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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
14/53

初めての魔法学園 初日








アカデミア編入当日、まさか王様と話した翌日には早速学園に通うことになろうとは思ってなかった。

やたら早く決まってしまったので、アカデミアの制服は届かずとりあえず元の世界の高校の制服を着ることにした。

ブレザーをしっかりと着込めば異世界でも多少それっぽく見えるだろう。


「よーし、行ってきまーす!」


気合い入れて元気よく玄関を飛び出すと眩しい陽の光に思わず目を細める。

快晴無風のいい天気がまるで私を歓迎してるようで無駄に気分がいい。

ジルベルトさんが用意してくれた筆記用具の詰まった魔法の鞄をしっかりと背負い、学園前まで飛ぼうとする私をリシェットさんが止める。


「和様、学校楽しんできてくださいね。お弁当用意しましたので、お昼に食べてくださいね」


まるで赤ずきんちゃんが持つような可愛らしいバスケットを差し出すリシェットさんの優しい気遣いに心が温まる。

リシェットさんから溢れ出る母性に思わず抱きつきたくなる衝動を抑えながら私はそのバスケットを受け取った。


「ありがとう、リシェットさん!それじゃあ、行ってきます!」


「はい、気をつけて行ってらっしゃいませ」


小さく手を振るリシェットさんんとその後ろで葉っぱをパタパタさせるイリアンを見ながら、私は大空を舞って学園前へとワープした。


あまりに爽やかな理想的な朝だったために、幸先の良いスタートを切れた私はこの後の学園生活も楽しく過ごせると思っていた。

そんな矢先だった。










「君ィ困るよ〜。ここは部外者が勝手に入って来ちゃダメなんだよ」


「いや、あの…今日からは部外者じゃないというか」


人の多い登校時間に門前にワープして好奇の目に晒されながら門をくぐった結果、警備員さんに通報されたらしく今道の脇でお説教されている状況である。













ー巻きぞえアリスの異世界冒険記14ー













ヒソヒソと話しながら怪訝な目で通り過ぎる視線が辛い。


「生徒なら当然ウチの制服着てるでしょ。君は明らかに違うよね?」


「いやぁ…昨日の今日だったもんで間に合わなかったと言うか…」


やはり現代の制服ではダメだったか…しかしアウェすぎる空気の中でどう弁解したら良いものかと、焦る頭で考えてもこんがらがるばかり。


「あっ!私編入生なんです!今日から!」


「編入生?…名前は?」


「えっと……ノドカ・メイナードです」



私自身の本名は有栖 和なのだが、昨夜のジルベルトさんとの会話を思い出す。






「そうそう、和君。これから名前を聞かれたらノドカ・メイナードですって言ってね」


「?何故ですか?」


「悪い人に真名を知られると大変なことになるかも知れないからねー、変な事件に巻き込まれないためにも隠してほしいの」


「はぁ…そんなに知られるとヤバいんですか?」


「普通の場合は警戒する必要もないけど…君は一応俺の使い魔だからねぇ…悪い魔法使いにいいように使われちゃうかもよ」


「…それってワルツさんに拐われた時みたいになるってことですか?」


「ん〜それよりもっとヤバいかもね」


「マジか…わかりましたー」



とのような絶妙なユルさの会話で危機感はあまり感じられなかったのだが、思えば巻き込まれてばかりだから気を付けなければと警備員さんにそう名乗って見せたが、情報が行ってないのか何なのか警備員さんは怪訝そうに眉をひそめるだけだった。


