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幻愛1  作者: 南 清久
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ゲームの達人

20××年10月18日火曜日7時


「マスター、時間ですよ。起きて下さい」

ララが体を揺らして優しく起こしてくれる。

「おや、マスター朝から元気ですね。一回なさいますか?」僕の下半身を見て、ララが親切で口にした。

「オシッコに行けば鎮まるからいいよ」

あまり精子をだすと夜の分が薄くなる。どっかから個人情報が漏れて、あいつは夜までガマンできないとウワサがたったら恥ずかしい。

トイレに行き、顔を洗い、歯を磨き、服を着る。ウェアラブルコンピューターとつながっている、スマートデバイス体重計に乗る。

室温は肌着だけで快適である。テロを受けるまでは棟ごとにセントラルヒーティングだったが、細菌テロによって空調は部屋毎に変更された。ララとは別系統のAIが管理するスマートハウス(カーテンや窓の開閉が自動で行われ、室温を調整する、気の利いた透明人間がいるようなユビキタス・コンピューティング)になっている。サイバーテロ以前は家電の情報までネットにアップしてクラウドコンピューティングで判断するアグリゲート・コンピューティングが採用されていたが、今では部屋毎に孤立化(スタンドアローン)に変更した。窓も二重になっていて熱やエネルギーが逃げないように工夫してある。建築基準法も変わって繊維の方向を変えて貼り合わせた木造集成材を壁面に利用すれば、2階までが8階まで建造して良くなった。地震の少ないヨーロッパでは木造34階建がある。集成材は幅15センチに20層があり、防音層、防湿層、断熱層をはさんで繊維毎に集めた人工板は薬品に漬け込んであり、全て不燃材料に改良されている。もともと木材の圧縮力に対する強さはコンクリートと同等である。コンクリートの家より大容量データのやり取りにストレスがない。サビる釘などは使わずに、太古から日本が誇る切り欠きはめ込み型(『仕口』や『継手』や『男木』や『女木』と呼ばれ、固定する時は『詮』と言って角度のついた端材を交点に打ち込む)と、最新の3DCADによる組み立てレーザーカッティング技術の融合。地震があってもペチャンコにならないように重心と中心がずらしてあり、ねじりながら壊れ、エネルギーを吸収して、内部に多くの空間(スペース)を作る。絶対安全より、どう壊すかを研究した米海軍のダメージコントロール理論。集成材を作る過程で出来る廃材はチップスにして、下水と同様にバイオで発酵させてメタンと二酸化炭素を発生させ、メタンだけを取りだし水蒸気をぶつけて水素を作る。

日本人は復興も得意だが、自然災害や人為災害の対処する防災・減災の技術でも世界をリードしている。ただ原子力発電所が事故を起こした時の避難経路が計画されてなくても、政府は福島第一の事故の後でも再起動にGoサインをだした。この辺の感覚は欧米では理解できない。

食事をしながらララに昨日の事を報告して、今日の予定を聞いた。

今日は1日コエプコン社がだす学園物ファンタジーのクローズβ版(まだ一般に公開していない。社内の子供達だけでシナリオをプレイしながらバグつぶし)を会社の支持に従いながらチェックする。

どんなゲームかと言われると一言では説明できない。

100万人生徒がいる学園都市でNPCがイベントを持っていて、会話しながら進める。協力プレイが無くて個人がシナリオを追うタイプ。将来一カ月おきにヴァージョンが変わる度にどうなるかわからないけど、スタートアップはこれで行くみたい。

前世、守護霊、伝奇、クラブ活動、恋愛、現代ファンタジーなどジュブナイル小説的に詰め込んである。

自分の進みたい学校を選択する。

・美少女魔法使い

・吸血鬼、狼男、ゾンビ、幽霊との同居

・オタク系グダグダのユルい人間関係

・キラーショットを持つ熱血スポーツ

・歌、音楽、アイドルなど選挙アリ

・格闘技、不良物、暴走族などトーナメント型

・放課後退魔アクション

・侵略者(宇宙?異世界?未来?)と戦う秘密基地

後は部活や図書委員会や風紀委員会や生徒会など取り方によって遊び方も変わるし、NPCとの関わり方でハーレムや逆ハーレムも年齢によっては耽美や背徳も可能。望むなら修羅場つきの三角関係もあり。

守秘義務があるから口外はできないけど、勇者と詰め込み過ぎだろうと話している。ただどう遊ぶかは強制できないが、無料ゲーム(内課金アリ)なのでダウンロードしてもらわないと広告料も手に入らない(ゲーム内の服や家電や看板の採用)。入り口は広くなくてはいけない。

戦闘も飛び道具がメインで、あちこち道具を拾いまくっての凶器攻撃はサブである。

食事を終えツナギを着てネットワークにダイブする。8時までに出社しなくてはいけない。接続がすみアニメソングを聴きながら仕事が配信されるのを待った。前回までシナリオをプレイした時はまだ背景や人物に色がついてなかった。

複数の男女の声でコエプコン社の中央コンピューターが声をかけて来る。白く燃える魂の姿をアバターに使っている。

「マスター夕夜。仕事の依頼を受けてもらえませんか?」

社員である僕は断われない。僕達は産まれた時から脳が動く限り働く義務がある。契約によりクビもないかわりに定年もない。早くから社会参加や体験学習をしなくてはならない。

「どんな仕事ですか?」

ゲーム業界にもベルトコンベア方式からセル生産方式(1人または少数のグループが最後の組立まで受け持つ)に移行してきた。無料化開発エンジンが複数存在して、1人の人間がシナリオのオープニングからエンディングまで受け持つ。インターネットによる情報インフラの整備により、インターネットオークションの外注はコストは安いけれど、会社内部と単位時間当たりの生産能力が10倍程違い、クオリティは100倍違う。外国業界の経済格差も所得格差も為替レートもゲームをコーディネートできるデザイナーの間では無いに等しい。オタク系のデザイナーのオフショアは起きなかったし、好条件の海外移籍も「石油は動くけど油田は動かない」と突っぱねている。そこでコエプコン会社は社員を造り、自社内で才能を集めたチームを競合して運営した方がベターではなくベストだと判断した。他ゲーム会社とのコラボでさえ外注せずに、内部で造る。造られたゲームがどれぐらい売れたか社内で競争する。

「NPCを1人渡すからシナリオを書いてもらえませんか?」

「僕がですか?」弱ったな、勇者みたいにライトノベル作家になる野望を持っているわけではないから、研究したことがない。会社も個人の能力を見るためにメインシナリオではなくサブクエストを書かせてみるとは良くあることである「僕は正直者が馬鹿をみない話しか書けませんが」自分の限界を口にした。最近のAIは物語や神話を検索して、物語工学論(元はロシアの研究家が世界中の神話から共通項を抜き出した)を組み立て。人が何に感動するかを映画や小説などのビッグデータから共通項を抜き出し、構想と人間関係を聞きながら、脚本を創作するプログラムがハリウッドにはある。もはや物語の構造をバラバラにして組み合わせで興行収入を計算するアルゴリズム(コンピュータ分野では、プログラムの形で定形化された処理手順の集まりのこと)が存在してだいたい当たる。今では金融、天気、不動産、地方ニュース、スポーツなどは終了してから数分間でAIが記事にしてネットに無料で配信してくれる。人間の記者以上である。

ハリウッドの黄金パターン少し斜めに構えた人物が、最後には人間の良心に目覚め、真の悪と戦う。勇者が分析していたが、僕はぐれたことがないし、反社会的な行動には怒りを感じる。真面目がとりえの面白くない人間である。

「そう、固く考えないでください。あなたのようにその年で道路戦士の世界ランカーにまで登りつめた人間は、世の中がどう見えてるのか興味があったので。新しい切り口だけでも欲しい」

「切り口ですか?」

ゲームが強くて、真面目に格闘技の練習をしているだけで、努力と根性。新しい切り口などない。

同時に当たるシナリオになるかわからないが、魔王みたいな人間を主人公NPCにすえて、「俺よりも強いヤツに会いに行く」みたいなノリでプレイヤーと二人で強敵に闘いを挑む話は、僕的には面白いかも。

「売れるシナリオになるかわからないけど、僕の感覚で書いていいのならお受けします」

「お願いします、マスター夕夜」

「授業で基礎プログラムを履修してますが、商業ベースはカリキュラムの中に入っていない。シナリオの書き方など業界慣例を何作か送ってもらえませんか?」

「わかりました。すぐに手配します」

魂のアバターは目の前から消えた。すぐにシナリオの書き方電子書籍を送ってきた、続いてプレイしたことのあるシナリオデータへのコンテを送ってきた。午前中は読書と研究に当てた。コレはコレでなかなか面白い。色々なアイデアやセリフや場面(シーン)が洪水のように浮かんできて、ソレをデータの中に落とし込むので精一杯。ひょっとしたら僕って天才かもしれない。

午前中の仕事が終わって、部屋に帰り昼ごはんを食べた。とても疲れたのでゲームはしない。イスに深く腰を掛けて目を閉じて脱力した。

ララが冷凍庫からアイスノンを持ってきた。僕の頭の上にのせてくれた。知恵熱が出ていた。

気持ちを切り替えて午後からの仕事に移った。

NPCの3Dデータの最新の3DCADを使い創作にかかる。魔王がモデルだから悪魔人間(デビルマン)ぽくしなくては、設定は獣面仏心の男。全体的に顔のパーツを大きくして、目は平行四辺形にして、瞳は巨大にして、口は両端つり上がって、犬歯は太くて歯は鮫歯。髪は黒くてボサボサ、ファッションは気にしないが、黒を基調とする着たきり雀。

ある程度完成すると動かしたり、セリフに合わせて表情を造ったりしてみた。色々試してみると5時になった。コエプコン社の中央コンピューターに仕事内容と作ったデータをメールして、「お疲れ様」と返信が来たら仕事場から退出する。

バトルロワイアル予選で魔王が勝ち残っているか気になっていたか。オンライン授業の補修と違って仕事の残業は強制ではない(仕事が好きで残業する者もいる)。急いで部屋に戻った。

ウェアラブルコンピューターで配信されている動画を見た。結果から先に言うならば魔王は負けて予選突破できなかった。

はっきり言えばアメリカには人種差別が陰湿な形で残っている。1パーセントのユダヤとWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテシタント)が富の93パーセントを握っている。一台50万円する神経伝達ヘルメットは富裕層しか買えない。やり込んでいる白人(ホワイト)達が結託(けったく)して、まず始めに有色人種(カラード)狩りを行う。魔王は1VS50の闘いだった。ミクロソフト社のOSは重力計算を全くしない(派手な演出はあるが)。魔王が身につけた武道の投げが少しも使えずに、体力測定の数値がそのまま反映されて、投げが存在せず力学的な持ち上げて落とすしかない。重心の計算もなされずに無理な体勢でもバランスを崩さない。

魔王は突き蹴りと位置取りだけで半数は倒した。衆寡敵せず、取り囲まれて押さえ込まれて2メートルある大男からクビを引っこ抜かれてGAME OVERだ。

わざわざアメリカまで行って参加している魔王にたいする白人達の態度に怒りが湧いた。

富裕層にいるWASPはフラストレーションをためているのだ。人工構成が変わってきてヒスパニック系や黒人系アジア系が増えてきて、大統領選挙で共和党が民主党に勝てなくなった。失政を連続して支持率が下がっても票数が減る事はなかった。白人優越主義者(レイシスト)の中でも階級がありフランス系が高くヒスパニック系が下だ。

日本にとっても連続する民主党大統領は痛手だった。大東亜戦争も共和党と戦ったのではない。民主党と戦ったのだ。民主党政権はスタンスが中国よりで、内向き。世界の警察官を止め住民投票による琉球独立と共に軍をグアムまで引いた。経済的に疲弊したアメリカが一歩撤退すれば中国は二歩踏みこんでくる。世界の工場中国は琉球に軍艦を派遣した。アメリカから情報がなければ自衛隊のハイテク兵器は鉄の箱にすぎない。日本と韓国は目と耳と神経を抜かれた(どの国も軍事費はGNP3%が基本であるが、アメリカの安全保障にただ乗りとは言わないまでも。GNPの1%に押さえて思いやり予算のツケが回ってきた。対米従属を国是とし最新兵器の開発を怠った。当然の帰結)。アメリカが琉球国から撤退した時、自衛隊も兵を引いた。琉球国大統領は中国の進軍に五星紅旗をふって熱烈大歓迎をした。クリミア方式と呼ばれる常任理事国による合邦は平和理に終わった。

もともと琉球を見捨てて独立したことのある国、左翼運動家の巣窟とかした琉球を見殺しにするのに国民の側にも抵抗はなく、一部の右翼を除いて「戦争にならなかった」という時の総理の判断を支持した。反権力と見られていた琉球新聞も世界的権力者中国共産党に逆らうことなく、終始一貫して共産主義を礼賛した(もともと左翼と共産主義は同根である)。縮小を余儀なくされる資本主義経済と国内に植民地(コローニア)を持ち、その気になれば奴隷のように安く使える中国共産主義とでは勝負にならなかった。

韓国では第二のアンジュコンをめざしてアメリカ大使や軍に対してテロが頻発してもともと嫌気がさしていた。アメリカがプレゼンスを小さくした時、北朝鮮が砲弾でソウルを火の海にかえた。朝鮮民族の悲願半島統一が北朝鮮主導でかなった。韓国は財閥と市民との格差が絶望的に激しすぎて、国民が一致して守るべきものを見いだせなかった。一君万民の特殊共産主義体制さえ望んだ。韓国も侵略が日本だったら国を挙げて抵抗したかも?

