裏の世界
連載してみることにしました。
1話は短編と同じですが、2話からは真面目に書いてみます!
書き溜めなし!
第二次日中戦争及び第三次非核世界大戦が勃発してから十年、日本は武力大国として世界に名だたる一国の一つとなっていた。
日中戦争による敗北により、日米同盟が解消された。しかし、結果として武力革新が興ることとなり、日本は東アジアを中心に、世界中へ軍隊を派遣する勝利の請負人となったのである。
そんな日本ではあるが、国内には数多の問題が残ったままであった。少子高齢化による更なる人口減少、経済格差の拡大化、就職難、労働者不足、財閥による武力保持など数え切れない程の問題を抱えている。
そして、2040年。時の人である大日本国八代目大統領、古泉康夫によって新たな日本を迎えようとしていた。
◇
大都市東京にサイレンが鳴り響く。東京は、第二次日中戦争勃発以前の日本と比べ、かなりの治安悪化を辿っている。パトカーのサイレンが鳴り止まない日は存在しない。ちらりと警官を見ると、無線で連絡を取っている様子であった。インターネットの拡大により、そこら中に無線LANが飛んでいるような時代に、旧式の通信手段を持つあたり、やはりこの国はどこかおかしい。あんなもの、すぐにジャックされて警備体制が犯罪者にバレるだけだ。
ちょっと腕に自信があるだけのハッカー一人で、旧式の通信手段は全てジャックされても何もおかしくない。そんな時代を迎えたにも関わらず、未だに時代錯誤の無線を使っているのだ。
やはり、この国は犯罪者にとって生きやすい。
警察は、巨大財閥の顔色を伺いながらの捜査しかできず、民間人は金を持っていなければ何もしない、相手にもされない。そう、例え犯罪者から危害を加えられようとも、金を持っていない彼らはただの家畜。いや、家畜はまだ保護して貰えるな。ならばただの塵である。
なぜ、こんな国になってしまったのか。基本的人権すら重んじられていないような国になってしまった原因は、一体どこにあるのだろうか。
十年前の第三次非核世界大戦からか?もっと前の第二次日中戦争からか?いや、違う。ゆとり世代と呼ばれた者たちが、権力を握ってからだ。
日本は、第二次日中戦争において敗北した。言い逃れのできない負け方であった。しかし、政治家は責任の押し付け合い、老い先短い老人たちは若者を弱者呼ばわり。そう、全てが最悪であった。結果、若者によるクーデターが発生。ネットを駆使したその行動は、世界中の指導者に緊張を走らせ、たった数週間で政権を掌握してしまった。また、自衛隊や企業が彼らを否定しなかったのも大きかった。自分たちは関与していない、中立の立場だ。そう言って傍観を続けた。よって、日本政府は警察のみで戦わざるを得なくなり、若者たちはロシア及び中国の支援を受けながら貧弱な日本政府を打倒し、軍事大国大日本国を誕生させた。
「まあ、その先がこんな犯罪者大国っていうんだから、情けない話だよな。都内のビル数カ所を爆破して回ってる犯罪者さん?」
視線の先には、黒のコートを着ている集団。いかにも犯罪者ですと言っているような変装をしている者たちがいた。
「なんなんだお前は!」
まるで三流の敵が言い放つ言葉を話す彼を見て、俺は思わず笑ってしまう。まさか現実でこんな言葉を言う馬鹿がいるとは。そもそも犯罪者だらけって事は、犯罪者の特徴なんかしてたら自分は犯罪者ですよと申告しているようなものだ。そんな事にも気付かないから、俺に見つかってしまうわけだが。
「あー、まあ、なんて言えば良いのかね?日本政府が抱え込んでる対特A級犯罪者対処秘密組織とでも言うのかね?」
何一つ嘘をつかずにバラす。そもそも、うちの組織はその筋においては特A級の者たちばかり。普通はそれっぽい名前を聞いたり、それっぽい人物がいたら尻尾巻いて逃げるのが正解だ。事実、目の前にいる集団の一つ前の事件では、上手く逃げられてしまった。
「ふっ、そんな組織があるなら俺たちの上から指示がある筈だ。しかし、俺たちは何も指示を受けてない。つまりお前のハッタリだろう?悪いが、会話を聞かれたかもしれない以上、生かして帰すわけにはいかないな」
リーダー格がそう言うと、全員が武器を取り出しはじめた。
「あれ、もしかしてハッタリってバレちゃった?やだなぁ、俺はこういうの苦手なんだけどなぁ……手を上げるから痛い事しないでね?」
そう言って、胸ポケットからリボルバーを彼らの前に投げ捨てる。年代物であり、それ一つで数千万円とする貴重なものだが、背に腹は変えられない。右手を上に上げながら、彼らに背中を見せる。
「こんな骨董品を持って自衛ができるとでも?どうやら裏の世界を知らないらしいな。今時、こんなおもちゃじゃ自分の命一つ守れやしねぇぞ!なあ!お前ら!」
彼らはリーダー格の言葉の後、「そうだな!」と同意して俺を笑い飛ばしてきた。馬鹿言ってんじゃねぇ、リボルバーはその美しさが大事なんだぞ。そんな事も知らない間抜け共め。
あと、裏の世界を知らないのは彼らの方だ。俺は右手でグッドのポーズを作り、親指を下に向けて言い放つ。
「間抜けはお前らだ」
直後、彼らが次々に狙撃されていった。そう、俺はただの案山子。ヘイトを集めるだけの役割しか担っていなかったのだ。そもそも、こんな路地裏にたった一人で入り込んでくる馬鹿はそうそういない。十中八九、何かしらの対策を立てているから行動に出ているのだ。
煙草に火をつけ、息を吐く。血の匂いが充満する前に、煙草の匂いで掻き消そうという魂胆だ。いつまで経っても血の匂いは不快でしかない。というより吐きそうだ。
「あ、隊長ですか?俺は無事ですよ。ん?犯人?あー、みんな頭吹っ飛んで死んでますね。服が汚れるからあまり触りたくないんですが。え?脳が残っていそうな奴ですか?んー、いないんじゃないですかね。お、こいつまだ息あんじゃん。さて、じゃあこいつだけ回収していきますかね。たっぷり吐いてもらわないとですね?」
そう、俺は特A級犯罪者でありながらその腕を買われて政府側についた犯罪界の裏切り者。対特A級犯罪者対処秘密組織、通称STARの一人だ。
今回は中華系犯罪組織の壊滅を指示されていたのだが、どうやら俺は外れを引いたらしい。俺たちの事すら知らない底辺中の底辺でしかなかったからだ。
「やっぱりおもしれーよ、この仕事」
月が俺の孤独を示しているかの如く、輝いていた。
明日も明後日も、またその先も。きっと俺は犯罪者と殺し合うのだろう。だが、そのスリルを味わい続けていたい。隊長についていけば、きっとこの生活が続けられるのだ。
俺は煙草を捨てながら、そう思った。