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巻きぞえアリスの異世界冒険記。  作者: 冬野夏野
始まりの章
1/53

死にかけて異世界召喚


私は有栖ありす のどかごくごく普通の高校2年生だった。


この間まではの話だけどと、ホラーゲームに出てきそうな育ちすぎた食虫植物のような向日葵のような出で立ちで、意志を持って私を見下ろすその怪物を見て思う。







「えっと…この度は命を救っていただいたようで…あ…あり…ありが…とございま…す……」


大きな胴体をくねらせて近づき、やたらと刺々しい歯をカチカチ鳴らしながらフシュー…フシュー…と荒い息を顔面に吹きかけられてとても怖い。

私は今にも吹き出しそうな涙を堪えつつ、マナーモードのスマホのようにブルブル震えながらも笑みを崩さないように努めていた。


大丈夫…大丈夫…あの人がこの子は見た目はヤバイけど穏やかで心優しいって言ってたし…よく見たら特撮の怪獣でこんなん見たことあるし、大丈夫でしょ!


そんな風にしつこく自分に言い聞かせていると、私を観察していたらしいその向日葵怪獣は突然大きく口を開いた。

そこから長い長い舌がゆっくり向かって来てーーー








「あ゛っ…ファァアッーーーーーーーーーー!!!!」




胸から上をべろりと舐め上げられた瞬間に私の痩せ我慢は呆気なく砕け散り、盛大に腰を抜かしたのだった。














ー巻きぞえアリスの異世界冒険記ー















「あっははっ!良かったじゃないか。イリアンに気に入られたんだよ、君」


「良くないですよ!食べられるかと思って死ぬかと思いましたよ!びちゃびちゃでネトネトするし…貴重な制服が」


ベッタリと肌に張り付く濡れたシャツと髪の感触が気持ち悪くて私のテンションは下がりっぱなしなのに対し、本が沢山積まれた執務机を挟んだ対面には大笑いする胡散臭そうな男。

薄く紫がかった長い髪の間から覗く狐のような細い目をさらに細めてニッコリと微笑む様は胡散臭さ増し増しではあるが、一応命の恩人である。

この人は名をジルベルトと言って、この世界では結構名の知れた大魔法使いなのだと。

見た目はまぁ、整った顔立ちをしているのだが、後ろはボサボサの長い薄紫がかった髪を三つ編みで纏めていて、前髪は目が隠れるくらいには長いし、だらしなく着崩した黒いローブ姿はとても偉大な魔法使いには見えない。


しかしこの人のせいで私はこの世界に来てしまったんだよなー…何か信じられんわぁ…とか思っていたら、バシャァと突然冷や水を浴びる(物理)衝撃に心臓が止まりそうになった。


「あ゛ーっ!!冷たい!!本当に浴びてるー!」


「うるさいなぁ…さっきから下らないことで騒いで迷惑なんだけど」


突然頭上から降って来た大量の水を浴びてパニックになっていると、聞き覚えのある冷たい声がただでさえ水浸しで寒い身体をさらに恐怖で震わせる。

いつの間にか、執務机の左端に腰掛けている人物を目にしてヒィと情けない声が漏れた。


その人物は腕を組みさらに足も組み、とっても偉そうなのだがそんなポーズが許されてしまうくらいにとにかく外見が良かった。

彼の名はフォルカさんと言って、ジルベルトさんの使い魔らしく、すごい力を持った悪魔だとか…そして顔を合わせれば小姑のようにネチネチ嫌味を言ってくる人でとにかく性格が悪い。

モデルのようにすらりとした身体に、牧師さんのような黒いコートのボタンや袖口などに金の装飾をあしらったシンプルな服装がよく似合う。

灰色の少しくすんだ銀のクルクルフワフワウェーブのかかった髪を揺らし、髪と同じく灰色の銀の長いまつ毛で縁取った宝石のように綺麗な青い瞳は今は私を見下すために鋭い眼光を放っている。



