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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
36/53

怪しい侯爵のアルカディア



明日クロード様に同行すると言うことで、今日は城の隔離された東塔の部屋(外から施錠してもらった)を借りた私は窓から見える夜空を眺めながら教会での出来事を振り返る。


マクシム団長にカミル諸共連れ帰られる前に誘拐犯を特定するため、出来る限り情報を集めようと動き回ったのだ。

主に教会に来ていた人々と貧民街の住民、またリーゼンフェルトの門番の兵士に聞き込み調査を行った。

結果、貧民街では以前から怪しい馬車の目撃者から馬車は周りを白い布で覆われた一見荷馬車風であるが、裏表は黒い鉄で覆われ、窓はなく重苦しい雰囲気の鉄扉がついていたのだと言う。

その馬車は気がついたら貧民街奥へと現れて、そして人知れず消えているそうで何処から出て行ったかを知る目撃者はいなかった。

さらにリーゼンフェルト唯一の城門を警備する兵士からはそんな怪しい馬車を通した覚えはないと言うので謎は深まるばかりだ。しかし魔法の存在するファンタジー世界なら、城の隠し通路みたいな抜け道があっても不思議じゃないから考えるだけ無駄な気がする。

狙われるのはもっぱらまだ幼い子ども達ばかりで、親族からはナタリアのお爺さん同様に暴行を受けた人もいた。

そして誘拐犯は黒づくめの連中で顔を確認できないような怪しい連中らしい。

流石にそんな怪しいのが堂々と街中を歩く目撃情報は得られなかったが、最近貧民街に見慣れないちょっと身なりのいい冒険者風の男達が出入りするのが目撃されているから、それが誘拐犯ではないかと疑っている。


七つ道具の一つであるマジックルプランこと魔法の地図でその誘拐犯を特定出来ないかと見てみたが、リーゼンフェルトは人を示す緑丸ばりで溢れかえって全然わからなかった。代わりにお城の地下にモンスター表示の特大赤丸があって大変驚いたが、これは多分前に姫様と一緒に遭遇したあの謎の巨大怪獣だろう。こんなのが城の地下にいるのを放置していいものかと思いながらも、とりあえず魔法の地図には地下とか関係なく透過表示されることがわかった。


それとニールから先日ダンジョン探索で手に入れた風魔石を加工した石のついた髪ゴムを貰った。

なんとコレ、テオの手作りである。ニールが言うには記念にと皆に合わせて風魔石を加工して小物を作ってくれたんだとか、ちなみにニールは腕輪。

余った風魔石の原石は仲良く4当分の所、アイラ様が辞退したので3人で山分けとする結果で落ち着いた。

風魔石自体翡翠の風が揺らぐように淡く輝く石なので見た目も綺麗だし、動きがちょっと早くなったり、風魔法が強化されたり、またアイテムとして風を起こせたりなどなど色々効果あるらしい。






(…なぁ、ゲームをしようぜ)


「は?ゲーム??」


中々寝付けずにベッドの上でひたすら悶々としていたら、アリスが唐突にそんなことを言い出した。

こんな夜中に寝付けないやんちゃな子どもみたいな言動に戸惑ってしまうが、とりあえず話を聞いてみようと耳を傾ける。


(そうだ。オメーが俺様を心変わりさせられた時はリーゼンフェルトを襲うのをやめてやるぜ。何ならテメーも解放してやるよ)


「…マジ??罰ゲームとかない?」


(罰ゲームねぇ…まぁ現状が変わらねぇだけさ。俺様は俺様の意思で動くだけだからな。精々頑張ってみな)


含みのある笑い声を零すアリスに容易く攻略させてくれる訳はないとわかりつつも、アリスと仲良くなる作戦に光明が差した気がした。











ー巻きぞえアリスの異世界冒険記36ー










翌日の朝、酷く気だるい身体を引きずってベッドから抜け出た私は寝ぼけ眼のまま着替えを済ませる。

ヤバい…アリスと話した後の記憶がない…。

覚醒しきらない頭でとりあえず周りに変化があるか確認してみるが、鞄の位置も窓も閉められ自分の衣服さえも寝る前と変わらない。強いて言うなら身体がダル重い。


「アリス…私が寝てる間に何かやった?」


(さぁね)


この含みのある感じで返してくるから怪しいことこの上ない。

しかしこの部屋は塔の頂上の部屋だし、窓は開かないタイプの窓だから大丈夫…かな?

