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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
17/53

盲目の少女と疫病神の泥棒



初めての寮生活のことばかりに気を取られて、2日目の学園生活は1日目と変わらずに残念な結果を残して、マリオン先生に呆れられてしまった。

ジルベルトさんの言った通り1日目よりはマシな威力になったが、それでも制御できずに暴発して自分でダメージを受けたりする始末。

そのせいか座学の授業もあるので今はそちらを受けてみてはどうかと、さり気なく魔法を使うのを自粛するように釘を刺されてしまった。

そんなやり取りの後に訪れた学園寮は疲れていても緊張でソワソワして落ち着かない。

先生から部屋番号も教えてもらって、後は部屋に入るだけのところまで来ているのだが、ルームメイトがいるとの事で私は緊張していた。

これから共に暮らすのだから仲良くやっていきたい…しかし2日目だと言うのにもう何か学園でちょっと浮いているくさいから避けられないか不安だ。

そう思ってドアノブを握ったり放したりと1人で優柔不断な行動を繰り返していた。







「…〜〜っええい!行ったれーっ!!」



悩んだ末に考えるのをやめて、荷物の詰まった旅行鞄をしっかりと握り直し、意を決して勢いよくドアを開け放った。

開け放ったドアの向こうで私を待ち受けていたのは老齢のメイド姿の女性と、窓際で姿勢良く椅子に座っていた長い髪の儚げな雰囲気の美少女がゆっくりとこちらを振り向く。


「ごきげんよう、わたくしルーチェ・グラシアスと申します。お待ちしていましたわ、和さん」


ニッコリと瞼を閉じたまま微笑む彼女の上品な仕草に見惚れて思わずアホみたいに呆けてしまう。

これが初めてのルームメイト、盲目の少女ルーチェと出会いだった。












ー巻きぞえアリスの異世界冒険記17ー











明らかにお嬢様であるルーチェさんにどう接したらいいかわからず、挙動不審になる私だったが彼女は嫌な顔一つ見せる事なく、終始丁寧に接してくれた。

恐らく私のあまり評判の良くない噂は彼女の耳にも届いている事だろうに、親切にしてくれるのが素直に嬉しい。

老齢のメイドさんも私にまでお茶を振舞ってくれるなど、とにかく寮生活には希望が持てそうだ。


荷物を備え付けのクローゼットやチェストに仕舞い、 私は勢いよくベットに身を投げ出した。

大きく息をつく私にお疲れ様ですと見えないのに、労ってくれるルーチェさん。

彼女が動き回る時は大体杖をついてベロニカさんが側で支えている様子が見受けられた。


「あのー…ル、グラシアスさん、目が見えないのってやっぱり不便じゃないですか?」


何となしについとんでもなく失礼なことを聞いたかもと言った後に後悔する。

しかし好奇心は抑えられず黙っている彼女が口を開くのを恐る恐る待つ。


「わたくしのことはどうぞ、ルーチェと呼んでください。わたくしにとってはこれが普通ですから…耳で聴いたり、触れて感じることは出来ますし、それに」


ニッコリと微笑むルーチェの前にスッと後ろで控えていた老齢のメイドが出て来て恭しく礼をした。


「このメイドのベロニカがわたくしの目となってくれるので、皆様が思っているよりもわたくし、困ってないんですよ」


影を感じさせない彼女の笑顔が何よりもその言葉が真実だと物語っていた。

目が見えないとはどんな感じなのか想像するだけで私は怖くなるが、目の前で幸せそうに笑う姿を見ていると彼女が盲目であると忘れるほどに生き生きしている。

目が見えなくなった理由だとか、いつからそうなのかとか気になる点は尽きなかったが、彼女の笑顔を前にしたら些細なことに感じてそれ以上聞くのはやめた。




そんな彼女と過ごす最初の夜、ベットに入っても環境が変わってしまったせいか中々寝つけなくて私は右へ左へ忙しなく寝返りを打っていた。


「……眠れないのですか?」


反対側のベットで寝ているルーチェがそう声をかけてくる。

学園寮で私が暮らすことになった部屋にはこの寝室・リビング・風呂・トイレ・使用人部屋と多くの部屋があるのだが、寝室はルームメイトと同室になるのでこんな風に行動が筒抜けでちょっと恥ずかしい。


