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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
20/53

女子高生、魔法使いの弟子になる。





「はぁ〜〜〜…」


「そんな長いため息ついてどうしたの?」



2日目の休日に早速第二の実家である神樹の家に帰った私は昨日の失態を思い出してはため息を零していた。

リビングに入り浸っては繰り返しこんな調子なもので、魔法でカップに紅茶を注いでいたジルベルトさんがチラリと私を見る。


「いやぁ…強くなりたいなぁって…」


「う〜ん???突然どうしたの?はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます…実は」


目の前に差し出されたティーカップとソーサーを受け取りながら、私はぽつぽつと昨日の出来事を話した。


「…まぁそんなことがありまして、せめて足手まといにならない程度には力が欲しいな、と」


「そーゆー時のために道具渡したんだけどなぁ…」


「いやそれはごもっともなんですけど…道具以前の問題っつーか」


ジルベルトさんの道具を使えばそれなりにやれるだろうけど、もしも頼る道具も何もない状況に陥った時、自分の身を守れるくらいの護身術を覚えたいのだ。

せめて周りを危険に曝さない程度の存在でいたい。


「そーゆーのは時間をかけて身に付けるものだからねぇ…」


「そりゃそーなんですけど…今度のダンジョン探索では足手まといになりたくなくて〜」


特別努力してるわけでもなければ天才的な才能もないのだから、私が雑魚なのは当然だ。

しかしジルベルトさんと契約したために得た恩恵である膨大な魔力と不老不死は、異世界もののアニメや漫画であれば主人公が無双できるくらい優秀なアドバンテージであるはずなんだ。

それを生かせないのだから宝の持ち腐れもいい所だ。

手の甲にはジルベルトさんとの契約の証である紋章がしっかりと存在するのに、私本当に恩恵受けてるのかな……まぁ明らかに回復力は尋常がないので受けてはいるけども。

これじゃぁジルベルトさんのお願いを叶える手段も現実的じゃないなぁ…だから私にそういう話してくれないのかな…。




「…はぁ〜…」


「………」


ネガティブな妄想に勝手に傷ついて落ち込んで私はぐったりとソファーに力なく体を沈ませた。もうなんか…ダメだ…。

そんな私を見ていたジルベルトさんは何も言わずに紅茶を嗜んでいたが、ピクリと何かに反応を示した後にいいことを思いついたと言いたげな笑みを浮かべた。



「それじゃ、和君に魔法の師匠をつけてあげましょうかね〜」


「?…魔法は学園で教えてもらってますよ、一応」


「アカデミアで習う魔法はあくまで誰かが作った術式を魔法陣として記憶させたものだからね。それはきっと和君には合わなかったんだろうね、だから君は君だけにしか使えない魔法を作っちゃえばいいのさ」


ニッコリと言い切ったジルベルトさんだったが、私にしか使えない魔法ってのは非常にロマンがあって耳触りがいい感じだけども、それは既存のものを使用するより難しいのではないか。


「…それは例えば料理でプロが作ったレシピを参考にするのが学園で習う魔法だとすれば、自分で新たな創作料理を生み出す様なものですか?」


「う〜ん?そうなんじゃない…わかんないけど」


私の拙い説明をテキトーに流すジルベルトさんに不安しか湧かない私は気付かぬ内に渋い顔をしていたみたいでジルベルトさんがポンポンと肩を叩いてくる。


「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。アレは案外面倒見が良いからね」


「アレって…誰です?」


「…ほら来たよ」


そう言ってジルベルトさんがまた優雅に紅茶を飲み始めた時、バーン!!と豪快に玄関の扉が開け放たれた。













「今日も来てやったぞジルベルト!!今日こそこの俺様が貴様より優れていると証明してやる!勝負だ!!」


「……」



現れたのは燃える様な赤毛と目立つファー付きの真っ赤なマントをはためかせた見慣れた男と、その後ろには控え目に顔を覗かせる金色の美しい瞳を眠たげな目蓋で縁取った黒いハイネックコート姿の角付き悪魔のコンビだった。














ー巻きぞえアリスの異世界冒険記20ー












「そういうことだから、よろしくね」


「ん〜?何の話だ?まるでわからんぞ!」


何の説明もせずに、唐突にやって来たワルツさんに対してジルベルトさんは流れるように私をぶん投げた。

当然ながら話の流れがわからないワルツさんは不思議そうにしながらも、腕組みしたりと態度は変わらず偉そうだ。


「あの〜私の魔法の師匠になってくれないかなぁーって話なんですけどぉ…」


「??????何故この俺様が如何にも落ちこぼれな貴様の面倒を見ないといけないんだ???大体俺の使い魔でもないし!お前は敵だ敵っ!」


「ですよねぇ…」


ワルツさんには何の得もないし、ジルベルトさんをライバル視してるのだから当然断られるよねとテキトーすぎるジルベルトさんに訝しげな視線を向けるが、彼は変わらず自信ありげの笑みを浮かべたままだ。