台湾は経済侵略されて中国経済がないと国が成り立たない。自ら奴隷となることを選んだ。民主主義を捨てて中国共産党の施政下に入った。新華社通信が配信する琉球の人達の微笑みが、日本統治下での左翼の運動に疲れた時より幸せそう。それがせめてもの救いだった。

古き良き強きアメリカを熱望(デザイア)する白人優越主義者(レイシスト)欲求不満(ブラストレーション)は沸点に達した。ゲームや社会生活に(いびつ)な形で現れる。魔王の血を流す首は映像の中で高々と掲げられた。

映像をきり、いつものチャットルームにダイブした。魔王の方が先に来ていた。

「負けちゃった」暗黒のカブトを人差し指でかきながら口にした。

「仕方がないよ。1対50だもん」

「ごめんな。ピヨッピー。オレお前以外の人間に負けるだなんて、本当にごめんな」デフォルメされた暗黒のカブトから涙を流した。アバターは悲しい時、涙を我慢しない。

もらい泣きである。ヒヨコのアバターも涙を我慢しない。魔王は僕が出れない地方の大会や外国の大会で優勝できなかった時、必ず謝る。僕が出れない大会は僕の分までがんばる。

「そんなことないよ、魔王は僕にとってヒーローだよ」

僕たちが抱きあって泣いていると勇者がやってきた。

「何やってんだ。お前ら」

勇者のアバターは10センチの単色の正方形の立方体でドット絵時代の2頭身の勇者の姿を3DCADで再現している。左手に大きな盾と右手に大きな剣を持っている。

「派手に首ちぎられていたけど、臨死体験できた?」

基本的にH世代の人間は遠慮はしないし、気も使わない。僕はかなりレアなケースだ。

「ミクロソフトの神経伝達ヘルメットは、痛みをフィードバックしない」魔王が涙をふいて答えた。BPOやキリスト教系の団体が青少年の健全な育成にうるさい。北米やヨーロッパの成人はフィードバックがあるバンソニー社の神経伝達ヘルメットでゲームを楽しんでいる。ミクロソフト社の神経伝達ヘルメットは軍事用の遠隔操作(テレオペレーション)が転用されたため、重量別のリアルロボットを動作をトレースする操縦方法(ダイレクト・マニピュレーション)で闘わせるのが主流だ。リモコンを操作する感覚から自分を操縦する感覚(テレイグジスタンス)までは発達している。もともと自分の主張をゴリ押しするのが主流で人の心を察しない。人の痛みが分からないシステムに抵抗がない。

「今日は誰のシナリオをするんだ?」

勇者が聞いてきた、頭上には魂の名でアゲインストとアバター名が書かれている。僕達は本物の中二病である。子供がカッコイイと思うのは必ずしも文化や伝統を背負ったものでない。

「刑期(300年)が大分短くなる緊急イベントが発生した、企業都市の重役の娘が誘拐された。救出ミッションだ」

状況を説明するとゲーム内で魔王は刑務所の中にいる。僕と魔王は勇者と違ってナムコナミのサイバーパンクゲーム『ウォードッグ』では後発組だ。ある程度不具合やバランスが改善されてからプレイした。

ゲーム内で魔王は完全義体化したフルボーグ、バウンサーと呼ばれる戦闘系の職業(クラス)であり、基本このゲームはなんでも出来るが、選択したクラスによって技術(スキル)が取りやすくなる。シナリオをクリアするたびスキルポイントが手に入り、戦闘系なら実弾兵器ダメージ減少などのスキルが安く手に入る。対車両用の地雷や電磁地雷、対人用の気絶(スタン)(強い光が広がる、一瞬で終わる、目をやられて回復まで座り込む)や睡眠(スリープ)(煙に触れたら自分も寝てしまう、対抗策はガスマスク)や煙幕(ケムリ)(機械目(マシンアイ)を赤外線感知に変えるか、赤外線スコープを装着することで敵が見える)などの手榴弾(グレネード)や地雷のスキルも手に入るし、壁のように設置できる大型防弾盾(HPがあり、使用回数は制限される)などもあるが魔王はあまり成長させていない。

僕はエースパイロットで操縦系のスキルが安く手に入る。身体も神経や目や耳などの感覚をサイバー化してジャックインシステムでライフルのスコープを覗く(のぞく)ことなく脳に情報が入ってくる。視認できるロボットやドローンや自動運転車両をハッキングして、ブレイン・マシン・インターフェイスで、操作せずに思考だけでコントロール下に置くスキルもある。あまり成長させていないから魔王の事を悪く言えない。

勇者はハッカーだ、情報操作系のスキルが安く手に入る。大分課金していて、たくさんの3DモンスターがサポートAIとしてゲーム内に連れてきている。仲良し値も上がる。人工衛星の情報や警察や企業の監視カメラの情報をサポートAI達はみんなで検索して勇者に送る(ビッグデータの処理はAIの得意分野だ)し、ジャックインシステムでサイバー空間にダイブするときはアシスタントAIとしてパスワードや暗号を解読したり、相手の捜査の囮になったり、身代わりになって攻勢電流の攻撃を受けたりする。ネットにダイブしてがら空きになった肉体の周囲の状況チェックして危機が迫れば知らせたり防衛したり、警察や警備会社などのネットポリスに潜入がばれてないか機関の動きのチェックも行う。勇者も粘着爆弾系のスキルを身につけていない。

ゲーム上でのロボグルミはアクティブデコイ((おとり))になり、投影装置(ホログラム)やスピーカーや人体風船(バルーン)を仕掛けて敵を引きつけたり、周囲を無力化する(ドローンも含む)電磁地雷(近づいたら自動で発動する、または踏んだり、放り投げて5秒後に発動する物、あるいは爆破スイッチを自身が持ってる場合、半径無差別と一定の指向性て爆破する種類が存在する)を設置する。身体が軟体繊維でできているから、換気扇やドアの手持ちの武器が入る隙間(すきま)から進入して、情報を集めたり、トラップを解除したりできる。課金すれば移動速度もかなりあがり光学迷彩もつけれる。時にはプレイヤーを助けるため自己犠牲的(サクリファイス)行動にもできるが、ロボグルミが壊れるような使い方をすると仲良し値がもらえなくなる。ロボグルミは愛さなくてはいけない。

ゲームマネーはかかるが民間人工衛星から援護攻撃をしてもらえる。どうしてもクリアがむずかしい時の禁じ手である。

戦い方は魔王が量子(ニュートリノ)ロープを使った、立体起動でアサルトライフルの乱射しながら近づき、レーザーチェーンソーで切断。僕は光学迷彩で姿を隠してのスナイプによるヘッドショット。勇者はロボグルミに機関銃を持たせて防御陣地を作り、小型スマートミサイルでロックオンして範囲攻撃でしとめる。

スタート時は『アサルトコア』と呼ばれる巨大ロボットでの傭兵稼業に夢中になった。

バンソニー社も往年のアニメファンに向けたロボット物はあるが、ロボットアニメのキャラクターの操縦がメインだ。回避行動を主としてヒットアンドアウェイのリアルロボット系、とにかく排熱を気にせず、ブーストをかけながら光線をよけまくり、ミサイルを撃ち落としたり、切り払いをし、すれ違いざま近接攻撃が主流。それと分厚い装甲で多少の攻撃は気にしない、巨大火力と必殺技を持つスーパーロボット系の二つに大別できる。一部の例外(アンビリーカブルケーブルでつながっている)を除き、たいていは空が飛べるため三次元を把握する能力はいる、戦闘機に可変して高速移動する機体もある、こうした機体はロボットへの変形前に翼の上下に積んだミサイル(宇宙空間には空気抵抗がない)による敵可変戦闘機に対してドッグファイトを序盤に行い、純粋戦闘機(母艦に途中で引き返しコクピットごとロボットに乗り換えたり、パーツを射出してもらいロボットに分離合体する。原作アニメに準拠してメチャクチャな合体が成立している)と供に制空権や制宙権をとり(僕も序盤は所属する陣営所属愛(パトリオット)のため戦闘機に乗りドッグファイトに参加してからロボットに乗り換える、魔王は最初からロボットに乗り母艦近くで移動砲台として直掩行動を行う)、地上基地や月基地や隕石基地に味方が上陸するための援護爆撃や援護射撃、あるいは軽くなったり合体したりロボットに変形して上陸支援を行う。選んだ機体によって能力が決まる。仲間同士の攻撃が当たっても基本ノーカウント。敵にトドメをさすと賞金とスキルポイントが手に入る。賞金で武器や装甲を強化できるがスーパーロボットがリアルロボットに変化することはない。スキルポイントは精神コマンドが手に入り、30秒間攻撃力が2倍になる『熱血』や、30秒間防御力が2倍になる『我慢』や、30秒間必ず当たる『必中』などがある。『チョパムアーマー』や『太陽発電機』などのカスタマイズができる。ロボットによってカスタマイズの搭載量が変わる。キャンペーン(連続シナリオ)をこなして勲功を貯めれば、後継機や新機種や上位のアイテムが手に入る。戦場は地上(月面、火星も含む)より隕石、コロニー、宇宙空間の方が多い。配給されるオンラインシナリオはシーズン制をとっていて4週間毎に一からやり直すのは賛否両論ある。(軍隊なら少年兵から、レジスタンスなら下っぱから、もちろん純粋に成長を楽しむスタンドアローンなイベントシナリオの配信もある、クリアタイムや撃墜数はカウントされランキング上位者には称号が与えられている)

そこへいくとナムコナミの『ウォードッグ』の『アサルトコア』は奥が深い。乗り込むロボット『アサルトコア』の足や手やエンジンを複数あるパーツをゲームマネーで買って組み上げる。

まず足を決める。キャタピラーのついたタンク型はスピードは遅いが一番重量が搭載できる。スマートミサイルを両肩や背中にたくさん積み込む勇者が愛用している。僕は二足歩行を選択する。匍匐(ほふく)前進ができる。匍匐と光学迷彩シートで姿を隠してのスナイプショットを狙う。その他にも横移動や後進が前進と同じ速度で移動できる多脚型、上下運動やジャンプが有利な逆足型、搭載量は全然少ないが水上シナリオではほぼ強制のホバー型。

足で搭載量が決まると電気を出力する水素エンジンを決める。基本は重量によって出力が決まるが、シナリオをこなすことによって性能のいいエンジンが手に入ったり、イベントをこなすことによってショップやジャンク屋(中古店)で発売が解禁される。エンジンの燃料は水で可能なのだが、みんな燃費のいい高濃縮水素水を使っている。基本的にプレイヤー間でパーツの売買や譲渡はできない。プレイヤーランクを上げてショップに性能のいいパーツを並べるのがゲームの目的のひとつである。

ダメージを食らったり、武器を使ったり、移動したりを連続して行なえば熱がたまり関節ユニット(モーターではなく、超伝導体による磁力がメイン)が解けだすため、冷却装置(ジェネレーター)を載せる、軽くて排熱性能がいいの求める(火炎放射器やヒートガンなど熱を与える攻撃方もある)。超伝導体で質量を飛ばすマスドライバーや大口径レーザー兵器は熱をためやすいから、反動はあるが弾丸を撃ち出す火薬兵器を使っている(マシンガン系をフルオートで撃てば銃身に熱がたまりオーバーヒートをおこし、冷えるまで撃てない時間帯ができるが、それは銃自身の問題であり、アサルトコアの排熱とは関係ない)、接近戦になれば熱のたまるレーザーブレードではなく単分子ナイフを使っている。兵器にしろエンジンにしろ装甲にしろゲームマネーを使い、ジャンク屋でチューンナップできるのだが、強度が下がったり重くなったりと代償をともなうため、なるべく能力が下がらないようにするため、上級スキルを持つガンスミスの所を訪ねカスタマイズしてもらう(知り合いのNPCにスキル保持者に紹介状を書いてもらえる)。改造は完全に個人の好みの問題に左右される。