そう悶々としてる間に部屋に迎えが来てあれよあれよと言う間に朝食を取り、早々に馬車に詰められてリーゼンフェルトを出発した。


移動手段として王国騎士団は転移石なる石碑のようなものを利用しており、その転移石がある地点から王国の転移石で作られた門からショートカット移動が出来る。

しかしヘイゲル領にはそれがなく、手前の地点にある小高い丘の教会前の転移石に出てから馬車を走らせて現地へと向かった。

馬車も通れる巨大な門を通り抜けた先は遠くに見える青空、連なる山々と一面の草原に先ほどまでの賑やかな街並みが嘘のように穏やかな景色視界いっぱいに広がっている。

元いた世界の田舎町よりも自然以外何もなく、野生生物が時折草原から顔を覗かせる景色に釘付けになる私同様にカミルも窓に張り付いている。そう言えば箱入り王子様だった。


子どもみたいにはしゃぐもしばらくして飽きたら眠くなり、ニールの肩を借りながら居眠りしてからどれくらい時間が経ったか、お腹の空き具合から昼を過ぎたように感じながら目を開けるとクロード様の眩しい笑顔で目を覚ました。




「おはよう、お嬢さん。もう間も無くヘイゲル領に入るよ」


そう言ったクロード様の膝上には反対側の窓にもたれて寝ていたはずのカミルが思いっきりのしかかっている。

カミルの寝相の悪さに驚きつつも上手く膝の上に収まっているのを見てると、優しく頭を撫でるクロード様と子供のような寝顔には兄弟間に壁を感じず、仲良さそうで何かほっこりした。

ちなみにニールはもたれかかることもなくめちゃくちゃ姿勢良く寝ていたギャップにも驚かされた。




件のヘイゲル領がどんな怪しげな場所かとドキドキしていた私の目に入ってきたのはとてものどかで平和な町並みだった。

リーゼンフェルトに比べれば発展度は雲泥の差であるが、広がる小麦色の田畑やまばらに立つ三角屋根の家々、麦わら帽子を被って畑の作業をする人々は健康そうだし、いい笑顔だ。畑や町を囲む割にあまり守る気のない低い塀が穏やかさを助長させる。


(何だよ、全然荒れてねーじゃねぇか)


「むしろ平和じゃん…」


「なーんか思ってたのと違ェーな」


「ヘイゲル侯爵は父上が多くの領地を任せるだけあって、領地の管理はしっかりしていると聞いてるよ」


「マジかー…想像と全然違うじゃない」


町を横切る馬車に向かって物珍しげに手を振る子どもに手を振り返しながらじっくりと町を見渡してみる。

円を描いて流れる人工的な川が堀のように町を囲み、町中の細い水路と繋がっており、いい感じに洋風なレンガ道は中央道から枝分かれするようにお洒落な洋風のお店やら古き良き民家や遠くの田畑へと細々と続いてる。