「そっかぁー無理かー俺じゃぁ力不足で育ててあげられないから、ワルツならと思ったんだけどナー」


クソ棒読みの上にわざとらしいジェスチャーまで差し込んでくる見るに耐えないクソ演技にも関わらず、ワルツさんはピクリと反応を示した。嘘だろ…。



「何…貴様にはコイツを育てられないと…?」


「いや〜時間をかければそれなりに仕上げると思うけど、短期間じゃ無理だなーでもそれが出来る魔法使いがいたら、さすがに俺よりも優秀な大魔法使いと言わざるおえないナー」


「……!!」


ジルベルトさんのそんな大きな独り言にワルツさんは面白いくらい反応を示している。

無言で下を向いていたワルツさんだったが、ぶるぶる震えてスマートフォンのバイブレーションみたいになっている。


「ふ…ふふ……ふふふ」


しきりに漏れている笑い声にこの人が次にどういう反応をするかもう想像出来てしまう。

突然顔を上げて強気の満面の笑みで高笑いをするワルツさんは意気揚々とジルベルトさんの前に立つとばさぁ!と無駄にマントを翻して宣言する。



「いいだろう!この俺がノドカを最強の魔法使いに育て上げてやろう!!まずは短期間の内に一人前の魔法使いに仕立てあげて、貴様よりもこの俺様がいかに優れているか証明してやるからな!見とけよ!!」


「わぁ〜すごい自信だーいやーもしも短期間で見違えるくらいになったら、すごすぎて思わずひれ伏しちゃうかもなぁー」


「ふふふ…ふわあっはっはっははーー!!その時を楽しみにしているぞ!よし、ノワール!」


ジルベルトさんのお粗末な口車に簡単に乗っかってしまうワルツさんちょっとあまりにもチョロすぎて心配になるレベルだ。

悪質なセールスに直ぐ騙されそうだと哀れんでいるとノワール君にいつかのように突然ギュッと抱きすくめられて、軽く持ち上げられる。彼には下心とかないのは承知しているのでもう驚きはしないけども、やはり私も乙女であるために慣れたら慣れたで体重とか脂肪とか、色々気にする。

というか、今回はこの運び方する必要ないよね?と抗議する間も無く、騒がしく外に出たワルツさんを追ってノワール君がそのまま私を連れて部屋を出る。


「頑張ってねー」


最後に見たジルベルトさんはニヤニヤと楽しげに茶菓子を貪りながら、ヒラヒラと手を振っていた。

そして私は再度ワルツさんとノワール君に連れ去られた…。

今更だけど、私にも誰を師匠に仰ぐかくらいの権利が欲しかった…大体ワルツさんにはいい思い出ないし、直ぐ勧誘してくるから今後どうなるか不安しかない。

最早空の上でガタガタ騒いだ所でどうにもできない状況なため、ダンジョン探索日までに少しでも力をつけられたら良いなと願うばかりだ。














「あれ?のどかちゃんじゃないすかー!今日はどうしたんすか?」


ワルツさんの根城に着くなり、古城の屋上で洗濯物を干していたヤス先輩がエプロン姿で迎えてくれる。

異世界に来てまさかヤンキー主婦と友達になるとはなぁ…としみじみたまげている私をヤスさんのいる屋上に降ろすと、隣に立ったノワール君は眠たげに欠伸を零した。


「疲れさせたかな、ごめんね…重かったでしょ?」


「………」


前から思っていたけども神樹から最東端の雪山まで結構な飛行距離あるため、人1人運ぶのは相当大変そうだ。私だったら腕がもげてる。

しかしノワール君は特別疲れた様子は微塵も見せずに、ブイとピースサインをして見せてくれる。天使かよ…悪魔だけど。


「運んでくれてありがとね。あ、でも今度からは自分で飛んでくるからねっ」


流石に毎回腹回りを抱えられるのは恥ずかしいし、体重面も気になる。

今回はリシェットさんが服を作ってくれたのもあって、寒さ対策をしてきたために前回のように震えることもなく、見渡す限り見事な雪景色の中であるものの、まだ陽の出ている時間帯だからか、比較的暖かかった。






