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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
34/53

嵐の前の静けさに(前編)



「ケーキ美味かったなぁ〜。アリスはさ、好きな食べ物あるの?」


(…ぁあ?食べ物?)


「うんうん、甘いものは好き?」


(さぁね…長いこと眠り続けてたんだ。忘れちまったよ)


「そっかぁ…でも肉は好きだよね!食堂でめっちゃ食べてたよね!」


(まぁ、そうかもな)


「他には?好きな場所とか、好きな風景とか、好きな遊びとか、好きなものは何かなぁ?」


(…テメーがそれを聞いてどうしようってんだ?仲良しごっこでもしようってのかよ)


「ごっこじゃなくて仲良くなりたいから聞いてるんだけど…」


(…ほぉ?急にどうした?)


「ほら、身体を貸し借りする仲だし…ね?興味のあるものでもいいよ!ねっ!」


(…そんなに俺様と仲良くしたいなら大人しくその身体を貸して、復讐に協力するんだな)


「……それは無理だぁ」


(そういうことだぜ。俺様を丸め込めると思ってんならやめときな)


私の思惑などお見通しだと言うように警戒心剥き出しのアリスは厚い壁を作る。

まぁ、彼の王族に対しての殺意は私の説得で何とかなるものでもないし、そう素直に言うこと聞いてくれるタイプじゃないのは理解してる。

だが何を考えてかはわからないけどルーチェに関しては割と協力的だったし、仲良くなれないことはないと思うのだ。


「和お嬢さん、その…アリス君とは仲良くなれそうかい?」


温室の広場にて、私は静かにアリスに話しかけた…いわば独り言を始めたのを見ていたクロード様達はやはり少しおかしい人を見るような目で見てくる。

その中でも気を遣っていつもと変わらない態度のクロード様が爽やかに尋ねてくる。


「復讐手伝うために身体を貸すように言われましたね」


「独り言を言っているようにしか見えなかったけど、お話ししてたのね!」


「やはり縛り上げた方が」


「マクシムは黙っててくれ」


割と深刻なことを口にしているつもりなのにベルティナ様は会話が成立してることに興奮しているし、マクシム団長はやはり本気だったみたいでその内本当に縛り上げられそうで怖い。


アリスと会話出来る状態になったので、早速談笑でもして距離を縮めたり、彼のことを知ることが出来たらと考えてクロード様達にもその方針でいきたいとお願いしたものの、このあしらわれ方だといつ仲良くなれるかわかったもんじゃない。

でもきっとこの方法が一番平和的でアリス含めた皆が幸せになれる道に繋がっていると思うから諦めたくないんだ!

復讐せずに彼の心を楽しいことや好きなものばかりの幸福感で満たして成仏させたいと悶々と悩む。


(……おい)


そんな私を見ていたのか、急にアリスが話しかけてきた。


(俺様の好きな場所…連れてってくれるってんなら教えてやってもいいぜ)


「マジで!?いいよ、わかった!何処でも連れてくよ!」


この時は心を開いてくれたもんだと早とちりした私はただただ素直に答えてくれたのが嬉しくて舞い上がっていた。








(墓地だ。ほら、さっさと連れて行きな)



そう、アリスの趣味の悪い返事を聞くまでは。











ー巻きぞえアリスの異世界冒険記34ー













「好きな場所が墓地って…ええ…引くわ」


(うるせぇ。墓地とか古戦場跡とか廃墟とか…何か落ち着くんだよ)


「完全に幽霊思考じゃん…」


出来れば生前に好きだった場所のリクエストを受け付けたかったが、記憶が曖昧らしいし仕方ないか。


「クロード様ぁ…近くにお墓とかあります?」


(待て待て、ショボい墓じゃテンション上がんねーぜ!旧バートランド領の墓地がいい)


「…旧バートランド領の墓地に行きたいそうです」


「…旧バートランド領というと今のヘイゲル侯爵領かい?よく知っているね」


「昨日食堂で惨殺事件の話とか聞いたんで、その影響だと思います」


いわく付きの廃墟に墓地とか幽霊が好みそうな所に行きたがるとは、やはり怨霊だからなのだろうか。

そう思うと好む場所もそれで正解な気もするが、悪知恵が働きそうなアリスのことだから呪いのネックレスに魂を集めたいだけな気がする。


「実は明日、ちょうどヘイゲル侯爵領の視察に行く予定なんだよ。お嬢さんも一緒に行く?」


「マジっすか!でもなぁ…」


別に魂を集めること自体は、本来神樹に還るはずの魂が彷徨うことになるよりかは管理出来る分、神樹が機能するようになったら還せばいいんじゃないかと思う。

しかしその魂達でアリスはパワーアップするみたいだから、あまり力を蓄えられても困るので避けたくもある。

しかし何処にでも必ず連れて行くと豪語した矢先に拒絶はバットコミニケーションでアリスの好感度が下がってしまうこと請け合いだ。

それは好ましくないとうんうん悩む私にクロード様が優雅にコーヒーを啜って言った。



「とりあえずお嬢さんの気分転換にでも行ってみればいいんじゃないかな。マクシム含めた騎士団も同行するから大丈夫さ」


「このデストロイブリーズをあげるからまた眠くなったら使えばいいわ!」


「…私は面倒事を増やして欲しくないのですが」


悩む私の意見やマクシム団長の文句など聞く気のない王族達によって私は不審者撃退用ミストスプレーを持たされ、休日2日目の明日はクロード様に同行することに決まった。

能天気にヘラヘラ笑う王族兄妹に対してマクシム団長だけは仕事が増えてうんざりとした様子で申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