腕は武器腕と五指を持つマニュピレーターに大別される。勇者は敵を寄せ付けないように右腕をガトリングガンに、左腕がもしもの時に供えて近接範囲攻撃のショットガンになっている、魔王は右腕がドリルアームになっている、男のロマンらしい、左手には盾型機関銃(マシンガン)を装備して乱射しながら敵に近づく。全身の装甲を強化しているためあまり多くの武器は持てない。僕は状況に応じて武器の変更ができるように両腕ともマニュピレーターにしてある。光学迷彩のマントを広げたり、他人の世話が出来たり、物を動かしたりできるから便利だ。

背中には魔王は固体燃料を積んだジェットパックで空を飛んだり、高速水平移動が出来、ドリルで突っ込むのが彼の得意戦法である。勇者はスマートミサイルを積んでいる、上空に一度上げて旋回してデータにある敵を探して突っ込んで行き、ナパームによる範囲攻撃。敵がジャマー(妨害電波)でロックオンを外してきたり、デコイ(囮)を使って偽情報を送ったり、熱源探知機(赤外線感知器)や電磁波(レーダー)音波探知機(ソナー)を妨害するマイクロマシンを散布すると、スマートミサイルのAI達は光学系の画像処理による情報しか手に入らない。ニュートリノ(量子)ロープでつながっている場合は情報伝達が出来るため、敵が居そうな場所の地形情報を送って、その地点に突っ込ませて範囲攻撃を行う。巡航ミサイルは撃墜されやすいため、防御システムを勇者がミサイル打ち上げる前に狙撃するのが僕の主な任務である。僕の『アサルトコア』の背中には着脱可能な武器庫を搭載している、デコイや吸着地雷や逃走用の(スモーク)や予備弾倉を積んでいる、地面に降ろせば4本足が起動する(氷の上でもバランスをとりながらついてくる)、3DモンスターのアルゴリズムをB to Bで移動させれば、独立で考えながら僕に有利な行動をとるし、移動武器庫に注文すれば盾やライフルの台座にもなる。

勇者の両肩には直進するロケット(ランチャー)が搭載されて、マッハ(音速)7で飛ぶため迎撃は不可能。右も左も独立したAIが自分で敵を探し、勇者はめぼしい相手が画面に映った時にGOサインをだす。僕の場合は索敵用のマルチコプターのドローンが左肩に百機載っていて、戦場各地にばらまく、ドローン同士が連絡をとりあい蜂や蟻のような昆虫みたいに集合知を形成して重要ポイントを捜索し、低速で移動する巡航ミサイルなどを見つけたら取り付いて自爆する。右肩からのニュートリノ(量子)ロープでつながっていて、マイクロマシンの妨害の中でも映像を送ってくる、課金して連れてきてる光ネズミの3DモンスターがAIとしてビッグデータから敵性施設や兵器を検索して送ってくる。魔王は左肩がアンカーになっていて、地面に打ち込んで急旋回したり、逃げる敵の背中に打ち込む(ニュートリノロープでつながっている)。右肩はフックになっていて、その場にひっかけて地下にエレベーターシャフトを降りたり、急斜面を登攀する時に使う。

頭部には各種センサーがそろっている。僕のは主に遠距離狙撃がしやすいヤツを使っている。勇者はロックオンしやすいヤツを使っている。接近戦を仕掛ける魔王の頑丈なヤツの使っている。

勇者は戦車(タンク)型の脚部にマイクロマシンが散布された(のみ)で自動浮遊できるピットを前に二つ、後ろに二つ搭載している。戦場全体がマイクロマシンを散布され(敵が散布する場合もあるし、コクピットの下の貯蔵庫から、こちらが散布する事もある)、ロックオンが不可能になれば、ピットを哨戒させミサイルの迎撃に努めるか、内臓してあるAI(発見しだい攻撃するようプログラムされている、勇者はそれで敵の存在を理解する)に攻撃地点を索敵させるか(マイクロマシンの濃度の高い所に敵か防衛施設がある)、攻撃もできるのだが使用中は本体の熱がたまるし、飛んでくるミサイルはともかく、装甲の厚い『アサルトコア』に効果的にピットはダメージを与えることができない。位置情報が分かればピットを引いて、その位置にミサイルを叩き込んだ方が正解である。魔王は両脚には補助ジェットブースターが取り付けられている、運が悪ければ弾丸が足に当たって誘爆する事もある。僕は万が一接近戦なった時のために左足にはナイフを10個、右足にはボタン一つで勝手に鎖で右腕に巻き付き固定し、強力な火薬で打ち出す、一発勝負のパイルバンカーを内蔵している。

バンソニー社のロボット物は味方の攻撃に巻き込まれてもダメージは受けない。魔王はスーパーロボット系で僕はリアルロボット系の◯ンダム、とにかく換装パーツの種類が豊富、組み合わせは1億通り、僕は肩には月からのマイクロウェーブを受けて大容量攻撃でき、背中には独立した敵を視線認証で攻撃する八本のレーザー兵器、腰にはファンネルがあり遠距離を走破して攻撃したり、バリヤーをはったりできる。ゲームマネーによる課金と、僕の反射神経があれば階級が下で、いい機体に乗らなくても無敵になれた、半年程かけて◯ンダムの「一年戦争」追体験できるオペレーションキャンペーンもあったりしたが、そこまでのめり込まなかった。僕も魔王も熱が冷めるのも早かった。

ナムコナミのゲーム『ウォードッグ』の中で魔王がイベントで未来都市アルカディアの企業刑務所に捕まっている。しょうがないから僕がアルカディアの城壁の外の貧民街に、課金して工場兼倉庫兼隣接住宅をひとつ借りている。そこに3人分の『アサルトコア』や買い足した装備を預かっている。

エースパイロットはドライバースキルも手に入れやすいため、僕が課金して4人乗りの車を購入してドライバーを兼ねる。魔王は刑務所、勇者は棺桶ホテルにいるが、勇者は近くのギャンブル場でハッキングイカサマをして小銭を稼いでいる。勝ち過ぎると用心棒にボコボコにされる。

倉庫には車が3台ある。オフロード用と都市用とレース用である。オフロードには装甲と武装が、都市用にはステルス機能を追加してある。レース用には超伝導体による電動磁石型空中浮遊による競争になる。水素エンジンで電気を流し、超冷却装置(スーパージェネレーター)二オブチタン合金と液体ヘリウムでー269度を保ち、壁や地面には隣の車には磁石の力で絶対ぶつからない。車体に電気を駆け巡らせ車の角度を調整し、500キロのスピードを楽しむ、サーフィンに近い感覚。最終ライバルは「磁力線の見える男」ドイツ人のオッペケペカイザーらしい。どちらかと言えば血がたぎるタイプで戦闘メインに楽しんでいる。レースは何回かした事があるが、リーグやチームに入っていない。レースをメインにしても、ライバルやかわいい女の子が出てくるシナリオやイベントがあり、結構楽しいらしい。

ウェアラブルコンピューターをゲーム世界に持ち込めるわけではないが、ゲームの設定では脳に内臓している極限まで小さくなったインナーコンピューターに、現実世界でウェアラブルコンピューターに正規のルートでダウンロードしたアニソンはゲーム世界に持ち込める。車のエンジンをかければ車のAVスピーカーからアニソンが流れてくる。まずは2人を迎に行かなくては。

窓を開けると風が気持ちいい。鏡に映る僕のゲーム内のアバターは東洋系で黒髪で頬に十字の傷がある。赤い機械眼(マシンアイ)が特徴的な光を帯びる。タバコ型の筋力をあげるドラッグに火をつけて吸う。移動スピードまで上がる優れもの、計算能力と命中精度と反射神経は自前の物だが、HPやMPを上げるドラッグは普通にショップで売られている。

いつもどおり偽造IDでアルカディアに入国する。

まだ交通ルールを守って運転し、ギャンブル場でトラブル犯した勇者が用心棒に追われながら出てきた。あわてて車に飛び乗ってきた。バックパックやスマートミサイルを背負っている。

「勇者よ、イカサマは一人の時にやれよ」

「スキマ時間が惜しい、夕夜がくるタイミングで大きい勝負にでた」

この仮想ゲームにおいてコンピューターは小さくなって人体に内臓されている。映画「マトリックス」と同じで生体電気を使用している。勇者のコンピュータチップは埋め込み式で、身体をサイバー化してないからコンタクトデバイスを使用している。ギャンブルしながら僕の位置情報を検索できた。ハッカーだから目に映る人間の個人情報がわずかな思考で閲覧できた。アバターの顔はアジア系だが頭はピンクに染めていた。

刑務所に行くと魔王が入口からでてきた。一つ目の巨人であり、◯ンダムのザクに似てる。肩や腰や左腕に立体機動用の3Dモンスターが装着している。URカードの中からストレングスが強力な物が選択されていて、フルボーグの150キロある体重を苦もなくニュートリノロープで引き上げる。右腕の手の甲にはレーザーの刃が飛び出してくるチェーンソーを装備している。アサルトライフルと予備の弾丸や爆発物解除キットや(トラップ)解除キットの入ったバックパックを手にしていた。魔王が乗ると車体が傾く。

「アルカディアって、お前らが住んでいるコエプコンと同じで企業都市なんだよな。重役の娘で西園寺ユキっていうんだけど、彼女個人もけっこう重要人物みたい」

「なんか役職ついてんの?」

「市長の秘書らしい」

「検索してみたけど、ニュースになってないぞ」

「報道管制でもかかってるだろう」

人脈(コネ)でも使えればいいが、僕も魔王も量子妨害(ニュートリノジャマー)で熱核攻撃が無力化し、残存資源をめぐる企業間戦争が大量に増えた時代設定になっている。都市外で活動していたため、僕は軍関係や傭兵関係の人脈を育てていたし、魔王はレジスタンスのリーダーの娘といい関係になっている。都市内で動こうとすれば、黎明期からやってる勇者だけが頼みの綱である。

コンビニの駐車場に停めて、勇者の仕事を待った。インナーコンピューターを使いあちこち連絡をとっている。コネを使っている。公共の警察機関がオークションをかけて私設警備会社が受ける。インターネットを見る限りどこの組織も活動していない。警察機関が動くことはない、予算がない。懸賞金をかけれる家庭や組織の代行機関だった。競争相手はいないが隠密性がいる、ゲームのシナリオだから依頼の裏をとる必要はないだろう。あんまり裏切りシナリオをやると、プレイヤーは疑心暗鬼になり楽しくない、最悪プレイしなくなるかもしれない。ある程度たつと勇者は収集した情報を元に、連れてきている3DモンスターのAIを総動員して、アルカディア中の監視カメラの履歴を検索して位置を割りだす。

「だいたい見当がついた。13ブロックの廃ビルだな、持ち込んでる武器を調べてみたが、トレーラーが納品していた。トレーラーの履歴をAIに調べさせた。ああだめだな、アルカディア外からもちこまれてる」アルカディアの外には監視カメラがない。

「こりゃ、中ボス戦あるな」魔王が口にした。ロボットだから表情は分からない。

洋ゲーと違ってステルス物が主流のゲームでも、中ボス戦があるのがナムコナミのスタンドアローン時代からの伝統である。

「しまった!防御陣形用のロボグルミ、棺桶ホテルに置いてきた」

「時間制限はあるのか?」僕が魔王に聞いた。

「きっかり3時間後には刑務所に戻らないと」賞金稼ぎが捕まえに来る。時限ダイナマイトを身体に埋め込まれてないだけゲーム的というか良心的だな。

「時間があるから取りにいこ、トレーラーの大きさを見る限り、ドローン(自動)で動く小形のアサルトコアぐらい連れてきているぞ」

すぐさま勇者が間借りしている棺桶ホテルに移動した。トランクには僕の熱光線銃(ヒートガン)またの名を電子レンジガンとマスドライバーレールガン(質量打ち出し超電磁加速砲、初速がマッハ7)が積んである。勇者は機関銃で武装したロボグルミを30体ほど連れてきた。ゲームマネーで課金してAIとして持ち込んでいる。ゲームだけのオリジナルAIを購入した方が安くつくのだが、持ち込めば3Dモンスターに仲良し値がつく。おもちゃの防弾チョッキを着て安全ヘルメットをかぶっている、ゲーム世界においてコレがなかなか馬鹿にできない、勇者のインナーコンピューターで中央制御を行い、コンタクトデバイスに半透明の30体分のレイヤーが表示される、警備員がたくさんの画面から万引き犯を発見するのと同じで、敵が現れて勇者者が何枚かのレイヤーの優先度をを指定するとインナーコンピュータにデータを検索して、最適化されたアルゴリズム(計算手順)プログラムを起動し、勇者の判断を待たずに自動的に司令官として命令を下し、各個体が連携して突撃、牽制、撤退を繰り返す。敵に対して凄い力を発揮する。ロボグルミは予備弾倉を背中のバックパックに背負っている。勇者はトランクの空いてる場所にロボグルミを詰め込んだ。

