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8 新しい家族

 

「おい、ハル」


 定休日、買い出しもやることもなかったので普段出来ないテラスの大掃除をしていると、聞き慣れた声が背中を向けている方から聞こえてきた。

 バッと振り返ると、そこにいたのはやはりアレン様。


「え、アレン様。今日は定休日ですけど……」


 護衛の1人もつけないでどうしたんですか?と問いかけると、彼は無言で私に向けて何かを差し出してきた。一見するとそれはただの白い布が敷き詰められた籠なのだが、籠の中心で小さくて真っ白いものがモゾモゾと動いていることに気が付く。

 え、何だろうこれ……。なんか白くて小さくてふわふわした物体がいるのはわかるけど、今のとこ何かまでは理解できない。

 動くってことは生き物ってことだよね……。でも、どう見ても白い毛玉にしか見えないよ。……なんでアレン様はこれを私に差し出してきたんだろう。

 もしや、この間淹れた紅茶が美味しくなかったから、それの仕返しなのではないのだろうかという考えが脳裏を過る。


「あ、アレン様、これなんですか?」

「宮廷に紛れ込んでいたんだ。俺も外道じゃないから殺すのも忍びないし、ハル、お前が飼え」


 じゃあ、それだけだと言い逃げするアレン様。え、飼えって言われてもどういうことだ。ペットにでもしろってことなのかな……?

 そもそも、何の動物なのかくらい教えてくれてもよかったのではないだろうか。


「とりあえず、何か確認しないと……」


 か、噛んだり引っ掻いたりしないよね……?

 そう思いながら、押し付けられた籠をテラステーブルに置き、恐る恐る謎の白い毛玉へと手を伸ばす。

 フワッとまるでシルクのような毛で、気持ちいい手触りだ。ゆっくり持ち上げてみると、ようやくそれの顔を拝見できる。

 そこには、金と水色の綺麗な瞳が埋め込まれていた。ピコピコッと先端が丸くなっている長い耳が左右に動き、プキュウッと可愛らしい鳴き声が発せられた。


「え、わっ……!わあああっ!」


 その子を腕の中に収めて、バッと入り口を開く。勢いよく開けたからか、来客用の鈴が激しい音を奏でた。

 試作品を作っていたアキ兄と、簡易椅子に座りぐうたらしているナツ姉が何事だというような表情を浮かべながら、厨房から顔を出す。


「どうしたの、ハル」

「み、見て!」


 先程のふわふわもこもこをナツ姉達に見せる。


「…………ラビラビンだな」

「わっ!ちっちゃ!赤ちゃんかなぁ?しかもオッドアイじゃない。このラビラビンどうしたの?」


 聞かれると思っていたので、先程アレン様が宮廷に忍び込んでいて殺したくないからハルが飼えって言って渡してきたと伝えると、ナツ姉はニヤッと笑みを浮かべた。


「アレン様も素直じゃないねー」

「…………そうだな」

「それで、アキ兄…………」


 おずおずと、喫茶フルールの責任者であるアキ兄に声をかける。アキ兄の許可がなければ、このラビラビンを飼うことすら出来ない。

 この前のシュバルラビンは怪我が治るまでっていう条件で保護していただけだから、彼の許可を得ることは出来たけど……、今回は飼うと明言してしまっているので、許可がもらえるかどうか難しいところ。

 なんせ、うちはケーキ屋兼喫茶店。普通の雑貨屋とかならまだしも、食品というデリケートな物を扱っているのだ。ラビラビンに限らず、猫や犬などをお店なんかで飼ったら異物混入の危険性が上がってしまう。


「あ、アキ兄……ダメ……?」

「……………はぁっ。条件は2つ、俺の許可なく厨房内には入れないこと、ハルが責任を持って世話をすること」


 以上が守れないならそいつは王子に返却する、守れるな?

