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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
27/53

ドタバタパーティー編成


「それでは和様、ご友人の皆様、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」



「うん!送ってくれてありがと!リシェットさんも帰り気をつけてねー」


12時前に目的地であるシルフの樹海入り口へと無事辿り着いた私達は、馬車ではこれ以上は無理って所まで送ってくれたリシェットさんに別れを告げてから深い樹海へと足を踏み入れた。

ギルダの森と違って少し肌寒いくらいに涼しい森は昼間でも薄暗く、空を覆う背の高い樹木の隙間から射し込む木漏れ日が辺りを照らしてくれている。

入り口の少し奥の一際広い場所へ出るとアカデミアの教員達と王国の兵士、そして数多くの参加者である生徒達の姿が見受けられた。


「おおぉ…いっぱいいる」


騎士学生のためのイベントなので当然騎士服に鎧を着込んだ生徒が多くて、その中に喧嘩をふっかけてきたジャレットの姿もある。

ゴリラのように大きな図体の彼は実際見た目だけでも強そうでよく目立つ。

しかし目立つのは王子であるカミルも一緒らしく、周りが騒めき出すとこちらに気づいたジャレットがニタニタ笑いながら近づいてくる。


「よぉ!転校生…とプライセル!!ちゃんと逃げずに参加したようだな!」


「アンタ今日まで毎日うるさく言ってきたじゃんかー。まぁ、俺も騎士学校に通ってる以上あんたに言われなくても参加しなきゃダメだしなー」


「私は巻き込まれただけだけどね!でも友達とダンジョン探索とかちょっとテンション上がるよね!」


「友達〜〜?貴様ら庶民の友達などよっぽど物好……!!?!?」


小馬鹿にするような表情で私達を見ていたジャレットの顔色が急に悪くなる。

彼の視線は背後に立っている2人の内1人に注がれていた。どうやら直ぐ後ろにいるカミルを見て気分を悪くするほど驚いたみたいだ。


「か、かかかカミル様ーっ!?!?」


まぁ、これには周りの生徒も相当ザワザワして騒がしくなるレベルなのでジャレットが驚くのも無理はない。

庶民なせいで貴族生徒の間では評判最悪の私とニールのパーティーメンバーに王子様がいるんだから、そりゃ周りの人は驚くよね!


「カミル様が…友、達…だと…!?」


「そうです〜ちなみに本人公認ですから〜」


「馬鹿な…カミル様とこんな下賎な輩が…」


「カミルはどっかの誰かさん達と違って人を肩書きで判断しねぇのよ〜」


周囲の困惑と羨望と嫉妬の入り混じった視線に晒されながらも、ジャレットのこの何とも言えない絶望顔も見れたことだし、ちょっと優越感。

ニールの煽りもあってジャレットの動揺具合が半端ない。このまま探索前に精神攻撃を仕掛けて弱らせてやろうとセコい企みをしていたからか、こちらに数人の兵士が駆け寄って来る。

兵士を見るとまた捕まるかもと謎の不安を覚える…警察官とすれ違う時に謎に怯えてしまうアレだ。

それにやって来た兵士の中には見覚えのある漆黒の騎士服によく映える綺麗な金髪を目撃してしまった。



「げぇっ!!例の騎士団長様じゃねーか…何でこんな所に…」


「ちょっと!私を盾にしないでくれる!?」


ニールが仏頂面のマクシム団長の姿を見るや否や素早く私の背後に隠れる。

ジャレットと同じくらい動揺する様には情けない男だと呆れながらも、私もマクシム団長は苦手なので気持ちはわかる。

まぁ、今回は前みたいに事件も起こしてないから大丈夫…なはずと思いながらも無意識にカミルの背に隠れるように移動してしまった。情けねー!


