反人間×ミズの変わった雑貨屋
「あーくそ...またあいつ遅れるのかよ...しゃーない、どっか暇潰せそうな店探すか~」
待ち合わせをしていた友人からの遅れるというLINEに呆れつつ、人が増えてきて座るところがなくなってきた駅の小さな待合所から外に出る。
雨が少し降っている。スマホが濡れること以外は別に雨は嫌いではない。とはいえさすがに傘も指さずに外に立っていたら変な目で見られることは確実なので、どこか店にでも入りたい。
そんなことを思いながら少し早歩きで駅前のロータリーから住宅街へと足を進める。
「つーかこっち来てもなんも無さそうだな...やっぱり駅の中でスマホでゲームでもしてたほうがよかったかもな...」
そんなことを思っていたら、
「ん?これって店か...?」
と呟いてしまうような、でかでかとした宣伝もない、少し古い店があった。
「何屋だ...?」
窓からちらっと見ていると、人形、ミニチュア、宝石のようなもの等、とにかく色んなものが並んでいた。
「あ、人いた」
中では身長の大きい女性店員が箒で丁寧に掃除をしているようだった。他にお客さんは...見当たらない。
うーん、あいつは30分くらい遅れると言ってたな。とはいえ店員さん以外に人はいない...、うーん......。
ふとまた窓をちらっと見ると、店の中に居た店員さんと目が合ってしまい、不思議と呼ばれているような感じがした。
まあどうせ時間は潰したいところだし、と思い、ゆっくりと戸を開け、店の中に入っていくと、その店員は掃除の手を止めニコリと微笑み、
「いらっしゃいませ、ゆったりとしていってくださいね」
と言ってきた。
「え...あ、はい おじゃまします」
「ふふっそんなに緊張せずとも、どうです?お茶でも1杯飲んでいきませんか?」
「あ、じゃあ頂きます」
「それじゃあちょっと待っててくださいね、直ぐに持ってきますので」
そう言うと店員は店の奥に引っ込んで行った。
お茶が出てくるまでの間、近くの棚を見て回っていた。
「なんだこれ...?か、わいいのか?」
一体誰が欲しがるのか分からないようなぬいぐるみや、まるでアニメにでも出てくるような金色の模様が付いている布、シンプルなデザインの箸、少しずつ動いてるように見える模様がある球体、何故かとても重い本物のような銃。
「何だこの店...なんか...日本じゃない...っていうか別世界みたいな...」
「あらそうですかね?内装は純和風だと思うんですが…」
「まあ...確かにそうなんですけど...これとか...なんなんです?これ?」
そう言って指を指したのは小さいが様々な色に輝く宝石だった。
「あぁ、よくある玩具ですよ、ほら中にキラキラの入っている奴です。綺麗でしょう?」
彼女は持ってきたお茶を渡してきた。
「あ、どうも いただきます」
そう言ってお茶をすすりながら、その場でぐるりと店内を見回していた。
「面白い物が多いでしょう?」
「ええ...あ...」
たまたま目についたのは透明なうさぎの置物だった。それを見て、つい深浦のことを思いだし、これを気に入るだろうか、なんてことを考えていた。
気づけば頬が緩んでいた。
「あら、好きな方がいらっしゃるのでしょうか?あのうさぎは可愛く作りましたからねぇ」
「っ...!いや...まあ...そうですね...えーと...その...なにかおすすめとかありますか?」
しどろもどろになりながら話をそらす。
「好きな方へのプレゼントにですか?」
「...ちっ、違いますよ!自分用にです! …そもそもそんな話すわけじゃないし...」
「あらあら、とりあえず当店ではお客様ご自身が見て決めるという方針でございますので。もう少し色々と見て見ては如何ですか?」
「あ、そうですね...」
そう言ってゆっくりと棚を見て回る。さっきまであった焦りは、不思議な物達の前であっさりと消え去った。
「とはいえ考えてみたらい今欲しいものあんまりないなあ・・・面白そうなものはたくさんあるけど・・・ あ・・・、なんだろうこれ・・・」
そう言って手に取ったのは不思議な模様が入った、木で出来たお守りのようなものだった。
「それはタリスマンと呼ばれるものですよ、材質は樫ノ木です」
「た、たりすまん?」
「まぁ、御守りの一種と思っていただければ」
「へえ...これにはどんな効果があるんですか?」
「護符みたいなものです、神仏の加護が込められているものとかそんなのですね」
「なるほど...」
その“タリスマン”を目の前で回して見ながらゆっくりと眺める。
「うーん、でも...やっぱり別のにしようかなあ」
「あら、それならこれなんていかがでしょうか」
そう言って店員さんは棚の端の方からひし形の青い結晶のようなものが埋め込まれているアクセサリーのようなものを持ってきた。
「うお...綺麗...でもこれ...高いですよね?」
「お代はそうですね……貴方には必要そうなものですし500円頂きましょうか」
「...これが必要そう...?」
「タリスマンと同じ御守りのようなものですよ、ただちょっと変わった神様のようなものの御加護があるものですね」
「変わった神様?」
「気まぐれに助けてくれたりする神様みたいなものですよ」
「気まぐれって...神様にもそんなのがいるんですか」
「ふふっ、もしかしたら私がその神様かもですよ?」
店員さんはそう言って含みのある、そして無邪気な笑顔を浮かべていた。
「だったらきっといい神様ですね」
「あら、冗談でしたのに。でも気まぐれにイタズラする困ったさんもいますからねぇ」
「困ったさん?」
「私の知り合いの話ですよ、それでどうします?お買い上げなさいますか?」
「そうですね...そこまで言われると気になってきました …うん、買っちゃおうかな」
「お買い上げありがとうございます、おまけと言ってはあれですがうさぎも付けておきますね」
「っ...!えっと...はい...ありがとうございます...ええと、500円でしたよね?」
そう言って財布から500円玉を取り出し、店員さんに渡した。
「はい、確かにお預かりしました。またのご来店お待ちしております」
「こちらこそありがとうございました!また来ますね」
そう言って戸を開けると、まだ雨の降っている中、小走りで駅へと向かった。買ったばかりのアクセサリーに目をやり、輝きを確かめながら。
「貴方の心が折れることなくこの先も続きますように」
そう店員さんの声が聞こえたような気がした。




