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4 そもそもの始まり

 

 ─────────半年前


「アキ兄、フルーツ何がいる?」

「…………イチゴ、後オレンジ」


 ヘタと皮、剥いておいてと言われたのでイチゴとオレンジの表面を水で洗い流し、ペティナイフを手に取ってシュッシュッと手早くヘタと皮を切り落としていく。

 途端に、カタカタカタッとボウルが音を立てながら小刻みに動いているのを感じた。それは私だけではなくアキ兄やナツ姉も気付いたらしい、手が止まっていた。

 次の瞬間、ゴゴゴッとすごい音が鳴り始める。流石に危ないと思い、厨房内の安全な場所に移動して収まるのを待った。約1分後、落ち着いたらしい、ようやく動けるようになる。


「大きかったね、凄い音したし……」

「ちょっと、怖かった……」

「……………まだ大きいのがきそうだ、念のため避難所に行っておこうか」


 スマホで避難場所までの地図を出そうとするのだが、電波が届いておらず圏外になっていることに気がつく。


「あれ、圏外……」

「…………俺のも」

「私のも」


 3人とも圏外というのに不審を抱き、とりあえず同じように避難しようとしている人と一緒に行こうと思い外に出たら、見慣れたコンクリートの道路やビルの風景ではなく、ピンクと緑のいかにも春ですって感じの景色が広がっていた。近くに小川が流れていて、凄く穏やかな景色。

 思わず、何度も瞬きをした後、自分の頬をつねってみた。少し痛い。……ってことは、夢ではない。


「何、これ」

「え、どこ、ここ!」


 ナツ姉もアキ兄もこの景色に戸惑いを覚える。

 すると、少し甲高い女の子の声が聞こえてきた。


「あれ?なんか違うもの呼んじゃった!!」


 声が聞こえた方に視線を向けると、どう見ても魔女風の格好をした中学生くらいの女の子が何やら焦ったような表情を浮かべている。


「うわああぁ!どうしよ!間違えて変なの召喚しちゃったよ!」


 とりあえず、状況がよくわかってないが、召喚がどうのこうのと言っているので彼女が何か関わっているというのはわかった。


「……あ、あのー」


 恐る恐る、女の子に声をかけてみる。

 彼女はこちらの存在に気が付いてくれたらしい。肩を震わせながら、表情を青ざめさせていた。逃げ出そうとするので、慌てて3人がかりでとっ捕まえる。


「いやー!私は食べても美味しくないですぅー!!」

「食べたりしないから、ちょっとお話を伺ってもいいかな?」


 そう聞くと、彼女はコクリと少し泣きそうな表情を浮かべた。よかった、こっちの言葉も通じているみたいだ。テラス席に座ってもらって、話をすることにする。


「えっと、あなたのお名前は?」

「ぶ、ブルメールって言います……」


 ブルメールと名乗る女の子に向けて、いくつか質問をする。

 まずここは一体どこなのかという質問をしたら、ローゼブルーメ王国のプフラオメという街外れらしい。次に、なぜ私達はここにいるのかと尋ねたら、ブルメールちゃんが暇潰しで魔獣や神獣を召喚するための練習をしていたらしい。だが、召喚時に何をどう間違えたのかはわからないけど、私達と店である喫茶フルールがここに召喚されたということだそうだ。

 ……うん、つまり私達はこの子の暇潰しの練習魔法らしきもので異世界に呼び出されたということが理解できたよ。


「ま、まさか……言葉の通じる人間とこんな大きなお店を召喚するとは思ってなかったんです……」

「でも、召喚できるってことは元の場所に戻す方法とかあるんじゃないの?」


 ナツ姉のいう通り、召喚出来るんだったら戻す方法だってあるだろう。それをやってもらえれば、帰れるだろうと思っていた。とりあえず、ブルメールちゃんに私達のいた世界に帰してほしいなーとお願いするのだが、ブルメールちゃんが凄く言いにくそうに。


「ご、ごめんなさいっ、その、戻す方法、ないですっ……!!」


 と、言った。ピキッと私達の動きが止まる。

 理由を聞いてみたところ、ブルメールちゃん曰く、自分は魔法の知識はあっても使いこなせない未熟な魔法使いだし、私達のいた世界がどんな場所かわからない上に、そもそもブルメールちゃんからしてみれば日本は異世界なので異世界に戻す方法などないそうだ。