「??何してんの…」


ぴったり背後につく私、さらに私の背後にいるニールを見てカミルが怪訝そうな顔をする。


「…カミル様」


そうこうしてる内に目隠しするように周りを兵士に囲まれ、真っ直ぐこちらにやって来たマクシムがずいっとカミルの前までやって来てジロリと私とニールを一瞥してから口を開いた。






「このところよく羽目を外されていらっしゃいますが…最近の貴方の行いは目に余ります。カミル様…勝手ながら本日はそちらの御学友とではなく、私共騎士団員と同行していただきます」



まさか当日の直前になってカミルのパーティー脱退イベントが差し込まれるとは思わず、至極真面目な表情を崩さないマクシム団長から、これはどうあっても覆せないイベントであると悟ってしまう。













ー巻きぞえアリスの異世界冒険記27ー











水を打ったように静まり返った後、ざわざわとより一層周囲がどよめき出した。

唖然として固まっていたカミルもハッとすると仕切り直しに一つ咳払いをした。


「…急に言われても困る。それに学園の行事に参加する以上は決められたルールに従う。俺だけ洗練された騎士団員とのパーティーを組むのはルール違反だろ」


「…直前になってしまったのは申し訳なく思っています。今朝伺ったのですが、随分早くからカミル様の姿がなかったので…エドワード殿も困っていたご様子で」


「………」


カミルのばつの悪そうな表情からしてまた黙って部屋を抜け出して来たんだろうな。

そうして朝にカミルを捕まえられなかった結果、イベント開始直後のお知らせとなってしまったみたいだ。


「あくまでも私共は王子の身辺警護を務めるだけですから、学園行事に介入するつもりは毛頭もありません」


「……なら俺が誰と組んでても別にいいだろ」


「…失礼ですが、その御学友の中にカミル様を危険に晒す可能性のある人物がいると、先日カミル様が教えてくださいましたね」


マクシム団長に見透かされるように見つめられるだけで、カミルと私は揃ってあからさまにギクッと動揺してしまった。


「それに貴方自身も危険な目にあったばかりではないですか。カミル様、貴方はもっと危機感を持ってください」


「ほら…狙われてるなら一箇所に固まった方が守りやすいだろ?」


沢山汗をかきながら頑張って理由を捻り出したカミルであったが、もう思考力が私と同じレベルまで落ちて来てるからやばい。

マクシム団長もめっちゃ眉間にしわを寄せた渋い顔でため息をついてる。


「…そういった問題ではないのです。カミル様、子どもじゃないのですからごねるのもいい加減にして下さい」


そう言ってから周りに聞かれないようにカミルの耳元でそっと『王子である貴方を守るようにオズワルド王から仰せつかっております』と囁くと、カミルが余計にむくれてしまった。

しかし王様直々のお願いだと言われてさすがに諦めたカミルはジトとした目で騎士団員を見やった後にマクシム団長に向き直った。


「仕方ない…わかった。でもマクシム、お前は出来れば和についてやってくれ。そしたらちゃんと言うこと聞くから…頼む」


「…承知しました」


「カミル…」


カミルの背中に引っ付いてたものだから、コソッとマクシム団長に耳打ちする彼の声は私にも聞こえてきて、本当に友達想いのいい子だと感心する。

しかし嬉しい反面、カミルとダンジョン探索できないことはなかなかにショックだ。


「ごめん…急にこんなことになって迷惑かける」


「ほんとドゥフ゛ッ!!」


ションボリするカミルに対して余計な口を挟もうとするニールを黙らせねばと思わず右手が勝手に裏拳を放つ。

確認するまでもなくすぐ背後にいたニールにクリティカルヒットした手応えを感じ、黙らせることに成功した。


「カミルが気に病むことないよ、大元の原因私だしね!ちょっとだけでも一緒にいれて楽しかったよ。また今度一緒に出かけようね!」


つい元いた世界の友達を遊びに誘うのと同じような軽さでそう口にした時、カミルが王子であることを思い出した。

マズイと気がついた時には凄まじい眼光で睨むマクシム団長に威圧されて脂汗が止まらない。

しかしカミルは嬉しそうな照れ臭そうな下手くそな笑みを浮かべているから助かった。優し…。


「うん…だけどお前達3人で大丈夫なのか?」


「…いや、それだったらカミルもパーティー組み直さなきゃじゃん。むしろそっちのが心配なんだけど」


どこまでも自分よりまず他人を気にかけるカミルには相変わらず仏かよと敬服するが、友達のいない彼がこの後どうするか非常に心配だ。

騎士団の人はあくまでも護衛であって手伝ってくれないとさっき言っていたし、カミルがそれなりに強いことは知っているが1人では精神面的にもやっぱりキツかろうし、実際平気そうな顔している割に流れる汗は誤魔化せてない。

こちらもパーティが3人になってしまい、魂が抜けかけていたジャレットも息を吹き返してしまったが、とりあえずは私が問題なんだしニールとテオはカミルと組んでても問題ないはず……だが、テオは私とは友達だけど2人とは友達の友達で逆に気まずい?