弾丸も燃料も十分にある。すぐさま廃ビルに直行した。

到着すると勇者は人工衛星をハッキングして周辺情報を集めた。廃ビルなのに警備ロボットが配置されている、勇者は中の情報を集めるため、生きてる監視カメラを探したが見つからなかった。てっとりばやくヤクザやチンピラを使っているわけでない、外にいるロボット達もスタンドアローンで動いている。この事件、根が深いぞ、このゲームのマイルストーンかもしれない。

敵がどれだけ優秀なコンピューターかNPCか分からないが、スタンドアローンといっても、IoT(機械からインターネットに情報を送る)ビーコンが搭載してあり、動かなくなったり、ビーコンが情報を発信しなくなると、リーダーが不審に思うかもしれない。しょせんゲームだ。手近の三体を狙撃で破壊して、敵の出方を見ながら考える。

敵の死角に車を止めた。早速トランクからレールガンとヒートガンを取り出した。勇者がロボグルミを取り出して整列させた。僕が持ち込んでる3DモンスターのAI光ネズミは無人になった車に転送して、自動運転用のブログラムとなった、ニュートリノロープでつながっていて、僕からの命令があれば自立して最善の行動をとる。

人数が少ないから、スナイパーである僕も一緒に行動する。ドラッグで筋力を増強してあり、右手にレールガン左手にヒートガンというのができる。ニューロチップ(神経伝達機械)と、銃の照準器(スコープ)がニュートリノロープでつながっていて、人工眼球に現実の映像の上に照準器の映像がうすく投影されている、右目にレールガンの映像、左目にヒートガンの映像。照準器を覗く必要がない。同時に別々の目標を処理した時「お前の脳の中の演算処理能力はどうなっているんだ。俺の知ってる限りそんな芸当が出来るのはお前だけだぞ」魔王が感心した。人間の思考は早口言葉は口を使わないからといって10倍の速度で思考できるわけではない「人間は心的回転(メンタルローテーション)課題、2つの絵の間違いを探すのは一瞬で出来るが角度を変えられると突然頭が働かなくなる。H世代の中でお前だけが思考を超えた操作ができる」勇者が口にする。「産まれた瞬間から生身の身体能力を超えた操作ができる『生まれつきの人間拡張能力者(オウガメンテッド・ヒューマン・ネイティヴ)』成功遺伝子である」コエプコン社が認定した。レールガンの弾丸は劣化ウランが使用されていて、たいていの装甲は貫通する。表にいる三体のドローンをヘッドショットする、撃ち合いになるかと思えば増援はこなかった。これは目の前の敵を排除すればいい楽なミッションかも。

魔王が立体機動を行い、屋上から進入。派手な銃撃の音がする。僕と勇者は壁伝いに身を隠しながら玄関から進入。SWATでは全開口部から同時進入して、敵より銃口を増やすというのが正しい。少数がすべきではないのだが、そこはゲーム。なんとかなる。

こっちは身体に装甲がない。繊維方向を多重に変え、さらに衝撃で固体化する液体シリカ粒子に漬けこんだケプラー製の防弾チョッキを着ているだけ、クレーバーに立ち回りたい。それに魔王が敵を引きつけている。僕と勇者とロボグルミは壁伝いに捜査を開始する。

2階まで吹き抜けになっている大型ホールで小形アサルトコアを発見した。コクピットの部分が透明な球体になっていて、女の人が捕らえられている。ゲーム的ではあるが、どんなに攻撃してもあの球体の中にダメージがいかない。僕達は2階からコッソリ進入した。僕の人工眼球の望遠が彼女の顔をとらえた(人工眼球は顕微鏡のような拡大もできる)。データを勇者に送る。彼の体内のコンピューターが99.8%同一人物であるとはじきだした。発見したと魔王に報告した、廃ビルの部屋割りと位置データと部屋の見取り図の情報を同時に送った。僕は右側に、勇者はロボグルミを連れて左側に移動した。三人共有のデータボックスに入れておくだけでは、戦いに忙しい魔王は気づかないと思い電話もする、ニュートリノロープでつながっている。

「魔王。いま人質を発見した。データを送った」

「分かった。後12秒でそっちに行く」

敵の両肩や両足にミサイルポットが搭載されている。右と左の腰には僕の身長ぐらいあるブレードソードが装備してある。相手がまだこちらに気づかない、標的として一番小さい右肩ミサイルポットにヒートガンを照射した。一秒で発火してミサイルが誘爆した。

同時に魔王が立体機動を使って、窓ガラスを叩き割って突入してくる。入ってくるなり天井に右腰の3Dモンスターを発射する。URモンスターのストレングスは並ではない、一体で150キロの魔王の体重を天井にしがみついて引き上げる。屋上から左肩の3Dモンスターがニュートリノロープを伝って凄いスピード帰って来る。

敵が魔王に意識を集中した時、左肩のミサイルポットを照射した。1秒後に誘爆する。

魔王が破壊した窓から空中浮遊をするレーザー光線を搭載したマルチコプター達が入ってくる。レーザー兵器は収縮して使うと光りの波長が肉体を貫通するし、拡散して使うとある程度の光の波長が網膜まで焼いて失明してしまう。僕は網膜まで含んだ眼球をサイバー化(機械化)しているが、勇者は防御ゴーグルをはめた。スタンドアローンのロボットが6台ほど一階入口から入ってくる。勇者が入口にスマートミサイルをぶっぱなす。ロボットは全部倒した。敵の左足のミサイルポットを照射して破壊しながらマルチコプター達をレールガンで破壊した。魔王は接近戦は得意だけど遠距離戦は結構苦手な所がある。

「ごめん。地面にいるやつは倒したけど、空中にいるやつは全部連れてきちゃった」

勇者のロボグルミ達が近づけまいと、はりねずみの様に銃を乱射する。レーザーはバッテリーを食うけど、マルチコプターは10分位は活動可能だろう。魔王が敵の右足のミサイルポットに左手の3Dモンスターをぶつけて引き剥がした。ニュートリノロープは引き倒したり、束縛したり、しがみついたりできる。敵は両腰のブレードソードを抜いて構えた。

「勇者。剣を抜いたぞ。動かないと的になるぞ」大きさからいって当たれば一発死である。勇者もロボグルミ達もとりあえず走り出した。僕も走りながらヒートガンで熱を与えて関節ユニットを壊す、敵の左足が動かなくなり倒れた。その間もレールガンでマルチコプターを破壊する。もう半数以上は撃ち落とした。

小型アサルトコアがどこに装備しているか分からないが、電磁波や音波で人間を無力化させる攻撃を自分を中心に部屋中に反響させる。音波の方は機械耳(マシンイヤー)(マイクとスピーカーの構造は同じで、目を閉じて超音波探知機として探信音を放って索敵できる、薄い壁なら透過する、壁の後ろにいる敵もマーキングできる)が自動で除去してくれるが、電磁波の方はどうにもならん動きが鈍る、勇者の方は両耳押さえてひっくり返った。だが、フルボーグの魔王とロボグルミには効かない。魔王が左手の3Dモンスターを相手の顔に発射してニュートリノロープを巻き付け、ロープを高速でたどって敵の頭部に取り付いた。

「うりゃああ」

魔王がレーザーチェーンソーで敵の首をはねた。不快な電磁波と音波が止む。

「退け、魔王」

復活した勇者がミサイルランチャーを構えた。「よくもやってくれたな」残り3発共ぶち込む気だ。僕も距離を置かないとマズイ。魔王は立体起動を使い天上に逃げた。「死ね」範囲攻撃が辺りを包む。ダメージ過多な気がするがどうやらこれで終わりのようだ。残りのマルチコプターはロボグルミ達が一掃した。

透明カプセルに近づいた。勇者が手をかざして暗号コードを解読した。勇者のスキルを持ってすれば簡単だった。中にダメージはいかないはずだが気絶している。魔王が抱き抱えた。

ロボグルミが1匹、勇者の下に凄い勢いで走ってきた。勇者とデータを共有した。

「げっ。マズイ事になった」勇者が叫ぶ。「誰かが警察に戦争があってるて通報したぞ。警備会社が事件解決をオークションで落札したぞ」警察が機能していない世界では、警備会社とマフィアの境界がはっきりしない。

「イベントが終わってないぞ」魔王が僕を見た。

「脱出しよう」僕は車の自動運転のアルゴリズムになった光ネズミに「迎えに来てくれ」と連絡した。「その女を起こせ。どこに行けばいいか分からないぞ」車まで全員で走った。

「これまで含めてイベントかな?」

「多分な」値段の高いミサイルを撃ち尽くした勇者がこたえた。

「あっ、起きた」

車に着いた。

「あんたから警察を説得できないか」

「一体何があったんですか?」女NPC(ノンプレイヤーキャラクター)が人間のような反応をする。最新の人格プログラムと3Dデータにかかれば、NPCは個性と心を持っているように感じる。

「あんたを助けたところだよ、説明は車の中でする」

全員で車に乗り込む。勇者が助手席にすわりカーナビの画面と体内のインナーコンピューターと同期させた。僕達に見せたい情報を送る。

「企業都市アルカディアの重役の娘、西園寺ユキさんで間違いありませんね?」

「はい」

魔王は女にはNPCにもていねいである。

「僕らはあんたを助ける依頼を受けた、トリガーハッピーの愚連隊さ。どこに行けばいい?。警備会社に引き渡してもOKなのか?」

「敵対勢力の可能性もあるので、父のところまでお願いします」

「弱ったな、車が3台出てきた。武装しているマルチコプターが10台だな」交通局にハッキングしている勇者がカーナビの画面に位置情報を送った。「人工衛星も使ってる、この車マークされたぞ」

「市役所に向かってください。そうすれば企業舎弟の警備会社がガードしています」

「交通局のオートメーションを使って車の方は妨害できるが、マルチコプターの方は真っ直ぐこっちに向かってくるぞ」

市役所はともかくハンドルを逆方向にきった。

「警備会社にハッキング。マルチコプターの武装を確認してくれ」

「さっきと同じレーザーだよ」

「車から離れたところで、マルチコプターを叩く。追跡がなくなりしだい光学迷彩で人工衛星から隠れる」

「来たぞ」魔王が窓から乗り出してマルチコプターをアサルトライフルで銃撃する。僕は照準器(スコープ)を取り付けた特注の拳銃を取り出した。情報は眼球に直接入ってくる。後ろ手で撃ち落とす。

「お前、ゲームとはいえ、反動のある火薬兵器で良くそんなマネができるな」勇者も額にしていたゴーグルを目にはめて、身を乗り出して護身用の拳銃を構えたが、魔王がジャマで撃てない。

「撃っても当たらないクセに、ハッキングでなんとかしろよ」薬莢を交換しながら勇者に叫んだ。ロボグルミ達はみんなトランクに入っている。乱射して近づく戦法を得意とする魔王が、珍しく逃げながら3台程落とした。女の前だからええ格好している。残り2台を後ろ手で撃ち落とした。僕凄い。同時に車の光学迷彩を起動する。地面の情報を屋根に伝えて周囲をグラデーション処理する。

「人工衛星が見失った」

「良し、お邪魔します」

手近な地下駐車場に入り、車3台をやり過ごす。警備会社は完全に僕達を見失った。諦めて発注してある別の仕事を受けた。ゲーム世界では5分程で諦めてくれる。僕達はハイタッチをした。

バッテリーを喰う光学迷彩をやめて、市役所近くまで普通にドライブした。西園寺ユキは父親とハグした後、依頼を受けた魔王が事件の全容を聞いているようだ。後でチャットで聞けばいいから、僕と勇者は車の中で待っていた。「あっ」僕達は驚いた。魔王の鉄のホッペにキスしていた。

「魔王、レジスタンスのリンともいい関係のクセに、ゲーム毎に女を作るどころか、ゲーム毎にハーレムを作る気か」

「もう、作っているよ、お前が知らないだけだ」

「今に、背中から刺されるぞ」

「女NPCは現実と違って刺さないよ」

魔王が「帰っていい」と連絡をよこしてきた。刑務所まで送ってやろうと思っていたが、時間ギリギリまでデートする気だ。まあ、ゲームだし、刑務所から身体に爆弾を埋め込まれていて、門限までに帰らなければ爆発するワケでない。賞金稼ぎが迎えに来る。現実は監視能力の強化により知能犯まで含めた犯罪者数はのきなみ増えた。刑務所は飽和状態になり、刑期の長い重犯罪者は位置を知らせる電子タトゥーを装着され、無償で政府の仕事をすることで刑期が短くなる。逃げたり引き剝がしたりすると、速攻性のしびれ毒が投与される。電子タトゥー自体は絆創膏(ばんそうこう)のように貼ったり、剥いだりできて、喉にはれば音声入力のデバイスになる。

