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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
8/53

初めての異世界牢獄生活



「和君にこれを授けよう」


「?四角い鞄…いやリュック?」


存分に惰眠を貪った後、心地よい昼下がりにリシェットさんによって起こされた私達は用意された美味しいご飯を食べて、その間に事情も話して、いざカミルとニールを街へ帰そうと外へ出たところで突然ジルベルトさんが物をくれた。

キャメルの可愛い四角い箱型のリュックに左端に黒い羽根のストラップが付いている。

普通に嬉しいのでありがとうございますと言うと彼はにこやかにせっせとリュックを背負わせてくる。


「これには移動魔法をかけて置いたから、和君が思い浮かべられる場所ならどこでも行けるよ」


「すごい便利アイテム!」


「複数人可だけど、室内では使えないから気をつけてねぇ」


「はい!ありがとうございます!」


街移動には馬車でもなければとんでもなく時間がかかってヤバいと思っていたところだから、このアイテムは嬉しい。


「早く帰した方がいいと思うから早速使ってごらんよ。連れて行きたい人とは手をしっかり繋ぐことね」


「はい!」


早速私は左手にカミル、右手にニールと手を繋ぎ町の光景を思い起こす。

様々な風景が頭をよぎり、最後に思い浮かんだのはカミルと初めて出会った魔法学園前。


「行きたいところをイメージできたら後は軽く念じるだけだよ。行ってらっしゃい」


ジルベルトさんの言葉通りに飛べと念じると、鞄からバサリと黒い翼が生えてすごい勢いで大空へと飛び上がった。あ、そう言う感じ!?

これしっかり手を繋いでいないとやばいのではと思ったが、そこは配慮してくれていたのか2人の体もふわりと浮き、私の腕に負担がかかることはなかった。









ー巻きぞえアリスの異世界冒険記8ー









「おわぁああああーーーっ!!!!」



勢いで大きく飛び上がった後にはジェットコースターのごとく凄まじい速度で目的地のリーゼンフェルトへと翼を広げて降下していく。

そうして私が叫んでいる内にあっという間に魔法学園前にふわりと私達は無事に降り立った。幸い周りに人影はなく、騒がれることもなかった。


「スゲーなそれ!」


ニールが楽しそうに興奮気味に鞄の羽根を引っ張ったりしてると効果が切れたのか、パッと羽根が収納される。

何はともあれ、無事に2人を街まで送り届けることができた。


「ニールは大丈夫そうだけど、カミルは大丈夫なの?今更ながら王子が1日行方知れずって結構ヤバくない?」


「おー俺もヤバイと思う」


「そんな大げさな…」


カミル本人は割と平気そうな顔をしていたが、そんな常時家出する不良息子とかじゃないんだから普通は心配されるし、王子様だと尚更だろう。


「そもそも城住まい?もしくは学園寮なの?」


「今は寮だ。だから心配ない」


「でもお前結構付き人いたよな」


「…まぁ、でもあいつらは理解あるし。1日くらい…」


だんだん発言から自信がなくなってきたカミルを見てこれダメなやつだと確信する。

早い所彼を城か学園に連れて行くべきだと行動方針がちょうど決まった時だった。









「カミル坊っちゃまっ!よくぞご無事でっっ!!!」



がばっと執事姿のお爺さんがカミルに思いっきり抱きつく。

突然の出来事で皆驚いてはいるが、私とは別の意味で驚く2人はどうやらそのお爺さんと面識がある様子だ。



「エド…心配かけて悪かった。ちょっと色々あったが俺は大丈夫だ」


「坊っちゃまーーっ!!心配しましたぞーっ!!」


豪快に泣きわめくお爺さんに気を取られている内に、続々と兵士に周りを囲まれる。

この集まり様…やっぱり王子様がいなくなるのは一大事よねと暢気にお爺さんがカミルに泣き縋る姿を見ていたら、隣に立つ兵士にごくごく自然に腕を掴まれて動けなくなった。







「…おや?」



何で私確保されてるのと隣の兵士を交互に5度見くらいするが、兵士は私の動揺など意に介さずにゆっくりとこちらに向かって来た全体的に黒い騎士姿の艶やかな金髪の男に敬礼する。