「…むぅ…ちょっとおじさんは聞いてないからわかんないなー……嘘じゃないよね?」


「ほ、本当ですよ!昨日色々手続きしてもらってるし、確認してもらえればわかることのはずです!」


周りの訝しげな視線に焦りまくって疑い深い警備員さんに必死に訴えていると、ポンと誰かに肩を叩かれる。

予期せぬ事態だったためにめちゃくちゃ驚いている私を宥めるように聞き覚えのある落ち着いた声が降って来た。







「和…お前何でここに」


「か、カミルー!!」


突如現れた救世主に今までの不安が消し飛び、思わず大きな声で叫んでしまう。

警備員さんを含む周囲の人がざわざわし出したのは気のせいではなさそうだ。

困惑してる様子のカミルだったが、私と警備員さんを見て状況を察したのかスッと間に割って入ってくる。


「クラウドさん、この子は俺の知り合いなんです。だから怪しい者じゃないですよ。俺が保証します」


「カミル様がそう仰られるのでしたら本当みたいですね!お嬢ちゃん、疑って悪かったよ」


「あ、いや、紛らわしくてすいませんした…」


ヘラっとしていた警備員さんはカミルを前にした瞬間にガラッと態度が変わったのを見てカミルの王子効果に感心しつつ、カミルには見知らぬ人ばかりの高校で同中の友達と会えたような安心感を得た私はすっかり落ち着いていた。

そんな私を何故か険しい顔をしたカミルが警備員さんに軽く会釈すると私の腕を引っ張って学校の中に入って行く。

王子様なだけあって周りの視線を一身に受けているのにソワソワする私と違って堂々と歩くカミルは突然、現在使われている様子のない部屋に入って行く。

呆然とする私を横目にドアに何か魔法をかけたらしい彼がこちらを振り向いた。



「お前…何でここにいるんだよ」


「…え?今日から通うからだけど…」


「どういうことだ…説明してくれ」


頭を抱えるカミルを見るに王様は知らせていないみたいだと悟る。

王様的にはカミルに知られたくなかったのかも知れないな…しかしこのままでは彼が可哀想だから包み隠さず話すけど。

昨日の出来事を話すと初めは神妙な顔をしていたカミルが、話し終える頃にはものすごい不機嫌そうな顔をしていた。

私はカミルと一緒の学校に通えてラッキーなんて気軽に思っていたが、カミルさんはそうでもない…!?


「親父の奴…余計なことしやがって」


「え?私が一緒の学校に通うのそんな嫌なの….」


「はぁ?そんなこと一言も言ってないだろ」


沈む私に意味がわからないと言いたげなカミルはドアにもたれかかりながら、深いため息をついた。


「…親父がお前をここに入れたのはお前のことを監視するためだよ…人質て線もある」


「えっ急に物騒。…めっちゃ和やかだったよ」


「急すぎだし、あまりに俺達に都合が良すぎるだろ」


言われてみれば確かにと思う。

やたら急だったし、罰になっていないどころかむしろ都合がいいし、思えばヤス先輩も誘われていたことを思い出す。

王様と会ってわずか2日ぐらいしか顔を合わせていないし、息子を任せられるような信用は到底得られるとは思えない。



「でも私監視されるほどの危険人物じゃないし…人質にもならないと思うけどなぁ〜」


不老不死以外は一般人だし、人質にと言われても逆にその不老不死で全く心配されなさそうだ。

私に対してはともかく王様はジルベルトさんに一目置いてるようではあったから、何か思惑はあれど危害は加えてこないだろう。



「うん!まぁ、仮にそうでも問題ないよ!多分!」


「…ホント能天気だな…お前」


「まぁまぁいいじゃない!何も起きてないし、気にしすぎだよ!」


呆れながらもカミルが心配してくれているのはわかるが、チャイムも鳴っていて廊下がザワザワと騒がしくなっていることだし、私はともかくカミルは早く授業に行かなければ遅刻してしまうだろう。

それに何処からともなく『坊っちゃまーっ!!』と聞き覚えのある悲痛な老人の声がするから私はカミルの肩を叩きながら早く外に出ようと促した。


「何かあったらすぐ知らせろよ、いいな?」


「心配性だな〜大丈夫だって!」


「……とりあえず昼休みにはまたここに集合な」


「おっ全く信用してないね!」



疑い深いカミルを執事姿のお爺さんに受け渡し、ついでに職員室に案内された私はマリオンと言うちょっと厳しそうな目つきをした眼鏡の女性教師に連れられて教室に連れて行かれた。

クラスは年齢ごとに分けられているそうで、当然カミルと一緒のクラスになる事はなく、見知らぬ同い年の少年少女の好奇の視線に晒されながらの自己紹介は緊張でいらん事まで言ってスベったのは忘れたい記憶だ。



「…それではメイナードさん、空いている席へ座りなさい」


心なしか少し冷たいマリオン先生の声に背中を押されながらも、半円形に配置された長机と椅子、映画館みたいに段差のついたまるで大学の講義室のような教室内に決まった席はないようなので何処に座るか悩む。