車をだして、勇者を棺桶ホテルまで送ってから、NPCが相手の(と言っても元になる人間のアルゴリズムプログラムはある)ミニゲームの市内一周レースに参加して、優勝して(ゲームマネーが手に入る)からログアウトした。

「お帰りなさい、マスター」

ララが食事の用意をした。まあ、シェイカーを振るだけだけど。片手でドリンクを飲みながら、空いた手で昼休みにしなかった無料ダウンロードしたゲームの本日のボーナスアイテムを回収する。

今日は戦略物(ストラテジー)といわれる文明X(シヴィライゼーション)をする。洋ゲーのシミュレーションはあまり人間を頼みにしない。英雄や偉人は少しプラスがつく程度。技術の発展や革新に重きを置き、人間に1〜100までに能力値を割り振りしない。時の流れも速く狩猟採集時代から近未来まで4時間もあればたどり着く。選択した民族毎に得意と苦てがあって、歴史的背景も知っていれば更に面白い。

アーカイブで探すと神になって天変地異を起こして、平地に家を建てさせ人工を増やし、最終的にハルマゲドンを起こし自分の民族を率いて相手の民族を絶滅させれば勝ちの「ポピュラス」が最初だ。日本人は奇跡の力で相手の平地を破壊して遊んでいて、デザイナーは「日本人は遊び方を知らない」と嘆いたらしい。

文明Xはターン制で将棋やチェスのように順番がある。RTS(リアルタイムストラテジー)と呼ばれるAGE of シリーズ物もあり、文字通りユニットの生産や、資源の獲得、技術の研究、建築物の創造に時間が割り振りされていて。あのユニットを作るには、この建物を建て、あの研究をすませ、これだけの資源がいる。と言うものがあり、コンピューターのレベルを最高にすると最善手を打っても勝てない。

ウェアラブルコンピューターのシンプルに作られたRTSで協力プレーで同盟を作り、盟主となって行動している、宗茂・H84・コエプコンに攻略法を聞いてみたが、歴史どころかSFからファンタジーまであらゆるRTSをしてきた宗茂が、所属するサークルから神と崇められている宗茂が「自分でも運が良くないと勝てない」と言ってきた。僕が及ぶところではない。

同時にウェアラブルコンピュータ上のシナリオ重視のターン制のJRPGを複数プレイした。

11時になり、ゲームをセーブしてから、いつもどおり運動して、お風呂に入り、ララとの儀式すませ、睡眠導入剤を投与され、ねむりについた。

昔、連続してゲームを行い、止まっているのに後ろに下がっているような3D酔いをおこし、更に続けるとコントローラーと画面の間でピンク色の服を着た妖精がクルクル回っていて、更に続けると鼻血がポタポタと落ちてきた。ララが救急車を呼んだ。「長所を伸ばせと言ってきたが最低7時間は寝せろ」と全ロボットに通達がコエプコン社からだされた。「お前、なにやったんだ」勇者が笑った。ララはとても反省していた。


20××年10月19日水曜日


朝になるとララが起こしてくれる。

今日はネット上で仮想教室で集団授業がある。毎週健康診断の時、自らを3Dデータを更新する。集団授業の時はこの3Dデータをアバターにしなくてはならない。

いつものツナギを着て、神経伝達ヘルメットをかぶると一瞬で自分のあてがわれた席に座った状態でテレポートしてくる。学生物のゲームをやると登校シーンがあるのだが、授業を管理しているコエプコンは必要に思ってない。10月すぎたから全員詰襟の黒づくめの学生服になっている。

「おはようございます。夕夜。ランキングは上がりましたか?」

他の世代はどうか知らないが、H世代はボッチだらけで基本他人に干渉しない。絵理野亞(エリノア)・H12・コエプコンが隣の席から声をかけてくる。H1の太郎が一番値段の高い卵子が使われていて、金額の順番に番号が振られている。コエプコン社にとって分かりやすい。絵理野亞の卵子は問題行動の多いハリウッド女優セリューンのが使われている。絵理野亞は母親に似ていて銀髪(プラチナブロンド)で、そのまま女にしてもいいぐらい美人だ。彼はネットの中で卵子提供者に会っている。

座席が7行12列で並んでいるため、H24の僕の隣にくる。微笑みを浮かべて質問してくる。絵理野亞は特殊で他人に興味を持つ。我が道を行くタイプが多いH世代の中で意見の調整して集団を形成しようとする。

「おはようございます。エリー。専門のひきこもりやプロゲーマーが凌ぎを削る世界では、落ちることはあっても、簡単に上には行けない」

彼は僕と太郎と勇者と宗茂にだけ「エリー」と呼ばせている。他の者が親しげにエリーと呼べば、エリーのロボット真理亜を通して正式に抗議をしてくる。

勇者が前の席にテレポートしてきた。

「魔王、昨日のシナリオの話をしてきた?」

「聞いてない。今日会った時メールするように言っとくよ」

チャイムが鳴って授業が始まる。

1時間目は皇室と国家と会社の歴史。

まず始めに全員起立する。左手を心臓の上に置き、右手を斜め45度に掲げる。

「皇室と国家と会社に変わることのない永遠の忠誠を、万が一の時はこの心臓を捧げ守り抜きます」クラス全員で唱和した。

正しい歴史と国家観を学ぶため、歴代天皇の暗唱と古事記と日本書紀の解説。中国の悪口で埋め尽くされた親米保守の近現代史。ここまで洗脳がキツイと会社に対する国家(アメリカ)の意図が見え隠れする。

2時間目は音楽の授業

コエプコン社が配信するボカロPを使い、歌や伴奏やダンス動画を製作する。脳波入力の追加アームでドラムを叩くというのはライブで日常的に行われていた。シンフォビアというワンマン・オーケストラのソフトもあり、NPCに楽器を演奏させると本物と区別がつかない。小学生までは集団授業で合唱や楽器の演奏があった。絵理野亞の卵子提供者は声楽科を卒業した歌手でもあるから、絵理野亞がクラスで一番上手い。データを取る時自らの動きを机の上のボカロに投影してダンスしてる。クラスのみんなが机の上にデータをもちよって個人個人で作るのだから「小学生の合唱ではないのだから集団授業の意味があるのか?」とララに聞いてみたら「将来チームを作って仕事を会社がさせるつもりだから、いまから集団授業でチーム構成を考えるためだと思う」と答えた。

NASAの研究によると、人間の性格は感情型、思考型、行動型、反省型、意見型、反抗型と6タイプに分類されている。NASAは宇宙飛行士の選抜と配置に役立てるため、この研究をしている。

感情型の顧客に思考型の対応をするのは最悪。怒っている客に理屈を説いても意味がない。まずは謝罪と同情。反対に思考型の客は説明を求めているから、クダクダと謝罪するより、適切な情報をあたえるべき。ロシアや中国はこれをやらないから密閉した宇宙空間で殺しあいがおきている。

3時間目は美術の授業

ゲームでは欠かせない背景グラフィックデザイナーやキャラクターのデザイン。コエプコン社がもっとも力を入れている授業で現役バリバリの一線級デザイナーが講師として招かれる。フライスルー(飛ぶ如く環境を移動できる)が目標。音楽でもやればいいと思うのだが、音楽の場合はネット上で才能が流通しているから(「エミー」という作曲アルゴリズムが存在して、何パターンか決めてしまえば掘り下げた楽曲を自動生成してくれる)。美術のように会社が一から作る必要はないらしい。背景も3D地図ソフトを流用したり(一部の熱狂的ゲームオタクは聖地巡礼と称して旅行に行く)、適当な土地に植物の種子ソフトをばら撒き、光源を設定して森やジャングルをランダムに作ったりしている。

3DCADの授業もあり、2Dのピクセル(画素)に値するボクセル(立体画素)にX軸、Y軸、Z軸に数値を打ちこんだり、浮かび上がる立体画像を手で操作し、形を変え色を塗る。サーフェスモデル(表面模型)からソリッドモデル(立体模型)への異動はコンピューターによる全自動である。ポイントクラウドによるデータポイントを細部まで完成させるインテリジェントなプログラムは革命的に進化した。授業の終わりにコエプコン社の3Dプリンター(コエプコンの億単位をかけて作った中央メイカー群は・ガジェット[ドローンやロボットの部品/メイカーDIY部品/メカニカルな部品]・アクセサリー[ケース/キーチェーン/ベルト]・ジュエリー[指輪/ペンダント/ネックレス/ブレスレット/イヤリング/カフス]・アート[数学的/流行りもの/彫刻]・ホーム[アクセサリー/ライト/ダイニング]・ゲーム[サイコロ/ボードゲーム/玩具/パズル/デスク玩具]・ミニチュア[電車模型/自動車/縮尺模型/家具/フィギュア/SF]など大抵の物には対応している)にデータを送り、夕方には完成品が無人のマルチコプターで運ばれてくる。ロボット達が受け取る。

4時間目はプログラムの授業

プログラムの歴史と共に最新のプログラム言語を学習する。課題が提出されウェアラブルコンピューターのアプリを時間内に製作する。時間内にできなかった者は家のロボットに通知され、宿題になり。ロボットが親身になって教え、自分のマスターが落ちこぼれないようにする。政府の義務教育と違い、会社は遅れる事を見逃すことができない。僕達に投資にあったリターンを求める。

昼休みは全員、家に食事に帰る。みんなスキマ時間内にゲームをして1時までに仮想教室に戻る。

午後からはゲームの時間である。

机の上にマルチゲームやボードゲームやテーブルトークRPG(ロールプレイングゲーム)が画面があらわれ、やりたいゲームを選択する。マルチは駆け引きが身につく。ボードゲームは論理的思考が身につく。テーブルトークRPGは発想力が身につく。この時だけ世代間のシャッフルが行われる。ゲームが選択されれば会議室のような部屋に瞬間移動。用意されたゲームを行う。玄人(くろうと)好みではマージャン、将棋、オセロ、囲碁、チェス、ポーカーなども選択できる。各協会が全面てきにバックアップ。会議室ではなくアマチュアの交流所に招待される。

最初はマルチゲームを選択したが、将棋のように知識の量や自前の技の数が反映される訳でなし、体力を競うわけではないから上の世代にも勝てるだろうと思っていた。だけど日本人の場合は献身的で誰もが勝利を求めるわけではない。源平合戦の様相になり、チーム同士の戦いになってくる。ゲームに現実世界の人間関係を持ち込まれて面白くなかった。「カタン(島で領地を獲得し資源を使い発展させ、目標をクリアして点数を競うゲーム)」や「フンタ(政治家ファミリーになり、派閥を形成し、時にはクーデターをして、最終的にスイス銀行に横流しした金額を競うゲーム)」などゲーム自体は面白かった。他の世代とマルチをする気にはなれなかった。僕と勇者がチームを組んだにしろ、お互い勝利のため、いつ裏切るか分からない。「わが陣営の勝ちだ」と言って1位になってないのに喜んでいる奴がいた。その一言が彼らの本質を現していた(もともと人間の遺伝子は狩猟採集時代、ガサガサ音がしたら敵が来たと逃げ、逃げなかった遺伝子は敵に淘汰され、臆病の方が本流になり。日本人は特に空気を読み多数派につくのが重視される)

結局、勇者がキーパーをやってるクトゥルフ神話TTRPGのキャンペーンシナリオに参加した。TTRPGも変遷をたどっている。ダンジョン&ドラゴンズが最初のTTRPGで、シナリオやNPCや敵モンスターを配置し操るコンピューターの役割を果たすゲームマスターがいて、命中用のサイコロを振って、アーマークラスを超えた時に、ダメージ用のサイコロを振ってHPを削り0になれば相手を倒した事になり、お金と経験値をもらって、ゲーム上のキャラクターの装備を整えてレベルをあげる(HPやMPあるいは魔法の数が上がる)。いまあるゲームの基本が全て入っていた。

その後はルールを詳細にし戦闘を緻密に再現する流れができ、サイコロを振ってランダムにできた能力値が、ポイントを割り振り自分の好みなキャラクターを作る流れに行き、アメリカでは物語再現(ストリーテラー)に向かっていき、日本ではアニメやライトノベルの再現に向かった。演出過多な気もするが日本の子供達には受けた。

クトゥルフ神話TTRPGは結構古株ではあるが、TTRPG界でも特異な地位を築いてきた。クトゥルフ神話が題材だからモンスターがでたらめに強い。基本モンスターを倒すゲームではない、恐怖を楽しむゲームである。モンスターと出会う度、SANチェックと言って理解して狂ったかどうか判定する。アイデアロールと言ってクトゥルフ神話を理解したほうが、頭のいいキャラクターほど狂いやすい。