「えへへ…ちょっと緊張してるかもでして…すいません」


「和様…ここは今日からあなたの家となりますから、わたくしに気を使うこともないのですよ。どうぞ、自然に楽にしてください」


「自然にかぁ…じゃぁ、ちょっとお話とかしたいなぁーって」


月明かりが差し込む部屋は薄暗いながらも彼女の顔が見えるくらいには明るくて、チラリと向かい側のベットのルーチェを見るとふふっと笑っていいですよと了承してくれる。


「私昨日からここに通ってるんだけど、魔法の授業についていけない…のは構わないんだけど、ぶっちゃけ周りから浮きまくってるなぁーって」


「?どう言うことですか?」


「えっとね…ほら、この学校王子とかお坊ちゃんとかお嬢様とかばっかじゃん?皆育ちいいじゃない?」


というか今の所それ以外見たことない。

授業外の時間に他の生徒の様子を観察していたのだが、皆メイドや執事が当然のようについているし、一々所作が美しいのだ。

歩き姿から座るまでも細かいとこまで高貴さを放つ周囲の生徒達に対して、庶民の私はやる事なす事がそれほど下品な行いをしているつもりはないが、時折ヒソヒソ話をされているようでもう被害妄想が止まらないのだ。

最初はさほど気にしていなかったが、テオやカミル以外誰も話しかけてくる様子もなくて友達ができる気配を感じられなくて危機感を感じていた。

まだ判断するには早いかもと思ったが、周囲の冷たい目線は紛れも無く私に向けられたもので、被害妄想だけでは片付けられないから不安だ。

そのことを包み隠すことなくルーチェに話すと彼女はまた明るい声で笑った。


「ふふっ、確かにここには名家の子ども達が多く通っていますね。気難しい方が多いのも事実です。ですが皆が和様を敬遠するのはカミル様と親しいのが羨ましいのですよ」


「そうなの…?」


「カミル様にはアイラ様という気難しい婚約者がいるでしょう?」


「あぁ、例の意識高い彼女」


「皆アイラ様に目をつけられるのが怖くてカミル様には近づけないようなので、臆す事なくあの方に近づけるあなたを羨んでるのですよ」


それは妬まれているのでは?と悪い方に考えてしまう私は今後そのアイラ様に何かされるのではと別の方面がまた心配になって来た。



「カミル様は1人でいらっしゃる事が多いみたいですので、お友達がいた事にわたくしは安心しましたわ」


「ルーチェとカミルは仲がいいの?」


「…グラシアス家と王家は親密な関係にありましたから、幼い頃はよくお城に行く機会がありまして」


「…じゃぁ幼馴染みたいな?」


「そうですね、そんな感じですわ。ですのでわたくし、カミル様のこともアイラ様のこともよく知っているんですのよ」


「そうなの!?カミル結構友達いるじゃん」


「とは言え今は授業でたまに会うことがあるくらいで、あまり関わる機会は無いですわね」


「疎遠になっちゃったの…?」


「そうですね…カミル様もアイラ様とも昔とは状況が変わってしまったので」


先ほどまでは明るく楽しそうに弾んでいたルーチェの声が少し寂しそうに部屋に溶ける。

小学校の頃は仲の良かった友達が中学、高校と離れ離れになる内に疎遠になってしまう感じなんだろうか。

あまり深く聞いてしまうのも無粋かと思って口を閉ざしていると、静かな空間にコンコンと窓を叩く音が響いた。

この部屋は3階にあり今は皆が寝静まる夜中だ。そんな時間に窓を叩く客は普通じゃない。

泥棒!?とカッと目を開き窓を見ると月明かりを背にした黒い人影がモゾモゾ動いてる様子が見える。

即座に園芸用の小さいスコップを片手にベットから飛び出して恐る恐る窓に向かう。

何か言いたげなルーチェを横目に怪しい人物が外からピッキングで解錠して窓を開け放った瞬間勢い良く私は弾き飛ばすように両手で張り手を繰り出した。





「泥棒めっ!!成敗っっ!!」


「!??!??ちょ、のどか姉ちゃん!?おわっ!!」


聞いたことのある声によく目を凝らして突き飛ばした影を見ると、しばらく見なかったニールが屋根を転げ落ちていった。


?……?????…何でニールがこんな所にいるんだ?


