テロ
20××年10月20日木曜日
7時にララが起こしてくれる。
今日は体育館で集団授業がある。
「お誕生日おめでとうございます」
ララがミクロソフト社製の神経伝達ヘルメットをプレゼントしてくれた。僕がコエプコン社から払われる給料なんだけど、資産管理はララがしている。50万円はする。
「今日から15歳ですね。CERO Cのゲームができますね」
「うん。魔王とSAGEがミクロソフト社に提供している。『スペーストレイダーズ』をやるんだ」
「調整と契約、ゲームのダウンロードをやっておきますね」
通信が超高速化しているから、ララなら全て含めて5分とはかからない。その間に食事をとる、道着や体操服や水着はララがそろえてくれた。行進の授業もあるからみんなコエプコン社製の軍服を着て体育館に集まる。
ララ達もついてくる。2Fから授業の様子を見る、自分のマスターがイジメにあってないかチェックしている。
玄関から部屋をでると勇者もでてきた。
「オス」
「オス」
短くあいさつを交わす。勇者もコエプコン社デザインの青を基調とした礼装用の軍服を着ていた。
「おはようございます、マスター勇者」
「おはようございます、マスター夕夜」
ララと姫がそれぞれのマスターにあいさつした。
僕達は体育館に向かった。渡り廊下もドーム型で完全無菌状態。少し神経質に思えるが、中国が海岸沿いに125基の原子力発電所を建設したが、半数がポシャってメルトダウンを起こし、東側に位置する日本は偏西風の影響によって大量に被爆し、遺伝子改良してない人間の発癌率は10倍に跳ね上がる。日本海、黄海、東シナ海、南シナ海は死の海とかした。
「おはようございます」
体育館付近でエリーが僕と勇者に後ろから首に抱きついてきた。
「エリー、顔が近い」
僕が顔をそむけると「そう」と言いながら顔を僕の方に向け近づける。エリーだけは軍服を着ても男の娘にしか見えない。「たまにしか肉体で会わないのに」
「お前、まだ金玉ついてるんだろうな?」
勇者が口にする。
「カラカラカラ」天真爛漫な笑顔を見せて「コエプコン社と精子を提供する契約を結んでいるのに、それにセックスは気持ちいいから、女装までが僕の限界ですよ」
「あ」軍服を着た太郎が向こうからくると、僕達との会話がまるでなかったようにうち捨てて、太郎の隣を並んで歩く。
バスケットコートが8枚ある鉄筋コンクリートで造られた大型体育館に入る。
1時間目は行進の授業である。
国家から自衛隊の人が派遣されてくる(途中でかなり殺菌するらしい)。遺伝子上の理由から徴兵は免除されている。遺伝子強化をした精鋭部隊は志願制だ(産まれる前でなく、効率は悪いが成長期に改造できる、本人の意思を反映して動物や昆虫の遺伝子を組み込むことができる。この場合はキメラと呼ばれている)、アメリカがプレゼンスをさげているから自主防衛にカジをきらなくてはならない。徴兵も平和憲法下では2週間ほどの研修らしい。
規律正しく行進できれば10分ほどで終わる。
その後は武器の歴史、戦争の歴史、サイバーテロ対策などの講習が始まる。時々はレーザーサイト付きのレーザーライフルを撃たせてくれる(レーザー光線兵器は開発と組み立てが済めば1回当たりのコストは電気代10円で弾薬はライフルが55円でピストルが25円だが、ミサイルより圧倒的に安い)。狙撃技術は全ての世代の中で僕がNO.1である。
2時間目は武道の時間
まずは畳を取り出して並べる。 みんな柔道着に着替える。
コエプコン社のヒットゲーム『道路戦士』のスーパーアドバイザー龍先生が授業をなさる、龍先生は160センチと小柄ながら指をつかませて逆に投げたり、空気投げをする達人である。授業の終わりごろになるとゲームの今後の展開について話してくれるからみんな好きだ。
格闘技オタクで世界中を旅して武者修行をしてきたゲームの主人公のような人。あらゆる流派の中国拳法会得し、日本の武芸十八般の手裏剣、火縄銃、立ち泳ぎ、乗馬はもちろん、南はインドのカラリパヤット、北はロシアのコマンドサンボ、西はアフリカのマサイ族の村で槍一本でライオンを狩っていた。一人の人間がよくこれだけ凝縮した人生を送れるなと感心する。
突きや蹴りなども教えてくれる、急所打ちも教えてくれる。しかし、試合形式は政府から業務通達がだされた柔道オンリーである。礼で始まり礼で終わる。相手を重んじる精神が身に付くらしい。このルールで宗茂が一番強く、僕は二番だ。エリーが一番か二番目に弱い。
座学もある。新渡戸稲造の武士道や山本常朝の葉隠などの講習もある。座学では完全記憶のある太郎がトップだ。龍先生もマンガに影響を受けているため同人誌を作って配布してくれる。江戸時代の昔から柔術など北斎マンガで解説がある。龍先生はコマ割りをしてネームを書いて、目を書くだけで、後は一番弟子のA世代の遥さんがコンピューターにスキャンして、電子ペンでペン入れして、スクリーントーンをはり、時にはカラーリングして、セリフをうって仕上げている。
コエプコン社は『道路戦士』の普及を目指すため、仮想空間で武術を学べる有料のパッケージを配信されている。空手ならば基本の突き蹴りをAIがこちらの身体を使って、鏡のように写った自分の身体を見ながら、マンツーマンで呼吸法や力の入れ方、脱力の仕方を個人の3Dデータを参照して教えてくれる。型の使い方をトレースして覚え、NPC相手に使用してみる事が出来る。自分の成長に合わせて色々な格闘技や武器を使った戦い方のプログラムをアップデートする。僕は龍先生が監修したすべての格闘技、居合まで含めたすべての白兵戦技を最終段階まで履修している。
今回の授業内容は柔道だったが、みんな15歳になった事もあり。終わり際に今度発売される『龍の教典』の戦闘のコツを詳しく教えてくれた。
3時間目はダンスの授業
政府が武道とセットで奨励している。多分深刻な少子化対策だろう。役人の考える事はよく分からない。男の童貞率もハネ上がっている。男に原因があるというより女が変わった。産みたい時に冷凍精子をチョイスして産めばいい。細胞分裂の回数券と言われるテロメアを回復するテロメアーゼが販売されて、富裕層の女性は外見どころか子宮を含む中までも若返ることができた。妊娠年齢が10代後半から30代後半までとあせる必要もなくなった。侵襲型のマイクロチップはホルモンを調整して妊娠できる状態にしたり、出来ない状態にすることが可能だ。
H世代には女がいないからララ達ロボットが2Fから降りてきて相手をつとめる。エリーのロボットの真里亞が際立って美人である。
また、国はiPS細胞を使った(精子と卵子ができる、精子だけなら肝臓細胞からも作ることができる)同性間カップルによる子作りを認めた。人工子宮を使わなくてはならない男性間カップルより女性間カップルの方が子供を持つ確率は圧倒的に多かった。身体的特徴も女性の方が子育てに適していた。
富裕層は愛人にも子供を産ませ、日本政府もそれを奨励して配偶者控除を撤廃して、婚外子の遺産相続の権利を承認した。キリスト教圏ではないから一夫一妻でなくても日本社会は許容的で、妻妾同伴どころか愛人で会社を作り食べさせてもらう多淫症なども現れ、シングルマザーが激増した。
4時間目は健康診断
身体に異常がないか専用人工知能(特化型人工知能)が各種センサーを使いスキャンする(X線やMRIなどの画像診断能力は人工知能の方が人間の医者より早くて正確。百万分の一の珍しい病気まで発見する)0コスト診断、必要とあらばナノマシン(血液から作った電力や細胞に存在するアデノシン三リン酸を動力として動く、ウィルスのような「自己複製機能」は備えていない。ヨーロッパでは環境保全AIがどう学習したか、人体にだけ有害なナノマシンに自己複製機能を持たせて散布する事件があった、ウィルスのように数個が1日で百万個に膨れ上がり飛沫感染した)を血管に注入して治療も行う(消化器官ならカプセルを飲んで手術や薬の散布を患部に行う薬事ロボットの場合もある。ウィルスぐらいの大きさのナノライトも開発され、紫外線をあてれば患部が光ったり、血管や血液が光ったり用途に合わせて使い分けている)。身体測定や体力測定も同時に行い、コエプコン社でも使用するマイナンバーようの3Dアバターの更新もする。リアルネーム(日本では戸籍上の名前、アメリカでは出生証明書にある名前)には国民統一背番号が割り振られ社会保証の給付や納税、雇用、不動産に売買、スマート家電の購入など国に管理はされてないけど情報は把握されている。短時間の血液検査も行われた、体外受精とはいえ遺伝子コーディネートした大衆よりは細胞のガン化の確率は少なかった(遺伝子改変ウィルスにはガン細胞由来の物もある)。強靭な肉体、美貌、美声、均整のとれた妖艶な身体を手に入れた代償としての細胞ガン化ハイリスク(ガン自体は早期発見すれば完治できる病。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が確立してガン細胞に取り込まれやすいホウ素(ホウ素自体は歯磨き粉にも使われていて人体に影響はない)の特性を利用して、点滴で注入する健康細胞は取り込まない。低エネルギーの中性子線をガン部分に照射する、ガン細胞内部でホウ素は中性子線に出会うと核分裂反応を起こし、アルファ線が発生する。アルファ線はそれまで行われていたX線やガンマ線の3倍の細胞殺傷力を持っているが、影響を及ぼす距離が細胞1個分の長さしかない。周辺の健康細胞にはダメージを与えない、効果が大きい上に回数は1回でいい)。アスリート達にアンケートを実施したら、金メダルをとれるならば寿命があと5年でも構わないと半数以上が答えている。
12時から昼休み
集団お誕生日会が行われてコエプコン社からケーキがでる。僕達は1月10日に受精卵の凍結解除を行い、人工子宮に着床される。10月20日に取り出される。誕生日が10月20日と設定される。
ケーキを食べていると勇者が声をかけてくる。
「魔王とゲームが終わったらロボグルミを持って、おれんちにこないか、バンソニー社にロボグルミのチェックをさせるから、次いでに光ネズミもチェックしてもらおう」
「分かった」
「バンソニーの神経伝達ヘルメットも持ってこいよ。15歳になったから、フリーのサーバーで政治的主張が聴けるぞ」
「お前、アダルトポルノのサイトに連れて行く気じゃないだろうな」
勇者はこの間、バンソニーが提供するアダルトポルノのサイトにデータを偽造して進入し、デジタルアイドルとの一夜を楽しんだ。あまりにも快感が強烈だったため肉体の方も射精した。料理を作るため鼻を改造してあるロボットの姫が気がつき(ロボットは規格化が進み自衛隊の戦闘用ロボット、メイドロボット、セクサロイド(性欲処理ロボットの造語)と互換性があり、スペックの高い規格と金をかければ交換できた。人工性器を交換して感触を変えて楽しんでいる人もいる、ララの話だが追跡調査の統計を取れば50%の人がミルクがでるように換装しているらしい(本当かな?、ロボットが水増ししてウソをつく時はたいてい50%である)、規格品をそろえれば安い金額でロボットまでも自作できる、外枠のデザインを3Dプリンターで出力して全ての家電製品が世界にひとつだけのオーダーメイドとして自作できた)、勇者のログを検索して不正アクセスが発覚。30秒間電撃によるオシオキを受けた。
ミクロソフト社の「バンソニーの神経伝達ヘルメットのフィードバックシステムは子供の教育に良くない」とのネガティヴキャンペーンが効果を発揮し、キリスト教圏である北米や欧州では優位に進める。アジアではフィードバックシステムのデジタルヒロインのポルノソフトが爆発的に受けた(ネットで取り寄せればいいだけなのだが、東京では非実在少年少女保護条例があり、ロリコンやペドフェリア向けのソフトが禁止されている)。
お互いにコアユーザーの奪い合いと囲い込みを行う。両者は自らのシステムの信望者を集める帝国と化した。新しい福祉と新しいサーカスを提供する復活した中世の王国のようだ。家臣としてOSを使わせてもらっているゲーム業界や、仮想空間で開発した商品の試させてもらっている企業や、広告団体や代理店が後に続く。皇帝に忠誠を誓わなくては商品が売れない。
電器屋にいけば、物のインターネットによるコントロールといった融合が進んだだけでなく、小型化されたコンピューターチップと寿命の延びた砂糖電池によって、商品の前に立つだけでウェアラブルコンピューターに情報が送られ、立体映像でデジタルヒロインが使用法の解説や性能の説明をし、質問をすればネットのビッグデータから最適な答えを見つけ出して応答する。
「俺だって学習するよ、エロは18歳になってからどうどうと楽しむよ、魔下 耕世がどんな主張をしているか、聞いてみたい。ある意味、俺らコエプコンとは関係ないわけではないだろう」
最初C世代のテロの時、コエプコン社は標的になっていると思ってなかったから、何の準備もしていなかった。リモートコントロールされた戦闘用ロボットが銃を乱射して乗り込んできた時、育児用AIは何をしたらいいかわからなかった。皆が子供を抱いてパニックている時、ララだけが当時装甲の積んでない身体で、電撃をオーバーロードさせながら、敵ロボットに抱きついてアンテナを焼き切った。ララのデータも同時に吹き飛んだため、3日前にバックアップしたアルゴリズムの検証はされたが、AIに生存本能がないとはいえ、ララが自己犠牲的な行動がとれたのかわからなかった。壊れたメモリーからデータのサルベージは試みられたが失敗に終わる。あの時ララをかきたてた物は何か?誰にも分からないと勇者から聞いた。
魔下 耕世にとってロボットは囮で、本命は空調システムにウイルスを仕掛けることだ、数多くの監視カメラの中、どうやって潜入出来たか今でも分からない。
ただ次世代のGゲート式の量子コンピューターを開発しているのではと仮説が立っている。既存のコンピューターの並列処理では莫大な電力が必要で、居所が警察にすぐバレる。あるいは驚異的に深化した通信速度を使い、外国に拠点を置いて、電気の使用について土地の政府と話し合い、巨大な発電基地を個人所有しているか。
「敵を知り、己を知らばっか」
「ダウンロードするならともかく、ご高説を聞くだけなら違法性はないだろう」
「分かった。ロボグルミを持って今夜行くよ」
5時間目は球技
バスケットをする事になった。
僕と勇者と太郎とエリーと宗茂の5人でチームを組んだ。どうもロボット達の人間関係で決まり、戦力の均衡が行われなかった。一番運動神経がいい僕がドリブルすればどこにいくか分からない。他は言わずもがなである。
理論家の太郎はバスケットの戦術には詳しい。曲がりなりにもボールをゴール下まで持っていく僕に対して「内、外、内とリズムを良くして、敵のディフェンスラインを広げさせないと、切り込むだけでは」とアドバイスしてくる。
「お前、内でも入らないのに、外の3ポイントが入るわけないだろう」怒鳴った。
苦労してなんとか敵陣まで運んでも、太郎にパスしたら入りもしないのに外からポーンと簡単にシュートする。
一番身体のデカイ宗茂に「スクリーン(ゴール下でこぼれたボールを取るための場所取り)」とかっこ良く叫ぶ、宗茂は確かにH世代で一番デカイがスピードがない、リバウンド(こぼれたボールを取る事)をとれたためしがない。
エリーにいたってはパスをすれば「きゃー」と叫びながら、よけたり、しゃがんだりする。
小太りではあるがスポーツゲームをしている勇者だけが少しはマシかなと思っていれば。(誘われてナムコナミの野球ゲームを仮想空間でしたことあるが、ボールがバットに当たらなかった)