完成された穏やかな田舎町と言った感じで非の打ち所は特に見つからない…もしかしていい領主だったりするのか…。


そう悶々と疑問を抱えてる間に町から離れた丘の上にある一際大きくて豪華な洋館風の領主のお屋敷に着いてしまった。

出迎えるメイドや執事の煌びやかさに圧倒されていると見覚えのあるやたらといい身なりをした小太りのおじさんがクロード様にぺこぺこ頭を下げながら近づいてきた。

周りの反応からこの人が領主のヘイゲル侯爵であると理解した。



「クロード殿下、お待ちしておりましたよ!遠路遥々ようこそいらっしゃいました。さぁさぁどうぞ上がってください!」


「ああ、ありがとう。今日は弟とその友人も連れて来たけど、大丈夫だったかな?」


クロード様のまさかの事後報告の無茶振りにも関わらず、ヘイゲル侯爵はニコニコしたまま何度も頷く。


「ええ!カミル様も、ご友人もようこそお越しくださいました!どうぞゆっくりして行ってください」


「…世話になる」


やましい事をしているとは思えないヘイゲル侯爵の態度にカミルが警戒したようにぶすくれて露骨な反応をする。

そしてよくよくヘイゲル侯爵を見て思い出したが、冤罪脱獄事件の時に私を糾弾していた偉そうなおっさん方の一員じゃないか。

あの時とは180度違う優しい態度に人違いなんじゃと一瞬思うが、ギラギラと煌びやかに輝く両手の指輪や首飾りやらブローチやらの金装飾を見たらやっぱり胡散臭くて混乱する。


「…アリスさんアリスさん、この人白かな?」


(見た目からして黒だろ。胡散臭すぎるぜ)


「同感なんだけどでも人は見かけで判断しちゃダメって言うしなぁ…本当にいい人かも」


(俺様が知るかよ。町にでも行って調べりゃいいじゃねーの)


一度屋敷に案内された後、アリスの言うように町民からヘイゲル侯爵の聞き込み調査を行う事にした。

クロード様がお仕事している合間にカミルとニール、そして護衛兼保護者にマクシム団長がついてきた。






「ゲェ〜!!何でまた団長様がついてくるんだよー!!おかしいだろ!」


「…クロード様の命令だ」


不満そうに喚くニールと同じく不満げなマクシム団長、双方共に深いため息をついてる。

本来マクシム団長はクロード様についていく予定だったが、過保護なお兄ちゃんが弟のカミルに5〜6人ほどの護衛をつけようとしたが、カミルが目立ちたくないとこれを拒否した結果が一人でも強いマクシム団長がパーティーに加わる条件で今に至る。


「まぁ、護衛の人ぞろぞろ連れるよりはね」


「でも結局騎士服目立ってるしー」


「そうだな。マクシム、聞き込みする時は少し離れててくれ」


「…承知しました」


ちょっとマクシム団長の扱いが酷いが、実際背も高いし、金髪が眩しくて目立つから少し悲しそうなマクシム団長には悪いと思いつつ、カミルの言う通り町民に話を聞く際には少し離れた場所から見守っていただいた。

そしてそんなマクシム団長に追い討ちをかけるようにしてニールが多くの情報を得るために分散して聞き込みしようと提案する。


「そうだな」


とこれを軽くカミルが了承したために、マクシム団長は一人で別々に動く私達を見守ることになってしまった。可哀想だ。


そんなこんなで私はベンチで休む老夫婦、パン屋さんのおばさん、畑仕事に精を出すおじさん達、川の周りで遊ぶ子ども達と町を回って色んな人に話しかけてみた。


「ヘイゲル様?ああ昔からいい領主様さね。町民はもちろん、他所から来た旅人も家に泊めてあげたり、よくもてなしてくれるよ」


「ここへ来るまで見事な小麦畑があったろう?ヘイゲル様が種から道具まで良いものを揃えてくれるから、ウチのパンもより美味しく焼きあがるってもんさ!」


「領主様は税も良心的だし、問題も直ぐに解決してくれるし、特に最近は町の発展にも力を入れてるんだ。田舎町だけども結構綺麗に整備されてるだろう?」


「領主様?うーん…よく知らなーい。でも最近領主として良くなったー!て、パパが言ってたよ」


誰に話を聞いても返って来たのは好意的なものばかりだった。

あの身なりからして圧政を敷くタイプだと思い込んでいたばかりにこれには驚きを禁じ得ない。

それはカミルもニールも一緒だったようで、話を聞く度に失礼なほど反応してた。

アリスに人は見た目じゃないと言っておいて何だが、マジでいい人の線が浮かび上がって来て戸惑う。


(…もっと詳しく領主の話を聞いてみろよ。情報は引き出すもんだぜ。領主の評判は最近になってよくなったのか?)


