところで、智貴は肉を一本取ってかぶりつく。途端、口の中を肉汁が満たした。


 一言で言って、うまい。


 どれほどうまいかと言えば、一瞬本気で妹や父親のことを忘れたぐらいだ。

 ここ二日ほど質より量と早さを優先する食事ばかりとっていた為、なおのこと染み渡る。

 用意した肉串の数は二十二本。気付けばその全てが智貴の腹に収まっていた。


「やべえ。これはくせになる味だ」


 やはり猪科なのか、脂身は厚く、その味は甘い。肉質は固めだが、血抜きをしたおかげか臭みは薄く、旨味が濃い。豚に比べると少々味はくせがあるが、調味料を使ったおかげかそこまで気にならない。

 我ながら上手く調理できたものだ。智貴は心地よい満足感を覚えながら、残りの肉串に手を伸ばす。


 猪っぽい生物の肉は目測でニ十キログラムほど取れた。

 プロならもっと多く肉を取ることができるのだろうが、智貴はただの学生。高校生だ。むしろ年齢的なことを考えれば、これだけのことができれば十分だろう。


 なんにせよ、ニ十キロと言う肉の量は一回の食事で消費しきれるものではない。

 空腹と、珍しい味と言うこともあって、四分の一ほどは平らげることはできた。だが今食べた量の倍以上の生肉がまだ残っているのだ。

 そしてそれらは今常温で置かれている。


 生肉の常温保存など、死亡フラグ以外の何物でもない。かと言って、使えそうな冷蔵庫など廃墟の中に転がっているわけがない。

 ならば後は火を通しておいておくしかないだろう。


 だが夕飯の分はそれでいいとしても、それ以降の分もとなると、流石に焼くだけでは厳しい気がする。

 ならば燻製にでもするのが無難だろうが――――


「……しまった。燻製を作るための容器がねえ」


 とりあえず肉を食べる事しか考えていなかったので、その辺りの準備ができていない。

 食事をしたばかりで動きたくないが、仕方なく階下に行って廃墟の中を漁って来ようと立ち上がり、そこで智貴の耳に嫌な音が聞こえてきた。


 ガッガッガッガッガ。


 音は廃墟の外壁部分から聞こえてきた。そしてその音はだんだん近づいてきている。

 嫌な予感を覚えながら警戒を強めた次の瞬間、それは屋上の縁から這い上がってきた。


 八本の節足に、毛むくじゃらの丸い腹。低い位置にある頭には八つの輝く目と凶悪なまでの牙が備わっている。

 蜘蛛に似ているその姿は、しかし智貴が知るその姿からは果てしなく乖離していた。


 乖離して見える理由は二つ。

 一つはその大きさが少し前に見た蛇と同様に大きいこと。そしてもう一つが蜘蛛の頭から、人間の物に酷似した上半身が生えていることだ。

 人間でいう髪が生える辺りに人型――女性のそれが生えている。

 その姿は以前、智貴がやったゲームに出てきたモンスターのそれに酷似していた。


 すなわち、アラクネ。

 そう呼ぶべき化物が、智貴の目の前に姿を現したのだった。


















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