疑問で小首を傾げる私の前に地面に落ちる前に屋根の縁に掴まりギリギリ留まり、戻ってきたニールが背中をさすりながらジト目で私を睨む。




「いててて…のどか姉ちゃん、いきなり突き落とすなんて酷くねぇ?シャレになんねーよ」


そう言う割にはニヤニヤと笑うだけの余裕があるニールは私が唖然としてる間に、自然に窓を乗り越えて部屋に侵入した。

いやいやいやいや…危うく流されるとこだったが、何故普通に部屋に上がる?


「ちょちょちょちょっと待ったあっ!!」


私はガッチリとニールの腕を掴み、理由を説明してくれるまでは逃さないと言う強い意志で彼を睨みつけた。



「まさか、のどか姉ちゃんがいるとはなぁー…参ったぜ」


バツが悪そうに笑ったニールは許可もしてないのに勝手に私のベットに座って話し始めた。


ニールとはお城での脱獄騒動で撃ち落とされた彼を見たのが最後だったが、その後牢屋に放り込まれて事件が解決後に私同様に騎士学校に入学させられたニールは寮生活を強いられ、夜中に脱出していたそうだ。

それで屋根を渡り歩いている際に警備員に見つかりそうになっていた所をたまたま窓を開け放って涼んでいたルーチェが匿ってくれたそうだ。


「夜中に屋根を歩く不審者匿うなんて…その慈愛の心は控えめに言って最高だけど、もう少し危機感持って…」


「姉ちゃん、俺に辛辣だよなぁ…」


私は一度スリにあっているから、ニールの手グセの悪さは知っている。

名家のお嬢様で盲目であれば尚更部屋に入れてはいけない存在だろう。

しかしこのお嬢様は疑う心がないのか笑顔を崩さないままーー





「大丈夫ですわ!わたくし目は見えなくとも、悪い人かそうじゃないかは何となくわかるんですのよ」


と自信満々にドヤ顔で言い放った。

まさかここで不思議系お嬢様の一面を出してくるとは思わなかった…。

彼女が今後悪い人に拐われたり、騙されたりしないかとても心配だ。

ともかくそうして出会ったらしい2人は仲良くなったらしく、ニール毎度夜には寮を抜け出してルーチェに会いに来てから街に帰っているとのことだ。



「ん?顔出す必要性は?やっぱ何か盗んでじゃないの」


「してねーよ〜マジで〜」


「ふふっ、和様は心配性なのですね。ニール様はお優しい方ですよ。わたくしの知らない世界のお話を聞かせてくださるのをわたくしが毎回楽しみにしているので、わざわざお話に来てくれるんですのよ」