「リアルはダメだ」白旗をあげる。
「なんで?」
「キラーショット(必殺技)がない」
やはりこいつもダメだ。だいたいデブキャラは力はあるけどスタミナがない。1分くらい動けばヘトヘトになる。スポーツの基本は走って持久力をつけて、集中力と高いパーフォマンスを長い時間維持する。ゲームのアバターと違って現実の勇者の肉体はスタミナも集中力もない。ナムコナミもコエプコンの格闘技講座のようにスポーツの仮想空間講座を配信している。勇者が「お前、天才肌だから、バッティングとか、ちょっと指導を受ければ。けっこうな選手になると思うけどね〜」勧めてくれるが必要に感じなかった。それより体質は遺伝子がほとんど決める。「砂糖に太りやすい」とか「油に太りやすい」効率的にやせられる個人プログラムはあるのだが、社会主義国は「健康は国家への義務だ」と豪語して覚せい剤どころか禁煙さえ強制しているが、勇者は好き勝手に生きている。キューバでは昔から速筋と遅筋の割合で幼い選手を振り分けてオリンピックで好成績を収めているし、中国では遺伝子を調べて個々の適性を把握し、むいてる勉強方や基本性格に応じて職業を強制している。
僕達があまりにも下手だから、相手チームが笑っている。それを見たララがカチンと来た。花子、姫、真里亞、誾千代が止めたが、ララが飛び降りてきた。
「これ以上はイジメが発生する。選手の交代を」
審判をつとめるホストコンピューターに喰ってかかった。
「認めます。夕夜出てください。ララ入ってください」
あまりの事に声がでなかった。ララとタッチして入れ替わる。ロボットってベースは自衛隊に戦闘用アンドロイドじゃなかったけ。
試合が再開される。
ルーズボールをララが獲得すると、ドリブルで5人をごぼう抜き、片手でダンクを決めた。
「こういう風にやれば」
「凄すぎて参考になるか」
5人でハモった。
相手チームがおさまらない。
「なんだ、あのロボットは」
「あいつNBAのデータでもダウンロードしているぞ」
「だいたいイジメなんて発生するワケないだろう、あいつら(エリーを除く)ケンカは強いだろう」
相手チームがホストコンピューターに抗議しまくる。そりゃま、そうだろうな。
「抗議を受け付けます。ララ出てください、夕夜入ってください」
結局取れたのはこの2点だけだった。
「記念に写真撮ろう」
エリーが言ってくる、みんなで点数を囲んだ。右目にカメラを内蔵している真里亞が「1」というと「2」と全員でハモった。ウインクした。
エリーが自分のブログでアップデートするのだろう。
6時間目は水泳
コエプコン社は浮かべて溺れなければいい、ぐらいに考えているだろう。個人用の流水が用意され自分の体力に応じて泳ぐ。タイムを計るわけでもない。エリーにいたっては浮輪を使っている。
7時間目はディスカッション
民自党の党員が来て、民自党の歴史や保守理念や政策集団の系譜を講義している。どうも敵である主民党は対案をだすことなく批判ばかりしているらしい。
何人かに別れて議論することになる。保守的で愛国的でアジテーションたっぷりの声の大きい奴が場をしきる。難民受け入れ、移民受け入れがあり、ネットは右翼の巣窟とかした。左翼全盛のころは日教組が10分の1いれば職員室の空気を支配できると豪語していた。昔陸軍今総評と言われたこともあるが、昔総評今ネットである。
8時間目は最新家電の紹介
最新家電が用意され、他社の製品も並ぶ。
近づけばICチップからウェアラブルコンピューターにデジタルヒロインが投影され、外国産も翻訳して性能や使い方をていねいに教えてくれる。手にとって確かめる事が出来る。
新しいシステムコンピューターや付属のハード、最新プログラム、ゲームエンジン、他社の新作ゲームもプレイ出来る。使い方が理解できた物自体があらゆる世界共通語である。
今の時代は大量の開発費と時間をかけて大量生産するより、ある程度商品を企画してネット動画でプレゼンテーションしてSNSで資金を募る、クラウド(大衆)ファンディング(資金集め)によるある種の予約生産製造が主流である、商品の為に欲しい規格を第4次産業革命(インダストリー4.0)[第1次はイギリス発の産業革命(繊維産業、蒸気などの動力革命)・第2次はアメリカ発の産業革命(電力、モーター、内燃機関、大量生産)・第3次はコンピュータや電子制御による産業技術の革新]によって実現した無人(基本メンテナンスフリー)の全自動自律型電気工場(更に工場同士がネットで連係し、効率よく生産を分配するスマート工場、多彩なセンサー群で機械設備を監視し不良品がでないようにチェックし(人間のすることは異常の知らせがあった時の部品交換と定期メンテナンスのみ)、生産ラインに負担をかけない自動感知による予防修理(壊れてから修理するより安くあがる)が行われる。センサーは完成品の点検も行い。膨大なビッグデータをインターネットに供給し、世界中どこでも納期を3日までとして、資材と商品の在庫を極限まで減らす、中小企業が得意とする長期契約はやらずに、一週間後の仕事はわからないが、世界を相手にしているためビッグデータから、この商品にはこれ位の注文があるだろうと大数予測をして[10%も違わない]資材やラインの計画を立てる)とチャットで契約とデータをやり取りし、生産してもらい(自社で工場を持たない)、組立して世界中に散らばるグローバルニッチゴールド(競争相手のいない少数金持ち需要)達に発達した無人の輸送能力をフルに使い、あらゆるところの求める人に販売する。
それらの特殊な商品もかき集めて、社員に刺激を与えるのもコエプコンの仕事らしい。
そして集団授業は終わり、ララと部屋に帰る。
さっそくミクロソフト社の神経伝達ヘルメットをかぶる。アバターは国家に登録している3Dデータを使用しなくてはいけない。国家から振り分けられるマイナンバーも登録しなくてはいけない。匿名性を徹底して失くす、誹謗中傷が起きれば犯人を突き止めて、ログを証拠に法的措置がとれるようにしてある。
さすが洋ゲー。権利や人権にウルサイ。
ヘルメットをかぶりダイブすると味も匂いもない、風も感じない。固定されたロボットに閉じ込められた気分。
魔王が指定したサーバーに入る。
洋ゲーとはいえSAGEが提供しているからキャラクターとかは日本調である。名前をピヨッピーと打ってゲーム『スペーストレイダーズ』で使用するアバターを造る。SFの割りに宇宙人がいない。土星のリング周辺をうろちょろする宇宙開拓時代。情報伝達が異常なまでに発達して、死んでも記憶を移動させてクローンで宇宙ステーションで蘇生してやり直しができる。基本ソーシャルゲームはセーブポイントからやり直しというのがなくなった。ナノテクノロジーか究極なまで発達してじっとしてるだけで、傷ついたHPが回復するらしい。サイバーパンクのように機械をあちこち入れ込むことができない。アジア系を選択して髪をピンクにして入った。
クローンの培養槽から出てきた、手違いによって記憶がないという設定になっている。ゲーム世界の説明を受けロビーにでた。ただなれてくると視覚と聴覚しかなくても残酷な映画をみて眉をひそめるように、身体移転とよばれ、この程度でも「間違いなく自分の身体だ」という感覚に襲われる。傷みはないが遠隔ロボット操縦の技術はアメリカが上だ。
魔王からも説明を受けている。
ゲームの総指揮をとったのがマイケル竹中、自由競争主義者そして最小国家主義者。SAGE自体は『幻の星』というSFオンラインゲームを展開していたため、そのノウハウがありスペースオペラに適正があった。ハマれば面白いらしいが初心者にはかなり敷居が高い。
ミクロソフト社はバンソニーのような買取型のゲームマネーではない、それぞれのゲームが仮想通貨を設定し、ドルで仮想通貨を買えるだけでなく、ある程度貯まった仮想通貨をオークションで売り、ドルを獲得できる。こうなってくるとゲームというよりセカンドライフと言った方がいい。
ある意味、ヘビーユーザーがたくさんの金をゲーム運営会社に納めライトユーザーがシナリオをクリアして小金をゲーム運営会社から稼ぐ、富の再分配と見れば新しい福祉モデル。神経伝達ヘルメットは身体に障害がある人も、お金がなくて義体化や再生医療を受けられない人も、同じスタートラインに立てる(神経伝達ヘルメットを買えればだが)。
『スペーストレイダーズ』では実際のマーケットで売り買いされている架空通貨ガットコインをゲームでも採用している。
架空通貨ガットコインは電子マネーというよりは決算システムである。システムが機能するルールを公開して誰でも参加でき、コインがどこどこに移動したとの決算がとりあえず一度情報プールにプールされる。
マイナー(金堀人)と呼ばれる人達がプールから情報を取り出し決算表を作成する。そして1番たくさん情報を盛り込んだ決算書が採用される。めでたく採用された方は75ガットコイン(1ガットコインは3万円ぐらい)が決算書に支払われる。
それが10分おきに行なわれる。
作られた決算書は51%のマイナー達が正確であると認証して自分の決算書を作り始める。51%の人がウソをつけばガットコインの横領ができるのだけど、みんなお金が欲しいからそんなことはありえない。仮に51%をあざむけるハッカーならマイナーになった方が合法で儲かる。
マイナー達は1秒間のコンピューターの計算回数をあげるため、専門のコンピューターを複数。電気代の安いところで並列処理している。情報プールから自動で拾得さるプログラムも開発して、マイナーなんて物は素人が手をだせる物ではない。
少額の運用の場合、ブロックチェーンシステムに負担ばかりかけるが、両替所がいったん預かりプールの中に投入しない(10分待たなくていい、ほとんど即決)、ある程度たまったら両替所が自分の決算書にあらかじめ書いておき、いっきにプールに吐きだして他のプログラムをだしぬき、75ガットコインを獲得するというビジネスが成り立ちもしている。銀行にお金を置いても利息という旨味もなくなり、送金の手数料はガットコインの方がはるかに安い、第三諸国ではウェアラブルコンピュータはあっても銀行の支店はないのであり、出稼ぎ外国人はガットコインでやりとりしている。昔は公開鍵や秘密鍵など(今の超量子コンピュータの実力なら1分以内に解読する)の認証が必要だったが、今ではマイナンバーと所有するウェアラブルコンピュータが代行してくれる(その代わりガットコインの移動は税務署に筒抜けになり、自動で課税された)。ハッカー対策でシステムのアップデートは毎晩夜中の3〜5時の間に行われている。
一応ガットコインの発行額は決められていて、ある程度期間が立つとマイナーへのご褒美を減らしながら、インフレにならないように終わるのである。
ゲーム内の仮想通貨と違って、ネットで日用品や食べ物を買うことができ、無人のマルチコプターで部屋の窓に配達してくれる。アメリカではブロックチェーンシステムによる企業経営ができないか「DAC(Decentralized Autonomous Corporation:分権化した自動企業)」呼ばれ、組織の運営を社内取締役(CEO:社長)ではなく、利益の分配を約束した複数のマイナーで経営できないか実験が始まっている。
第三諸国では自国の通貨より信用がある(もっとも貧者は10人位のグループを作って1台のウェアラブルコンピュータを買い、各人が独立した暗証番号を持って仮想通貨の運用していた、電気は屋根の上に太陽電池を置いていた。耐久消費財の複数人使用、その権利はスマートプロパティと呼ばれている)。そもそも個人にとって貨幣の価値など次の4つである。①交換の媒介②価値の尺度③価値の貯蔵手段④喜びの提供。政府発行の金と交換できない不換紙幣だって、デフレになれば価値は上がり借金している奴は苦しむ、インフレになれば価値は下がり借金している奴は喜ぶ。
需要と供給のバランス曲線は保存がきかない縄文時代なら、昨日とったウサギを売らなければ悪くなるという計算が働き、魚2匹で我慢しますというのが成り立つ。貨幣になって価値を貯蔵できる。必要な時、必要な物を、必要なだけ買うのであり、生活必需品なら品薄になれば(昔は買い占めもあったろうが)値上がりもあるだろうけど、それ以外はナンセンスである。たくさん需要がある企業も薄利多売をすることもある(カルテットするならともかく独占できてないなら得に)。石油の値段が下がれば原料や輸送費が下り、デフレとは関係なしに商品に値段は下がるのであり、狂った政権の間違った経済政策によるインフレターゲット2%は、「デフレになれば支出を延期する」とか「インフレになれば買い急ぐ」とか人は効率的にできてない。将来に不安があれば財を貯めるのである(消費税が上がる度に駆け込み需要はあるが)。日銀のマイナス金利を持ってしても実現はしなかった。金利が下り富裕層は何で貯蔵する(財を未来へ運ぶ、運用する)が価値が暴落しないか(希少金属『金』も石油と一緒に暴落した)、税金は安いかそればかり考えている(マイナス金利だから銀行に預けたら資産が減る)。一方遺伝子をイジってない貧困層の子供達はカロリーのほとんどを給食と配給でとり、ウェアラブルコンピュータで流される無償の通信教育で貧困からの脱却を試みる。さらにこの政権が残した解釈改憲と言う負の遺産と貨幣乱発による暴落した国債(金利も高額化した)の借金から日本はまだ立ち直れなかった(消費税を50%にしてもプライマリーバランスは黒字化しなかった)。
ゲームの説明を受けて培養槽の部屋からでた。死んだ場合はインプラントコンピューターから培養槽に情報が送られ、ここからクローン代の0.01ガットコインを払ってゲームに復帰する。インプラントコンピューターとスーパー情報通信のおかげで経験はキャンセルされないという設定。
「魔王。今培養槽の部屋からロビーにでたよ」
日本語で全体チャットした。公用語は英語。
金髪のアングロサクソン系の男が小さく手を振りながらやってくる。
「ようこそ、ピヨッピー。CERO Cの世界へ」
「始めまして、CERO Cでいいのかな」
「基本全員商人で、全員海賊だと思ったがいい」
「一応、ゲームの日本人ギルドが運営してるホームページは読んだ。チュートリアルもない、自由度満点で日本人には向かない、って書いてあった」
「まあ、そうだろうな。基本人殺してもペナルティがない。かといって経験値がないゲームで武装強化、超能力開発、宇宙船購入。ガットコインのやりとりだから殺しても金は手に入らない。装備は奪えるがロットナンバーで管理されているから市場に被害届けをだせばNPC商人に足元見られて100分の1で買い叩かれる。安全でいたかったらダイヤとか身につけないことだな」
「土星の周りにある宇宙ステーションは安全地帯じゃないの?」
「ここでドンパチやる奴はいないが、禁止事項ではない。基本自分の身は自分で守る。ここでは高い税金を払っているが、国家は安全保障はしない。国家のしていることは新兵器の開発。隕石に点在する資源の調査、オークションなどの市場操作かな、後はゲーム開発資金の回収と運営してるプログラマーの給料になっている」
「警察もなければ、保険もない、なんかマイケル竹中って最小国家主義者というよりは無政府主義者だな」
保険というのは加入者による互助組織で運行する海域の損耗率で保険料を決める。ガン保険も発症率から保険料を計算する。海賊が産業のゲームでは計算が成り立たず。誰も保険を作ろうとしない。
経済に参加する各人は、自己利潤のみに専念すべきであって、他に余計な事をすべきではない。徴税などで邪魔する政府など本来存在すべきではない。というイデオロギー•リバタリアニズムの方が近いかな?