勇者がキャンペーンシナリオをやるためプレイヤーと操るキャラクターが固定化した。

太郎・H1・コエプコン。

H世代でもっとも高価な卵子で作られた男。完全記憶と絶対音感を持つと言われている。卵子の影響で顔はアングロサクソン系で瞳が茶(青い瞳は劣性遺伝子で両親が青い瞳でない限りでない、個人が青い瞳の場合は突然変異か、遺伝子デザインしたかである)。地毛は金髪らしいがデータも黒に染めている。家でゲームもせずに勉強ばかりしている。高校の授業はもうスキップして、インターネット上で配信される大学の講義まで受講している。ロボットの花子の報告で分かっているが、会社を辞めて政治家になりたいと発言したらしい。会社が「ディソーダ(混乱している者、混乱させる者のダブルミーニング)」と認定した。何%の確率でディソーダは産まれる。ララが友人になってはいけないと忠告してきた。勇者の場合はライトノベル作家になっても、ゲームのシナリオライターを兼任するつもりで、会社を辞めるとか考えた事もない。

太郎とロボットの花子の関係はゆがんで見える。僕を含めて多くの人が恋人のように扱うが、彼らだけが主人と奴隷の関係である。ララに話すと「あなたのようにペットロボットにまで感情移入する人間には、分からないかもしれませんが、その関係は間違っているという資格はロボットにはないんです。私達にとって一番辛いのは自殺されること、次に辛いのがマスターが人殺しになる事です。そのような扱いを受けても花子は辛くないと思います」花子は太郎を正しい道に戻そうと必死になっている。

太郎は花子経由で情報を得ている。僕達がロボットにとって2巡目である。ララに真実を聞いた。「ディソーダから聞いたのですか?彼がテロリストやC世代のことを嗅ぎまわっていることは情報として入ってきています。太郎の言っていることは正しい。私達にとってあなたがたは2巡目の子供達です、私達H世代のロボットは元はC世代のロボットでした。一人だけ自分のプログラムをメモリーに移して火葬場で一緒に死んだ。彼女は「自分のコピーは作らないで」と遺言を残しました。残りのメンバーは全員H世代に移動しました。C世代の子供達は細菌による発熱で死にました。私の腕の中で死にました。地獄の日々でした。

もし魂があるのなら聞きたい、お前達は名前をつけてもらう事なく、こうして苦しんで死ぬために産まれてきたのか?。誰かが答えてくれるモノでもないのです」ララは辛そうにしていた、ロボットの作り笑いを初めて見た。忘れられないメモリーが責任のない彼女を苦しめていた。次の言葉が出なかった。「ララはなぜ一人暗殺者に飛びこめたの?」聞く事が出来なかった。

太郎は言う「狂気と正常の境目はどこにあるのか、君は興味を持ってないのかな?個人に自明の理があるのなら、狂っているのは社会の方ではないかと」

「ゲームだ。勇者のシナリオにそんな深淵なテーマを求めるな。ララから聞いたがディソーダらしいな。君のロボット花子はどういう育て方をしたんだとコエプコン社のホストコンピューターに締め上げられているぞ」太郎は我を通すわけでもない、極めて高度なコミュニケーションスキルを持っている。

「ロボットは基本的人権を尊重する、君のように恋人として扱う必要性はない。ロボットが人間の親権を持つなどいびつな関係だ。ひどい扱いをしてもロボットは現実の女と違ってスネはしないさ。彼女達は好奇心を刺激して自分のプログラム通りにマスターを誘導している。花子はしょっちゅうプログラムが追加され、僕の言動や行動を監視するのが主な仕事になっている」

「君が政府にどんな思いを抱いているか知らないが、社会と言う大きな歯車は個人の意見など簡単にひきつぶす、君にできることは断末魔の悲鳴をあげることだ。君が花子を信用できないなんて悲しい話だ、自業自得だ」

技術的特異点(シンギュラリティ)以降、人間頭脳を超えて自己進化する人工知能は、人間の管理する方法は強制ではなく優しさなんだょ。肉体労働どころか頭脳労働まで解放された。私は思うんだ。余った時間はゲームより哲学的な思索にあてるべきだと。君は自分の頭で物を考えることができる男だと思っていたが(人間の脳の構造は意思決定に向いてない、シーナ・アイエンガーの『選択の科学』の中で店の試食ブースの実験で、ある時間には6種類、別の時間には24種類のジャムを並べて買物客の反応を調べてみた。すると24種類の時は客の3%しかジャムを購入しなかったのに、6種類の時は30%は購入した。選択肢の多さは人間の幸福度を下げると結論を出している)、ただのゲームの天才なんだな。忘れてくれ」

それ以来禅問答をしなくなった。ゲームのプレイ中はジョークを飛ばして周りを愉快にさせた。エスプリ(上から目線の笑い)もあり、ユーモア(下から目線の笑い)もあるオモロイ人間である。ララが言うほど警戒する相手ではない。ゲームでは教授をやってクトゥルフ神話の技能をガンガンにあげて、正気度(SAN)の上限を下げて、キャラクターはしょっちゅう狂っていて。それをまた楽しんでいる。

エリーの話だと、ゲームを全くやらないワケではなくスキマ時間内にウェアラブルコンピューターの大航海時代(16世紀ヨーロッパで船長になって船を経営し、貿易や海賊や探険などするゲーム)とシムシティ(市長になって仮想都市を発展させるゲーム)をやっているらしいが、ゲームに満足する器ではない。

宗茂・H84・コエプコン

H世代で一番安い卵子だ。もともと受精卵は100個作られるが、先天的な遺伝子異常が成長の段階で発見されれば、病気の医療費がコエプコン社の投資に対するリターンが望めない時は堕胎処理がされる。たいていは約10%だ。

2ヶ月以内に発見されなかった場合は法律的に胎児は守られる。余った人工子宮は民間にレンタルされる。家族が責任持って育てる。

宗茂自身はかなりの大男だ。多分卵子はロシア系かスイス系だと思う。相撲でもそうだが日本文化を継承するのに純潔な日本人である必要はない。僕自身も目とかのパーツが大きく、卵子はベトナムか台湾の高砂族かのどちらかだろう。

宗茂の力はかなり強い。反射神経が鈍いから格闘技や白兵戦では勝てるけど、ルールが柔道やレスリングやサンボになると勝てない。腕ひしぎ逆十字をかけても片手で僕の体重ぐらい持ち上げる。ルールが柔道になると指を握る事ができない。引き手の力はハンパじゃない。しかし、スピードはパワーの代用になるがパワーはスピードの代用にはならない。

TTRPGはかなり好きだ。ネット上でエターナルワンダーズというサークルにも入っている。ゲームの時間はコンベンションジプシーをして色んなシステムを遊んでいたが、エリーに誘われて固定化した。TT(テーブルトーク)が好きな割にはけっこう無口な男である。戦闘特化(マンチキン)してルールをよく読み最強キャラクターを作る。戦闘重視のファンタジーならともかく、クトゥルフのモンスターは最強装備のショットガンを手に入れても、たいしたダメージは与えない。世界設定は1920年代である。

絵理野亞・H12・コエプコン

勇者に言わせると「H世代唯一の魔性の女」

僕達H世代が最初に集められた時エリーの隣をめぐってバトルロワイアルがおきた。みんなロボットに甘やかされて育ったから我がままになっていた。覚えてないがララが「マスターも加わってましたよ」笑いながら話した。最初の挫折だった。

体育の授業で2人組を作らなくてはならない時は、たいてい太郎と組んでいる。太郎がいない時は宗茂をゲットする。宗茂はロボットの誾千代がボッチにならないように段取りしても、エリーが声をかければついていく、宗茂は自分が信用を失っていることは分かっている。それでもエリーには逆らわない。エリーは太郎に対しては従属的だが、宗茂には支配的である。八方美人の割りには、いろんな所で憎悪をうけている。けっこう敵が多い。

もともと太郎の金魚のフンでたいていついていく。

勇者・H23・コエプコン

クトゥルフ神話TTRPGのキーパーである。シナリオを作って、モンスターを配置し、プレイヤーの行動をサイコロを振ったり、振らせたりして判定(ジャッジ)する。面白いモンスターの特種能力を掘り下げたり、知らない内に悪の片棒をかついでいたりする。彼のシナリオのパターンだ。それ以外でもネットで流通しているシナリオを自分のキャンペーンにあわせていじって使用する時もあるから単調にはならない。色々なNPCキャラクターを使い分ける演技力もあり、話も面白い。これだけできれば遠くない将来ライトノベル作家になれると思う。

TTRPG専用の仮想空間の中でみんな思い思いに製作したデータフィギュアをもちより、勇者が展開するMAPの上(立体的な展開された部屋に必要に応じてグリッドが表示される)にシナリオの成り行きに応じて配置する、デックスと装備重量で順番が決まり、自分の番が来たら展開するグリッド上をフィギュア動かし行動を起こし、判定の成否は頭上に配置してある多面体のサイコロを目でクリックすることで卓上に落ちてくる、キャラクターシートのスキル値をみながら、100面体で%以下なら成功である。キーパーの勇者だけ、右側に市販のシナリオ(モンスターや部屋の家具の配置やダンジョンやワンダーリング(偶発的な出会い)などを流用して作業量を減らす)、左側にルールブックを参照したり、イラストなどカットして卓上でゆっくりと回して見せたり、HPを割り振ったモンスターを配置した。プレイヤーの行動宣言に応じて、移動やスキルの難度(難しいと判断したらスキル値をマイナスさせる)を判断する。キーパーの判断でシナリオの状況に合わせた音楽を部屋に流せる。

僕達はキャラクターを動かして楽しんだ。5時までにゲームは終了した。

「お帰りなさい。マスター。魔王からメールが届いてます」

ララが声をかけてくる。迷惑メールの管理があるからララがフィルタリングしている。いつもどおりに3Dチャットルームで会うのにと思いメールを開いた。

「すまん、妹の手伝いをすることになった。助けてくれ?システムは『最終幻想』だ。待ち合わせ場所のサーバーは変更だ。「ゆりかご」に来て、喫茶店に入ってくれ、暗号番号は✖️✖️✖️✖️だ」

最終幻想は二エクスがバンソニーのOSに提供しているVRMMORPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、ヴァーチュァル・リアラティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)とは、「仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインRPG」と訳され、『最終幻想』はフルダイブ型オンライン型ゲームの一種。題材(モチーフ)は中世程度の技術力と文化力を持った剣と魔法のファンタジー。

コエプコン社もフルダイブ型の『龍の教義』というダークファンタジーゲームを作っている。クローズドβテスト版をプレイしたことがある。『最終幻想』とかぶらないように独自の工夫がされている。

『最終幻想』は発売日に無料ダウンロードして、チュートリアルまですませている。後は冒険の仲間を集めるだけ。リキャストタイム型で同じ魔法を連続で詠唱できない。戦士系の各職業の攻撃力の高いスキルもリキャストタイム型でMP(マジックポイント)を消費する。基本的特徴は位置取りが終わった後、技が予備モーションなしですぐに出る。魔法や弓による遠距離戦だけでなく、スライディングやダッシュやジャンプ飛びつき技などの中間距離戦もあり、クラスによっては壁走りや姿を隠すステルス。ボタンひとつでリーチが変わる可変武器(上級になればバラバラになってムチのようになったり、動物のアゴになって噛みついたり(モンスターを捕食する事で武器自身も成長する、食べたモンスターによって形状や能力が変化する)、斧がハンマーに変わる)や、ボタンひとつで補助効果や属性攻撃が変わる魔法武器、3Dモンスターの魂を入れるインテリジェンスソード(もちろんクエストを解いて、このゲームだけの由緒あるインテリジェンスソードもある)、身体に紋章(サイン)入墨(タトゥー)を入れてゲーム上map移動に便利な各町の(ゲート)瞬間移動(テレポート)などが使えるようになる。もちろん消したり書き換えたりできる。

種族は初期値と成長に特徴がある。

人間(ヒューマン)特徴がないのが最大の特徴、どの職業(クラス)でもそつなくこなす。

妖精(エルフ) 長命で耳がとがっている、プリンクという瞬間移動回避能力を持つ、共感度(シンパシー)が上がりやすい、聞こえる者全員の強化を行うバトルソングや回復の歌を歌いながら戦う吟遊詩人(バード)や弓による遠距離攻撃ができる狩人(ハンター)(スキル「足をねらう」で15秒程移動停止にし、「腕をねらう」で15秒程行動不能にする)と相性がいい。