空いたカップにまたクロード様が紅茶を注いでくれるのでお礼を言い、プルプルしたスライムみたいな液体砂糖とミルクを投入して混ぜた。

甘く温かい紅茶を飲んでまったりしていたら、突然バンッと温室の扉が開け放たれた物音に驚き危うく零しそうになって焦る。







「和っ!お前!大丈夫かっ!?」


ダダダッと心配そうな様子で温室に駆け込んできたのはリーゼンフェルトのもう一人の王子様カミルだったが、優雅にティータイムを過ごす私達を見て怪訝そうに表情を歪めた。




「ク、クロード兄様!?…何してるんですか」


「見ての通り和お嬢さんとのお茶会を楽しんでいるんだよ。カミルも紅茶飲む?」


「カミルお兄様お行儀悪ーい!ベルの温室で走らないでください!もう!そんな急いでどうしたんですの?」


「あぁ、悪かったよベル…」


「お、おぉカミルお邪魔してます。見ての通りです」


「お前…元気そうだな。何か心配して損した」


マイペースな兄妹にされるがまま椅子に座ったカミルは見慣れたオレンジ色の髪が乱れること構う暇も惜しんで駆けつけてくれたのかどっと疲れたように息を吐く。

そう言えばアリスに身体を乗っ取られたために昨日の放課後集まる約束を破ったことを思い出した。


「昨日はすっぽかしてごめん。心配かけたよね」


「もういい…何があったか大体予想はつくし、むしろ今のこの状況を説明してくれ」


私が呼び出され経緯を知らなかったらしいカミルにとりあえず昨日のこともまとめて先ほどまでしていた話をする。

落ち着きを取り戻し、女子高生みたいな仕草で跳ねていた髪をいじり直すカミルはアリスの話をすると大層驚いたり、クロード様について行って出かける話をすれば呆れた顔をしたりと反応豊かで話していて楽しい。

しかし最終的にカミルがしかめっ面のジト目で睨んでくるので、予定をすっぽかした以上に気に触ることを言ったかなと心配になってくる。



「何でわざわざ危害加えてくる奴の行きたい場所に行こうと思うんだよ。罠だろ!」


「そりゃ…まぁ…そうだね!」


「大体よくわからない怪しい組織にも狙われてんのに何で自ら襲われに行くように動くんだよ。馬鹿なのかよ。しっかりしろよ」


「確かに…」


言われてみれば私この呪いのネックレス(宝具)を持っているが故にソーマ所属の謎の組織に狙われているんだった。だから旧バートランド領でまた襲われる可能性もあるわけだ。

アリスの方はコミュニケーション取れなくもないし、とにかく意識を失わないように頑張ればどうにかなりそうだが、襲撃はいつ来るか予想もつかないし、避けようがない。

危険分子であるアリスを抑えたとしてもまた別に謎の組織に襲われる可能性が高いし、どちらにせよ迷惑をかけてしまうだろう。

正直アリスのインパクトが強くて狙われていることを忘れかけていたので、今の今までまったりとティータイムを楽しんでたけど、王子様と一緒に出かけようなんてやはり私の頭のネジがゆるゆるだったと再度気づかされた。






「それでいいんだよ。その怪しい組織含めて色々確かめたいことがあるから、むしろ君を利用させて欲しいんだ」


ニッコリと素敵な笑顔で伝えなくてもいいとんでもないことを本人に直接告げてくるスタイルのクロード様。正直すぎて逆に好感が持てる。


「…それならいいかぁ!」


「いやよくないだろ!クロード兄様も何言ってるんですか…和をわざわざ危ない目に合わせようとしないでくださいよ!」


今までの私への特別扱いが利用目的ならば腑に落ちると、いいかとあっさりと了承した私とは逆に何故かカミルの方が慌ててクロード様に詰め寄った。



「まぁまぁ落ち着いて。利用するとは言ったけど、同時にお嬢さんの安全確保のためでもあるよ。騎士団と一緒にいれば直ぐに守ってあげられるだろう?」


「…わざわざ外へ連れ出す理由は?」


「アリス君の希望…というよりアリス君はむしろリーゼンフェルトから離れてもらった方がいいと思ってね」


「それじゃクロード兄様がその組織とア、アリス?に狙われる可能性があるじゃないか!」


「心配ないよ。マクシム率いる優秀な騎士団がついてるんだから、簡単にやられたりしないさ」


その後もカミルが突っかかるが、クロード様はすべての問答を捌いて優雅にティーカップを揺らして美しく微笑んでいるのに対して、逆に負けたカミルはがっくりと膝を折って力なく椅子にへたり込んでしまった。