単にニールが自分のわがままに付き合っているだけだとルーチェは言うが、口笛を吹きながら目線を泳がすニールには親切心だけの行動じゃなさそうに伺える。絶対下心がある。


まぁルーチェがニールに好意的である以上、私が口出しする権利もないのでこれ以上の追求は無粋だろう。

とりあえずニールにだけ詳しい話を聞くために、明日の昼休みに会う約束を取り付けた。

その後ニールはルーチェに街での出来事やリーゼンフェルトの外の話を彼女に聞かせ、話終わると街へと繰り出すために夜の闇へと姿を消した。

私が居たのもあるだろうが、本当に他愛もない話だけして去っていってしまった。



「今日も楽しいお話が聞けて満足ですわ」


ベッドに入ったルーチェが本当に嬉しそうに声を弾ませる。

子供みたくはしゃぐ彼女にニールが悪い影響を与えなければ、こんなイベントもちょっとロマンスあって素敵かもと思うが…相手がニールである事だけが些か引っかかる点だ。





「あの…良かったら和様のお話も聞かせてくださいね」


盲目故か、箱入りのお嬢様だからか、自分の知らないことに興味津々の彼女は無邪気で愛らしく、私はついつい元いた世界の話や、こちらで見てきた特に驚いたものの話をした。

どんな話にも新鮮な反応を返してくれるルーチェのお陰で変な緊張が消えた私はいつのまにか気持ち良く眠りについていた。




翌朝、ニールが約束を破ると予想した私は男子寮の玄関前でニールが出てくるのをひたすら待っていた。

出てくる男子生徒に不審な目で見られたり、遠目にヒソヒソ話をする生徒もいたが、待ち続けた甲斐あって眠たげにノロノロ出てきたニールを取っ捕まえて人気のない学園の裏庭まで来ることができた。


「イテテ!姉ちゃん約束は昼じゃなかった!?」


「あんた絶対忘れると思ったから朝に予定変更したんだよ」


「本当俺のこと信用しないよねぇー…まぁいいけどさ。それで俺に何が聞きたいの?」


苦笑していたニールが頭の後ろで腕を組んで木にもたれながら眠たげに欠伸を零す。

これは…このまま放って置いたら寝かねないテンションの低さだ。


「えーと、色々聞きたいことはあるんだけど…とりあえず騎士学校に通う事になった経緯を詳しく」


「そんなの俺が聞きたいぐらいだぜ。あの日牢屋入れられて、翌日解放されたと思ったら事件に加担した罰としてカミルと一緒の学校通えってよー意味わかんねーよなぁ」


「私と同じ内容じゃんか…初耳だぞ」


「俺ものどか姉ちゃんがいるとは思わなかったぜ!」


カミルが私が編入したのにやたらと反応してたのはもしかしなくてもニールの件があったからか…。

王様がいくらカミルのことを思っての行動だとしても、事件の首謀者とその共犯を友達として息子のそばに置いておくのはどうだろう?