「うん…ねぇねぇ、最近良くなったってことは前は悪かったのかな?」


「前?前はね〜優しいけど気の小さい困った領主様って」


「へぇ?何か詳しいね…?」


「パパがお屋敷で働いてるからね!あのねー、昔お屋敷に泊まった旅人さんからお礼に何か貰ったみたいなの。それから引っ込み思案だったのが嘘みたいに町にこの川を作ったり、宿屋とか教会とか色んな施設作るようになったって」


「そうなんだ。それじゃ町の発展は割と最近のことなんだね」


「うーん?私が生まれた時には色々作ってたみたいだから、10年くらい前だと思うよ!」


自分の年齢を両手で数えてそう教えてくれる少女に和まされ、ついつい頭を撫でてお礼を言った。

少女が去った後に一応話を聞いた他の町人にも少し詳しく聞くと、少女の話を裏付けるように領主の変化は揃って10年前からで間違いなく、それまでは町に無頓着だった領主が道を整備したり沢山の施設を設置したりと人が変わったように町の政策に力を入れ始めたらしい。


「う〜ん…10年前…人が変わったかのような態度…」


綺麗に揃った石畳の橋の上でぼんやりと唸りながら小川を見つめていた私だったが、やがて一つの答えに行き着き、一人驚愕した。


「短期間での不自然な領地改革…まさか!転生者!?!?」


よくある現代知識を利用して領地改革物語の主人公みたいに魂だけ現代人が入っちゃった系ではないか!?

その知識でチートする物語とかよくあるよね!

良くも悪くもない冴えないおっさんに成り代わる話とか…




「あり得る!!」


(頭おかしいのか?明らかに屋敷に来た旅人が怪しいだろーがよ)


冷たい態度のアリスに極めて冷静にマジレスされてそう言えば旅人から何かお礼を貰ってから変化が起きたと言った話を思い出した。私の転生者説はチリと消えてしまったが、怪しい旅人さんが来たのは10年前だから今も繋がりがあるかはわからないが、もしかしたらソーマの組織の一員かも知れない。

何を貰ったかもわからないので確証はないし、誘拐事件とは繋がらないものの、疑惑は確実に深まっていく。

2人の聞き込みが終わるまでマクシム団長に迷惑をかけないように一緒にいようかと考えながら歩いていると、人工的に整備された川の石造りの縁がやたらと凝っていることに気づいた。


「何かの模様?洒落てるな〜」


小川は人工的に作られたもので、町の外から町の中と中央の教会を三重に小川が繋がって円を描いて流れている。今見つけたこの文字のようにも見える不思議な模様が小川を縁取って同じように続いてる。

穏やかな田舎町ながら特徴的な細かい町並みはリーゼンフェルトと違ってまた味わい深い。


(これ…)


「何か観光地とかにありそうなお洒落さだねー…あ…やべ、マクシムさんと目合っちゃった」


(……)


「ドヤされる前に戻ろうか!」


早々にジト目で睨みつけてくるマクシム団長の元へ戻ると程なくしてカミルとニールも戻って来た。

まずカミルが話してくれたのは侯爵家にやって来た怪しい旅人のことで、その旅人がやって来た日を境に領主の態度が変わり、川や噴水、道路整備などなどに力を入れて最近の町並みに落ち着いたらしい。

中でも町のド真ん中に建てられた教会には随分力を入れていたみたいだ。外見はヨルン神父の教会とそう変わらない味のあるいい雰囲気の教会だ。

扉の上のステンドグラスには女神シュトラール様に似た十字架を背負った女神像が祈りを捧げている。


(…逆十字ねぇ)


「え?あっ本当だ〜デスメタル味があるね!」


(は?)