 そう聞いてくるアキ兄は、穏やかに笑っていた。こくこくと首を縦に振る。


「よかったね、ハル」

「うんっ……!あ、そうだ、名前……」


 アキ兄の許可が下りて喜んでいるのはいいけど、これから家族になるんだし名前を付けてあげないとね。

 私達がハルとナツとアキだから……近しい名前がいいな。そうなると、冬に関係する物がいい。この子の毛は、真っ白で触れると溶けそうなくらいふわふわしてて柔らかいし……、……うん、決まった。


「……ユキ、この子の名前はユキ」

「いいじゃない、可愛い名前」


 どう?とラビラビンに問いかけると、キュッと嬉しそうに鳴き、私の手にスリスリと頬を擦り寄せてきた。どうやら、この名前を気に入ってくれたらしい。

 これで、この子は私達の新しい家族だ。


「これからよろしくね、ユキちゃん」


 ────────────────────


 新しい家族を迎えた次の日。

 ユキちゃんには、シュバルラビンの時と同じように営業時間中はカウンターの側にある大きめの籠の中に鎮座してもらうことにした。

 これが意外と大盛況。シュバルラビンさんの時とは違い、可愛いという声が多数上がった。

 ユキちゃんは人懐っこい性格らしく、お客さんが来るとキュッと可愛い声を上げるし、撫でようと手を差し出してきたお客さん全てにスリスリと頬擦りしていた。


「ユキちゃんってば、接客上手だね」


 よしよしと褒めながら頭を撫でると、ユキちゃんはえっへん!というような仕草をする。

 ユキちゃんと戯れていると、ドーマさんがおずおずといった様子でこちらに向かって来た。


「ドーマさん、どうされました?」

「あ、あのさ、ハルちゃん……」


 その……っと、凄く言いにくそうにチラリとユキちゃんの方を見るドーマさん。

 ここで、ドーマさんがユキちゃんに対して何をしたいかを察する。

 そう言えばドーマさんって可愛いもの大好きなリザードマンさんだったなぁ、と思い出しながらクスリと小さく笑い、ユキちゃんを抱き上げると彼に向けて差し出した。


「抱っこしますか?」


 そう聞くと、ドーマさんは少しあわあわしながら、抱っこしたいけど……俺が抱っこしても大丈夫だろうか……と不安そうな声を上げる。


「大丈夫ですよ、ユキちゃんはちゃんとドーマさんが優しいことを理解してますから」


 はいっと再度ユキちゃんを差し出す。

 ドーマさんは恐る恐るユキちゃんを受け取ると、パアアアアッと効果音が付きそうな笑みを浮かべていた。

 ユキちゃんも、ドーマさんのことを気に入ったのかスリスリとその固そうな手のひらに頬を擦り寄せている。


「ふ、ふわふわっ……!可愛いなっ……!」

「ドーマさん。そろそろユキちゃんご飯の時間なんですけど」


 ご飯上げてみますか?

 そう聞くと、首がもげるのではないかという勢いで頷かれた。一度厨房に引っ込み、30分前に冷蔵庫から取り出して常温放置していたユキちゃん用のご飯を持ってくる。


「これがユキちゃんのご飯です」


 ありがとうとお礼を言いながらリンゴとセロリの乗ったお皿を受け取ると、ユキちゃんの口元にリンゴを差し出すドーマさん。その手は少し震えている。

 ユキちゃんは、躊躇いなくカプッとリンゴに噛り付いた。シャリシャリシャリッと音を立てながらリンゴをモグモグする。

 ドーマさんはテンションがだいぶ上がっているのか、ベッタンベッタンと尻尾を床に叩きつけながら、食べてくれたよ!っと嬉しそうに報告してくれる。

 すると、ドーマさんは一度ユキちゃんへご飯を上げるのを止めると、何か言いたそうに私へと向き直った。


「あ、あのさ、ハルちゃん。時々でいいから、ユキちゃんと遊んでもいい……かな……」

「時々と言わず、いつでも大丈夫ですよ」


 ねー?とユキちゃんに確認を取ると、キュッ!と鳴きながらコクコクと頷いてくれる。


「……!ありがとう、ハルちゃん!ユキちゃん!」


 フルールに来る楽しみがまた1つ増えたな、と喜んでくれるドーマさん。

 私達の癒しにもなるし、お客さんの反応も凄くいいし、ユキちゃんをくれたアレン様に感謝だね。………今度来た時にお礼言っておこう。

 そう考えながら、カランカランと音を鳴らして開いた扉へ向けて、いらっしゃいませと言葉を投げた。


用語集

【異物混入】飲食業界にとって、お馴染みの言葉であり、注意しなくてはならないこと。

異物の種類は

・動物性異物(虫、髪の毛、排泄物等)

・植物性異物(紙、カビ、木片等)

・鉱物性異物(金属片、ガラス等)

の3種類にわかれている。


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