「はいは〜い!転校生ここ空いとるよ〜」


キョロキョロと教室内を見回す私を何とも気の抜けるような明るい声で手招く糸目の少年がバシバシと自分の隣の席を叩く。

転校生!転校生ー!とうるさい彼の隣の席に座ると糸目なのに好奇心に輝くキラキラした眼差しを隣から感じる。


「僕はテオ・ブラッドフォード。テオって気軽に呼んでくれたらええよぉ」


「あっ、ありがとう…私のことは好きに呼んでくれていいよ、テオ」


「ほんじゃ、ノドカって呼ばせてもらうからよろしゅう。わからないことがあれば僕が教えてあげるわぁ」


やたらフレンドリーでグイグイ距離を詰めてくるテオ・ブラッドフォードは栗色の柔らかそうな髪を緩く後ろで結んだおでこの広い穏やかそうな少年だ。

何を考えているかわからない糸目に柔和な笑みを浮かべている姿はジルベルトさんに似てちょっと胡散臭い。

さらに胡散臭い方言がこの異世界に置いて不自然極まりないが、彼いわく実家がある地方では昔から根付いている方言なんだとか。

聞けばこの学園に通う生徒はほぼ貴族で占められおり、テオもその1人で彼のブラッドフォード家は辺境伯に当たるそうだ。

今は学園の寮住まいだが、彼の実家はワルツさんの住む東の白い霧に包まれた土地の手前にあるそうで、ここからはだいぶ離れている。

他にも同じような貴族がいるみたいで、空を飛んでる時にもポツポツ屋敷やちょっとした村のようなこじんまりとした町を見たことはあった。ただリーゼンフェルトほど大きな町ではなかった印象だ。



「ほぁ〜…貴族御用達の学園だったかぁ」


イメージ的には金持ちだらけのマンモス校に場違いな一般人として入学してしまった気分である。

そのせいで急に周りの視線が色々な思惑を持っている気がしてソワソワし出す私に貴族らしさを感じさせないテオは気軽に声をかけてくる。



「授業は選択式やから興味があるもの選ぶとええよ。でも魔法自体初めてなんやろ?だったら初級講座がオススメや」


「…初級講座あるんだ。それにする」


「それだったら僕も受けてるやつが丁度ええと思うわぁ」


テオも受けていると言う魔力操作の初級講座は担任のマリオン先生が受け持ってるので、教室で別れてからの別の教室での再会は早かった。



貸し出されている教科書を読みながら先生の話を聞いていたが、うん…全く理解できない。

マリオン先生が実際に魔法陣の描かれた紙に手をかざして魔力を込めるとボッと火の玉が飛び出したが、その魔力を込めると言うポイントが全くわからない。


とりあえず体内の気というか、魔力と言うもの集めて体外に放出するイメージなんだとか、魔力の概念のない世で育った私には難しい要求だ。

私が戸惑っている間にも、周りの生徒は予め用意された魔法陣の描かれた紙に各々魔力を込めては小さな火の玉を発生させていた。


「ん〜ほいっと」


隣のテオもポンと魔法陣から火の玉を発生させるのに成功したようで、私も早くやらなければと焦ってくる。

少年マンガのように気合でこう、力む感じでいいのだろうか…もうよくわかんないし、その場のノリと勢いに任せようと私は魔法陣に手をかざした。








「はぁああーっ!!」


気合いいっぱいに全身の力を手に集めるようにしてそう叫んだ次の瞬間だった。

ボンっと大きな爆発音がしたと思ったら一瞬の熱気と衝撃の後に黒煙が視界を埋め尽くした。

煙たくなった教室内で咳込む声がそこら中に響いて、視界が晴れると教室にいた生徒と先生含む全員が黒くススだらけになって頭まで爆発してアフロになるギャグ漫画の1ページみたいなことになっていた。






「………メイナードさん、ちょっと先生とお話しをしましょうか」



もしかしなくても力加減を間違えた私が爆発を起こしたのかと悟る頃には先生の冷たい視線と呼び出しを食らって、魔法使いの道は険しいなと遠い目をしながらマリオン先生と教室を後にしたのだった。




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