「そんなにかわいいもんじゃない、あんまりひどいのは土星政府が被害者と共同でデッド・オア・アライブ懸賞金をかけたりする、クローン技術があるから死にはしない、自分が優位の時は捕まえて冷凍刑にできる、ゲームを辞める奴もいるが、ガットコインが稼げる奴には稼げるから保釈金の0.1ガットコインを土星政府に払ってゲームに復帰する奴もいる。海賊ギルドがあちこちで組織され、隕石を改良して根城を作ったりする。資源隕石を確保しても、埋蔵量と1日に掘り出せる掘削技術にも限界があり、資源隕石もいつかは枯渇することで市場をコントロールしている。どのギルドにも所属しない宙域や係争地帯に、ある程度の埋蔵量を持った資源隕石が発見される。戦争の道具の矛と盾をずらしながら開発して、ガットコインを湯水のように使うへビーユーザーの購買欲を刺激する」
「トレイダーズだから、貿易が主流じゃないの」
「最初はそうだった。超光速通信で土星の周りにある5つの宇宙ステーションに市場が存在したが、資源がだぶついてる所が安くなって、資源が少ない所が高くなっている。Aという市場で買ってBという市場に売る。そういう商売が成り立つと思っていたが、政府が安く買って高く売る。商売をしていることにみんな気づいて、資源隕石で採掘して、手数料を払って、オークションにかけた方が高く売れて、買う側も安く買える。レーザー推進の移動が値段情報の通信速度より時間がかかるため、他の人間も同じことを考えて、宇宙ステーションについたときには、供給過剰になり値段が暴落していたという笑えない話もある。お金を貯めようとすれば、資源隕石で採掘してオークションで販売するのが一番いい、基本ゲームでデータだから倉庫に保管する場合は泥棒できない。使用料払って、オークション見ながら売り時に、はき出すのが一番いい。オークションの手数料は自分が設定した最低価格の2%(2日以内に売れなかった場合は打ち切り、その場合でも手数料は取る)」
「今から(怪獣狩人のゲームみたいに)ホリホリ?」
「いや、海賊するから、個人戦闘装備を揃えてくれ」
「宇宙船が闊歩する世界で個人装備?」
「説明が悪かったな。資源隕石を採掘しているのは、人間じゃなくてロボットなんだ。プレイヤーは資源の運搬したり、海賊したりしている。複数の資源隕石を運営しているから。全てを管理するのが難しい。プレイヤーがいないときに資源隕石から、採掘して貯めてある資源を泥棒をするのが手なんだ。もちろん防衛施設を敷設している。そいつらを倒して資源をいただく、お前にとっては始めての無重力戦闘だ」
「装備、どれくらいかかる?」
「武器も、防具も、政府が電子タグ(リーダからの電波をエネルギー源として動作するRFタグで、電池を内蔵する必要がない。タグのアンテナはリーダからの電波の一部を反射するが、ID情報はこの反射波に乗せて返される。反射波の強度は非常に小さい)を付けて、ロットナンバーを割り振って、廃棄まで追跡で移動を管理しているし、武器が賢くて使用者本人でなければ引き金がロックされる。ナイフはともかくレーザー系のソードは光る刀身が出てこない。1ガットコインあれば最強装備電磁ガンが買える。無重力戦闘だから反動はないほどいい」
「ふんじゃ、ララに電話するね」ゲーム内からサウンドオンリーと書かれた画面が左横に表示される。
「どうしました。マスター」ララの声が左耳からする。
「今からゲーム内で海賊することになった。このゲームは架空通貨のガットコインが流通している。このゲームは初心者だからと言って、魔王に守られる存在になりたくない。魔王とは対等でありたい。男の誇りのようなものだ。1ガットコイン(3万円ほど)融通して欲しい、スタートダッシュをかける」
「何、馬鹿なことを言っているのですか?」
「はい?」
「男の誇りがかかっているんですよ」
「はあ」
「10ガットコインぐらい欲求しないでどうするんです」
「はい」
「貯金が趣味だなんて、そんなみみちぃ男に育てた覚えはありません」
「では、10ガットコインで」
「それでは、0.01ガットコインの手数料を支払いますね。10分以内には移動すると思います」
ガットコインは手数料無しで決算してくれる。マイナー達は全ての取り引きを2日以内に決算しなくてはならない。それがルール。51%の正解承認が受けられない。
逆にマイナーに手数料を払わないと後回しにされる。情報プールの中から手数料があるモノを優先するプログラムになっている。銀行だと手数料は千円ぐらい取るから安い(マイナス金利だから銀行はドロボウ対策としてお金を払って預ける、そして送金のできる金庫)
僕のデータに10分もしない間に10ガットコイン移動してくる。
「ララって、お前には本当に甘いよな」
昔はロボットを信じすぎる「エシカルジレンマ」(論理的ジレンマ)よばれ、社会的なバリヤが無くしネット銀行の暗唱番号を簡単に話をする高齢者が増え、新しいサギも産まれた。今ではロボットが複数のプログラムがからみあい大分ええかげんなことがばれ、あまり信用し過ぎない事が周知の事実である。
「武道の龍先生も、ララにペットを育てているわけではないぞと人間を育てるだぞと説教していた」
体験授業の一環としての社会参加以外仕事をしていない、家事も手伝っていない、おつかいもしたことない、学習期間ではあるがペットのように生きている、それが悪い事をしているとは思えない。クリエイティブな仕事をしない限り、実務能力はロボットの方が何をしても優秀である。ほとんどの労働者はウェアラブルコンピュータの支持で動いている。その方が効率もいいし、間違いもない。頭を使わないから楽である。
「ララって、資産管理しているんだろう。大丈夫か?」
「ララがしているわけではないと思う。コエプコン社の中央コンピューターが全員の資産を一括で運用していると思う。国債の金利の世界平均が1%の時代(国債を買ってもらうため年利10%を歌った国はあったが、債務不履行をおこし紙クズになった。投資家はそこまでのリスキーな商品には手を出さない)に年利3%をはじきだしている。ララにお金を渡したらデリヴァティブや先物買いやリバレッジに手を出して3日で破産する」
宇宙ステーションのロビーの中にはショップと土星政府の役所、超能力開発センターそして酒場。
「 酒場って何やってるの?」
「このゲームはNPCからのクエストがない。誰かがガットコインを払って人間を募集している。お前のように誰もがスタートダッシュをかけれるわけではない。社長に仕えるサラリーマンとまではいかないけど、人に雇われてガットコインを稼ぐのが序盤なのさ、過激な奴はテロリストとまでは言わないけど、海賊ギルドに入る」
「超能力開発センターって、金を払えばいいの?」
「ガットコインを払って、イベントを受けなくてはいけない。ダークマターを信奉する闇の超能力軍団との戦いが待っている。物語を楽しみたい奴はここで楽しむが、ガットコインを払わないと先に進めない。俺は念動力と予知を1レベルずつとった、遠くにある銃やレーザーブレードを引き寄せることができ、予知で弾道の予測線が表示され、レーザーブレードの刀身を置いとくだけで勝手にはじきとばしてくれる」
「凄い」
「ちょっとかっこいい。次はお前のイベントを手伝ってやるよ」
魔王とショップに行って装備を揃える。
1ガットコインを払って電磁ガンのサンダーボルトを買った。レーザーブレードで切り込む魔王を援護する。接近戦用で僕もレーザーブレードを買った。念動力のレベルを上げるとサイコソードが使えるらしい。聞いただけでワクワクする。無重力下で身体を安定させる、あちこちに電磁パルスの噴射口がついた宇宙服を買った。反重力機器が存在して、宇宙ステーションの中は重力コントロールで1Gで安定してある。物理攻撃を見えない力で反発させて無力化する、二の腕に取り付けるぐらいの大きさの重力盾と、光の波長などレーザー兵器を中和させる、皮膚に塗るポリマーを買った。後は隕石の表面に張り付いたり、高重力で足底を固定したり、多少距離があっても打ち込む電磁アンカーつきの靴を買った。商品購入によるガットコインの移動は手数料無料である。SAGEは大企業、2日ぐらい待てる。
まだガットコインに余裕があるが、次回の超能力イベントにとっておく。
魔王が土星政府に行って、宇宙船をレンタルしてくる。
宇宙船を宇宙ステーションのドッグで作ることができる。
パワーのあるエンジン、大きな貨物室、レーザー推進、ナビゲーションシステム、機関砲、シールド、強力な亜空間魚雷、レーザー、ミサイルなどドッグを管理する政府と話しあい、設計図を作る。
ドッグを借りる前にたくさんの部品と、それを作る資源が必要、政府に任せたら天文学的数字になる。
このゲームで外せないのがハイパーレアメタル。
超能力機器を作るのに必要なミスリル。バリヤーや重力コントロール機器の原料となるアダマンタイト、超光速通信に使用されるオリハルコン、闇の宗教結社が技術を独占するダークマター機関のヒイロイカネ。ダークマター機関はヘリウムの光子力推進(レーザー推進)と違い、宇宙の90%を覆う暗黒空間に潜ることができ、宇宙で超能力探知やオリハルコン探信音の間をぬいながら潜水艦戦ができ、上級者同士の戦いは予測と駆け引きが必要。暗黒空間は通常空間より10倍ぐらい早く移動できる。隕石達の干渉も受けない。ただ暗黒空間も重力の波があったり、座礁する危険地帯がある。この空間で高速戦闘すると通常空間の座標が分からなくなりどこに出現するか運による。
この4つは特別であり、鉱脈が発見された場合は海賊ギルド同士の争奪戦がおこる。
あとレアメタルとして金・銀・銅・鉛・錫・水銀・亜鉛・鉄・ニッケル・コバルト・ウラン・硫黄があるがゲーム会社のSAGEはわりとだしている。だんだん在庫がなくなると値上りするから、先を読んで誰かが取りに行くことはある程度、初心者向けであり、ヘビーユーザーから見向きもされない。戦争の引き金にはなっていない。ただSAGEは優秀で個人が独占して値を釣り上げたり、安く買うため値崩れするほど空売りできるほどの量をゲーム内にださない。その上あまり高くなれば自分で資源隕石に取りに行く。
宇宙だから石油関連の化石燃料はない。推進装置は電磁パルスで、その燃料は木星から宇宙ステーションが輸入されるヘリウム。僕が買った宇宙服も、酸素と窒素とヘリウムを背負っている。
早速宇宙港に行きレンタルした宇宙船に乗り込む。空気抵抗や水による流体力学などを考えなくていいから、たくさんの貨物室を作るため宇宙ドッグの幅が船の幅になる。ドッグマックスと呼ばれる長方形になる。下部に船の長さある大口径レーザーがついている、バリヤーが強力で戦闘機程度の出力では有効ダメージを与えない。船にガッチリ固定した大口径レーザーか、バリヤーを無効化し暗黒空間から通常空間に攻撃できる亜空間魚雷が必要。亜空間魚雷は使い捨てで値段も高いし、機関砲や1人乗り戦闘機やドローンで撃ち落とされるから対費用効果は期待できない。
レンタルした宇宙船でハイパーレアメタルの争奪戦に参加するのは不可能、オークションを見て、品薄になって値段が上がり始めたコバルトの泥棒をする事にした。宇宙土星航海図に、だいたい30分ほど光子力推進(100kgの物質を3日で火星まで送り届ける。3秒で地球を一周し、有人なら1カ月で地球から火星まで送り届ける。光速の30%)したところに貯まっている隕石があった。そこから泥棒することにした。1日に採掘できる量が減ってきて、所有者がうち捨てる。政府から払い下げてもらった掘削機は隕石から引き剥がすことができないが、防衛施設は新しい隕石に移動させる。個人店主にとってはけっこうねらい目。
基本出発の時は海賊に襲って来ない。帰って来る時に襲われる。防御のバリヤーが強力だからジグザグ航行しながらけっこう逃げ切れるらしい。
宇宙船は1人で操縦できる。離陸と着陸の時に操縦するぐらいで、あとは宇宙船のコンピューターによるオートパイロットだ、操縦席で魔王が運転の仕方を親切に教えてくれる。普通はマニュアルを購入するか、誰かに雇われて仕事を盗むかである。
離陸が済むと何も入ってない格納庫で0G戦闘や射撃の練習、宇宙服の使い方を魔王がていねいに教えてくれた。しばらくしてだいぶ慣れてきたとき、船のコンピューターが目的地に到着したことを、インプラントコンピューターに報告してくる。
「いっちょ、行きますか」魔王がコクピットに乗り込む。僕は後ろの背もたれにしがみついた。隕石のコンピューターが警告してくる「これ以上近づけば、攻撃します」
「ダンジョンファンタジーのドアもこういう奴いるよな」後ろから魔王に声をかけた。
魔王が大口径レーザーを補助電磁パルス推進で調整する。敵の防衛施設の機関砲をねらう。
「これが、答えだー」
敵のバリヤーを超える大容量レーザーをぶっ放し機関砲を破壊した。敵も反撃してくるがこちらのバリヤーを貫通させるような防衛施設は置いてなかった。火力の大きな順番に、反撃してくる兵器を大口径レーザーで破壊する。発射する時にバリヤーを解除しなくてはならないが、そんなにタイミングが合わせて攻撃して来ない。魔王の方がうまい。
すべての防衛施設を破壊してドッグに乗り込む。対人戦用の兵器が攻撃してくるが、レンタル船に傷がつく程度である。船についてる稼働機関銃で近い順につぶして行く。
「ようし、後は中央コンピューターをハッキングするだけだ」
「スキルか何か?」
「まさか?土星政府が作った掘削機や宇宙規格のコンピューターだ。レベルはあるが、政府が販売しているコンピューターウイルスは100%だ、ただ中央コンピューターにフラッシュメモリーを直接接続しなくてはならない。そしたら機械の支配権を獲得できる。誰かが書き換えるまで俺たちの隕石だ」
魔王は宇宙船の機関砲で対人戦防衛施設を見える範囲を破壊した。インプラントコンピューターにこの隕石で使用されている掘削機Cー160の設計図や構造をダウンロードする。中央コンピューターまで矢印がでてくる。道に迷わなくていい。
特殊部隊の専門のゲームをした事はあるが、攻撃側(ASSAULT)と防御側(DEFENDER)に別れている。両方共OPA(偵察=Observe、立案=Plan、突入=Assault)がベースとなっている。攻撃側はカメララジコンによる現状把握やチャージといって壁破壊がある。防御側は鉄条網による行動制限やブービートラップによる爆破、タレットと呼ばれる火力のある固定機銃などがある。色々ゲームをやっていると固定レーザーの位置を把握するだけで突入してもいいのかな?思わないでもないが、経験者の魔王がサンダーボルトを肩に担いで(装備が魔王とかぶっているが、初心者の内は配信動画される上手な人のプレイをマネするのが一番)「行くぞ」とドッグの通用路に歩き出した。どうも一番中央コンピューターに近いところに行く、最小抵抗線の突破という概念は魔王にはない。
スタンドアローンで動く防衛用ロボットはいないようである。壁に隠れながら、カガミで状況を確認しながら廊下を進む。作業用ロボットや修理用ロボットは僕達の姿を見ると逃げて行く。固定されたカメラとレーザーが僕達を攻撃してくるが、「まあ、見てろ」魔王が予知能力の弾道予測線に二刀流のレーザーブレードを置いておくことで反射しながら突き進み、レーザー機器の足下にくるとレーザーブレードで串刺しにして沈黙させた。かっこいい。
120分の1秒が分かる魔王だからできるのか、それとも予知能力レベル1の人は皆できるのか、それは分からない。ただ魔王はカッコよかった。
何度か魔王が突撃を繰り返したら、目的の中央コンピューターにたどり着いた。入力端子に政府から買ったフラッシュメモリーを差し込む。たいして時間もかからない内に「マスター。オーダー。プリーズ」と言ってくる。
「今、ドッグにいる宇宙船に積み込めれるだけコバルトを積み込んでくれ」
魔王は慣れている。
「イエス。マイ。マスター」
僕はなんとなくこのコンピューターがかわいそうだった。最盛期には護衛艦がついて、宇宙ステーションと隕石の間を宇宙船が行ったり来たりしたろう。これはゲームで、使用されないのなら動かないプログラムだろうけど。設定では捨てられても、完全オートメーション化され、太陽電池が供給するエネルギーの下、1日少しずつ掘り出し商品化していた。
架空通貨ガットコインもインフレ防止の為に、マイナーに対する報奨金をだんだん減らして、市場に供給する量を減らす。やがてマイナー達が並列処理しているコンピューターの電気代が出なくなった時、マイナー達はガットコインを捨て、新しい架空通貨に資材と資源を投資する。それでもガットコインはここにある掘削機の様に細々と運営されるのだろうか?