クロード様の言い分だとアリスと言う名の呪い持ちの私がリーゼンフェルトにいるのは危険だし、私を襲撃した謎の組織の一味のせいか最近魔物が増えたり、街でも怪しい人物が出現したりとちょいちょい人が拐われたり、怪我をするような事件が起きてるようだ。

そしてこれは内緒だよと言っていたが、その事件にどうやら件のヘイゲル侯爵領の領主が関わっているので確認するための視察なんだとか…もしもヘイゲル侯爵がソーマの組織と繋がりがあるなら私を見て動くかもしれないと、つまりは確率を高めるための囮である。


しかし(アリス)の希望を汲んでくれているし、ボディーガードもつけてくれるし、私は基本好きに遊んでていいとのことなので牢屋に放り込まれるのに比べれば条件がいいから不満点もなく、あわよくば謎の組織を壊滅出来れば最高だ。




「和…本当にそれで良いの?」


「うん?うん!私どこにいても迷惑かけるかもだし、役立てるなら嬉しいよ!」


「……〜〜」


納得行かないと言いたげな渋い顔で言葉にならない唸り声を上げるカミルはしばらくテーブルに伏して動かなくなったので、友人の奇行にどう反応すれば良いかわからずに手をこまねいている内に勝手にガバッと起き上がった。




「俺も行くから!」


決意に満ち溢れた実に良い顔でカミルがそう言い放った。


「心配しなくてもお嬢さんはしっかり守るよ?」


「コイツが心配なのもあるけど、あそこには個人的に用事があるんだ。ニールも連れて行く!」


「用事ね。まぁそうだよね…わかった。いいよ」


文句は言わせないとクロード様をジト目で睨みつけていたカミルに対してクロード様は割とあっさりと了承した。

少し思う所があるような複雑そうな浮かない表情に私はただただ小首を傾げるだけだったが、その後ベルティナ様も『ずるい!私も行きたい!』と喚きだして気に留めている暇はなかった。








「よし、ニールの所に行くぞ。明日のこと知らせなきゃな」


何とかベルティナ様を説得して城に留める方向に話がまとまった後、『そろそろ仕事してください』と不満気に詰め寄るマクシム団長によって引きずられていったクロード様とそれについて行くベルティナ様に手を振りながら、私はカミルに引っ張られて行く。

ニールにはこれから話をしに行くんだと思いつつ、大人しくカミルについて行くと人気のない庭の端、城の壁に向かって彼は手を触れた。ゴゴゴゴとゆっくりとスライドする石壁にカミルを見る。



「あれ?外出許可は…」


「ないからこうやって裏道使ってるんだろ」


「カミル君…」


友人の私のことや兄弟であるクロード様やベルティナ様のことを心配する割に、カミルは自分のことになるとその辺危機感が薄く、一度誘拐された自覚なさそうで心配になる。

カミルが同行するならまた誘拐されたりしないようにしっかりと見守ろうと誓いながらお城の隠し通路から地下水路を通って街へ出た。


(王子のくせに何で隠し通路使って城を出るんだよ。普通護衛連れて出て行くもんじゃねーの?)


「カミルはその…まだやんちゃ盛りの王子だから、城を抜け出して遊びたい盛りだから…」


(そんなんだから誘拐されたんだろ。学習しねーな)


私の心の問答は基本的にアリスにダダ漏れなために、以前の誘拐事件も死にかけた事件などぼんやり考えたりすることがあったために事情を知られている。

考えるだけで思念が伝わるって厄介だなぁ…これがサトラレか…。


「なぁ、それ独り言…じゃないよな?それと喋ってるのか?」


「そうそう、アリスね。独り言じゃないよ」


「…俺には何も聞こえないけど、俺の話してるよな。何て?」


(学習力ゼロの馬鹿王子)


「…学習力ゼロの馬鹿王子だって」


「……」


(王族共は皆殺し予定だが、テメーはその前に死にそうだな!はははっ!!)


「…王族全員滅ぼす。でもカミルは勝手に死にそうって…」


「………」


ムスッと不機嫌そうに頬を膨らませたカミルが懐から見覚えのあるスプレーを取り出して噴射口を私に向けた。



シュッ


「あ゛ーーーーっ!くっっっっさぁーーーーいっっ!」


(ヌワーーーッ!!)


「…効いた?」


「…見ての通りだよ…うっっ!」


(クソがっ…絶対殺…うっ)


カミルの怒りのデストロイブリーズ(ベルティナ姫作)を受けた私とアリスはその場でしばらく悶え苦しんだ。私は通訳しただけなのになんて仕打ちだ…解せん。



何て戯れを挟みつつ、私達は早々に地下水路を抜けて橋の下のトンネルから抜け出ると太陽がゆっくりと落ち始めていた。



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