ご主人様を、お守りします!
「お呼びですか? ご主人サマ」
歳は、16、17ぐらい? なのに声は幼い。
そしてこいつは黒猫……いや、狼のようだ。
黄色い瞳にふっさりとした尻尾と耳。ひげも立派に生えている。
ーまって、理解できないー
〜1日前〜
「やっば……部屋が汚すぎる……マジ笑えない……」
16歳になった、平塚美優は、部屋の様子に絶句した。
「よし!かたずけるか」
「ん?なにこれ」
美優の手元には、ほこりかぶったCDらしきものと、ふえがある。
「これは……? このCD、まだ使えるのかなぁ」
美優はテレビの電源を入れ、CDを見てみた。
「ねぇ美優、僕、もう『おひっこし』しないといけないんだ」
「なぁに? 『おひっこし』って」「違うとこに住むことだよ」
「違うとこってどこ? 」「もう、美優は心配さんだなぁ。そんな心配しなくていいんだよ」
「美優は心配さんじゃないもん!」「ははは、ゴメンゴメン。そんな怒んないでよ〜」
「裕ちゃんがイジワルするから怒るの!」
「ゴメンね。そのかわり、いいものあげるね」
「いいもの!? 」「そう」「早くちょうだい!」「いいよ。はい、どうぞ」
「なにこれ? ふえ? 」「そう、ふえだよ」「なにに使うの? 」
「もし、美優が誰かに嫌なことされたら、このふえを吹いてね」
「このふえ吹けばいいの? 」「そうだよ。だけどなにもないときは吹かないでね!」
「わかった!美優、裕ちゃんの言うこと守る〜!」「うん、良い子!」
「え?美……優? うちの名前……。てか、裕ちゃんって誰? 引っ越し? 全く
記憶にないんだけど。。。多分そのふえってこのふえだよね。」
美優は、自分の手の上のふえをじっと見つめた。
「ちょっと明日、麻妃に裕ちゃんって人のこと聞いてみよ」
天堂麻妃は、
平塚美優の幼馴染だ。
「でもその前にお父さんに聞いてみよう」
美優の母親は、美優が5歳の時に、亡くなった。
「ううっ……。お母さんのことは思い出すのはやめよう。それより、早くお父さんに聞いてこよう」
「え? 裕ちゃん? だれだそれ」「え? お父さんも裕ちゃんって人知らないの? 」
「うん。わるいね」「いや、いいんだけどさ」
(そっかー……。お父さんも知らないなら、もう誰もわかんないだろうなぁ)
〜次の日〜
「ねぇ麻妃〜」「なに? 」「あのさ、裕ちゃんって人、聞いたことある? 」
「裕ちゃん……? ゴメン。聞いたことないわ」
「えーマジで!? 麻妃が聞いたことないなら、だれに聞けばいいんだろ」
「そのふえってのをふけばくるんじゃん? 」
麻妃は得意げな様子で言った。
「ふえなんて……。こんな時間経ってんのに来るわけないて」
「う……ん。まあそうかぁ」
美優と麻妃は風船がしぼんだようにガックリしてしまった……
「まあ、もうその裕ちゃんってのは忘れるわ」
「なんか役に立てなくてゴメンね」
「いいよ。それより話聞いてくれてありがとね」
「いいよ別に」
「ねぇ、なに話してんの?」
「あっ、克樹!」
藤井克樹は、美優、麻妃の幼馴染だ。
「克樹のこと忘れてたわ〜」
「ひどいなぁ、このクラス1の美男子の俺を忘れるなんて」
「まあ、否定はしないが……」
「あのさ、裕ちゃんって、知ってる?どうせ克樹に聞いても無駄だけど」
「あぁ〜、裕也のこと? 」
「えっ、嘘!知ってんの!? 裕也? 」
「うん。裕也。もしかして忘れてたの!? 美優にかぎってはよく、『裕ちゃん、裕ちゃん』って言ってたのに? 」
「うっそ! 」
美優は目をまん丸くした。
「なんで克樹知ってんの!? 」
麻妃も驚いた様子で聞いた。
「だって、よく美優と俺で裕也と遊んだじゃん」
「じゃあ、克樹も、このふえもらった?」
美優はふえを取り出した。
「なにそれ? そんなのもらってないよ」
「えっ? ウソ〜!なんで私だけ? 」
「知らないよ。けどまあお前が特別なんじゃん? じゃあもう俺遊んでくるわ。じゃあな」
「うん……実に不思議だ」
「ねえ、あんたなんなの? 」
急に美優の背後から声がした。
「は? 」
「は?じゃねぇよ。あんたさ、なに克樹君と仲良くしてんの? 」
「だって幼馴染だし、話したいことがあったから……」
バチンッ
美優は、思い切りほほを叩かれた。
「いっ……」
「キモい声出してんじゃねぇよ。一回叩いたぐらいでさ(笑)」
(キモい声だぁ〜!? あんたらが叩いてきたからだろうがよお!ったく。ホンットにくだらないな)
「おい、無言になってんじゃねえよ」
「なら言わせてもらうけどねえ、
『男と喋るくらいいいじゃんか。そんなのも許せないあんたらって、
どんだけ心狭いんだよ』はい。言いましたけどなにか? 」
「はぁ〜!? うちらに逆らうわけ? 意味不!マジムカつくわ」
バシャァ
「んっ……。み、水? 」
「はっ!バーカ!うちらに逆らうとこうなんだよ!こうされるの嫌なら
うちらに逆らうな!」
「……」
「ははは!!こいつ、これだけで黙って喋れなくなってるよ〜」
「は?マジ? ダサ(笑)」「超ウケるし」「まあ、こいつはこのぐらいがちょうどいいんじゃん? 」「ねえ、いっその事もっとイジメよ!靴汚したり、ノート破ったり」
「いや、それだけじゃ甘いよ!毎日こいつん家に電話してやんない?
あの、イタ電ってやつ? ww」
「いいね、それけっさく!」
女生徒たちは、様々な暴言を吐き、何度も殴る、蹴るを繰り返した。
(ちっ。そろそろマジで傷んできそう。身も心も。……。一か八かで、ふえを……)
美優はそう心の中でいい、ポケットからふえを取り出した。
「あぁん? なにモゾモゾしてんだよ!ちゃんと身をわきまえろよ!」
バキッ
「ッ……!」
「ん?こいつ手になに持ってんの? 」「ふえじゃん? 」「は? なんで? 意味わかんらん」
「よ……し」
ピィーー!!
ふえの高い音が学校の裏庭中に広がる。
「お呼びですか? ご主人サマ」