「今日からこの俺様がノドカの師匠となった!!!」


「そりゃまたどうして??」


「あ、それは私が説明しますね」


不思議そうに小首を傾げるヤス先輩の耳元にそっと先ほどの経緯を説明する。


「あっはっはっはっ!まぁワルツさんらしいっすね!」


「私はちょっと複雑なんですけど…不安だし」


「大丈夫っすよ!ワルツさんは案外面倒見良いし、教え方も上手いっすよ。スパルタっすけど」


「……ん?その言い方だとヤス先輩が体験したみたいですね………もしかして魔法使えます…?」


「まぁね!派手な感じじゃないっすけど、便利っすよー。この物干し竿とかハンガーも魔法の産物っすね」


そうヤス先輩が指差す物干し竿やハンガーは元の世界の我が家で見たのと遜色ない出来栄えで、これが手づくりであることに驚愕した。

というか、普通にヤス先輩が魔法使える事にビックリだよ。


「…ちょっと植物を成長させるだけって…言ってたのに…」


「それは契約特典だぞ。魔力と魔法は努力次第だな」


そんな…別枠だったなんて初耳なんですけど…。

ショックで思わず膝をつく私を放置してワルツさんが自慢の羽根ペンで、せっせと二重円の中に六芒星を描いたシンプルな魔法陣を描き上げると、ちょいちょいとこっちに来いと言いたげな顔で手招きする。

同郷のヤス先輩が自由に魔法を使える身であると知って、希望より先に置いてけぼりにされたショックを受けながらフラフラ立ち上がり、ワルツさんの元に向かった。




「まずは貴様の実力を計る!この魔法陣に手をかざして、試しに唱えてみろ」


「?」


「学園でやったことをすればいい」


ああ、マリオン先生が最初に色んな属性の魔法陣を試させたやつか。


「あのぉ…これ何属性の魔法陣何ですかね?」


「こいつは魔力を変換してくれる扉みたいなモンだ。とりあえず三属性くらい頭の中で想像してやってみればいい!早くしろ!」


学園とは違うやり方に戸惑いつつ、私はゆっくり魔法陣に両手をかざし、とりあえず炎をイメージして手に力を込めた。

すると魔法陣からボッと大きな火の玉が飛び出し、緩やかに空に飛んで行った………と思ったら途中で浮き上がるのをやめてそのまま落ちてきた。これヤバイやつ。







「ひやぁあああーっ!!!」



思わずパニックになって弱腰になるも、手をかざしたままであった魔法陣から噴水の如く、勢いよく溢れ出た水がジュッと結果的に火の玉を消化したが、空高く放った水が雨となって広い屋上に降り注いだ。

私は当然としてヤス先輩から干していた洗濯物、ぼんやりしていたノワール君、真顔で静観していたワルツさんまで降り注ぐ雨に打たれる。

ずぶ濡れになりつつも真顔で腕を組んで立っていたワルツさんがおもむろに口を開いた。









「うむ………想像以上にゴミカスッ!!!」



そう私を評価した叫びは城の屋上から雪山全体に響き渡るほどだった。







「ヤァスッ!!このド素人に手本を見せてやれ!!」


「うっす!」


ビショビショのままのヤス先輩がワルツさんに呼ばれて魔法陣に手をかざし、火・水・風の魔法を唱えた。

『火』はまるでガスコンロに灯る強火よりも強いくらいの火力、『水』は学校の校庭に設置されているスプリンクラーの様に水飛沫をあげる。ちなみにちゃんと人のいない方向へ。

最後の『風』では扇風機並みの微風が発生した。



「!!……す、すげー」


特別派手なわけではないヤス先輩の魔法だったが、謎の安定感がある気がする。


「俺も最初はノドカちゃんと似たようなもんで…ま、3年目もあればざっとこんなもんすよ!」


「3年…生々しい長さだぁ」


「ヤスは物作りの面においてはかなり優秀だぞ。馬鹿みたいに力むだけの貴様とは違うのだよ!」


「うぐぐ…」


圧倒的な現実を突きつけられた私は再び膝から崩れ落ちて地に伏した。

そんな私のそばまでやって来たノワール君が慰めているつもりなのか、ポンポンと背中をさすった。

パチンとワルツさんが指を鳴らすと屋上の床にオレンジ色の魔法陣が現れ、フワリと全身が一瞬にして乾いた。

さらに私を貶しまくっていたワルツさんがおもむろにしゃがんで無駄に慈しむような偉そうな面持ちで私の肩にポンと手を乗せる。






「今はゴミカスの貴様だが、安心するがいい!!この俺様が師匠になったのだ!必ず貴様を最強の魔法使いにしてやる!」


一体どこからそんな自信が出てくるかは謎であるが、何だか頼もしく感じるワルツさんの態度を目の当たりにすると少し期待してもいいかもと思えてくる。

実際ヤス先輩がちゃんと魔法使える事実もあるし、これなら成り行きとは言えダンジョン探索では多少活躍出来るかもと淡い期待が胸をよぎった。




「短期間で貴様を一人前にするのだからな!厳しくいくからな、ノドカ!貴様も励めよ!!」


「はい!よろしくお願いします!」


この時、その場の空気に流されたとは言えワルツさんを一時的に信用してしまったことをこの後地獄に落とされた私は激しく後悔することになるのだった。




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