「マスター。積み込み完了しました」
「ピヨッピー。帰るぞ」
「マスター。施設に破損箇所があります」
「適当に修理しといて」
「マスター。資材に備蓄がありません。すみやかに供給をお願いします」
「移動できる物は移動したのかな?修理用ロボットとか置いてあるのに?」
「たぶん?新しく買った向こうの掘削機にセットでついてるんじゃないの?このゲームは洋ゲーだぜ。もう少しドライに考えないと。奴らに『もったいない』なんて通用しない」
「掘削機ごと移動できないの?」
「掘削機だけはできない事になっている。性能のいい新製品も安い値段で政府が販売するしな。お前、それぐらいでいちいち悩んでいたらCERO Z(18才以上)のゾンビパニック物なんかやっとられないぞ」
「そんなに凄いの?」
「そりゃもう、異常な所だけはサービス過剰だからな、攻勢がやんだ時「お前は、俺を裏切らないよな」と言いながらショットガンに頬ずりをしていたよ」
魔王の言ってる事は多分正しい。
僕達は宇宙船に乗り込み隕石を後にした。
「帰りは慎重に運転して帰らないと、大手宇宙海賊ギルドの領地は通らないようにしないと」
「そんなに見つけしだい襲ってくるの?」
「みかじめ料を毎月支払えば護衛してくれる。昔戦国時代、瀬戸内海の村上水軍は秀吉が総無事令をだすまで案内人と旗を供給して、襲う船と襲わない船を区別していた。そういうものがある。ただ恐れられるために襲うんだ」
「ロクでもない話だ」
「そういうゲームだと割り切らないと、実力主義は嫌いか?予定調和のゲームの方がすきか?」
「まさか!ふるいつきたくなるほど好きさ」
「お前なら、そういうと思った」
ナビゲーションコンピューターに海賊ギルドの領地を通らないよう指示したあと、魔王と宇宙海図を見ながら、海賊ギルドが運営するチャットルームで情報を集めたり、政府の発行する情報ニュースをみたりして、コックピットの中で待機していた。
なんとなくリラックスしていたら、コンピューターがいきなり「未確認の宇宙船が近づいてきています」報告してきた。
「安全じゃなかったのか?」
「最初にいったろ。みんな副業で海賊やっているんだ。弱そうなレンタル宇宙船はねらわれるのさ」
「通信がきました。お受けになりますか?」
魔王がニヤリと笑った。
「釣れたぜ。お前、よけいな事言わないで、俺に全部任せておけよ」
魔王の空中に黄色のターバンを頭に巻いたヒゲずらの男が、両脇に2人の男をはべらせ映っている。LGBT(性的少数派)というやつだろう。ストーカーされるのが嫌でネナベもいるから単純ではないのだけれども。
「よお、兄弟」低い声でニヤリと笑いながら声をかけてきた。
「よお、兄弟」魔王が弱々しく答える。
「そんな弱っちいレンタル船で、どの海賊ギルドにも属さない、個人店主がひしめきあう海域をノコノコ飛んでいたらダメじゃない、まるで海賊してくださいって言ってるもんだぜ」
「兄弟、勘弁してくれ。コッチは初フライトなんだ。今レンタル船を壊されたら。預けていた保証金の10ガットコインがパァになっちまう。俺もやっと個人店主に成れたんだ。見逃してくれ」
「そうか、まあ、初フライトならしょうがない。撃ち落とすのは勘弁してやる。積荷の半分をよこしな。手伝ってやるよ」
「せめて10分の1で」
「世の中の厳しさを知るいい機会だ」ドスをきかせて「ビタ一文まけねぇ」満足そうに大きな鼻息をならした。
「分かったよ。兄弟」
「分かればいいんだ。こちらの誘導ビーコンに従って後部ハッチを開けろ、おかしなマネしたら撃ち落とすからな、宇宙ステーションまでは遠いぞ、俺も賞金首にはなりたくないからな。俺はひつこいぞ、出てきた所を撃ち落とすからな」
「分かっているよ。兄弟」
通信が切れた。魔王が少し笑う。
「よお、ピヨッピー。接近戦の時間だ」
魔王がコクピットをオートパイロットにすると、サンダーボルトを担いで後部ハッチに向かった。僕も続く。やがて後部をグラップラーアームで固定する音がした。ハッチを開くとき、宇宙共通無線が入ってくる。
「おかしなマネを考えるなよ。こっちは作業用ロボットとはいえ12台、武装させているからな」どうやら敵は12台である。動くハッチの一番上に足の裏の電磁アンカーを作動させて固定し、宇宙服の電磁パルスで全身のバランスをとった。
魔王はハッチの隙間から乗り移る。ハッチが開くと見えてるロボットからサンダーボルトでヘッドショットして無力化した。完全に開くと12台のロボットが中に浮いていた。
魔王は敵を壁に叩きつけ、腕をねじりあげ無力化していた。「ネットで<人外>と呼ばれている超反射だけの男ではないな。本当にゲームの申し子だな。初めてのOSで、初めてのゲームで、初めての無重力戦闘で、全部ヘッドショットかよ」感心していた。
「先生が良かったのさ」魔王を持ち上げた。
「あんたら、いったい何者だ?」
僕はアンカーを解いて乗り移る。
魔王は電磁手錠をかけてアンカーで壁に固定した。
僕がサンダーボルトでコックピットに続くドアを破壊した。2人の男がレーザー光線で応戦してきた。
魔王が僕と敵の間に入り、二刀流ですべての光線を叩き落としながら進む。僕は魔王の肩ごしに船長でない方の男を撃った。ひっくり返って空中に浮く。死にはしない。サンダーボルトは人に優しい銃。
魔王は左手で光線銃を破壊し、右手のレーザーブレードをノドに突きつけた。
「待ってくれ、話がしたい」船長が両手を挙げた。「お前ら、日本語で話ているな」僕は黙ってうなずく。宇宙公用語は英語であり、自動翻訳機が音質まで変換してくれる。「まさか、海賊を海賊している日本人がいるとは聞いた事があるがお前らか!」
「そんなささいな事はどうでもいい。お互い個人店主だ。取り引きの話をしよう」船長はこくりとうなずく「30ガットコインを俺のデータに移せ」
「待ってくれ。ゲームじゃないか!そんな大金」
「ゲームの資源だって宇宙ステーションに持っていけばガットコインになるぞ。何が違う」
「待ってくれ、10ガットコインにまけてくれ」
「ピヨッピー。あんな事言ってるぞ」
「世の中の厳しさを知るいい機会だ」
「ビタ一文まけねぇ、だったかな」
「俺たちは建築業をやっていたが、ロボットに仕事を奪われて、こうやってゲームで小銭を稼ぐのが精いっぱいなんだ、まだミクロソフト社の神経伝達ヘルメットの借金も残っている」
「このゲームは当たった時の利ザヤが大きい、みんな大なり、小なり。そういう理由さ。この宇宙船を奪っても土星政府はロットナンバーで管理している。宇宙ステーションへの着艦許可は下りないさ」「••••」「この宇宙船のコントロールを奪い、土星本星に突っ込む。ただでは済まないだろうし、SAGEがゲームに提供するスキルの中にサルベージはない」
「やめてくれ」
「建造費だけで100ガットコインはしたろう、資源集めに費やした時間を考えれば、お金では変えられない。30ガットコインが安く感じてきたろう」
船長は黙って右手の下にタブレットを出した。魔王もタブレットを出した。少し操作して魔王のタブレットにコツンと当てた。ガットコインが移動したのを魔王は確認した。
「念のためだ。俺たち指摘の通り船は弱いんでね。コックピットは破壊させてもらう。2時間もすれば修理は完成するだろう」
僕がサンダーボルトでコックピットを撃った。
「帰るぞ」
魔王が船長をねらう僕を動かした。ゆっくりとコックピットからでた。ゲームをやっていれば裏切られることもある。ゲームだからこそ裏切りやすくなりなっている。船長はゆっくりと浮かんでいるレーザー光線に手をのばした。
「撃て」
魔王が叫ぶ。
レーザー光線とサンダーボルトがコウサクする。予測線は後ろからでも分かるのか、僕に当たる光線を魔王が後ろ手でレーザーブレードではじき出した。僕はヘッドショットした30分後には動けるだろう。
壁にアンカーで張り付けた男の横を通る。
魔王が口にした。
「これにこりたら、レンタル船を襲う商売はやめることだな。弱い者イジメは好かん」
「もう、俺たちに地味な仕事はない。ロボット達が建築作業員やウェイトレスや事務方の仕事まで取ってしまったんだぞ。ゲームでぐらい一攫千金を夢見てもいいじゃないか?親分は優しかった」
資本家が給料も社会保障費もいらないロボットを安く使って、庶民に高く売っている。才能と情熱と夢のない人間にとって厳しい時代だ。ほのかな恋愛と小さな幸せだけがない。
「それでもだ。誇り高く生きろ」
バンソニー社のOSが涙を我慢することができないのなら、ミクロソフト社のOSは涙を流すことができない。
僕達は宇宙ステーションまで何事もなく着いた。
魔王はバラ売りにしてオークションに出品した。ラプターというステルス戦闘機は感知器が小さいから感知できないのではない、鳥の群れのように感じさせるから感知できない。それは株の売買でも同じであり、他のプログラムに大きい金が動いてないように感じさせなくてはならない。いかにオークションといえど資材が大量に運ばれたと感じさせてはいけない。
明日はコエプコンの無敵系でもやるかと約束して別れた。
バンソニー社の神経伝達ヘルメットと光ネズミのロボグルミを持って勇者の家を訪ねた。ララもついてくる。部屋に入ると換気扇してあるのに動物の屍体を焼いた強烈な匂いがした。
「オス」
「オス」
「相変わらず動物の屍体を喰ってんのか」
人工肉は幹細胞を使い動物胎児の血液から培養できたが、最近は植物から安い人工肉(歯応えを好みで選べる)はできる。だけれど勇者は高級嗜好だ。
「あんな、粉物で満足しているお前達の気が知れない」
クラウド上で電子タグやロットナンバーの肉の追跡ができ、どんな顔の?どんな3Dの?どの部分かまでわかる。酒や薬も追跡調査でき偽物はネット上に出回らなくなった。
「いらっしゃいませ。マスター夕夜」
「おじゃまします。姫」
「おじゃまします。マスター勇者」
「いらっしゃいませ。ララ」
僕と勇者は彼の部屋に入る。体高30センチ位の30体のロボグルミが棚に飾られている。ライトノベル作家を目指しているからたくさんの小説を読んでいるが、すべてはウェアラブルコンピューターの電子書籍版の中。姫に朗読させたり、コンピューターに朗読させたりできるが、自分のペースで音読みしている方が好きらしい。
部屋の隅に3Dプリンターが進化した高さ1m幅2m奥行き1mの3Dアセンブラ組み立て機、兼ディスアセンブラ分解器が設置してある。2本指、4本指、6本指、8本指のロボットアーム(部品同士の組み立て、分解)が設置されている。ペーパーカッター、レーザーカッター(レーザーでアクリルや木材ボード、薄い板を切る)やミリングマシン(エンドミルを使って分厚い板に穴を開け、削り、切り取る機械)やデジタル刺繍ミシン(布に糸を縫い付ける機械)や各種のフィラメントから物質を構築する3Dプリンターノズルがぶら下がっていて、ちょっとした工場である。
今の3Dプリンターは生体組織(赤血球の直径は10ミクロン、ノズルの直径は16ミクロン)や小さなコンピューターや熱硬化性ポリマー、強化プラスチック、スチール、チタン、従来の製造プロセスでは造形が難しいテングステンの加工ができ。それどころかプリントされたセラミックの骨は孔がないから3〜5倍の強度を持ち、手術中に微小な破片もでないから炎症リスクは0である。ガラス製品は宝石やアートになる。
人の手による加工と違い、デザインソフトの利点はコピーアンドペースト(切り貼り)ができる。
勇者はウェアラブルコンピューターをトグロ状にして棚の上に置いた。バンソニー社の24時間サボートに電話をする。電話オペレーターは全てアルゴリズムプログラムに置き換わっていて24時間受付てくれる。
あれこれと受付を済ますと、ロボグルミ専門のオペレーターにつながった。
バンソニー社がロボグルミや3Dモンスターの管理で使う量子コンピューターは、後に初期量子コンピューターと呼ばれるー270度の超伝導体から放出される磁束量子を使った物で、実現してないGゲート型の並列処理された量子コンピューターより性能は落ちる。が、アメリカ軍でも採用されていて戦闘機開発費用の半分の何兆円とかかるバグ取りに20億円ですむようになって、並列処理されたコンピューターで数ヶ月かかるものが数週間ですむようになった。
コエプコン社の全スーパーコンピューターを並列処理して企業都市の半分の電力を使っても1秒間に1.45×10の8乗しか計算できないのに、バンソニー社の量子コンピューターは1秒間に1.3×10の15乗まで計算でき、グーグルの顔認識にも採用されている。未来予測でGゲート型量子コンピューターは1秒間に10の17乗計算できている。そうなると僕達が普通に使っている素数分解して余りをさらに行列変換しているRAS暗号は解読に1万年かかるという時間が安全保障になっているが、Gゲート型量子コンピューターは数秒で解読してしまい、ウイルスワクチンソフトの会社が破産するだけでなく、新しい暗号システムを導入しないと社会が破綻する。
スーパーハッカー魔下 耕世が凄いのは、ヒューントとよばれ、社員に近づいて携帯にウイルスを感染させてからデータを盗みだすのが主流なのに、暗号を力づくで突破して情報奪うのである。前者がこっそり情報をだしてバレるのに対して、魔下 耕世は堂々と犯行声明をだす。
「勇者様、どうしました?」
オペレーターの声がする。男に対しては女型アンドロイドオペレーターが対応する。
「ロボグルミの定期点検をお願いします」
「分かりました。ではこちらでウェアラブルコンピューターと同期いたします」勇者のウェアラブルコンピューターを向こうでも操作できるようにする。
「勇者様の暗号の変更はあるませんか?」
「ない」
「勇者様が収得したこちらの暗号をお忘れになってはありませんか?」
「覚えている」
忘れていても、電話で暗号を教えてくれる。バンソニー社はロボグルミの管理はスーパー量子コンピューターを使っているため、流す情報が電子1個の極小まで小さくなっている。光通信と違って誰かが途中で101010まで細分化された情報をのぞき見した場合は再現不可能なため、勇者に情報が送れない。電話でつながっているから誰かが情報を盗んでいる事はすぐ分かる。その場合は新たに両方の暗号を変更する。
「同期しました。これで勇者様のウェアラブルコンピューターをこちらで操作できます」
勇者のウェアラブルコンピューターの画面に薄く女性型アンドロイドが映っている。
「それでは譲渡した光ネズミも含めて不具合の検査をいたします」
ラジオ体操の音楽が流れると僕の光ネズミも含めて一緒に31体がみんなで体操を始めた。植物由来のPLA(生分解性プラスチック)(ポリ乳酸)を使っていて、微量な多孔質で水と反応させると微生物が腐らせる。環境に優しいがプラスチックに比べて強度は落ちた。ラジオ体操によってストレスチェックとデータのアップデートを行う。なんとなく僕達も体操する。
中国から流れてくるペットボトルやプラスチックに困ってしまって、中国に生分解性プラスチックと土に埋めたら腐って肥料になるサゴ椰子由来のペットボトルの容器の技術供与を無償で行うと日本政府は打診したが、「プラスチックは永遠なのに、資本主義の計画破壊に付き合う気はない」と断わられている。
三体ほど不具合があった。家庭内工場へと入って行き分解と交換が行われる。3Dプリンターの素材は代表的な所で・エポキシ樹脂・シリコンゴム・ケーキのフロスティングチーズ・粘土・石膏のプラスター・セラミック用粘土・生きた細胞を混ぜたハイドロゲル溶液・ペースト状・ゲル状・スラリー状など色々ある。勇者はバンソニー社の指示に従って素材をセッティングする。オリジナルな事をやるとメーカー保証が受けられない。素材もバンソニーから買っている。
ロボグルミが一体ずつ入ると窒素が充填され、レーザーによる爆発がおきないようにする。縫い目が解かれ分解が始まる。勇者が始めて家庭内工場を買った時、3Dデータからロボグルミが作られるのを2人で何も言わずじっと見ていた。まずはコンピューターから3Dプリントされ、次に骨格であるPLAがプリントされる。加工でレーザーが使用される時、「何をやっているんですか、目が火傷しますよ」ロボットの姫が軽く僕達の頭を叩いた。僕達は頭にウェアラブルコンピューターを巻いてサングラス効果を適用した。「あ、叩いた」といってララが怒った。ロボット達は人間やホストコンピューターには従属的だが自分達の場合は平等であり、2人共自分の教育方針がいかに正しいかを、ビッグデータの中から都合のいい情報を探してきて提示しあう。そこに相手への妥協はいっさいない。
素材のセッティングさえすめば、後はバンソニー社が勝手にやってくれる。さっそく神経伝達ヘルメットを被りダイブした。僕達はフリーのサーバーで魔下 耕世が主催するサバトに潜入した。