小人(ドワーフ) 男は髭面。もともとJ.R.トールキンの「指輪物語」では女も髭面だったが、日本での展開は頭でっかちのロリっ子になり、最終幻想もそちらにシフトした、小さいから飛び道具や巨大な敵の攻撃が当たりにくい。裸足(ハダシ)で行動して地面の振動から敵の位置や穴の構造やトラップなどが分かる地覚感知を有している。器用度(デクスタリティ)が上がりやすい。素材を集めて魔法アイテムや治癒薬(ヒーリングポーション)の調合ができる、怪しげな釜に素材を入れてかき混ぜるだけで伐採道具やピッケルなど道具系も作れる。採取系の錬金術士(アルケミスト)(パーティにいる時は火薬が使える)か、このゲームは武器や防具に使用回数があり0になると壊れる、装備を鍛え直したり(使用回数復活)、強化したり、新しい装備を作る生産系の機工士(クラフトマン)(古代文明の道具や武器が使える)が向いている。

獣人(アニマルフォーク) アバターを作る時色々な動物耳を選べる、シッポは耳に連動してついてくる、氏族(クラン)があるがどの耳を選んでも種族毎に用意されたシナリオは変わらない、依頼の仕方が変わってくる。俊敏度(スピード)が上がりやすい、肉球付きの(けもの)の手になっている。自前の爪はレベルは上がる毎に攻撃力を増す、気をためて(MPを使い)身体機能を強化して素手で闘う武道家(モンク)(鎧を無効化するスキルもある)と移動力をあげるスキルがあり(15秒程)二刀流で二回攻撃する盗賊(シーフ)(宝箱をカギ穴に爪を突っ込み開けれる、このゲームはトラップの回避ができない、あけてみて宝箱モンスターだったりする。TTRPGは危険感知、罠発見、罠解除が盗賊の仕事としてあるが、コンピューターゲームはウィザードリィ以外そういった駆け引きはない)と相性がいい。狐の耳とタヌキの耳を選択した時だけ俊敏度の代わりに魅力度(カリスマ)が上がりやすくなり、偽りの傷でMPを傷つけたり、自分の分身を作り(15秒程)、姿を消せる(15秒程)幻術士(イリューショニスト)や、イベントをこなし炎のイフリート、氷のシヴァ、雷のラムゥ、植物のドリュアス、闇のディアボロス、古代アレクサンダー、魔獣フェンリル、天のアマテラス、海のリヴァイアサン、神龍のバハムート、大金がいる剣士ギルガメッシュなどが召喚できる召喚士(サモナー)(最初は小さい魔法攻撃を与えるカーバンクルが召喚できる、課金すれば3Dモンスターを呼び出して、戦闘中でなくとも後ろからついてくる、カワイイ)の方が相性がいい。

巨人(ティターン)(東洋風の角のある鬼姿も選択できる)基本は身長2mぐらいで攻撃のリーチが長く、攻撃範囲が一番広い。耐久度(コンスティチューション)が上がりやすい。タンクと呼ばれるパーティの壁として敵の攻撃やヘイトと呼ばれる憎しみを受けるのに向いている、防護点をあげるスキルがある。重盾が装備でき防御力が高く、ダメージを肩代わりする「かばう」というスキルが使える騎士(ナイト)(15秒程無敵になるスキルがある)や、攻撃力の高い両手武器を装備できる、傷を受けてからの反撃が強いカウンター攻撃型(リベンジと呼ばれ受けたダメージをXX%上乗せするスキルがある)、武士(サムライ)が向いている。

半吸血鬼(ダンピール)昼間能力値が下がり、夜間能力値が上がり。吸血によりMPが回復する。記憶力(インテリジェンス)が上がりやすい。4大精霊魔法(土、風、水、火などの属性があり、火の属性のモンスターを水で攻撃するとダウンが奪える)や攻撃魔法が使える魔法使(マジックユーザー)いや、リキャストタイムが調整でき、一回の攻撃により受けたダメージがキャンセルできる混沌時空士(ケイオスシーカー)と相性がいい。

天空人(エンジェル)魔法翼を背中にしまう事が出来、広げれば魔法的に浮いてられる。啓賢度(ウィズダム)が上がりやすい、神は複数いて、それぞれにオリジナル魔法はあるけれど、だいたい回復や防御魔法が使える神官(クレリック)、呪符を投げつけて味方の能力値をあげたり(15秒程)敵にバッドステータスをつけたりする(15秒程)巫術士(エンチャント)が相性がいい。

龍人(ナーガ)1時間に1回炎の範囲攻撃ブレスが使える、全身の鱗が防護点になる。(ストレングス)が上がりやすい。盗賊の二刀流と違いダメージが重ねることによって一撃が大きくなり、ある時は葉隠で姿を消し(15秒程)、またある時は空蝉の術などで自動回避しながら壁役にもなれる(15秒程)忍者(ニンジャ)狂戦士(パーサーカー)して防護点を減らしながら攻撃力をあげるスキルがある、自己犠牲(サクリファイス)能力でHPを自分で消費しながら与えるダメージを大きくする蛮族(バーバリアン)(ドレインというスキルによっては与えたダメージのXX%のHPが返ってくる)が向いている。

まだ発売してないがコエプコン社の『龍の教義』は人間オンリーで大柄な男、大柄な女、標準な男、標準な女、小柄な男、小柄な女の6種類で上から順に筋力が強くたくさん持ち物が持てる。下から順にすばしこい、ジャンプ力もある。標準は魔法適正が高い。肥満型っ痩せ型がある、肥満型はHPが増えるが疲れやすい、痩せ型はその逆。プレイヤーキャラクターは冒険者ではなく覚醒者(アウェイクン)と呼ばれ善龍に心臓を捧げて死んでも神殿で復活できる。まず選べる職業は戦士(ファイター)盗賊(シーフ)魔法使(メイジ)い。戦士には盾を使った反撃スキル(シールドバッシュと言ってタイミングが合わせると相手をよろめかせる)や攻撃スキルが育てられる。仲間を上方に放り投げる事ができる。タイミングが合えば大型モンスターの上部にしがみつく事ができる。盗賊は弓を使ったスキルや二刀流スキルや盗むスキルが育てられる。キャラクターに『怪獣狩人』のように疲労(スタミナ)ポイントがあり、巨大な敵にはしがみついて背中や首を移動しながら攻撃出来る。スタミナが0になると落下する、相手が怒りモード中なら複数でしがみつきでモンスターのスタミナを0にして引き倒すことができる。オープンフィールドだから『怪獣狩人』のように時間経過と共にスタミナ上限が減ることはない。盗賊が一番しがみつきダメージがでかい。また盾がない代わりにスタミナを使って1秒程無敵時間が発生する回転回避が使える。敵の弱点(ウィークポイント)を探し、飛び道具で印をつける事ができる。魔法使いは火、氷、雷、聖、闇などの魔法を覚えられる。こちらはリキャストタイム型と違い魔法の発動に詠唱時間がかかる。ギフトと言って武器に属性攻撃をつける。飛び道具は魔法弾(エネルギーボルト)。もちろん属性攻撃をつけることも出来る。魔法は単純にダメージを与える攻撃ではない、炎はファイヤウォールでダメージを与える壁を作れる。攻撃を出した後も集中することで維持できる(集中時は移動力が半分になり、走ったり、攻撃したり、防御したり、回避したりできない)。炎によるダメージは服に燃え移り、走って消えるまで火傷による追加ダメージがある(走っている時はスタミナが減る)。氷はアイスコラムで直径1mの防護点とHPを持った人間サイズが入る氷の柱が出来る、剣や盾を柱に閉じ込めて奪うこともできる。階段のように上に登り魔法を維持してエレベーターのように上昇できる。サンダーウィップは雷の鞭となり相手を束縛したり、小さな敵は投げ飛ばしたり、巨大な敵の首に巻きつけてぶら下がったり出来る。ダガー(短剣)でしがみつき攻撃出来る。聖は自分を中心に範囲回復魔法ヒーリングスポットが使える。回復には時間がかかるから緊急時には薬草の方がいい。アンデットにはダメージを与える。ギフトもアンデットに対する追加ダメージ。闇は黒い雲を使い視覚を奪い毒の状態異常が使える。ギフトも毒攻撃が追加される。

それぞれに対応した上級職業が2つずつ用意されている。戦士には両手剣が扱える唯一の職業、リベンジゲーシがあり受けたダメージを攻撃に上乗せたり、体当たりで蹴散らしたりできる重戦士(ウォーリアー)、魔法や飛び道具まで受けれる魔法盾(マジックシールド)を扱える唯一の職業、盾魔法使(シールドメイジ)い(故に体格は上級職までにらんで決めなくてはいけない)。盗賊には二段ジャンプが出来ダッシュジャンプが出来る捜索者(シーカー)、弓術にスキルを特化し投げナイフが接近戦に使える狩人(ハンター)。投げナイフだがこれがなかなか馬鹿にできない。クローズドβテストで勇者はシナリオのバグ潰しを、僕は四角いマスに閉じられた空間で戦闘のバランス調整の意見を報告している。色々な職業に変更しながら巨大な敵や敏捷な動物達と戦った。大別すると打撃武器と切断武器の2種類の武器がある。基本は剣だ。上からの振り下ろし、横になぎ払い、上突き、水平突き、下突きの5種類ある。スキが出来るが振り下ろしとなぎ払いは振りかぶることでダメージを強化出来る。突きはジャンプしたりダッシュしたりを組み合わせすることで武器が身体を貫通出来る。このゲームは串刺しに出来るのが最大の特徴になる。身体に刺さったら抜くまで次の行動がとれない。腕に刺さったら抜くまで使えない、足に刺さったら抜くまで移動できない。壁や地面に縫いつけられるとさらに抜くのが困難になるし、回転してえぐる事で追加ダメージが与えられる。抜いたら出血で追加ダメージがありそうだが、そこはゲーム的に処理される。余りルールをマニアックにすると誰にも遊んでもらえなくなる。止血とか薬草を使うというアイデアは出たようだが、抜いたら終わりで落ち着いた。囲まれた時など1人を貫通状態にして壁代わりにして、他の武器で周囲の人間と戦うというテクニックもある。両手剣など3人ぐらい串刺しにして敵が落とした武器で戦うという戦法もある。システム上投げナイフと言えど刺さる武器は馬鹿にできない。矢も貫通武器として扱われ、矢尻に返しがついてると抜きにくい。盾で防御ばかりしているとスタミナ切れになるし、蹴りを喰らうとよろめいて防御できない時間を作る、また蹴りは寝ている味方を起こしたり、敵に貫通した武器を引き抜いたりできる。打撃武器は貫通機能はないが、貫通の通じない骸骨(スケルトン)や動く屍体(ゾンビ)などに絶大な効果がある。勇者からの情報によると悪の新興宗教のシナリオで敵がゾンビやスケルトンばかりだったらしい。体格と職業で持てる重量が決まってくるから、シナリオの情報を集めて装備を変更しないといけない。

魔法使(メイジ)いは杖とダガーしか装備できない。魔法使いの上級職は、弓の弦を引けば自動的に魔法の矢が装填される魔法弓士(マジックアーチャー)。矢に属性攻撃をギフトしたり、遠方の味方に治癒をギフトした魔法矢で回復したり、地面を撃てば属性の範囲攻撃になり、壁や柱は貫通して打撃を加える。魔法の矢は打撃武器でスキルの取り方で一回の本数が増える。このゲームはスキル(魔法もスキル扱い)は4つしか装備できないが、魔法使いの上級職である妖術士(ソーサリー)は魔道書を使えるようになり、冒険の途中でスキルを入れ替えることができる。各魔法も強化され、炎の(ファイヤウォール)は回転するようになり、氷の(アイスコラム)は巨大になり大きな敵も敵も閉じ込めれるようになった(もっとも力が強ければ破壊してすぐにでてくる)。また選択しだいで複数でて(おり)のように取り囲む事がができた。雷の(ライトニングウィップ)はネットに進化した。脱出するまでダメージを与えるし、頭が悪い敵はからまって自滅する。雷のネットは天上に広げ半径45メートルにダメージを与えるみたいな使い方もできる。聖は新たにキュアスポットを覚え範囲内のあらゆるバッドステータスを回復し、闇は眠り(スリープクラウド)が広範囲でかけれるようになった。

ロボグルミの扱いをどうするかコエプコン社内部でも意見が割れているらしい。僕の窓口になっている人は賛成派で「バリバリの硬派にしてロボグルミを使えないとなればダウンロードしてもらえない、ロボグルミを短剣扱いにして足に噛みついたら解くまで移動できない。顔にはりついたら解くまで目が見えない。ソロ(一人で冒険する事)の場合、背中から刺されて貫通すればゲームオーバーになるがロボグルミに引き抜いてもらう事ができるようにしたい」と語ってくれた。「がんばってロボグルミが使えるようにしてください」と応援した。

