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1 喫茶フルール

 

 カチャカチャと、泡立て器と深めのガラスボウルの擦れ合う音が聞こえる。カランッと、生クリームを冷やすために用意された氷が音を立てた。

 白くツヤがあり、泡立て器を持ち上げるとピンッとツノが立つ。緩くない、いい感じの固さだ。

 味見のために指につけて舐めてみると、程よい甘さが口の中に広がった。


「うん、ギューテのミルクで作った生クリームは日本の生クリームよりも泡立ちがいいね」


 もしも、日本に帰ることができるのであれば、この生クリームを持って帰りたい。あの世界に帰るなんて不可能だろうけど。

 そう考えながら、出来た生クリームの半分を絞り袋の中へと入れて、パレットナイフを手に持つと既にスライスされているスポンジに生クリームを塗り、フルーツを間に挟んでいく。

 再度、パレットナイフに生クリームを付けると、スポンジの表面にクリームを塗り始めた。スポンジの全面が生クリームに染まったのを確認すると、パレットナイフを手放し、絞り袋を手に取る。

 キュッキュッと、スポンジの周りを縁取るようにクリームを絞っていく。それが終わると、次はイチゴに手を付けた。

 1つ1つ丁寧にヘタを取られたイチゴを綺麗に並べていく。


「よし、出来た」


 イチゴたっぷりショートケーキ。

 それをカステラナイフで8等分にカットし、透明なケーキフィルムを巻いていく。アルミの上に乗せると、トレーの上にセットして、ショーケースの中に入れた。


「ハル、これも入れてー!」

「………ハル、これも」


 トレーに乗せられた、チョコレートケーキとチーズタルトを差し出される。はーいと返事しながら、トレーを受け取り、私が作ったイチゴショートケーキの隣に並べていく。

 ショーケースの中には10種類のケーキ。うん、今日も美味しそう。

 そうだ、今のうちに茶葉の確認もしておこう。瓶の中に詰められた紅茶の葉の残量を確認する。補充するほど減ってないし、大丈夫そうだ。

 カチャカチャッという音が厨房から聞こえてきた。アキ兄が次のケーキを作り始めているのだろう。後で、フルーツを切っておかないとなー、と考えながら振り返ると棚が目に入った。あ、しまった。棚に焼き菓子置かないと。


「ナツ姉、焼き菓子はー?」

「後は、袋詰めだけー!ハルやってくれるー?」

「はーい」


 食器棚の下にある引き出しを開いて、ラッピング用品を取り出す。それを持って作業台に向かった。ばんじゅうの中に入れられたクッキーやカップケーキを透明な袋の中に詰めて、キュッと開け口をリボンで結ぶ。

 クッキーは大きな丸い籠の中へ入れると、壁に設置されている棚へ。カップケーキは大きな四角い籠に並べると、クッキーの下の段へと並べた。マドレーヌやフィナンシェは、昨日の分がまだ残っているのでそれを並べる。

 そして、この世界の文字と通貨が書かれた値札を商品の前に設置する。


 とりあえず、商品を並べ終えるとチラリと壁にかかってる時計を見る。既に9時半を回っていた。


「……ハル、ナツ」


 厨房から顔を出して、クイッと厨房の奥にある2つの扉の内1つを指差すアキ兄。


「もうそんな時間?わかった」


 ハル、着替えに行くよー、と呼ばれたのでナツ姉と一緒に奥の扉に引っ込んだ。簡易的な休憩室も兼ねている更衣室に入り、自分の名前が入ったロッカーを開ける。

 ナツ姉と一緒に、今着ているコック服を全て脱ぐと、フワフワスカートのウェイトレス服を身に付け、エプロンと三角巾頭を付けて鏡を見る。

 よし、乱れてるところもないし大丈夫だ。


「ハル、準備オッケー?」

「うん」


 ナツ姉と共に更衣室を飛び出し、店内の清掃を始める。清掃が終わり、再度時計を見ると開店時間5分前を示していた。そろそろお店を開けなくてはいけない時間だ。


 とりあえず、窓から外を見る。外には、既に数人が店の前に列を作っている。この店が開店するのを待っているのだ。


「わー、今日も朝から凄い人だね」

「仕方ないよ。この世界にお菓子を扱ってる喫茶なんて、ないんだもん」


 それを初めて聞いた時はすごく驚いたけど、この世界にも材料があったお陰で、今こうして喫茶営業出来ているわけだし。


「ほら、ナツ姉、お店開けよう?」

「そうだね!」


 入り口の鍵を開け、外に出る。外に出たと同時に、サアアッと春を思わせる風が頬をかすめる。とても気持ちがいい。今日もいい天気だ。


「ハルちゃーん!ナツちゃーん!おはよー!」

「はい、おはようございます!」


 元気よく挨拶をしてくれる、リザードマンという種族の常連さんであるリーザさん。毎日朝早くから喫茶店が開くまで並んで待ってくれる、とっても気さくな人だ。


「今日はさー!友達連れてきたんだよー!」


 ここのケーキとかいうやつすっごく美味しいし、紅茶も最高なんだよ!っと、友達らしきリザードマンさんに自慢するリーザさん。

 なんだろう、目の前で褒められるの凄い嬉しいけど恥ずかしいかも。


「アキくん元気かー?」


 他の常連さんから、アキ兄を心配する声が上がる。ナツ姉が、元気元気!今も奥で楽しそうにケーキ作ってるよー!と返事を返していた。

 アキ兄はケーキ作っている時が1番幸せそうだからね。


「ナツちゃーん!今日のオススメケーキはー?」

「うーん、どれも美味しいけど……、今日はハル特性!ラズベリームースケーキ!!」

「おー!美味しそー!」

「開店しますよー」


 お客様との会話を終えて、テラス席を拭くと、店の看板を入り口の横と入り口前にある階段の横に立てた。

 そして、入り口にかけてある掛け札をCloseからOpenに変えて、扉を開く。

 コホンと咳払いをし、ナツ姉と共に入り口前に立つと声を揃えた。


「ようこそ!喫茶フルールへ!」


歌月です。

パティシエとお菓子がメインなので、専門用語が時々出てきます。

その場合、後書きに専門用語集みたいなのを書いていこうかなとか思ってます。


相変わらず、設定ガバガバ・文章力皆無ですが、許してください。

皆さまの暇つぶし程度に読んでいただけると幸いです。

それでは、『ようこそ、喫茶フルールへ』をよろしくお願いします。



用語集

【ギューテ】この世界の乳牛。


【パレットナイフ】スポンジなどに、生クリームを塗るための道具。決して、美術道具の方ではない。


【カステラナイフ】カステラやスポンジなどを切るための包丁。長い。


【ばんじゅう】主にお菓子やパンを入れて運んだり、一時的に保存したり、重ねておいたりする箱みたいなもの。


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