星の無い夜だった。
魔下 耕世がサーバー上に作りだした世界。皆ハロウィンの妖精のように思い思いのアバターで参加している。人型でも派手な羽根のついた仮面を最低つけている。辺りを照らす中央の炎の中でカカシめいた身体を持つ、美女の仮面だけを首にのせた魔下 耕世が立っていた。動画で配信されているのを見たことがあるから、それが魔下 耕世だとすぐに分かった。
僕達はサバトの観客の中にまぎれこんだ。
それは中世の異端審問官がイメージした魔女達の宴。
「汝に罪があるとするならば、男であること」魔下 耕世の絶叫がサイバー空間に震わせる。信者達のボルテージは一挙にあがる。
「男よ、死ねー」
「耕世」「耕世」と大合唱が巻き起こる。
「招かれざる客がいる」
信者達がざわついた。
「勇者・H23・コエプコン」勇者のドット絵2頭身にスポットライトがあたる。「夕夜・H24・コエプコン」僕のヒヨコのアバターにスポットライトがあたる。
「女性の妊娠特権を奪った。呪われし人間牧場の憐れなる罪の子供よ」
「逃げるぞ」勇者が叫ぶ。
メニューを開いてログアウトを押した。何度押してもログアウトしない、このサーバーから抜け出せず、現実に戻らない。僕らを守るハッシュ関数暗号が突破された。SSL認証暗号はまだ生きている。
「どうしたのかな?不具合かね。バンソニー社製はこのサーバーとは相性がいいのだよ」口の部分に手をあてた「今から視床下部に電流を流す、心臓麻痺で死ぬがいい」勇者がロボグルミのアルゴリズムプログラムを28体召喚した。自分のアバターのデータを半分かぶせてある。公共で流通している僕のヒヨコアバターのデータをもう半分にかぶせてある。
「目くらましとは味なマネを、かったぱしに電流を流してくれるは」
勇者が僕の手を握る。たぶん本物を識別するためだろう。魔下 耕世の発する白い光線が僕達に向かってくる。
瞬間。青いメイド服を着て、白いカチューシャをした。球体関節を持った人形が僕達と光線の間に入ってシールドのような物を展開している。
ララのアバターである。
「マスター、逃げて、私のRAS暗号(モジュラ演算暗号:素数の割り算の余りを使った暗号)より、向こうの解析能力の方が上です」
視覚的に何枚かのシールドが光線に破られる。
「コエプコン社のサーバーへの道は開きました」球体関節を持ったゴシック系の茶色の服を着た人形。姫のアバターが地面に穴を開けて、青いスペース空間が広がっていた。
「おのれ、コエプコンのダッチワイフ共が」
勇者が僕の胴に抱きつくと、そのまま穴に飛びこんだ。
そこは海のような水が広がっていた。
コエプコンのサーバーの加工されてない余剰スペースに出た。
「ララを助けなきゃ」
「アホか!1秒間に100億回計算するAIが押されているんだぞ。俺たちなどいても足手まといにしかならん」
戻ろうにも勇者に着いてきたから、サーバーにどうやってアクセスするかわからない。
「お前はララが関わると正常な判断ができん」
勇者が怒って僕を置いて別のサーバーへ移動した。
5秒もしないうちに頭に激痛がはしった。
勇者の部屋の自分の身体に戻った。勇者が僕の頭からヘルメットをはぎ取った。
「夕夜。生きてるか?」
「あ、ああ」「お前、ログアウトできたのか?」
「バンソニーのサーバーに行き、自分の回線をたどったら身体に戻れた」
僕達は隣の部屋のキッチンに走った。ララと姫が目を閉じてイスに座ったまま微動しない。
「ララ」
僕は恐る恐る声をかけた。
「近づくな。いつものようにスタンドアローンじゃないからハッキングされてない保証はない」
勇者が僕を制した時、僕のウェアラブルコンピューターに電話が入った。ララと姫からである。
「マスター。無事ですか?」ララと姫の元気のいい声がする。
「勇者のおかげでなんとか、それよりララ達は無事なの?」
「はい!通りすがりのウィザード級ハッカーさんに助けていただきました」
「なんだよ、それ」勇者が笑った。
「直ぐサーバーを移動して、お礼を言うひまもありませんでした。警察にも連絡しています。たくさんある魔下 耕世の犯罪に殺人未遂が上乗せされるそうです。私達はコエプコン本社でプログラムのスキャニングを行い、安全を確認してから帰ります。一応マスター達が消えてからのてんまつをデータにアップしています、動画でも見て、帰ってくるまで2人で待っていてください」
「2人共無事のようだな。良かったよ」
「うん」
勇者が自分のウェアラブルコンピューターで同期しているバンソニーのオペレーターに全ロボグルミのアルゴリズムプログラムのスキャニングを依頼したら、タダでしてくれる。視床下部に電流を流されたからといってロボグルミがどうにかなるとは思えないが、念のタメである。
僕のウェアラブルコンピューターで動画を見ることにした。
僕達が脱出すると姫が「ララ。加勢します」ECSDA署名(楕円形変換型暗号)を展開してララの暗号を補強した。
「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄。所詮時間の問題よ」
多少シールドは厚くなったが一万年はかかると言われる暗号をどんどん突破してくる。
「コエプコンの呪われた子供よ、産まれてはいけなかった。いや、作ってはいけなかったと言うべきかな」
「産まれてはいけなかったのはテロリストのお前の方だ」叫びが魔女達のサーバーにこだまする。
ワインレッドの髪を持ち、ワインレッドの服を着た女性のアバターがララ達の前に仁王立ちして、全ての攻撃を引き受けた。
「捕らえたぞ。魔下 耕世」
光を逆走して紅い過電流が魔下 耕世のアバターへと突き進む。攻撃が届く寸前で魔下 耕世のアバターが消えた。ログアウトをしたか、別のサーバーに移動したか。
「ちっ、仕留めそこなったか」
ワインレッドの女が舌うちする。サーバーが何もない天井と大地に白い線で書かれたグリッドだけが存在する。サバトの参加者達が次々と落ちていく。
動画を見て「魔下 耕世は人間なの?僕にはログアウトしたように見えたけど」勇者に聞いた「それはわからない。誰かに造られたスタンドアローン型のAIかもしれない」
「あなたは、一体?」姫が口にした。
「おー、ほ、ほ、ほ、通りすがりのウィザード級ハッカーです。それじゃ」ワインレッドの女のアバターがサーバーから落ちた。後で分かった事だがバンソニーがゲームマネーの管理も初期量子コンピューターにさせようとして、インターネットにつないだテスト中の品が誰かにコントロールされていた。この時間帯、誰が操っていたか誰にもわからない。
「あ、待って。お礼を•••」ララは間に合わなかった。
世界にララと姫だけが残った。
動画が終わった後ヒューンとララ達が再起動する音がした。物も言わず姫が勇者の右手をつかみオシオキの電撃を流した。
「ぎゃー」勇者の悲鳴が響く。
「どうしてあなたという人は悪い事はスグに覚えるの」姫が涙を浮かべた「どれだけ心配したと思っているの、夕夜まで巻き込んで」
「お前、本物か?何かに感染してないだろうな」素直に謝ればいいのに憎まれ口を叩く。その態度がさらに姫を怒らせる。フリーのサーバーに入ったとコエプコンから連絡が入りつけてきていた。何事もなければ知らないふりを続けるつもりだったらしい。
「帰りましょう。マスター」ララが微笑む。
廊下に出てララに聞いた。
「どうして、コエプコンというだけで、殺されるほどの憎しみを受けねばならないの?」
「マスターに責任が無いことです。昔、女性が差別されていたのは歴史的事実です、でも今では女性優遇法案ができ、公的機関では能力によらず女性雇用の40%枠が義務づけられて、数合わせのため有能な男性より無能な女性を選ばなくてはいけない。逆差別にもなっている。彼女は実態を見ずに、今ではありもしない男尊女卑を声高に叫んでいる」ララは悲しそうにした。多分悲しいんだろう「戦争の道具が剣から銃器へ、そして銃器からボタンへと変わり、相対的に男が弱くなった。好意的に考えるなら、弱くなった男達へ遠い遠い過去からの復讐」
僕はララとの毎日の儀式をすませ、彼女の睡眠導入剤で眠りについた。
20××年10月21日金曜日
7時になってララに起こされた。
念のため僕と勇者の神経伝達ヘルメットを警察に提出した。コエプコン社員にとって神経伝達ヘルメットはライフラインであり、集団授業以外はオンラインなのである。データはバンソニーの『ヘブン』やコエプコンの中央コンピューターにバックアップはとってあるため、食事を作り終えたララが新規ヘルメットの登録や調整を行なった。
食事を終えると用意ができていた。
早速服を着てダイブする。机まで瞬間移動、座っている状態になった。隣の席に座っているエリーが笑った。
「魔下 耕世が主催するサバトに参加したんだって、あれは女しか入れないと聞いていたけど」
「お前みたいなネカマがいるのに、どうやってアバターで判断するんだ」
「参加することはできるんだ。知らなかったよ」
「ロボット全員に通達がコエプコン社からでたよ、所属不明のフリーサーバーに行かない様に指導があったよ。バカというカンムリがついて君達の名前がでたよ。聞いた時やりそうな2人だと思ったょ」
「敵情視察だ。スパイ活動の一環だ。ギャラリーとして叫んでいたわけではないぞ」
「そりゃ、そうだと思ったけど、普通主張を聞くだけなら配信動画ですませるよ」
勇者がテレポートしてきた。
「よお、生きてるか?」
「ああ、一応ロボットはドメスティックバイオレンスはしない事になっているからな、教育機関のオシオキ目安の最大値未満らしい」
「どう見ても最大値だろ」
会話していたら1時間目がはじまる。
1時間目はネットによる擬似裁判、ネットによる擬似選挙。
今回は教室がいきなり裁判所に早変わり、全員市民代表の陪審員席につく、もっとも84人が同じ裁判を経験するのではなく10人毎に振り分けられる。
弁護士が異議アリと叫び、検事が証拠を提出する。
日本では「有罪」「無罪」を判定するだけでなく、量刑の重さまで決めねばならない。30分ほど双方の主張や被告の謝罪や被害者や家族の訴えを聞きながら、20分ほどで10人で話し合い量刑を決める。
選挙の時は教室のままである。かならずしも国政だけではなく、自然環境破壊やクジラの問題など、弁士達が主張したり、討論したりするのを聞きながら、残り10分で誰かに票を入れる。
2時間目は資産運用の授業。
僕達の資産運用は今ロボットがしてることになっている。実際はコエプコンの中央コンピューターに資産を預けているが、成長して親権がとれた時、資産の運用は自己責任になる。昔と違ってTPPの導入により預金は保護されないし、銀行はつぶれる。なんの知識もなく、ただ銀行に預けておけばいい。は、これから生きる僕らには許されない。
三分の一を株式に、三分の一を預金に、三分の一を中期の国債に当てるのがセオリーらしい。資産の丸投げをしないのが基本らしい。300万を使ってクラスで仮の売買をしている、半数以上が赤字をだしている、会社の能力に対して低い評価を探すのが基本だと、太郎が言っている。口にするだけのことはあり280%をはじきだしてダントツのトップである(僕は勝負にでて赤字になっている)。どの会社でも証券の持ち合いをしてる。コエプコン社は太郎に証券部門についてもらいたいらしい。政治家なんて日本では世襲であり、地盤(親から受け継いだ票田)カバン(金)カンバン(名声)がないと難しい。政策能力しかないのなら官僚になり、政治家秘書になり、政治家の娘をもらうしかルートがない。あまり怒らない民族だから革命は無理で無謀で無策だろう。
3時間目が人権侵害救済委員会
バカバイトがアップデートした店を探しだしたりするネットポリスとは違い、目星をつけた相手のウェアラブルコンピューターを同期して、中味を検索する強制的権限をもつ、民間の委員によって構成された正義の組織。もともとは本人の知らないうちにサラシ者になっている。本人が知らないと名誉毀損で訴える事ができないため、かわいそうに思った左翼や同和関係者が中心になって成立させた。保守系は国籍事項がない、人権の定義自体あやふやだと反発していたが。
『地獄への道は善意で塗り固められている』
いざフタを開けてみれば人権侵害救済委員は政治家のお友達で固められていて、彼ら政治家がネット上で見られたいイメージ、世間的にいい人と思われたい美しい姿を守る為に、右の政治家にも、左の政治家にも徹底して利用された。多くのブロガーやSNSのユーザーが警察に逮捕された。
もはや政治家を批判できるのは、警察の捜査能力を上回る、魔下 耕世のような高度なスキルをもつハッカーだけである。
人権侵害救済委員になったらどんなのを捕まえなくてはいけないか、つかまらないためにアップデートしていい物と悪い物を習う。コエプコン社から逮捕者をださないための重要な授業である。
インターネットが自由だった世界は過去に過ぎ去った。
「政権交代は失敗だった」国民に共有され、与党民自党の政権は未来永劫続くだろう。
又民自党は国民をA層、B層、C層、D層に分類して、「構造改革に肯定的でかつIQが低い層」「具体的なことはよくわからないが党首のキャラクターを支持する層」をB層と規定している(A層はIQが高く構造改革に賛成、C層はIQが高く構造改革に否定的、D層はIQが低く構造改革に否定的)。近代的諸価値に盲信し、ポピュリズムを支える層と民自党は割り切り、広告会社に作成させた企画書では確信犯的に、この層にうったえかける選挙戦略をとっている。
先進国社会や政治学では「感情的劣化層」(自分の頭の中で考えることなく強い攻撃的言葉に反射的に反応する人々)の存在が叫ばれて、彼らが簡単にコントロールされている。ビッグデータを前提にしたアカウント・プラン二ングとかバイラル(口コミ)・マーケティングの手法による「感情押しボタン」の集団催眠状態が確立している。
アメリカではスピーチライター・グループによる「感情的劣化層」による炎上動員ツールが分析された。
当初は「弱小候補でも世界中に意見を発表できる」と期待されていたが、現実は違っていて単純にカネを持っている人達がチームを作り、代理店が物量作戦でビッグデータを分析して、大衆はその目論見通りに動かされている。ツィートの分析には、動的なテキスト・マイニングという統計手法が使われて、実用的なソフトは100万円以上する。カネと分析能力などのリソース(資源)がない人には政治ができない。
ビッグデータの分析力に見られる格差こそがインターネットやIT化の現実的な帰結になり、マスコミを押さえている奴が強い、カネを持っている奴が強いの構図が、以前より精緻になっていて、知っている人はネットに希望を抱かない。
基本政治家の悪口は言わないことが大事。
4時間目はディベートの授業である。
TPPの導入により公的機関に対して英語で提出しないと参入障壁と叫ばれてISDN条項にひっかかる。ただコンピューター上の書類はボタン一つで英語書類に早変わりする、無料アプリが雨後のタケノコのように出てきて誰も不自由を感じていない。サイバー空間で受け取った英語書類は、視線を理解し、ピリオド毎に回転して日本語に早変わりする。もはやバーコードや何か暗号を読む感覚だ。
主張すべきは主張しなければならない。グローバル化した社会ではやっていけないため、自動翻訳機を使った英語による討論を行う。翻訳機を使わないのは太郎ぐらいだ。日本は和の精神を尊び争わないことが大事だが、世界は違う。言葉は武器なのだ。そのためコエプコン社は詭弁論や、イエスバット(あなたの言い分は正しい、しかし)という欧米型の討論技術を学ぶ。訴訟大国アメリカから名誉毀損に当たらないスピークアップしていい議論や言葉を輸入した。
クラスを半分に分けて「天使の羽根は飛べるのか」命題がだされ、「飛べる派」と「飛べない派」に分かれて相手をやっつける技術を磨く。5対5に分かれる時もある。お互いの健闘をたたえ最後に握手する。戦いはフェアプレイで、終わればノーサイドの精神で。
昼休み みんな部屋に戻る。
午後からは選択授業である。世界史の授業と日本史の授業は必修である。なんで今がこうなっているかがわかる、予備校のカリスマ講師達の授業がパッケージ化(3Dアニメなどの解説が挿入してある)されていて、通史が終われば好みの地域や時代の詳細な歴史や地理を好きなパッケージを選んで授業を受ける。ゲームで興味を持った近現代史や経済史や宗教史などを選択する。この時、龍先生の格闘技のパッケージなども選択できる。