「ヒェ…フォルカさん……でも、いきなり水かけるのは酷くないすか」


「あー?むしろ水で全部洗い流されて綺麗になったじゃない。良かったよね?」


ニッコリと綺麗に、しかし威圧的な微笑みに負けそうになる弱い心を奮い立たせて立ち向かう。


「でもほら!床まで水浸しで絨毯にまで染みてる!ジルベルトさんも困りますよね!?ねっ!」


「まぁ、そうだねぇ。掃除するリシェットが大変だからねぇ」


ご主人様であるジルベルトさんを仲間に引き入れたことで私は勝った!と確信し、ドヤ顔をキメる。

それを見たフォルカさんがとても不快そうに舌打ちをしたと思えばおもむろに背中の立派な黒い翼を大きく広げて一度ばさりと羽ばたいた、と思えば次の瞬間にはすさまじい突風が私を襲った。


「ヒェーーーーッ!!!」


めちゃくちゃヤバい台風の日のような突風にもかかわらず、不思議なことに私の身体が吹き飛ばされることはなく、悲鳴を上げ終わると同時に風も止んでいた。


「ほら、これで全部乾いたから問題ないでしょ」


彼の言う通り私は全身下着まですっかり乾いたし、先ほどの絨毯の染みもない。

しかし突然の出来事に私の心臓が直ぐに対応できるわけもなく、その場でまた腰を抜かしてしまう。

このジェットコースターみたいに唐突な魔法体験はフォルカさんに会う度に起こるイベントなのだが、未だに慣れない。

床にへたり込んでいた私を困ったような笑みを浮かべながら見ていたジルベルトさんがパチンと指を鳴らす。

すると私の身体が勝手にふわりと浮き上がり、ゆっくりと滑り込んできた椅子に委ねられた。

くっついて来たサイドテーブルの上でティーカップに紅茶が注がれ、美味しそうなケーキも出てくるおまけ付きだ。

こういったジルベルトさんが日常的に使う魔法は本当に便利で心に優しくて素直に憧れる。



「おぉおお!ありがとうございます!」


「いえいえ、それよりも本当元気になったよねぇ。和君」


「本当、一昨日まで死にかけだったくせに」


「あー…そう言えばその前の記憶が結構あいまいなんですよね」




私がこの世界に召喚される前の出来事といえば、その日は金曜日のバイト帰りでとても疲れていたことは覚えている。



そしていつもの帰路でいつもは目につかない怪しいボタンを見つけたのだ。









『見るからに怪しいボタンだ…』


早押しクイズに出てくるような赤いボタンだった。

看板や注意書きなんかも見当たらず、住宅街には似つかわしくないそれがまた気になって吸い寄せられるままに近づいてしまった。

こんな怪しいボタン押すとロクなことがないとはわかっていたが、抑えきれない好奇心と週末の疲れもあったのだろう私は気がついたらボタンを押していた。

その瞬間、足元にあった地面がぱかりと開き、反応する間もなく私は突然空いた穴の中に落ちていた。





『うわぁああああーーーーーーーっ!!!?』


わけもわからず混乱したままでも、確かに落ちていることを知らしめる浮遊感に絶えず悲鳴を上げていると真っ暗だった視界が晴れて、眩しい光に晒される。

そして気がついたら私は大空に投げ出されていた。

スカイダイビングなんて今まで体験したこともなく、空から地上を見下ろす景色に一瞬感動を覚えたものの、確実に近づいてくるその景色には恐怖しかなかった。




『ぎゃぁあああああーーーーーーっ!!!!!』


徐々に近づく緑色に泣きながらとにかく力の限り叫んで、衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った。