「姉ちゃん何言ってんだ?てかこれシュトラール様かぁー?」


「お前教会に住んでんのにわかんないのか…」


「だってヨルンが偉そうにそーゆー長ったらしい話したがるから面倒でさ。いつもついつい逃げちゃうのよね〜」


「教会育ちのくせに信仰心ゼロとはたまげたなぁ〜」


「俺は目に見えないものは信じねーからさぁ〜神樹はともかく神様はねー」


「まぁ、ニールの言いたいこともわかる…目に見えないものを信じるのは困難だ。ヘイゲルは何故こんなにも神を信仰するようになったんだろうな」


ちょうど待ち合わせ地点が教会前とあってカミルが件の女神をじっくりと眺めながら不思議そうに小首を傾げる。

理由はどうあれ何か宗教に入れ込んでやけに積極的になるってシチュエーションはヤバさしか感じない。


一方のニールが仕入れた情報は何でも旧バートランド領の墓地で怪しい連中の出入りがあると言った話だった。

元々凄惨な事件以降白い靄に包まれて荒れ果てた旧バートランド領にはモンスターも好き放題住み着く始末で人の出入りなど滅多にない場所となる。

オマケに墓地としての利用をするようになったせいか、幽霊やら薄気味悪い心霊現象も起こるらしく来客といえば物好きな冒険者が出入りするくらいなのだ。しかしそんな所にたまに業者の馬車や夜な夜な怪しい黒ずくめの連中やらが出入りしているのを見かけたりしているそうな…しかもちょうど昨日怪しい馬車の目撃情報がある模様。