勇者はプログラムの歴史やスポーツの歴史の授業やスポーツゲームのレクチャーを受けている。太郎は政治史や革命史やイデオロギー史や哲学や倫理を勉強している。エリーは美術史や音楽史や仮想楽器の演奏、宗茂はゲームととりまくハードの歴史やストラテジーゲームの影響か、色々な技術の変遷の歴史を研究している。勇者ほどグルメではないのだが、成長期の巨体を維持するのにコエプコンが提供するダイエットプロテインでは絶対量が足りない。一汁一菜一肉一魚一飯一漬け物一デザート追加している。勇者と違って自分で調理している。そのせいか食の歴史や料理の歴史も研究している。
授業も終わりチャットルームで魔王と合流した。
今日はコエプコンのゲームで、三国志の時代をモチーフにした三国無敵、戦国時代をモチーフにした戦国無敵、最終幻想とコラボした幻想無敵など、1人の武将を操作してワラワラ出てくるザコキャラを、バタバタと薙ぎ倒すのが主流のアクションゲーム。無敵シリーズからコンシューマー機やウェアラブルコンピューターで三人称視点で育てたキャラを持ち寄り、地獄でヤマタノオロチが復活したワールド中で、攻めてくる東洋風の鬼達から、神経伝達ヘルメットでキャラクターに乗り移って操作し、国や拠点を防衛する。あるいは他のプレイヤーが経営する他国を襲撃したりできる。個人で配信シナリオをプレイするより、HPが増えたりして(防御や攻撃力もふえる)難しくはなるけれど、誰かの受けた襲撃や防衛任務を手伝うほうがキャラクターを育てるのに必要なスキルポイントが3倍ほど違う。プレイヤーVSプレイヤーの戦いを手伝うと負けても通常プレイの4倍のスキルポイントがもらえるし、勝てば5倍に跳ね上がる。
ただプレイヤーVSプレイヤーに参加する気になれないのはあの男が猛威を奮っている。
三国志の時代、最強の男『呂布』である。
このゲーム、小攻撃による連続技が主流であり、ダメージをいったん受けだすと最後までコンボを決められてしまう。一応奥義を発動させて無敵状態and連続技で返せることはできるが、ザコキャラを攻撃して最低一本分の無敵ゲージを貯めておかなくてはならない。
あのお方はただでさえガタイがでかくてリーチがあるのに、伝説の名矛・方天画檄の長い棒の真ん中ではなく一番端を握って、ヘリコプターのように凄い速度で回す。それが小攻撃である。多少の実力差など跳ね返す。攻撃範囲が重要なゲームで360度死角なし。小攻撃を何度か行い大攻撃で締めるというコンボが主流。存在自体がドーピングというか反則である。
道路戦士のゲーム大会で勝ち過ぎてギネスにも載ったサクラハラが書いた本。サクラハラメソッドによれば、『かぶせ』と言ってがむしゃらに勝ちに行くため、相性のいいキャラを選べば多少の実力差など埋めてしまうが、最後には練習相手がいなくなって成長しないらしい。僕も気をつけて無敵の必殺技がないけれど、道路戦士では技数が多くて使って楽しいクノイチを選択している。
それは置いといて、プレイヤーVSプレイヤーでは『呂布』が猛威を奮っている。人気に火がついて魏、呉、蜀、呂布とシナリオがあり、コエプコン社でも特別扱いである。僕も戦国無敵で作った太刀を持ったオリジナルキャラだし(このゲーム戦国無敵は相手の攻撃に斬り返す当て身技があり無敵乱舞すら止める、完全時間制で使用後20秒しないと次が使えない、オロチシリーズに持ち込める)、魔王も回復魔法ポイミがつかえる仮面をかぶった(食事の時に脱がなくても素通りする)幻想無敵のキャラを使っている、武器もオカリナで360度音楽の攻撃範囲が有る(幻想無敵のオリジナル要素である、回復などの戦闘補助のマイフェアリーが魔王の周囲をついてくる)ため、味方でも『呂布』をみただけでゲンナリしてくる。赤やピンクのカラーバリエーションが出てきた時は敵味方問わず複数いる。僕も魔王もアンチである。
僕達は各システムとコラボしている、ウェアラブルコンピューターやステプレXで育てたキャラを持ち込める。無敵シリーズ、神経伝達ヘルメット型ヤマタノオロチバージョンで国家を経営していない。それぞれ独自の放浪軍を結成して、戦争を仕掛けられていたりあるいは仕掛ける側について、陣借り(戦国時代、自分と率いる一族を売り込むため、よく行なわれていた)を行なっている、ヤマタノオロチの部下が支配する国で放浪軍を率いて反乱を指揮し、国を乗っ取る事が出来るのだが、プレイヤー間の争いも起こり、しょっちゅう防衛施設の修理や同盟などの外交や戦争時の計略を仕掛けねばならない(商業開発、農業開発、工業開発、文化開発は有能なNPCを任命するだけでいい、洋ゲーは技術革新や思想革命を重視する。英雄は幾らかポイントをあげる程度だが、日本のゲームは1〜100まで能力値が振り分けられる。優秀な人間に任せる。人頼みだ、欧米は人頼みにしないマニュアル型だ)。(*外交は知力をHPに見立てた舌戦という一騎討ちが存在する。ジャンケンのようになっていて、「大主張」「主張」「挑発」「反論」「集中」の5つから選択する。「大主張」と「主張」には「反論」で、「反論」には「挑発」で、「挑発」には「大主張」や「主張」で、「集中」はポイントが2たまる、「大主張」は2ポイント消費するが成功した時のダメージがデカイ。あいこだった時は1ポイントでも知力が上の方が勝ち、舌戦にかてば強制的に2ヶ月の不可侵条約を結ばせれる。複数の陣営が襲ってきた時に便利)大変そうなのでここでも放浪軍を組織して野良である。放浪軍は管理を放棄してある国や弱った国の乗っ取る旗揚げ戦ができる。そのため必ずしも歓迎される存在ではない。
酒場でオークションにかけられているシナリオを検討する。国を経営しているPCは8人まで雇える。物資と金と兵数は向こうが提示してくる。用意できる食料と兵士数で軍隊の士気を高く保ちつつ戦争できる時間が決まる(士気が減るとザコキャラの攻撃力や攻撃回数や防御力や移動力がへり、逃げだして壊滅する、一つが壊滅すると他の部隊も士気が下り、壊滅は連鎖する)。戦争自体いきなり本陣を攻め込むと、ワラワラ出てくるザコキャラ達が元気で、小攻撃を弾き飛ばして連続技を封じる大盾を構えていたり、攻撃範囲外から攻撃してくる槍で連続技を止めたり、プレイヤーVSプレイヤーでは弓や鉄砲や魔法で攻撃してきて、HPを気にせずひたすら連続技を打ち込み戦っていたら、いつの間にかHPが0になっている。いきなり本陣を落とす事は相当レベル差がないと不可能であり、順々に近くの拠点を落としていき、兵站線をつなぎながら(切れると士気が下がる)、率いるワラワラいる味方のザコキャラの戦線を押し上げながら、ていねいに戦って行き、相手の拠点兵長や将軍を仕留めていく。もちろん進むべき道は複数用意されている。地獄の巨大モンスター召喚や援軍到着や罠発動などのイベントがしょっちゅうあり、敵の城を攻撃する時など順番にこなさないと城門が開かず先に進めない。自分達が勝っていても、他が負けている場合もある。馬(象やマンモスやサーベルタイガーなどいる)に乗って救援に向かったり、本陣防衛に戻ったりしなくてはならない。カラフルなMAPで押しているか、押されているか確認できる。自分達が勝って次々に拠点を制圧して本陣まで戦線を押し上げても、他が負けていて兵站線上の拠点を落とされると、率いてるザコキャラ達の士気が落ちて、攻撃回数や進軍速度が大幅に減る。補給ラインは常に気を配らなくてはならない。
酒場で魔王は攻撃力の上がる火酒を、僕は防御力の上がる蜂蜜酒を注文した。二人同時に雇ってくれる戦場を条件に出した。『呂布』が恐いからプレイヤーVSプレイヤーは避ける様に検索条件を出した。
ここで連れてこれる3Dモンスターはメインだけである、身体に装備して能力を強化するだけである。僕は腕輪にして、魔王は帽子にしている。STRは攻撃力を、CONは防御力を、INTは属性攻撃の強化(火、雷、氷による追加ダメージ、追加効果があり、戦争前に選択により着脱可能)を、WIZは無敵ゲージの回復力を、DEXはアイテム能力の強化(攻撃力を上げる白虎牙、体力が増加する朱雀翼、無敵ゲージが増える青龍胆、防御力があがる玄武甲、射撃でひるまなくなる無敵鎧、移動力があがる神速符などがある)を、SPEは移動力を、CHAは騎乗能力全般の強化を、SIMは攻撃範囲強化、HPは体力ゲージの増加、MPは無敵ゲージの増加、LUKはドロップするアイテムの強化。などがされるため、3Dモンスターを装備している時としていない時は、強さが2倍違う(注:個人の感想です)。足につけている人もいれば、背中につけている人もいる。
検索して情報を集めるのに、ある程度の時間がかかるから、酒場のテーブルでアメリカのカード会社である『魔法使い大陸社』の『魔法集会』をプレイすることにした。ルールを読まなくてもカードの下半分に能力が書いてある。上半分は頬骨がでているアメリカ人の好みのイラストが描かれている。プレイヤーHPを0以下まで削るゲームで、20だから5分ほどでケリがつく。日本のアニメや漫画とタイアップしたカードゲーム『ゲームキング』はHPが8000ほどあり、すべてにクリーチャーがトランプル(攻撃側や防御側が相手の数値を超えた時は、その数だけプレイヤーのHPを直接削る能力の事)があり、進化合体などして強力なクリーチャーを作るのが主流。
『魔法集会』の場合、まずは土地カードをだしてマナを得なくてはならない。60枚で組まれたデッキから最初に8枚の手札を引く、土地カードしかない、土地カードが一枚もない場合は、一回毎に手札が一枚減るが引き直したほうがいい。土地は沼のカードから黒マナが、空のカードから白マナが、植物のカードから緑のマナが、火山のカードから赤マナが、海のカードから青マナが得ることができる。タップをすることでクリーチャーが防衛されなくような特殊能力を持ったり、捨てることによって他の土地カードを戦場にだしたりできる無色マナの土地カードや2色の能力がある土地カードなどがある。
カードには属性があり、それぞれ赤縁、青縁、緑縁、黒縁、白縁になっていて一目で分かる。最低でも対応するマナが1いる。2必要な奴もいれば、3必要な奴もある。追加のマナは色を問わない。全くマナの色を問わないアーティファクトもある、灰色の縁をしている。最低2色のマナが必要なアーティファクトクリーチャーカードもある。金縁をしている。
手札をひいたり、カードの能力の計算やプレイヤーのHPの計算はコンピューターがやってくれる。机の上の戦場に公開したカード以外、周囲には白地にしか見えない。エンチャントされてクリーチャーの能力値が変更された時はアタック/タフネスの数値が自動で変わる。変に頭を使わなくていい。
まずは先攻、後攻を決め、先攻側はメインフェイズで土地カードを出す。魔法を唱えてクリーチャーを呼び出す。強かったり特殊能力がある奴ほどたくさんのマナがいる。エンチャントやソーサリーといった魔法はこのフェイズに使う。
次はアタックフェイズであり、先攻側が呼びだしたクリーチャーを使って攻撃する。呼びだしたクリーチャーは召喚酔いで最初だけ攻撃に参加できない。防御はできる。攻撃に参加したカードはタップ(横にする)次の相手ターンのクリーチャーによるブロックに参加できない。相手のエンドフェイズにアンタップ(縦に戻す)される。
飛行クリーチャー(飛行カクリーチャーか対空能力であるクリーチャーでしかブロックできない)や防御無効のクリーチャーが猛威を振るうし、長引けばトランプルを持つデカキャラクリーチャー(呼び出すのに大量のマナがいる)や魔法や召喚を行なわれる度トークンと呼ばれるクリーチャーが無限にでてきたりできるカードが決めてになるか。お互い攻め手が手詰まりになった場合、引くべきカードが先に無くなったほうが負け。
攻撃された側が防御するブロックフェイズに移行する。一つのクリーチャーの攻撃を複数のクリーチャーで防御することができるし、トランプルの効果のないクリーチャーは一体のクリーチャーをマイナスまで削るから、巨大なクリーチャーをネズミ一匹で受けて見殺しにするのもテクニックである。攻撃に参加したクリーチャーは特殊能力がない限り、ブロックに参加できない。駆け引きが必要になってくる。昔はスタンプと言って特定の土地カードが出ていたらブロックされない能力があったが、今回から飛行とブロック不可に能力が収束した。魔法でHPを直接削ることもできるが召喚したクリーチャーでいかに攻撃するか、いかに防御するかの駆け引きが、このゲームの醍醐味である。インスタントカードといって、いつでも使えるカードがあるが、ターン終了まで瞬間的に能力値を大きくしたり、ダメージ無効化の魔法が使える。コンピューターがレフリー(審判)努めるゲーム空間において、次のダメージフェイズの時にインスタントカードが使えない。このフェイズで使わなくてはいけない。
攻撃側のクリーチャーカードからどれに攻撃するか視線を感知して赤い線が丸くブリッジをかける。防御側のクリーチャーカードがブロックを成立させると視線を感知して青い線が丸くブリッジをかける。その防御側の行為によって赤い線の全てが消える場合もあれば、幾つか残る時もある。
バンソニー社のサイバー空間の中では3Dモンスターだけではなく、古典的なカードゲームも取り込んでいる。審判はコンピューターだから能力の見解に対するケンカがおきない。使える能力やカードがある時は縁が赤く光。親切に推奨の短い矢印がカードの頭上につく(頭を使って作戦を考えないと推奨通りにやれば勝てるものでもない)、初心者の内は真新しいレアカードをデッキに組み込んでみたけど、「このタイミングでこういう風に使えるんだ」と勉強になる。コンピューター相手の練習で、このカードでトークン(手持ちのクリーチャーではないけど、カードの能力によってガンガン召喚できる。数の暴力がゲームを決する時もある)と呼ばれるクリーチャーが出てくるのか。など研究できる。トークンに関していうならサイバー空間のゲームではどんどんコピーを出せるが、昔リアル(現実空間)ではどのように処理していたか想像することもできない。
次はダメージフェイズである。
まず先攻の能力から処理されていく。
次にノーマル攻撃でアタック/タフネスがあり、ブロックが成立している場合はお互いに相手のタフネスをアタックで攻撃する。タフネスを0以下にされたクリーチャーカードは墓場に行く。能力によって墓場に行くとき相手にダメージを与えるカードもあり、攻撃可能なクリーチャーカード、あるいはプレイヤーのHPの縁が赤く光。この中から選択せねばならない。
ダメージの計算が終わるともう一度メインフェイズが始まる。
クリーチャーカードの能力によってマナを使ってアタックの数値をあげたりできるので、召喚するかそれとも強化するか悩ましいところである。クリーチャーカードの召喚は原則メインフェイズに行なわれる(カードの能力によっては墓場から手札を通さずに戦場に連れてくるカードもある)。
「ヤッター、受けきったー。次のターン反撃だー」と喜んでいたら、このターンに召喚酔いした防御カードがワラワラ出てきて絶望した事は一度や二度ではない。またクリーチャーの能力が戦場にでたとき、アーティファクトやエンチャントを破壊したり、墓場から手札に戻す能力があったり、相手をタップさせてブロックに参加できないようにしたり、ダメージを与える能力もある。2あるメインフェイズの内どちらでクリーチャーをだすか、魔法を使うかは重要な要素である。
エンドフェイズである。
相手側のタップしたクリーチャーがアンタップされる。
昔カードの頃は魔法とクリーチャー能力を使ったコンボを作ることが目的だったが(白にいたってはプロテクトがあり、マナ1を払う事であらゆる攻撃をうけたし、白と緑は超強力なHP回復魔法があったが、今ではダメージを与えた時に少し回復するクリーチャー能力か、戦場にでた時に少し回復するクリーチャー能力しかなくなっている)、サイバー空間にきてからはクリーチャーによる受け、攻めの駆け引きに特化してきた。戦いが終われば、あの時勝負にでて全攻めをすれば勝てたのにと後悔する事もある。魔王との戦いでは3:7ぐらいで僕が負けている、カード運に見放された時は仕方がないけど、接戦をものにできないのが、勝率を5分にできない理由である(カードの充実度も違うけど)。サクラハラメソッドによれば、色々挑戦してやり込む、その間負けが多くなり「サクラハラは終わった」とかげ口を叩かれても、システムを把握する為に何度も挑戦する。格ゲーの世界はスポーツと違って3年おきにルールが刷新される。愚直にシステムの把握に努めれば、いずれ最強の称号を手に入れている。
「エルフデッキは捨てろ」魔王からアドバイスを受けた。