…て所までが私が見返せる記憶である。



「まー君普通の人間だし、空高くから落ちたら死ぬよねぇ」


「えっ?!私死んだんですか!?」


「まーギリギリ仮死状態だったよ。イリアンの花壇に突っ込んで良かったね」


「あーそれであのひま…イリアンさんが命の恩人だったんだ」


向日葵の怪物ことイリアンさんはこの家の前の花壇に咲いているのだが、その横に謎の大穴が空いていたなと思い、ようやく合点がいった。

私はあそこに突き刺さったのだと。


「最初見た時は、何が生えて来たのかと思ってびっくりしたねぇ」


「パンツ丸見えで見苦しかった」


その光景がありありと想像出来て私はせっかく一命をとりとめたものの、恥ずかしくて死にたくなった。


「まーそんな愉快な感じだったけど、わりと一刻を争う状況でもあって、通常の治癒魔法では治せないくらいには大変だったよ」


「全身複雑骨折に内蔵とか諸々ぐちゃぐちゃだったのに、あのゴキブリ並みの生命力だよね。お前」


あの柔らかい土の花壇に刺さっていたものの、何一つ助かる要素がなくて、本当に何で今こうして生きてられるのか不思議すぎる。

疑問に思っている私にジルベルトさんがトントンと自分の右手の甲を叩いている。同じ様に右手の甲を見ると薄っすらと翼をイメージしたようななんかカッコいい紋章がある。


「それ使い魔の契約の印なんだけど、和君はあの時意識なかったから仮契約として結ばせてもらったんだよ」


「仮契約?」


「そう。ほら俺不老不死なものだから、契約した使い魔にもその恩恵が行く仕組みになっててね。仮契約でも1週間もすれば元通りってわけ」


不老不死情報とかは初耳なのだが、そのおかげで私は助かったらしいからよしとしておこう。

しかし不老不死の恩恵とはすごいものだ…怪我ももう怖くないな!


「ちなみに仮契約だから受けられる恩恵は30%くらいだぞ」


フォルカさんの何気ない一言で新しい力にワクワクしていた気持ちも萎えた。

どうやら怪我した瞬間治るとか期待しないほうがよさそうだ。


「まぁ、何はともあれ助けていただいてありがとうございます!」


「いえいえ、元はと言えば俺の無差別召喚魔法のせいだしね」


そういえばあの怪しいボタンは召喚魔法らしく、そのせいで私はこの世界に手荒く召喚されたわけである。

何を考えてるのか知らないがこのジルベルトさん、どこから呼び寄せるとか明確な目的もなく、テキトーにあらゆる場所にトラップ召喚魔法を施している結構迷惑な大魔法使いだった。


「何でそんな無差別テロみたいなことしてるんすか…」


「いやー…一応人を探してるんだけどね。上手くいかないね。和君以外にも結構色んな人が来たよ」


「私みたいな人が他にも…!?」


「花壇に突き刺さったのは後にも先にもお前だけだぞ」


「まぁ、その人達にはちょっとした異世界旅行を楽しんでもらってから元の世界に帰したり、望んだ人にはこっちで暮らせるようにしたりしたよ。君はどっちがいい?」


確か一昨日、目を覚ました時も聞いた内容だ。

異世界召喚ものって一生帰れないか、一定期間異世界で奮闘しなきゃ帰れないものかと思っていたけど、こうもあっさり帰れると言われると何の緊張感もないな。

正直昨日までほぼベットの上というのもあり、異世界だ!という実感もないほどだ。

ティーカップに注がれたいい香りのする紅茶を味わいながら私は考えた。

考えたのはほぼ一瞬だった。

ティーカップをソーサーに置いて私は真面目な面持ちで答えた。


「家族や友達にも会いたいんで、お家に帰りたいです」


せっかくの異世界だから色々見てみたい気持ちもある。あるにはあるが、私の帰りを待つ家族や、またねと別れた友達と一生会えなくなるのは嫌だった。

見たいアニメや、まだ新刊待ちの気になる漫画だってあるのだ。未練がありすぎる。


「うん、承知したよ。ちゃんと元の世界に帰してあげるから安心していいよ」


「やったー!あ、でもちょっとくらい異世界探索したいかも…」


「うんうん、どっち道仮契約の期間内は帰してあげられないから、あと3日後の満了日まではここで過ごしてもらうよ」


「そんな携帯の契約期間みたいなシステムなんだ…でもちょっと遊べる!やったー!」


「はしゃいじゃってウザいなー。そんな浮かれてたらまた死ぬんじゃない?」


「ちょっと!あんま不吉なこと言わないでくださいよ!………え?そう簡単に死にませんよね?ね?」


「大丈夫だよ。この山の中には結界敷いてるし、危険な生物は入れなくなってるから」


フォルカさんの不穏な発言にビビりながら、ジルベルトさんのフォローで安堵しながらも、こうして私のわずか3日間の異世界使い魔(仮)ライフが幕を開けたのだった。





初めて小説投稿しました。

わかりにくい文章で読み辛いかもしれませんが、

暇つぶしにでも読んで頂ければ幸いです。

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