「ヴァレンシュタイン団長!王子誘拐犯、確保しました!」


「!!!????」


「…連れて行け」


「っ????!?!!」


流れるように捕まった私は四方八方を兵士に固められ、引っ張られるままにまるで犯罪者を乗せるような厳つい馬車に詰め込まれた。

一瞬カミルの声がしたような気もするが『坊っちゃまーーっっ!!』と叫ぶ声が全ての音をかき消し、私は呆然と兵士に取り囲まれたまま馬車でお城へと連行された。







ガシャンと格子窓つきの重い扉が閉まる音で我に帰る。

気がつけば持ち物どころか、身につけていたジャージもみすぼらしい囚人服に着せ替えられて、鉄の足枷が両足の自由を奪う。

手錠されていないだけ良心的かとも思うが、そもそも何で捕まったのかわからない。




「私何で投獄されてるんですかね!?」


がっと扉の格子窓に張り付いてそう叫ぶと気だるそうな看守のおじさんがのっそのっそと牢屋の前までやって来る。


「そりゃお前、王子を誘拐したからだろ」


「私じゃないんですがっ!?」


「犯人は皆そう言うんだよ。昨日嬢ちゃんが王子ともみ合っているのを目撃した情報もあるんだ」


「そ……んなこともあったわ…」


「素直か。まぁ、諦めな」


一部思い当たる節があって強く無罪を主張出来ず、看守が去って行くのを見つめることしかできない。

ここが何階かはわからないが、石壁に囲われていていくつか牢屋があるみたいだが、静かで他に住人がいるかわからなかった。

牢屋の中は粗末な硬いベットと奥には洗面器と便器が設置されているのを目の当たりにすると何とも複雑な心境になる。


「まさか投獄されるとはなぁ…」


ベットに腰掛けてしみじみ異世界来てからこんな新体験ばかりだなぁと思い返す。

死んだり、誘拐されたり、投獄されたりと元いた世界ならこんな一気に体験できないことばかりだ。

あまりにも早い展開に危機感が全くついてこないが、カミルが多分何とかしてくれるだろう。きっと。

そう言えばいつの間にかニールが居なくなっていたのは流石の盗賊っぷりだと思いつつ、状況のわからない私を置いて行くなんて薄情な奴だと憤る。


「一声かけろよぉっ!!」


ベットの上でドタドタ暴れていると再び看守に冷たい目でうるさいとたしなめられた。




「……どうしよう」


今回は恐らく死ぬ危険はないだろうからカミルを信じて待つのもありかと思うが、私にはジルベルトさんと言う大魔法使いの加護があるのだから脱獄も容易に出来そう。

しかしせっかくジルベルトさんがくれた魔法のリュックは持っていかれたし、通信手段がないから私には念じるくらいしか出来ないが、果たして効果はあるのだろうか。



「フォルカさ〜ん助けてください…フォルカさぁ〜ん…フォルカさん…!」


前回みたいにパッと現れないかと目を瞑って念じながら、薄眼を開けて確認すると心底面倒そうな面持ちで長いため息をつくフォルカさんがふわふわ浮いていた。


「すごい…テレパシストかも知れない…!」


「何馬鹿なこと言ってんの。ジルに今頃捕まってるだろうから見に行けって言われただけだから」


不機嫌そうなフォルカさんは呆れたようにそう吐き捨てた。

ジルベルトさん私が捕まるの想定内だったんか…まぁそれで送り出したってことは何とかなると見越したと言うことだろう。現にフォルカさんを送り込んでくれてるわけだし。


「それでフォルカさんどうしたらいいですかね!?」


「好きにしたら〜?僕早く帰りたいんだけど」


「えっ助けてくれないんですか!?」


「何で僕がお前を助けなきゃいけないの。大体前回の約束も果たされてないのに図々しい」


「帰ったらもう好きなだけどどうにでもしてくれていいんで!」


「アンタは一生のお願いを何回も使う奴だな…」


必死に懇願する私を見下ろしていたフォルカさんはしばし何かを考え込んだ後に少し楽しそうに笑みを浮かべる。嫌な予感。

強引に私の手を取りスッと魔法陣が輝いたと思えば、手には可愛らしいおもちゃのような銃を持たされる。


「ほら、これあげるから自分で逃げ出してごらんよ。僕は遠くで見てるから」


「えっちょっフォルカさん!」


スゥと幽霊が成仏するかの様にフォルカさんは姿を消し、手のひらサイズの銃だけがしっかりと手の中に残る。

使い方とか聞いてないが、これを使って脱獄しろと言うことだろうか?こんなおもちゃの銃にそんな威力あるかな…。

にわかに信用できず、ベットに寝っ転がりながら何となしに重い扉に向けて引き金を引いてみる。

するとーーー





ズドオオンッッ!!



「!?!??」


銃口から放たれたふとましい閃光がすさまじい轟音と共に扉どころか、扉周りの石壁もろとも派手に吹っ飛ばした。

ガラガラと崩れ落ちる瓦礫にもくもくと砂煙が牢屋を覆う。




「……」


これほどの破壊力があるとは思いもしなかった私はベットから飛び降り、大いに焦る。

この場合、今の内に逃げ出すのが正解なのだろうがうっかり大変な破壊活動を行ってしまったので私はしばらく混乱していた。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイ………あ、今の内に逃げるか」


ようやく逃げる考えに至り、足枷をはめた足で扉を超えたところで何かにぶつかる。ちょうど砂煙が晴れてぶつかったのが、学園前であった黒い騎士姿の男だったことに気づく。







「……随分派手にやるじゃないか」


「……oh」


その背の高い無表情の男に睨みつけられて、私は静かにそっと両手を挙げた。







時間が経つと消える様に設定されていたのか、はたまたフォルカさんに回収されていたのか、銃はいつの間にか私の手から消えており、再び捕まった私はさっきよりも厳重に投獄された。

手枷足枷に周りの壁も扉も先ほどよりも頑丈そうですごく警戒されてるのが身に染みる。


「何つー小娘だ…魔術の心得があるのか?」


「知らないが、ヤベー奴なんだろ」


扉の前では2人の兵士の監視までついてあらぬ疑いをかけられるし、もう状況を悪化させただけだコレ。

ベットに横たわり、死んだ目で見つめる虚空には大笑いするフォルカさんが薄っすら浮かんでる。


「あっはっはっはっはっ!!!すんごい馬鹿面!あはははっ!!」


「…そんな大きな声で笑ってたら聞こえちゃいますよ…」


「今はアンタ以外僕を視認できないから大丈夫なの。1人で喋っておかしく思われるのはお前だけってわーけ」


「……」


さも楽しげに邪悪な笑顔を浮かべるフォルカさんは笑いながらバシバシと無遠慮に私の頭を叩く。

この人初めから私が慌てふためき再び捕まるのを見て楽しみたかっただけだ…!

とんだ悪魔の所業に傷つき、うぅ…と悔し涙を滲ませる私を見てフォルカさんがまた楽しげに歪んだ笑顔を浮かべた。

今更ながらあんな約束取り付けるのではなかったと牢獄の中でフォルカさんに遊ばれながら深く後悔するのだった。




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