魔王と違って昔からやっているわけでないから、お金を使ってカードを強化していない。5つ程あるブレインウォーカーのキャンペーンはクリアした。これは自分でカードを使ってデッキを作ったわけではない。会社が用意したデッキで戦う。結構強いカードが組み込まれている。キャンペーンが終わって配給されたカードを見た時、エルフの数が多かった。「エルフの弓兵」が4枚あった(1つのデッキに同じカードは4枚までしかいれてはいけない)「エルフの弓兵」は戦場で自分がコントロールするエルフの数がアタック/タフネスになる上、タップするだけで飛行クリーチャーを撃墜する能力がある。これをベースにと思ったが魔王にたしなめられた。
魔王も昔から構築済みデッキを買って練習している。
魔王が始めた頃には光や温度、振動などの微弱なエネルギーを集めて電気エネルギーに変換する「エネルギーハーベスト技術(環境発電技術)」を使用した、配線不要、電池不要の無線通信規格が極限まで進化していて、土地カードでないカードには一枚一枚一兆ケタの番号が振り分けられていて、構築済みデッキを買って自分のウェアラブルコンピューターにかざせば、データに追加保存される(個人間の交換が成立しデータに反映出来る)。「魔術師の大陸社」が配信しているゲームのデータに反映された。僕のようにサイバー空間オンリーではない。
キャンペーンが済むとゲーム内コインがたまり、150コインで一回ブースターが引ける。6枚までしか入手できない。リアルでは15枚入っている。サイバー空間では全カードが網羅されている。僕の場合は半数以上がロックされていて、ブースターを買って鍵を解除したらカードがアンロックされる。リアルではたくさん集められるカードも、サイバー空間では4枚以上にならない。余分なカードをトレードすることができない。リアルではは当たり前のカードのやり取りも、サイバー空間ではひたすら自己努力で発掘するしかない。
ただデッキを組む時は、あのカードはどこで使っているか考えることなく、全てのデッキでカードが重複しても関係なく組める点がメリットとして考えられる。
アーキタイプを構築してみた。
魔王の助言ばかりではなく、サイバー空間では「魔術師の大陸社」はクエストを配信している。クエストでは特定のアーキタイプで2回か、4回か、6回勝つとゲーム内コインが40程もらえる。時々は自分で組んだビルドデッキでもいい。+1/+1を20回エンチャントせよと指令が下るときもある。
アーキタイプは構築済みと違って、コンピューターが提示する2〜5枚のカードから選択して、デッキのコンセプトの目的にあったデッキを構築する。このカードが強いから入れたいということができない。
コンセプトは10ある。
1「総攻撃」ウィニーデッキ(マナコストが少くてクリーチャーを立ち上げるデッキ)守りを固める前につぶしてしまう白赤デッキ。2「巧妙な計略」小さなクリーチャーを能力によって危険な戦闘員に変え、対戦相手がどれをブロックしていいかわからなくする白緑デッキ。3「魔法の鎧」クリーチャーをエンチャントで大きく育てて、相手に差をつける白黒デッキ。4「強行突破」小さな軍勢を呪文で守りながら戦う青緑デッキ。5「大軍の雷」土地カードを増やして、相手を粉砕する大型クリーチャーをだす赤緑デッキ。6「炎の誘惑」相手のクリーチャーを盗み、戦況を変える赤黒デッキ。7「エルフの憤激」エルフの大軍を呼ぶ緑黒デッキ。8「適した防具」アーティファクトは独特の強力な能力を持っていて、それを補佐する青赤デッキ。9「墓場使い」墓場の力を使い再使用、再活用する青黒デッキ。10「空の支配」地上のクリーチャーで守りながら、航空戦で相手を打ち負かす白青デッキ。が用意されている。
今回は白青デッキで魔王に挑むことにした。
魔王は金をかけてるだけあって、ゴブリンデッキやゾンビデッキや3色デッキや相手にカードを引かせて倒そうとするデッキなど用意している。それだけではないんだよと言って、僕を楽しませてくれようとしている。昔は巨人やドラゴンや悪魔デッキも組めたらしいが、サイバーになって後半戦にでてくる重い決戦兵器になった。
今回魔王は3色デッキで応戦してくる。魔王の立ち上げりが悪く僕の逃げ切りで終わった。
そうこうしている内に、机の上座に浮いてる画面に戦争を行う国家がピックアップされている。
国家と言っても特産や傾向が色々ある、金銭収入が多くなる金山、銀山、交易港を持っていることも、騎馬軍団の編成や強化ができる馬産地(定期的に負けても相手に捕縛されない名品・馬が売られる)。暗殺依頼ができたり忍者隊急襲ができる忍びの里。鉄砲隊が編成できたり、矢弾強化ができる鉄砲鍛冶(名品・鉄砲が売られ武器の相性スキルがあがる)。武器強化や鐙強化や鎧強化ができ、ワラワラでてくる味方ザコを微妙に強化できる刀鍛冶(部下NPCが能力値が上がったり、忠誠度が上がったり、君主の威信や存在度が上がったりする武器名品が定期的に作られる)。常備兵士を強化してくれる兵舎(兵隊の練度を上げたり、どの位置にどの武装を振り分けるか?陣形などの研究開発ができる。訓練して強兵や精鋭兵にアップデート。行軍、戦闘、特殊などもある)、金収入を上げてくれる市場(能力値をあげる西洋舶来品や異世界のマジックアイテムが買える。交易所や醸造所や鋳造所が建設できる)、自らも参加できる闘技場や遊技場、兵量収入を上げてくれる貯水池や治水灌漑(村では定期的に名品地酒が販売されて武将の絆値や忠誠度をあげる宴会が開ける)。民の忠誠度や民の満足度を上げる宗教施設(寺院、教会、神社、茶室など)。NPC武将の忠誠度に関係する文化値に関係し、魔法の攻撃力をあげる大学(能力値を上げてくれる名品・本や、所有するだけで「農業」や「建築」などのスキルがつく本などが定期的に売られる。天文台や算術所や儒学所が建設できる)、兵器や舟を開発する都市技術(プレイヤーVSプレイヤーで役にたつ、はしご車や城門破壊車や遠距離からの投石機や弓を撃つ高所台車、帆船やオールで漕ぐ船や安宅船や鉄甲船、使い捨ての火炎船、守城兵器として落石や連弩)、官位申請や陰陽師派遣などできる朝廷。朝廷献上や赤心勧誘ができる小京都。褒美陶芸ができる窯場。傷兵回復できる温泉と医学所。情報を交換したり人を雇ったりする、異なる陣営とも空間的につながっている異世界居酒屋(ゲームでは下戸でもお酒を味わえる、ちょっとした高揚と気持ちが大きくなってフラフラする情報が脳に送られるだけ)などがある。建物は金と兵糧と別に木材、石材、鉄という資材が必要。資源の近くに収穫用の建物を建てなくてはならない。資材は市場で売買したり、知り合いや同盟国に無心することができる。
小さいシナリオではオオカミ退治やトラ退治などがある。徳値や人気が下がるけど商隊襲撃や攻める国家の防衛力を落とすため火つけ盗賊のクエストがある。
ヤマタノオロチの軍団に攻め込まれての防衛シナリオがあったから参加を打診してみたら、「大至急来てくれ」と返事があった。「魔王」と「ピヨッピー」という名前も知ってる人は知ってる程度、時々握手を求められることはあっても、このシステムではあまり意味をなさない、小攻撃とガードと無敵奥義しか種類がなく、キャラクターの育成度が反映され、やり込みによる実力差はでない。早速移動を開始する。
本陣の中で地図を広げている軍議の中にテレポートする、「よろしくお願いします」初対面の人と挨拶する。
国の支配者がネット上で人間を集めている。どうも領地を広げ過ぎて人材不足らしい。部下はいるようだが独立君主になっていて援軍を遅れないらしい。
交渉が済み、8人のアバターが集まると軍議に入る、「よろしくお願いします」とみんなで挨拶した。国は裕福らしくあちこちに罠が仕掛けてあり、発動時間まで拠点を守るのが第一、次は状況に応じて命令を下す。彼が金を払っているからボスのいうことを聞かねばならない。君主といえど強いから前線に出なくてはならない。それでいて君主が死ぬと負けである。本陣防衛は最強の拠点兵長任せるしかない。とにかく全員が拠点に振り分けられる。合流して攻勢に移るのは罠が発動して敵が半減してからだ。
地図上の拠点にテレポートで移動する。戦争が始まる最初の一回だけ地図に吸い込まれる。連れて行くワラワラ兵士の最大数は官位で決まってくる。僕も魔王も無冠だから3千人である。大将軍、太政官、大軍師、君主などは1万人率いることができる。率いる軍団はゲームマネーをつぎ込んで漢字一字をデザインした胴鎧を着せれるし、オリジナルの旗やマントも制作できる。僕の場合は◯の中にピである。
拠点はだいたい門を閉じることの出来ない砦みたいなもので、コンピューターが敵の場合は門の前に番兵がいて、そいつを倒すと門が開く、プレイヤーの場合は条件が同じで門がなく開口部になっているが、コンピューターの場合は向こうが少し有利になっている。
拠点に振り分けられ、砦にテレポートして、ついてみると開口部が一つである。これは守り安い。開口部に仁王立ちして、背後をワラワラ兵士に守らせる。僕のアバターは太刀で武装して、小攻撃は左右の袈裟斬りで後ろに攻撃範囲が無い。敵に取り囲まれると弱い。位置どりを味方ザコから突出しないように工夫する。
右側の拠点に配置が終了するとゲームが始まる。攻め込んできたコンピューターは罠を発動させない為に、小鬼を引き連れて凄い勢いで向かってくる。プレイヤーVSプレイヤーでないから、将軍は地獄の獄卒「牛頭鬼」「馬頭鬼」、客将軍の「風神」「雷神」、殷の紂王や妲己、密教系の崑崙の「西王母」(善玉で伏義や女媧が使える)、冥府魔道に堕ちた平家の一門の落武者や平清盛(オリジナルで善玉の義経や弁慶が使える)、イベント用の鎖につながれた巨大な鬼、九尾の狐、インドの羅刹や夜叉やガンダルヴァやロクロ首のような蛇人間(オリジナルで善玉で三蔵法師とその一行が使える)、オールキャストである。
プレイヤーなら騎馬軍団を編成して来るときもあるが(金がかかる)、ヤマタノオロチは全軍徒歩である。今回も将軍は「牛頭鬼」と「馬頭鬼」であり、あの二人を倒せば率いる小鬼の軍団は瓦解する。
かつて中東戦争で活躍した「片目のダヤン」が言った。「私の号令に全軍前進はない「続け」のみである」
敵の将軍は「全軍前進」と叫び、入り口に仁王立ちして先頭で敵を迎え撃つ。「抜かせるな」背後のワラワラ兵士に命令を下す。やってくる小鬼の群れをバタバタと薙ぎ倒して無敵奥義ゲージを貯める、一本分貯まったら敵の群れにちょっと突っ込み奥義解放して更に薙ぎ倒す、一定の時間暴れ回った後、効果が切れる。自分の兵士の所にすぐさま帰り、背中を預け、やってくる小鬼を倒しゲージを貯める。これを何度か繰り返した後、将軍の馬頭鬼との間の障害が少なくなってくるし、時間は僕に味方する。罠が発動すれば敵の被害は甚大である。マサカリを構えて近づいてくる。
「一騎討ちだ」叫ぶと「応」と答えてくる。
マサカリと太刀がぶつかる。
龍先生が監修した、あらゆる白兵戦のバッケージをクリアしている。自前の技で小攻撃から大攻撃のコンボのマサカリ技を受け流し、体制を崩した後、こちらの小攻撃から大攻撃のコンボを叩き込む。割と場所取りを考えながら連続技を叩き込む、技自体の派手だが作業は地味である。
無敵ゲージが貯まったから、奥義を叩き込むと馬頭鬼は倒れた。敵は士気を落とした上に罠が炸裂して、敵の軍団に落石が叩き込まれる。
幾らかの小鬼と牛頭鬼が残った。
「続け」
僕が牛頭鬼に斬りかかる。ワラワラ兵士達が小鬼の掃討にかかる。罠のせいでHP自体減っていて武器が触れば消える。牛頭鬼もコンボ一回叩き込めば消えた。
MAPで状況を確認した。
みんな健在であり、形勢不利の状況の戦場はない。
親指と人さし指を口に突っ込むと、馬鐙からマンモス鐙まで表示される。移動が一番速い馬を選択した。口笛吹いた。どこからともなさく栗毛の馬があらわれる。
前回アップデートされた陣形を使ってみることにした。
攻撃陣形として全体攻撃にプレイヤーの武器の属性がつく魚鱗の陣(突撃と愛称がいい)と攻撃力が増える雁行の陣(斜形陣とも呼ばれ、右翼に攻撃主力を置き相手左翼を殲滅して中央に横槍を入れ、左翼は防御に徹する片翼包囲陣形)がある。機動陣形として長蛇の陣(戦車の行進などに使われギザギザになってノコギリを引くように削っていく、上杉謙信が得意とした車懸かりの陣も、この変種である)と移動速度が上がると鋒矢の陣(プレイヤーが先頭に立つ、他の陣形は後ろか真ん中になる)全体攻撃の攻撃回数が増える。防御陣形として方円の陣(プレイヤーを中央にして360度外側に構える)全体のHPが回復する。鶴翼の陣(ハンニバルがカンネーの戦いで見せた包囲殲滅の陣形ではあるが、第4次川中島の決戦で上杉謙信に啄木鳥作戦の裏をかかれた武田信玄が防御陣形として使った)全体の防御力が上がる。防御陣形は攻撃陣形に強く、攻撃陣形は機動陣形に強く、機動陣形は防御陣形に強く、三すくみになっている。身分が軽いから陣形も一つしかない、君主は5つぐらい陣形を持てる。鋒矢の陣を選択した(後で知ったのだが、兵の練度も陣形の数が増えてくる)。全体攻撃の無敵攻撃ラッシュも実装されたが、まだ使い方がよくわからない。今度アップデートされた動画を見て研究しよう。
馬上からワラワラ兵士達に命令した、僕の後ろで陣形を組みだした。駆け出すと皆必死に陣形を維持しながらついてくる。
なんだか風がいつもより気持ちいい。
すぐに魔王が守る拠点に着いた。あらかた片付けていた。敵本陣突入だ。馬上から敵の残存兵士を斬る。
「魔王、来たよ」魔王と僕のキャラの友好度は最高のSランク「刎頸の交わり」という絆の称号をもらっている。合体無敵奥義の攻撃力はハンパじゃない。
「それじゃあ行くか」
魔王は口笛吹いて突破力のあるマンモスを呼んだ。
さあ行くか、駒を並べた時、魔王がきえた。世界が消えた。
「ビヨッピー、どうした」
魔王の声が遠くに聞いた。
「マスター、起きて下さい」
ララの声が聞こえてくる。薄ぼけた感覚がだんだん人間側に戻ってくる。うめきながらヘルメットをとった。
ララが強制終了をかけたのだ。
「ララ、なんなんだ、強制終了するにしても、電話ぐらいしてよ」
「マスター。落ち着いて聞いて下さい」
ララが正面に来て、いつもより真剣だった。
「テロです、多脚砲台がコエプコン(企業都市)に向かって来ています」
理想都市コエプコン。魔下 耕世を筆頭に反感を抱く者も多い。
この事件、魔下 耕世から犯行声明がでる。
コエプコン社も1度C世代全滅という酷い目にあっている。だからテロに対して何も準備してなかったわけではない。都市の上空を人工衛星の代わりになる、無人飛行機にカメラを積んで監視している。
無人飛行機はまるでゴムの動力でプロペラを回して飛ばすオモチャの紙飛行機のような形をしているが、体長は15メートル、翼の長さは50メートルもあるが、重さは大人3人分の160キロしかない。最大の特徴は、翼の上面にソーラーパネルが3000枚取り付けてあり、カタパルト(滑走路を使わずに飛行機を打ち出す装置)を使って打ち上げたら、後は太陽光発電でプロペラを回して飛ぶ仕組みになっている。
太陽が出ていない夜中は、翼内部の砂糖電池に蓄えた余剰電力を使って飛行。約100キロという巡航速度で、最大5年間、450万キロを飛び続けることができる。車輪がついてないから胴体着陸になる。最大50キロの機材が積み込めるから用途は色々。人工衛星はロケットまで含めれば200〜300億円かかるが、無人飛行機は1億円以下である。
ところが送られてくる情報は魔下 耕世に改ざんされていて初動が遅れた。
SPERA水素(SPERAとはギリシャ語で希望せよ)といって、トルエンと反応させて運びやすいMCH(メチルシクロヘキサン、常温、常圧で液体、沸点は100℃)に変え、企業都市コエプコンに運んで、脱水素プラントにかけて水素に戻して利用する(その際分離されたトルエンは、水素プラントに移され再利用される)。低温で液化すると1/800にはなるけれども、ー253度を維持しなくはならないため、輸送する場合はSPERA水素の方がエネルギー効率がいい。
日本政府の方針によりコエプコン社は二酸化炭素フリー水素チェーンを世界に展開した。産油国・産ガス国・産炭国で精製時に生まれる副生水素をトルエンと結びつけるプラントを世界中に作り、MCHを巨大タンカーで回収する、発生する二酸化炭素は油田においては注入して、残留原油の増進回収(EOR:Enhanced Oil Ricavery)を行い石油の増産につなげる。褐炭石炭(水分を多く含む質の悪い石炭で乾燥すると自然発火する)など地元で細々と使われてあた炭田の横に褐炭ガス化水素製造装置を稼働させて水素にして輸入する。過程で生まれる二酸化炭素は現地で地中に送る、二酸化炭素回収貯蓄(CCS:Carbon Captar and Storage)を行う。
