赤い目
現在、「孤島の主(仮)」ストック追加中です。
過去の遺物ですが(苦笑)、その間のお目汚しにどうぞ。
<……覚えてる?>
誰かが耳元で囁いている。
でも、自分以外の他に存在する生物は存在しない。
重苦しい空気。
このまま、目を開けずに放っておいた方が良さそうだ。
<ず……いん……ね……は……>
無視を決め込んで放っておくと、その声はだんだんと遠くなっていった。
途切れ途切れになりぼんやりとしてきて、聞き取れない。
まぁ、その方が都合よいのだけど。
完全に消え去り、ようやく落ち着いて眠りにつけた。
頭が重い……。
昨夜の怪奇現象のせいだ。
一体何だったのだろう。
ふと見ると、白い毛らしきものが数本落ちていた。
気味が悪いので外に投げ落とす。
これでよし。
支度も整ったし会社に行こう……。
怪奇現象らしきものには、全く興味がないので対して動揺もしてないが。
リアルすぎるあの声が妙に気になる。
矛盾してる……?
あーあ、なんかムカつくな。
目の前にペットショップが飛び込んでくる。
会社……さぼってしまえ。
静かなところで仮病電話をかけ、さっきのペットショップに足を踏み入れた。
動物臭さが鼻をつく。
別に気持ち悪いとは思わないけど、臭いものは臭い。
あ。うさぎ……。
昔、飼ってたうさぎとおんなじ種類。
どうしていなくなったんだっけ。覚えてないし。
狭い店内。
15分ほどで見終わってしまう。
仕方なくペットショップを出てその辺をふらつき、部屋に戻った。
あくびが出る。
明らかに睡眠不足だ。
今日は、のんびり寝るとしよう……。
心地よいうたた寝状態で転がっていると、同じ声が再び耳元で聞こえてくる。
<ずるいんだね。君は>
まただ。
しかも、閉じている瞼の裏側に赤い点が二つ浮かび上がってくる。
それはいきなり大きくなり強烈に発光した。
うわぁっ!!
たまらず飛び起きて、首を振った。
そして、ゆっくりと視線を動かす。
何かに見つめられている。
そんな気配を感じて。
=====
<やっと見てくれた>
そこにいたのは、白くて赤い目のうさぎ。
しかも透き通っている。
<忘れたんだ。僕は君のせいで死んだのに……>
えっ?
もしかして、昔に飼ってたうさぎ!?
<そうだよ。君は僕に名前も付けてくれなかったんだ>
うさぎはそう言って、もう一度赤い目をぼわんと大きくして顔の近くまで寄せてくる。
思わず後ずさり、首を振った。
何で自分のせいなんだ!
<ひどいね。ずるいね。僕に八つ当たりして、蹴ってぶって、いじめて>
知らない。覚えてない!
<そして最後に僕を投げて、その上、二階から落としたんだ。僕はねそのせいで死んだんだ>
覚えてない! 何で今さら!
<知ってる? 突発的な事故で死んだらさ。自分が誰で何で死んだか、何でさ迷ってるかって把握できないんだよ。でもね、僕は思い出せたんだ。さ迷ってる時にたまたま君のいる部屋に入ってね、思い出せたんだ>
……そんな事言われても知るか……。
<僕はね……。君に復讐しにきたんだよ。僕がどんなに辛くて苦しくて悲しかったか思い知ってもらいたいんだ。僕にしてきた事思い出して………後悔しろ!>
うさぎがそう言うと再び赤い目が大きくなって、そして自分に覆いかぶさった。
最後に、<ザマーミロ>と一言呟いて。
気が付いて、何かの違和感を感じ、鏡の前に立つ。
視界も違う。移動の仕方も。
鏡に映った自分を見て愕然とする。
……うさぎだ……。
ここはどこだ?
見慣れた風景ではない。でも、懐かしい。
だけど。
どうしてうさぎなんだよ!?
どうしてこんな事にならなきゃいけない!?
『おい! うさぎ!』
不意に現れたのは、小学生の自分。
ちょっと待て! こっちが本物……ッ!
そう思うよりも早く、もう一人の自分は、自分を蹴飛ばした。
何するんだよ!
『かぁちゃんに怒られちゃったじゃないか! おまえが食べ散らかすからだろ!』
少年は、そう怒鳴って、今度は手のひらで叩いた。
=====
そんな日々が続き、よれよれになっていた。
元の姿に戻る術も分からないまま。
『くそ! ムカつくなぁ!』
今度は投げた。
もう、どうでもいい気分にすらなってくる。
それは突然の事だった。
ずかずかと少年は自分に近づき、掴みあげると壁に投げつけた。
思わず振り返り少年を見ると、涙を目に溜めている。
そんな顔したって……。
弱った体では抵抗する事も出来ない。
少年は、窓を開け放った。
そして自分を掴み、窓際に持ってきて……。
もしかして……。おいっ! ちょっと待てっ!
少年は地面に叩き付けるように、自分を放り投げた……。
うわああああっ!
その瞬間、フラッシュバックするように、昔の事が思い浮かんだ。
そうだ……。うさぎを飼い始めたのは……寂しかったからだ。
親が離婚するしないでもめていて……。
その八つ当たりをうさぎにしていたんだ……。
……本当は……。
<やっと思い出してくれたんだね>
目を開けると、いつもの光景。
ごめんな……。本当は、可愛くて可愛くて仕方なかったんだ……。
それなのに他にぶつける所を知らなくて……。
<ふぅん。それくらいは分かってたよ。でも……、それよりも、僕は寂しかったよ。苦しかったよ>
うわああっ。
<どんなに後悔したって、僕は許さない。泣いてもダメだよ。遅いよ。だって……君ももう……>
・
・
・
<……死んでるんだからさ……クスクス>
このジャンルは何だろう?
一応ホラー?
ってなわけでホラーにしときました。