「スーパー怪しい!!」


「だろ〜!?行くっきゃねーぜ!」


「だね!」


「判断が早すぎる」


ノリに乗って即答したものの、結構危険な場所らしく即座にカミルに止められる。


「魔物も住み着くような場所だから…もうちょっと準備をだな…」


「大丈夫だって!なんせ俺らにはこの鬼強くて頼れる騎士団長様がいるんだからよ!」


「こーゆー時だけ都合がいいなお前は…」


「まぁまぁ…マクシムさんはどう思う?私はあんまりクロード様に迷惑かけない方向性で行きたいんですが」


ニールに呆れて小言を言い出すカミルの両名を一先ず置いといて、私は無表情のままのマクシム団長に訊ねた。

クロード様からは特に行動制限をかけられた訳でもないが、勝手に動いて迷惑をかけるのは好ましくない。

しかし素直に話してたらカミルに対して過保護な彼は自分の護衛をこちらに回しかねない。

そうなれば警護が薄くなったクロード様の身に危険が及ぶ確率が高くなる。それは非常にヤバイ。

そうなればカミルも同じなんだが、とりあえずマクシム団長の加護があれば大丈夫…強制退場とかされない限りは圧倒的武力で守ってくれるはず。

それに行くならまだ太陽が出ている今の内に済ませた方が危険が少ないと思われるから、出来たらすぐに行きたい。


「…クロード様には一報入れておこう。好きにするといい」


「ありがとうございます!!」


マクシム団長はふぅと軽くため息を吐くものの、サッと手早くクロード様へ手紙を綴って飛ばしてた。

意気揚々と先陣を切って歩き出すニールを心配そうに追いかけるカミルの後をマクシム団長と一緒についていきながら私は疑問に思ったことを横の団長に訊ねた。



「旧バートランド領って歩いて行ける距離なんですか?」


私の問いにマクシム団長は首を振る。

じゃぁどうやって行くのかと小首を傾げる私にマクシム団長はそっとある建物を指差した。









「ヒャッッホーーッ!!こりゃ最高だぜ!」


「おいニール!あまり飛ばしすぎるな。はしゃぎ過ぎだぞ!」


凄まじいスピードで風を切って走る馬に乗って草原を駆けるニールにカミルはそう注意してはいるが、負けず劣らず並走するぐらいだから彼もまた少しはしゃいでいるようだ。

馬を華麗に扱う2人と違って1人では馬に乗れない私はマクシム団長と一緒に乗せてもらっているのだが、乗馬経験皆無なせいで中々のスピードと激しい揺れにただただ驚き緊張するばかりではしゃげず『お、おぉおぉお…』と変な声を漏らすばかりだ。


両脇をガッツリとマクシム団長の腕が覆っているため、落ちる心配はないが馬に2人乗りと言った体温を間近に感じられる体勢にまた緊張してしまう。


「…大丈夫か?」


「はいっ!和は大丈夫でありますっっ!」


時折心配して顔を覗き込むマクシム団長の近さに思わず上ずったおかしな口調になってしまう。

余計不審がるマクシム団長にこれ以上奇行に走る前にどうにか話を逸らして冷静にならなければと話題を探す。

パッと頭にルーチェの笑顔が思い浮かんだ。


「そう言えば!私のルームメイトにルーチェって言う可愛い女の子がいるんですけど、どうも彼女のお兄さんが騎士団に所属してるようでご存知ですか?」


「…ルーチェ…」


「あっ!お兄さんの名前聞いてなかった!そりゃわかんないっすよね!ごめんなさい!」


「いや、構わない…」


「えっとえっと…」


ルーチェの兄のことは出発からヘイゲル侯爵の屋敷前に集まった時まで注意深く騎士団員を見て探していたのだが結局わからず終いだったのだ。

続かない話題を振ってしまい、慌てて別の話にシフトしようと話題を探すがストックがなくて焦る。

基本無口な人とはどんな話をすればいいんだと考えていると何とマクシム団長から話を続けて来た。


「君は…そのルームメイトとは仲がいいのか?」


「え、はい!もちろん!友達です!あ、その子訳あって目が見えないんですけど、でもめちゃめちゃ優しくていい子なんですよ!いつも世話になってて…」


「そうか…君はその子のことが好きなのだな」


「あ、はい!そりゃ学園で初めて出来た女友達ですし、 いつもすごく気にかけてくれるんで…でも自分のことより私の心配してくれるから嬉しい反面申し訳なくって…」


「そうか…」


「だから私もルーチェのために出来ること探してるんすよ!彼女の目が見えるようにしてあげたくて!」


「そうか」


「……まぁ、そう言うことで大事な友達って言うか、だからお兄さんに会ったら挨拶とかお礼したいなぁっと思ったりなんかして…すいません…」


ここらで漸く一人熱くなりすぎたことに気がついてマクシム団長にはまるで関係のない私個人の話を長々と語ってしまった恥ずかしさで思わず落ち着きない身振り手振りでよくわからない動きで誤魔化してみるが最終的に空気に耐えきれず顔を伏せてしまった。

背後のマクシム団長がどんな顔をしているかなど、恐れ多くて確認も出来ずに冷や汗をダラダラとかいているとポンと頭を優しく撫でられた。


「…ふぁっ!?」


「…そう君が大切に思ってくれているだけで彼女は嬉しく思うはずだ。きっと兄もそう思っていることだろう」


「そ、そそうすかねっ?!」


「あぁ、そう焦らなくても大丈夫…だから私がしっかり守れるよう、あまり危険な行動をしないように」


万が一にも人の頭など撫でそうにないあのマクシム団長に頭を撫でられたことに驚きすぎて反射的に目を向けると、とても優しい眼差しで微笑むマクシム団長を垣間見てしまった。

今まで仏頂面しか見たことなかったせいであまりのギャップに開いた口が塞がらず、私は半ば放心状態のまま目的地に着くまで馬に揺られていた。




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