処罰にはなっていないし、カミルの言う通り監視目的だと言う理由が現実味を増した気がしてきた。


「礼儀だの、騎士道だの、めんどくさくてやってられねーよ。周りは貴族連中ばかりで居心地悪いし」


「わかる」


しかし私もニールもわりと困っているから意外と罰にはなっているという…やっぱりカミルの考えすぎかな。


「ヨルンもさ〜止めるどころか曲がった精神を改めるいい機会だって喜ばれたし、散々だぜ……まぁでもカミルや姉ちゃんがいるなら悪くねーかもな」


さっきまでとても憂鬱そうだったのに気分屋の猫のように急に機嫌をよくして笑うニールに少し私も嬉しくなる。

ニールもいると分かればこの学園には私の他にも庶民がいると言う安心感も得れて気分が少し晴れる。




「話は変わるんだけど、ルーチェ…」


「おい!!プライセル!!」


昨夜の仲良さげな2人の姿を思い出して彼女についても聞いておこうとしたら怒気を含んだ低い声が私の台詞を遮った。

何事かと声の発信源に目を向けるとニールと同じ黒い制服を身につけた大柄の男がこちらに向かって来る。



「プライセル?後ろに誰かいたのかな??」



「あー俺だよ俺。ニール・プライセル…って姉ちゃんには言ってなかったっけ?」


あまり関わり合いになりたくないタイプと誰か他の人を捜していると思いたかった私にニールが満面の笑みで希望を打ち砕く。

貴族ばかりのこの学園に似合わない野性味溢れたゴリラみたいな大柄の男はついに私とニールの前に立ちはだかった。威圧感がすごい。

しかしよく見るとだらしなく着崩しているニールとは対照的にきっちり制服を着ていて気品すら漂う彼はやはり貴族だった。

憎々しげにニールを睨みつけていた彼だったがニールがヘラヘラしてるのが気にさわったのか、ガッと胸ぐらを掴んできた。




「貴様ぁあっ!昨日はよくもあんな恥をかかせたな!!」


烈火の如く顔を真っ赤にした男はそう叫ぶ。

離れた所で歩いていた他の生徒まで何事かと立ち止まるくらいには迫力のある叫びで、私も耳が痛い。



「ちょっとあんたこの人めっちゃ怒ってるけど何したの!?何か盗んだの!?」


「違う違う。昨日学校で戦闘演習があってよーその時の相手」


「……もしかしてこんな強そうな方に勝っちゃったの?」


「勝ったけど負けたというか…勝負に勝って試合に負けた」


「????」


混乱する私を他所に大柄な男はグワッとニールの胸ぐらを持ち上げた。いよいよ怪我でもしそうな展開になってきたぞ。

ブチ切れ状態の男は今にも殴りかかる勢いで無抵抗にされるがままのニールを見ていてハラハラしてしまう。


「あれが試合だと?!あんな卑怯な闘い方で騎士道に反する行為をしておきながら貴様ぁあ!!」


「ちょっちょちょちょっと!騎士学校の生徒なら暴力はまずいですよ!!」


「ああっ!??」


手を振り上げたのを見て咄嗟に止めてしまったことを後悔したのは、鋭い眼光に睨まれ後のことだった。

ニールに向けられた怒りが自分に降りかかるのが怖くて、小心者の私はそれから汗をかくだけで何も言えなくなった。

そんな私を少しの間訝しげに睨みつけていた男が思い出したようにああと声を上げる。




「お前、噂の不審者転校生爆発男子寮出待ち変態女か!!」


「ふ、増えてる〜…」


噂の更新速度が早すぎることと、ついに変態認定されてしまったことにショックを受けていると、大柄な男は私とニールを交互に見ては何かに納得したように鼻で笑った。



「何だァ?お前ら知り合いか?下賎の者は皆やる事なす事品性が欠けているのか?」


突然の罵倒対象に加えられたことが激しく遺憾だったが、そこまで酷い行動は取っていないと思いつつもやらかしているのは確かなので反論できなかった。


「てかニールは何したのさ?卑怯とか言われてるけど」


「あ〜…まぁ色々」


「コイツは正々堂々とした真剣勝負の場で卑劣な手段を使ったのだ!!」


「……何したの」


「まぁ…目潰しに砂かけとか、背後から急襲とか、急所狙いの金的とか…それから」


視線を泳がすニールが行った卑怯な所業は確かに騎士学校に通う生徒にしてはあまりに野蛮。盗賊や蛮族レベル。

そうした卑怯な所業を受けた男は最後は金的に悶え苦しみ、医務室に運ばれる結果となったらしい。

当然ながらあまりに卑怯な闘い方に審判の先生からはニールの反則負けが言い渡されたが、この男の怒りは収まらず、こうして報復に来たようだ。


「思った以上に酷い…これは殴られても仕方ないよ…ほら、さっさと謝って」


「え〜でも実戦じゃ正々堂々とか騎士道とか言ってられないぜ?むしろ良い経験じゃーん」


「……それは一理ある!」


騎士同士ならともかく、ニールみたいな賊や言葉の通じない魔物に対して正々堂々もクソもないわ。


「〜〜ふんッ!!貴様らの様な奴らが何故この学園に通ってるか知らんが…その態度といい振る舞いといい気に入らんな!」


開き直るニールと私を見てまた怒りを露わにした男はそう吐き捨てると乱暴にニールを突き飛ばした。

運の悪い事に突き飛ばされた先にいたせいで見事に巻き添えを食らった私は不本意ながらニールの下敷きとなり、2人して情けない悲鳴をあげた。

この男さっきから騎士だの品だの色々うるせぇわりに侮辱してきたり、とにかく乱暴で嫌い!!

苦しみながら心の中で呪詛を唱える私と未だに退かないニールにビシッと指を差してその男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。







「ニール・プライセル、とついでにお前!来週、ダンジョン探索があるのは知っているな?そこで再勝負だ!!」


何だか勝手に熱くなっている男はニールに対してそう高らかに宣戦布告をしていった。


私は全く関係ないのに、たまたまニールと一緒にいただけでこのクソどうでも良い騒動に巻き込まれる事になった。




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