第四話 山場
「そうですね・・・基本的には、あまり目立つほうではないのですが、周囲からこつこつと仕事をする方だと言われます。あとどちらかというと少し慎重派だと思っています。営業をやっている以上、お客さんの約束を守ること、そして迷惑をかけないことは一番肝心だと考えていますので、事実と異なることを伝えないよう、また文書にミスがないよう、何度も確認します。周囲の人間からも、任せた仕事は確実に、きっちりこなしてくれると言われます。そこが自分の長所だと思います」
花田さんは、自分の性格から自分の強みをうまく伝えている。慎重派だという言葉は、営業としてはフットワークに欠けるという印象を伝える可能性があることは否めない。だが、面接ではありのままを面接官に伝えることが一番大事だ。少しでも繕って自分をアピールしようとしても、相手は転職者だけでなく社内の若手からベテランの社員まで日々接してきた、熟練の総務部長である。転職者の本当の性格の見抜かれる可能性のほうが断然高いはずだ。僕は心の中で頷いた。
「なるほどな。わかった。大体、わかった」
このセリフが永井さんから出ると、面接の終わりである。実際はこのあとも会社説明や転職
者からの質問が続く。だが永井さんはこの時点ですでに、転職者の選考の合否を決めている。もう花田さんが次の選考に進めるかどうかは、決まっているのだ。
いくつか花田さんが会社についての質問をした後、面接は終了となった。大石さんが「面接お疲れ様でした、今回の選考結果はキャリアエージェントさんを通じて(=つまり僕を通じて)一週間以内に連絡がありますので、しばらくお待ちください。本日はありがとうございました」と言った。もちろん実際は一週間も掛かることはなく、結論はすでに永井さんの頭の中にある。
全員が立ち上がって面接をした部屋を出て行き、一階の玄関で僕と花田さんは永井さん、大石さんに挨拶して三光商事を出た。
「お疲れ様でした。やっぱり緊張しましたか」僕はほっとした様子の花田さんに言った。
「そうですね。面接中はずっとドキドキしていました。面接官に伝えた一言一言が、これでよかったのかなあ、って思いながらあの場にいました。それにしても、意識して永井さんの目をずっと見ながら会話をしていましたが、あの目の奥に何を感じているのだろう、と考えていました」
「でも、ありのままのご自身を伝えられていたと思いますよ。花田さんの誠実さも伝わっていたと思います」
そう言いながら歩き、近くの駅で別れた。その後すぐに僕はオフィスに戻った。面接の状況を伝えるために、僕は水原涼子の下へ寄った。