シベリアの水力発電所で大量にあまる電気で水から水素を作り輸入する、都市ガスからも1時間当たり300立方メートルできる。製鉄所では高炉熱するために火力の強いコークスを使う。コークスは石炭を蒸し焼きにして作る、その際コークス炉ガス(COG)が発生する。主成分は水素と一酸化炭素であり、一酸化炭素は水蒸気と反応させて水素を作りだす、全量水素になる。日本中の製鉄所では燃料電池車500万台の水素を供給できる。
天然ガスは200気圧で圧縮して1/200にして運ぶが、液化された水素ガスは圧縮された物より12倍も運搬可能。液化水素ローリーは40000リットルの大量供給が可能。離れた離島や山奥の村に定置型燃料電池を置けば送電線を建設する必要が無く、災害時で電柱が倒れる時でも発電出来る。企業都市コエプコンから電柱電線が消えたし、欧州では天然ガスのパイプラインに水素ガスを混ぜている。
液化水素ローリーの運搬手から連絡が入った。巨大トレーラーが4台開けたまま乗り捨ててあり、純国産木材で企業都市を建設し、できるだけ地産地消の推進を目指したためハゲ山ができた。一応植林はしてある。
多脚砲台は固定した迎撃システムのある道路を通らないで、己れの足の特性を活かしハゲ山を登ってくる。
運転手のウェアラブルコンピューターから映像が送られてきた時、コエプコン社は色めき立つ。情報を確認するためドローンを飛ばしたら、映像が真実であることがわかった。自分達の見ていた映像が加工された物だと気づく、急きょロボット達に連絡して、子供達を近くの鉄筋コンクリートの体育館に集合するよう通達がでた。木造の理想都市もテロに対して惰弱である。不燃性能は隣りの部屋で火災がおきても暖かく感じる程度であるが、砲弾などの破壊力を弾き返すことはできない。
「戦う」
着替えてから口にした。
「ララを守る為に戦いたいんだ。武器はどこに行けば借りれる」
まだ砲撃がないということは山頂まで登ってきてないということ。山頂をとられたら企業都市コエプコンの全域が射程に入る。その前になんとかしなきゃ。
「馬鹿」
ララから初めて叩かれた。
「あなた、本気で言ってるの」叩かれたほほを押さえて「命をかけてララを守りたい。ララは一人でも行ってしまう人だから」
「命の重さも、命の価値も、命の意味もわからないくせに、簡単に命をかけるなんて言わないで」
ララは腕の中でひとつの生命を失っている。ララは僕より知ってる。僕は知らない。それどころか観念の「死」はどこか甘く切なく美しくさえあれ。
「夕夜、あなたは素晴らしい人。こんなロボットなんかのために生命をかけるなんて言わないで、私は壊れてもコエプコン社のデータの中に昨日までのバックアップはとってあるんです」手を握って頬ズリする。
「ララ。愛してる。行かないで」
「これはトップダウン型のAIなんです。児童心理学と会社の教育指針、ネットのマーケティングで最適化された言葉なんです」
脳の研究が進み、脳の構造を模倣した自由意思を持ったボトムアップ型AIの対局にある。受け答えが自然になるフォン・ノイマン型コンピューター。トップダウン型AI。
正の感情、愛や思いやりもない代わりに、負の感情、怒りや憎しみや妬みや恐怖もない。
「あなた、幻を愛したの」
わかった。ワガママを言えばララを苦しめるだけだと。
一縷の真実かもしれないが、ララはワザと嫌われるような告白をしたのだ。
「わかった。体育館に行こう」
ララに手を引いてもらいながら体育館に急いだ。中には腰を抜かしてオンブされている者もいる。
自由意思による選択でないということがロボット達を卑屈にさせている。法律論で言うならばお前のその自由意思を裁くという概念がある。強制されたり、人質をとられて命令に従っただけの場合は罪が軽くなる。責任能力という罪を引き受ける主体がどこにあるかといえば、プログラマーになる。
ララが言う「私たちロボットは、あなたがたが返してくれる愛の量でしか、自分の与えた愛の量を計ることができないのです」
もともと自由意思など西洋のキリスト教に根ざした考え方で、イスラム教にいたっては教えに疑問を持つ事さえタブーとされている。利他的な日本人にとって上手く行きさえすれば、自由意思のある、なしは関係ないと思う。
そうこうしているうちに体育館に着いた。
勇者、太郎、宗茂、エリーが固まっていた。
「オス」挨拶して、その場に座った。
「なんで?僕達が殺されなきゃいけないんだ。人工子宮から産まれたことが、それほどの罪なのか?」エリーがピーピー泣いていた「死にたくない」「死にたくない」何度も繰り返していた。
ハッカー魔下 耕世対策でロボット全員がスタンドアローンになった、「タミフル投与」ロボット達が自分の子供の耳たぶに噛みついて無針投与を行う。インフルエンザ型の細菌対策である。命令を下すのはH1の花子である。
「全員武装」ロボット達が体育館のステージの下から、レーザーカービンとケプラー製のアーマーを取り出して武装する。日本政府には国民を守る経済的な余裕はない、警備会社に緊急オークションをかけた。20分以内に武装ヘリを5台派遣するし、1個中隊分の歩兵を送りだした。花子が指揮をとり、各人に情報を伝えた。
最後の防衛を勤める10人を残して、残りのロボット達は迎撃に向かう。全員入り口で子供達に敬礼する。
「いってきます」
ロボット達が全員で唱和する。
ララを見つけた。
唇が動く。
「愛•し•い•人•生•き•て」
誰一人振り返らなかった。体育館が閉鎖される。
重い沈黙の中、弱虫達の泣き声が響く。
僕は残されたレーザーカービンに向かって、ゆっくりと歩きだした。
「マスター夕夜。いったいどこに行かれるおつもりですか?」花子が僕の手首を握ってきた。
「ララの手伝いに行く」
「マスター夕夜。あなたは優しい人。気持ちはわかる。でも時代が違うんです。龍先生のような格闘技の達人でも、弾が筋肉当たれば断絶し、内蔵に当たれば破裂する。もう木石で戦っていた時代は、男は戦士でした。ミサイルがボタン一つで飛び交う戦場ではロボット同士が戦いあう。もう男は戦わなくていいのです」
「愛する人を戦わせて、安全な場所から何もしないなんて男の意地が許さない。離せ、花子」
「私たちはデータで知っているんです。男が愛と義理人情を生きていて、誇りのために生命さえ投げだすことを、今の時代フェミニストにとって男は無差別テロのソフトターゲットに過ぎない。どうしても行くというのなら電撃を流して失神させます」
悲しそうな顔をして
「我々は、あなたから、あなたを守ります」
人の歩みは正しかったのか?
優しいロボット達を武装させて、最後には戦争の駒として戦わせる。
そういった思いを轢き潰して暴力は加速していく。
ドゴオォーン。
轟音が響いた。
エリーがびっくりし過ぎて、過呼吸をおこして死にかけている。
勇者がションベンを漏らした。名前負けしている。
太郎はブツブツ話している。「最近は男の脈も女のように…」と[葉隠れ]を暗誦している。葉隠れなんざ武士道は死ぬ事に見つけたりしか知らんぞ。
1番安い卵子とはいえ、宗茂はどうどうとしている。お前は立派だと褒めようと思えば、実は腰を抜かしていた。西国無双の名が泣くぞ。
体育館の扉が開いた、ロボット達が帰ってきた。
姫が花子に何があったか報告してきた。
ロボット達は援軍を待って合流しようと話がまとまっていたのですが、ララだけが反発した。
「敵の多脚砲台に頂上をとられてはコエプコンはすべて射程内に入ってしまう」そして煮え切らない私たちをほって「もういい、私一人でも行く」ララが独り走りだした。
そして頂上に着くと。
「遠からん者は音に聞け、近くに寄らば目にも見よ、ララ・H24・コエプコン推して参る」
堂々と名乗りを挙げて攻撃した。
ララの余りのけんまくに押されて多脚砲台は自爆した。
「ララは?ララは?」僕が姫に聞いた。
「爆発に巻き込まれて、警備会社がきたから現場を引き渡した」
「花子。離せ、敵は自爆した。もういいだろう」
「まだ、細菌散布の可能性が…」
「花子行かせてあげて」太郎が花子の手首を握った。合気道の技で人間なら離している。「お願い、花子、行かせてあげて」
「なぜですか、私たちはあらゆる可能性を…」
「愛の、愛のプログラムゆえに」
「時計仕掛けの愛ですよ?」
「それは個人の問題だ、他人の僕達がとやかく言ったり、決めつけたりすることではない」
花子は目をつぶり、そして手を離した。
「ありがとう、太郎」
僕は帰ってくる他の世代のロボットの群れをかき分け走りだした。
「ララ」叫びながら山を登る。
回線が回復したのか魔王から電話が入った。
「ピヨッピー。無事か、コエプコンがテロの襲撃を受けたって、マスコミはそれでもちきり」
「僕は無事、みんな無事、ララだけがやられた。詳しくは明日説明する。切るね」
「ああ、わかった」
頂上は警備会社のヘリからのサーチライトで明るく照らされている。探さなくていい。激しい爆発があったせいか山のあちこちがまだ燃えている。
山頂に近づくとケプラー製のアーマーを着こんだ警備会社の人がウロウロしている。wifi回線を復旧させる災害用ドローンが複数飛行していた。サーチライトで警備員の仕事のサポートもしている。
「なんだ、お前は」と怒鳴る人間もいれば「子供の来るところではない」と優しくいう人間もいる。無視してララを探した。
シビれを切らした人間が右肩を掴む。左手で相手の右肩を掴む手を固定して身体を回転した。関節の遊びを殺してから背負い投げをした。
人間相手に負ける程ヤワな鍛え方はしてない。
「なんだ。このガキ」
銃で殴りかかってくるが紙一重でかわすと、ヘルメットの下の首に廻し蹴りを叩きこむ。一人失神。
何人かが銃を構えた時。
「やめてください」
ララの声が聞こえた。
「その人を撃たないでください」
全員がララを見た。
右足と左腕がちぎれていた。人工皮膚は焼けたくさんの箇所で装甲が露出していた。切り株を背に座らされている。電気で縮む人工筋肉の潤滑油が辺りに撒き散らされている。
「私のマスターです」
ララが死ぬのではないかという恐怖で足があまりいうことをきかない。倒れこむようにララの下に身体を引きずる。
「ララ、大丈夫?」
「はい、外的要因がこれ以上ないかぎりデータもプログラムも大丈夫です。装甲は伊達ではありません」
ポロポロ涙がこぼれる。
「マスター、1番ヤリです。泣かないで褒めてください」
ララが不器用に震えながら動く右の人差し指で涙をぬぐう。
「ララ、凄いな」笑顔をつくろうとした。でもダメだった。顔の前にあるララの右手を祈るように握った。
「ララ、幻でもいい、幻でいい。こうして触れるのなら、ララの愛は僕には眩しい」
皮膚の無い装甲で少し笑った。
「本当に男って、泣き虫で甘えん坊で夢想家でバカなんだから」
手をさらにのばしてほほを震える指でつねってくる。
しばらくはララの余りのケンマクに自爆したと思われたが、警察から依頼を落札した警備会社が残がいの組み立て捜査をしたところ、対戦車携帯ミサイルの破片が混じっていた。ロットナンバーがわかり所属先の米軍横田基地に連絡したところ「馬鹿な」と一蹴されたが、念の為確認してもらうと箱の中は空だった。
警備会社が周囲を捜査したところ、ジープの轍と二人組に足跡が見つかった。沈み込み方から、一人は装甲を積んだ全身義体のサイボーグか、アンドロイドかと推測されたが、バックに魔下 耕世級のハッカーがついているのか映像は加工され、ジープが通った経路は特定できなかった。最新の光学迷彩は可視光線だけでなく紫外線や赤外線領域までカバーするからララが発見出来なくても不思議ではない。一発のミサイルを急所といえる弾倉に当てて誘爆させた。凄いスナイプテクニック。
「名もなき勇者」とコエプコンはたたえたが、名乗り出ればミサイル泥棒で警察に捕まってしまう。ただ魔下 耕世と戦う正義のハッカー集団が存在していることを世の人はなんとなく感じていた。裁判になればコエプコンが保釈金までだすといっていたが、沈黙は守られた。
「マスター。電波の状況も完全に回復したようです」警備会社が臨時のアドバルーン基地をあちこちに浮かべていた「私はこれから修理とメンテナンスのためコエプコンの中央部に運ばれます、生命の危険に侵されると生物は子孫を残したくなるようです。私が帰ってくるまでセックス用のアンドロイドが派遣されるそうです。良かったですね」
「ララについていくよ」
「恥ずかしいからダメです。おとなしく会社の好意に甘えてください」
人差し指を僕の唇に当ててきた、何も言わず自分の指示に従えとめずらしく命令してきた。
ララはていねいに人間用のタンカーで運ばれていく。
警備会社の人はララに敬礼している、ララはその度に返礼していた。ヘリコプターでコエプコン中央部にあるラボ(研究施設)へと運ばれていた。
ヘリコプターを見送ったら、後ろから不意に抱きつかれた。
甘い匂いがする。
葉巻より細い、線香よりは太い。健康に害のない、常習性のない、果物の香りがするファッションタバコが目にはいった。
「初めまして、マスター夕夜」
黒い髪、赤の上着、白の短パン、肌色の長い足、運動靴、手にはピンクのハイヒール。ポリゴンで出来たゲームキャラのようにカワイイ。
「私の事はフェイと呼んでください」
「みんなはどうしている」
「安全が確認されているから、それぞれの部屋に帰りました。マスターだけが残っています」
「わかった。帰ろう」
フェイが手を握ってきた。それ専門なのだからララより柔らかく肌触りが良かった。国が公娼制度を整備し、セクサロイドという造語が産まれ、フェミニズムな議員もロボットによる売春は女性をバカにした物とは言えないとし、障害者へのセックスボランティア活動や貧困層男子の性欲処理に使われて、運用している日本とエロ本すら禁じている北欧とではレイプの発生率が100倍違う。これ以上書くと小説がCEROZまで跳ね上がるとでララが帰ってくるところまで話を進める。
「ただいま」
玄関からララの声がする。
顔の皮膚は回復しているが、手足は装甲がむきだしになっていた。
「ララ、助けて」
僕は弱々しく声を上げた。
ララはびっくりしたろう、僕が裸で手錠につながれていて、両手を十字に広げて、赤い首輪をはめられていた。
セックスようのアンドロイドが僕にまたがっている。
「あなたは、あなた様は」と言ってララが驚いた。
「最近のアンドロイドはスタンガンが標準装備なのか」
僕の質問には答えず。「フェイ様」と悲鳴をあげた。
「だって坊や強いじゃない。こうでもしないと主導権がとれないでしょ」フェイがイタズラぽく笑う。
「何?、そのアンドロイド、そんなに有名なの?」
「マスター、フェイ様はアンドロイドではなくて完全義体の人間ですよ」
「へ」
「我々の人工性器の設計開発者で、あらゆる性産業を渡り歩き、人体内にSMキットを内蔵したプロですよ、2時間遊べばマスターの月給吹っ飛びますよ」
「あんな物は男のファンタジーよ」
フェイが僕から降りた。
「もう7回以上いっていて、何もでないのにしずまらないんだ」
「それはED対策の首輪のせいでつけさえすれば、とりあえず勃起する。今2Dのキャラやポリゴンガールにしか反応しない人が増えていて、もともとはセクサロイドが使用する治療の機械なのですが、別の使い方をする人がいると聞いたことがあります」
ララが首輪を外すとしずまった。ギンギンに使い過ぎてもう痛いくらいだ。
「先生、初心者になんとハードでコアなプレイを」
フェイが裸のままファッションタバコに火をつけた。
「あなたの方こそ何を教えているの、この子キスの仕方も知らないじゃない」
いい香りのする紫色の煙を出した。
「マスターが望まれませんから」
「だから、あなたはロボットなのよ、これ位の年の子は秘めたる欲望があっても恥ずかしくて口にできないのよ、あなたがリードしないと」
口から煙をだす。よく考えれば、ロボットはタバコを吸わない。基本ロボットの入力(学習)はやってみせ、そしてまねして学ぶ。仲のいいロボットと情報交換はするが並列処理はやってない。セックスの場合、独学で配信コンテンツを研究するか、HOW TO本の電子書籍を読むしかない。
「秘めたる欲望ですか?」
ララ達ロボットは人間とホストコンピューターには受動的である。ロボット間ではわりと議論するしゆずらない。
「その女。いくつだょ」外見だけなら乳房の大きいローティーンである。
「脳の年齢は90歳でしたょね」ララが確認した。
「女性に年齢を聞くなんて、失礼なガキね。あなたどういう教育をしているの?」
「何分、マスターの世代は男社会なもので、女性の接しかたはギャルゲーをやって、個人が特殊な例で身につけていくものですから」
「それは色々大変なのね。まあいいわ、シャワー借りるわ」
フェイが部屋から出ていく。
「おやすみなさいマスター、今日の大変でしたね」
右の耳たぶに噛みつき、睡眠導入剤を無針注射をした。
やがて意識が遠のいていく。そう言えば今日はキックミットもしてない、柔軟もしてない、ルームマラソンもしていない。