かく言うニールはジャレットから私とイベント参加していることが前提とした勝負をふっかけられているから、後でジャレットに突っかかられそうだ。


「…でもやっぱニールかテオはカミルについた方がいいんじゃないかな!」


「いや、俺はいいから…護衛いるし」


「いやいやいや、それを言ったら護衛はこっちも間に合ってるから!フォル…マクシムさんだけで十分だし…カミルこそしっかりパーティー組んどきなよ!」


「ロクに魔法も使えないお前が1人でどうするんだよ!何も出来ないだろーが!」


「そ、そそそんなことないしぃ!?1人で出来るもんね!だから2人はカミルにあげるんだよ!」


「ふざけんな!俺こそ1人でいいからいらねーよ!」


「俺達の意見聞く気ないよなぁ…お前ら」








「喧嘩はそれくらいでおやめなさい」


パーティーメンバーの押し付け合いを始めた私達の間に割って入った凛とした声がピシャリと子供染みた口喧嘩に終止符を打った。

野次馬を割って颯爽とこちらに向かって来たのはカミルの婚約者アイラ様を筆頭におなじみの取り巻き2人と初見の騎士服の少年。

学園で制服姿と違ってズボンスタイルの令嬢は宝塚の男装麗人みたいでちょっとカッコいいかも。


「…あ、アイラ…何でここに…」


完璧主義の婚約者が突然現れたことに動揺するカミルにアイラ様はというと、冷ややかな視線で一瞥後に腕を組んだままマクシム団長へ向かっていった。

あの怖いマクシム団長にさえ毅然とした態度で対峙できるから、本当に肝が座っている。


「カミル様にはジャスミンとロベリア、ナーシサスの4人で組んでいただきます。それなら問題ないのでしょう?」


「…我々から言うことはありませんね」


「ちょっと待て!何だよいきなり!それだとアイラが1人になるじゃないか!」


唐突な婚約者の申し出にカミルはぼっち回避できそうではあるが、ちょうど4人いた所にわざわざカミルを差し込んで逆にアイラ様がぼっちになる結果にカミルが疑問を呈した。





「心配ありませんわ。私は」


特に焦る様子もなく、黙っていたアイラ様が再び真っ直ぐな足取りでカミルに向かって行ったかと思えば突然目が合う。

見定めるような何を考えているかわからないその瞳に一瞬怯みそうになったが、彼女にはちゃんとカミルの友人として認めてもらわなければならない。グッと視線を逸らしそうになるのを堪えて、彼女の視線を真正面から受け止めた。




「ノドカ・メイナードさん、あなたのパーティーに加えてもらうわ。問題…あるかしら?」


彼女のその宣言には私以外に周囲の誰もが驚きどよめき出した。

しかし一番に騒ぎ立てそうな彼女の取り巻きと騎士服の少年は慌てた様子もなく、予め知っていたような落ち着きっぷりだ。

婚約者なのにカミルと一緒に行動するのではなく、あえて印象最悪な私とわざわざ行動しようと言うのだ。

彼女もきっと私を試すつもりで来てると思う…ならば都合がいい。





「はい!よろしくお願いします!」


ジャレットを捻り潰しがてらアイラ様に認められてみせると強い意気込みで、私は他のパーティーメンバーの意見も聞かずにアイラ様をメンバーに加えた。


「マジかー…」


「怒涛の展開やわ…もうどうなってもええや」


「の、和…」


遠い目をするニールとテオは大丈夫そうであるが、青ざめるカミルが心配そうにあわあわしてる。

大丈夫だと私はドヤ顔で思いっきりサムズアップして見せれば、心配そうには変わりないが小さく笑ったカミルも同じように返してくれた。

パーティー騒動はアイラ様によって綺麗に2チームに別れたおかげで、無事に騎士学生だらけの肉体派パーティー編成のジャレットにも対抗できるようになった。


「絶対負けないからなっ!!」


アイラ様の加入でカミルの時ほどでないにしろ、動揺していたジャレットであったが私の強気の発言にフッと好戦的な笑みを浮かべていた。

いよいよイベント開始時刻が訪れ、初めてのダンジョン探索イベントであるシルフ樹海探索が始まった。




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