「………ということは、私達」

「い、一生、ここで暮らしてもらうことになります……」


 本当にごめんなさい!!と、土下座される。そうかー、もう友達と会えないのか……。はぁっとため息を吐く。でも、嘆いても仕方ないか……、この子だって悪気ないんだし。

 それに、1人で異世界に飛ばされたわけじゃなく、ナツ姉やアキ兄も一緒だから何とかなるだろう。


「でも、今日の分のケーキ全部パァだね」

「…………そうだな。こんな状況で店なんて出来ない」

「それより、これからどうするか考えないとね」


 ここで店をするにしても、真っ先に材料の調達方法を考えないといけないよね。あと、通貨や言語。日本円なんて使えないだろうし、言葉は通じるみたいだけど文字が読めるとは限らないしね。


「ブルメールちゃん、責任って言ったらなんだけど……、私達に色々教えてくれるかな?」

「う、うん!もちろんです!」


 出来ることならなんでもします!って、言ってくれるブルメールちゃんからグウゥッと音が聞こえてきた。恥ずかしそうにお腹を抑えている。3人でプッと吹き出してしまった。


「ケーキ食べる?どうせ売れないし」

「………け、ケーキって、何です?」


 ブルメールちゃんが、きょとんとした表情を浮かべながら首を傾げる。


「え、知らない?食べ物なんだけど、お菓子とか食べたことない?」

「そもそも、お菓子って……?」


 この世界で生きてるけど、聞いたことない……。

 そういったブルメールちゃんに驚いてしまう。え、もしかしてこの世界、お菓子って概念がないのかな?それはそれで、店的には困っちゃうかも……。いや、逆に考えよう。お菓子って概念がないということは、この世界にはお菓子屋さんがないということ。つまり、ライバル店がないってことだ。

 とりあえず、今確かめる必要があるのはこの世界の人たちに、ケーキが口に合うかどうかだ。


「……食べてみる?」

「う、うん」


 店内に引っ込んで、ショーケースで保管していたショートケーキを取り出す。やっぱり電気は来ていないらしい、少しぬるくなっていた。うーん、異世界とかって電気なんてないよね……。でも、雷魔法とかありそうだし、後でブルメールちゃんに相談してみよう。

 そう考えながら、グラスにお茶を注いで、ショートケーキと共にブルメールちゃんの目の前に差し出す。


「え、こんなに可愛いのが食べ物!?」

「そうだよ、どうぞ召し上がれ」


 恐る恐る、フォークを持ちケーキに突き刺す。フワフワしてる!と驚きながらも、口の中に運んでくれた。ブルメールちゃんの表情がキラキラしている。


「な、何これ!!美味しい!!」

「喜んでもらえてよかったー」


 口にあったようで何よりだ。やっぱり、喜んで食べてもらえると作りがいもあるね。


「な、何で出来てるの!?」

「えーっと、薄力粉と砂糖と卵と牛乳、あと生クリームにイチゴ」


 え、この世界に普通にあるものでこれが出来てるの!?と言ったので、安心する。

 よかった、材料自体はこの世界にも存在していた……。何とか店はやっていけそうだ。


 ────────────────────


 ………と、そこでふと、意識が浮上した。


「………夢、か」


 懐かしい夢見ちゃったなぁ……。懐かしいって言っても、半年前の出来事だけど。

 ブルメールちゃんのせいでもあるけど、彼女のお陰で不自由なくここでケーキ屋兼喫茶店が出来てる。この世界の文字も教えてもらったし、ケーキなどの材料の仕入先まで見つけてくれたし、電気やガスや水道もブルメールちゃんが妖精さんや知り合いの神様に頭を下げて、なんとか使えるようにしてくれたらしいし。どうやって使えるようにしたとかは不明だし詳しくは知らないけど、使えてるのだから何の問題もない。気にしたら負けだ。


 ところで、今は何時だろうかと目覚まし時計を確認する。短針が7と8の間を示していた。


「え、はっ」


 ガバッと起き上がり、とりあえずシャツや下着を手に持ってパジャマのままで部屋を飛び出した。1階へ繋がる階段を駆け下り、目の前にある扉を勢いよく開けた。

 コック服を身に纏ったナツ姉とアキ兄がこちらに視線を向ける。


「あ、ようやく起きてきた。おはよー、ハル」

「な、何で起こしてくれなかったの!?」

「…………よく寝てたし」

「もー!」


 急いで更衣室の中に入って、コック服へ着替えるなどの身支度をする。そして、厨房へ戻り手洗いを済ませて、開店までの約2時間でケーキを作り始めた。



用語集

【ペティナイフ】小型の包丁。野菜や果物の皮を剥くために使う。

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