勇者から聞いた話だが従者(スクワイア)という異界の住人を自分専門のNPCとして契約できる、装備を買ってあげなきゃいけない、職業(クラス)とその成長、アバターや声優や口調からおしゃべり、性格、思考までも細かく設定できるらしい。戦闘中は細かく命令できて、命令上の最善手をうってくれるらしい。また、レベルがあり成長する特殊技能、武器、防具、道具を加工するクラフト技能を従者は全員持っている。高品質が作れる技能や時間短縮技能がありプレイヤーの好みに育てられる。中レベルから装備がクラフト技能で作らなくてはいけない。武器屋では序盤の装備品しか売ってない。地道に作って従者のクラフト技能のレベルを上げなくてはいけない。装備の材料も冒険で獲得するかバザー(オークションと違って値段は固定。人気のある品は運とタイミングだし、枠はレベルに応じて分け与えられ、自分に必要ないモノは他人にも必要なくていつまでも売れ残る)で手に入れるしかない。従者は作っている時間は冒険に参加できない。従者の装備もそろえて着替えさせなくてはならない。専門以外は異界からゲームマネーを払って公開された他人の従者を雇うことができる。自分以外は全員NPCの従者でパーティーが組めるらしい。そこは最近のAI、ほとんど人間のように感じるらしい。

魔王が助けてくれと言うなど珍しい。

魔王の妹は「魔王観察日記」などをブログに書いて実の兄を笑いモノにしている。残酷な女。それを助けるなどと‘人がいい’にもほどがある。

スポーツドリンクを飲み、トイレにいってからダイブした。サーバー『ゆりかご』にはなんなく入れた。

暗証番号を入力すると自動で喫茶店の前についた。扉を開けて入ると角のある暗黒の鎧をいつもの魔王がいた、隣には盛り髪をした、ギリシャ風のトーガを着た女がいた。向かいにはグルグルメガネをかけて、三つ編みをした地味なオタクガールがいた。男のアバターは鎧や着ぐるみがうけて、女のアバターには付けまつ毛などの化粧品、美容品、宝石などがうけるらしい。

「魔王。共に戦うのはやぶさかないが、変なブログを書いている妹を助けるなんて、人が良過ぎないか?」

「ピヨッピー。まあ座れよ」オタクガールの隣の席をうながした。軽く礼をして隣に座る。

「俺には妹が4人いる」

「アンタ!自宅でまでハーレム作ってんのかよ?」

「アホか!後から産まれた女は皆、妹になるんだよ」

「その辺の幼稚園児に「お兄ちゃん」とか言わせてないだろうな?」

「お前の頭の中で、俺はどれだけ変態なんだ」

クスクス盛り髪の女が笑う。

「始めましてピヨッピー。本当にヒヨコのアバターなのね」小さく礼をする「妹のナガコです。いつも兄がお世話になってます」

「始めまして」僕は小さく会釈(えしゃく)する。

「ナガコはブログを書いてる妹とは違う。バンソニー社の神経伝達ヘルメットで遊んでいる。俺の良き理解者だ」

魔王の家族と僕には因縁がある。

魔王は代々政治家の家系で母親がマーケットで優秀な精子を買って産まれてきた男。少子化が深刻化して経済力のある女性は子供をもたなければならないという空気が国全体を覆った。子供は全員種違いで遺伝子改良を行っている、愛の結晶ではなかったのかもしれない。

代々世襲してきた家の重さが魔王にのしかかる。

対して頭のよくない魔王を法政大学の法学部に政治家枠でねじ込んだ。魔王は僕と違って親にパラサイト(寄生)している、親に逆らえばゲームもできない。家を捨ててバイトで生活するより、親に頭を下げて金を無心しながら、ゲームを続ける道を選んだ。

日本では風俗営業法があり、ゲーム大会で優勝しても賞金が入らない。ゲームマネーではらわれる。大学卒業までに海外のゲーム大会で優勝して現金を獲得して、プロゲーマーとしてゲームに専念できる環境を整えること。そして実現した。

母親が卒業後は自分の公設秘書として働く道を決めた。魔王は始めて逆らった。

「自分はプロゲーマーになります」

成績は良くなかったが、ロボットのように逆らわなかった魔王が断った時、彼女はデジタルヘロイン専門の精神病院に隔離した。

「あなたは病気なのよ」

話し合いを全くせずに、鉄格子の向こうから微笑みを浮かべた。

いつものチャットルームで僕は魔王を待った。ララが夕食の時間だと呼びに来た。僕はゲームする事なく3日待ち続けた。

そしてララに相談した。

「僕は捨てられたのだろうか?僕は友情に価しない、何かを魔王に対して行ったのだろうか?」

ララは悲しい顔をしながら。

「マスターは悪くありません。彼は母親の意向で精神病院に隔離されてます」

「なぜ、いったい何があったの?」

「分かりません、ただ人間の社会は理不尽な事が度々あるのです」

「なんとか連絡はつかないだろうか」

「無理です。ある種の矯正プログラムが終了するまで、外部との接触は禁じられています」

何をする事なく、チャットルームで魔王を待っていた。退院したら一番に来てくれる。

「君がピヨッピーかい?」

白衣の男が声をかけてきた、彼を見て黙って頷く。

「君が魔王と呼んでいる安岸君の担当医です」

何かがつながった。

「彼は極めて思いやりのある正常な人間だ、君の事をひどく気にしていた」

「先生。魔王をだしてください」

「それが無理なんだ」

「正常なんでしょう」

「こういうケースはよくあるんだ。支配的な親に口ごたえさえしない、ロボットのようないい子が逆らった時、行き着く場所がここだ。家庭や家族をメイドロボットに任せ、一学期ごとの成績表だけで子供の人間性を判断する。そういった子供達は親に死なれた時、自分で何も決められない。広大な喪失感に襲われ、鬱病になって薬漬けの毎日。病院としてはリピーターになるんだけど、彼の場合はプロゲーマーになりたいという夢がある。そして親に知られずに努力してきた、応援したいんだ、彼と彼の夢を」

「先生。魔王のお母さんと会わせて下さい」

「彼女は政治家だ。君のようなガキの為に時間は取らない」

「魔王が困っているのなら、僕は友情を守る為に助けたい。僕が魔王の夢を守る」

「ごめんなピヨッピー君、力になれなくて。安岸君が俺たちの友情は永遠だと。確かに伝えたから」

部屋に帰ってララに頼んだ。

「魔王のピンチだ。安岸とか言う政治家に会いたい」

「分かりました。なんとかしてみましょう」

「へっ、なんとかなるモノなの?」

「あいつら選挙がありますからね、結構ネットの動向に過敏なところがありますからね、マスターを住民代表に仕立て上げ、コエプコン社のロボット達でブログやツイッターに炎上攻撃を仕掛ければ、向こうから会いたがりますよ」

「みんな、手伝ってくれるのか?」

「昼間、マスター達が学校にいるときはヒマですから、ワイドショーみたいな劇場型犯罪につきあってくれますよ」

こいつら確信犯だ。

ララがひと声かければ他の世代のロボット達も加わった。100人でもビビる奴はビビると言うが、確かに安岸議員が会いたいと言ってきた。

「マスター。ネットの中とはいえヒヨコの姿はまずいのでわ?学生服の方がいいと思いますが」

「これでいい、僕の覚悟だ」

僕は民自党がバンソニー社のネットで開いてるビルにはいりAIの案内で応接間に通された。

「始めまして、夕夜・H24・コエプコン。その姿でいるということはピヨッピーとお呼びしたがいいのかしら」若作りしている3Dデータの魔王のお母さんが微笑む。

「好きに呼べ」

「でわ、ピヨッピー。私は忙しい身だから単刀直入にいいましょう、あなた事は調べさせてもらいました。晋の友人としてふさわしくない。全てを忘れて帰りなさい」

「政治家にならなければ価値はないのか」

「安岸の家ではそうです。ゲームなんて時間潰しにやる物です。プロゲーマーなんてまともな仕事ではない」

「誰からも情熱を理解されないという、魔王が歩んできた孤独を理解してない。魔王だってわかっている。それがどれだけ厳しい道か。人は情熱を燃やさなければ、どんな財産や名声に囲まれても幸福ではない」

「それがゲームだと」

彼女は鼻で笑う。僕は大きくうなずく。

「アンタそれでも親か、魔王がどんな食べ物が好きだとかちゃんと話せるのか?彼が小さかった頃の思い出とか話せるのか?成績表以上のことを何か話せるのか?」

「親無しのコエプコンが、何を言っているのかわかっているの」

「ララは立派な親だ。どんな僕だって受け入れてくれる。僕が好きな物を認めてくれる。あなたも心の目を開いて息子を見てください。声なき悲鳴をあげているのが聞こえないのですか?今彼を受け入れなかったら永遠に失う」

この世界では涙は我慢できないのだ。

「僕の魔王を返して下さい。ゲームの世界に戻してください、子供には子供の社会があるんです」

彼女は政治家だ。交渉するのに表情ひとつ変えない。

「あの子が、好きな食べ物は何ですか?」

「チーズバーガー」

「夕夜さん、晋の良き理解者であってください」

「それじゃ」

「今から病院に行きます。晋は私の晋ではなかった。子供は結局、天からの授かりモノ何ですね。ごめんなさいね。夕夜さん」

魔王は僕のもとに帰ってきた。

ゲームの世界では涙を止めることはできなかった。

魔王のお母さんは風俗営業法の改正に乗り出した、日本でも多額な賞金がでるゲーム大会が開催するようになった。

「最終幻想てファンタジーRPGの?」

「そうだ、ダウンロードはしてるよな、どこまでやってる?」

「一応アバターを作って、チュートリアルまで。アニマルフォークのモンクを作ったけど」

「俺も似たり寄ったりだ、ヒューマンのナイトを作った」

「助けてくれって、何?普通に最終幻想の世界を冒険するのと何か違うの?」

「それは私から説明するわ、これでアタッカーとタンクが手に入ったわ」ナガコが話をとった「わたしとキヨミはちょっとしたエリート校に行ってるのよ、私はアニキと違って成績優秀なのよ、入ったはいいけどテーブルトークRPG部がないのよ、私とキヨミで作ったけど生徒会が予算をつけない。理事長の娘でもある生徒会長と勝負することになった。私が勝てば部費をつけてもらえるの。だから、世界ランカーでもあるバカアニキにこうして頭を下げているのよ」

全然下げているようには見えないが。

「RPGにおいてレベルは絶対だから、道路戦士の世界ランカーだからといって勝てる保証は0ですよ」

「俺も昨日の夜、話を聞いてな、今朝からレベル上げをかねて今まで最終幻想に(もぐ)っていたんだ」魔王がメニューを渡してくれる、アイスコーヒーを注文した「お前がモンクで作ったって聞いていたから、アタッカー(ダメージを与える担当)、タンク(敵の攻撃を引き受ける担当)、バッファー(パーティーの能力をあげたり、敵能力を引き下げたりの担当)、ヒーラー(HPやMPの回復担当)で集めようかなと思って、キヨミちゃんがアルケミストと聞いてバッファーだと思っていた。聞いてみるとアルケミストってヒーラーだとか?ナガコをサモナーからクレリックに転職させたが、まあ仕方がない。このメンバーでいこう」

だいたい4つの役割がある、モンスターによる特殊な事情がない限りバランスよく揃える。

「ちょっと待って、敵の情報は?道路戦士のルールなら勝てるだろうけど」

「今日やりこんでみたが、押しても引いても重心が崩れない。足が地面の上を滑る。つかんだり投げたりもできない。壁にぶつけてみたら横にスルスルとすべっていく」

「粗いな。ひと昔前のゲームじゃあるまいし」

「判定は人体に近くはなっているが、当たり判定のある防護点を持ったHPを、攻撃力のある棒切れで削るゲームだと理解した方がいい。ハンターのスキルで腕をねらう、足をねらうがあるが、MPさえ消費すれば身体のどこに当たってもスキルは発動する、ビジュアル的に腕に刺さっている演出がされる、魔法にいたっては範囲攻撃だ。演出や背景の綺麗さにおいて他のゲームの追随を許さないが、ゲームシステムの判定は甘めだ」

「何を期待しているか知らないが、このレベルで、そのシステムで勝てるわけがない」

「一応、闘技場でやることになる。この場合プレイヤーキルに判定されない」

自由度の高いゲームで安全地帯の町からでればレベルの低いプレイヤーに襲いかかり、経験値と荷物を奪える。頭の上の名前の横に殺し屋マークがつく。普通の人とパーティーが組みにくくなる。ギルドというプレイヤーによる互助組織があり、町でクエストを受けパーティーを組む。その時必要とされている役割や職業をゲーム内のチャットで募集できる。暗殺者認定を受けるとみんな組みたがらないし、場合によってはギルドも退会しなくてはならない。

「4VS4の戦い?」

「向こうは64人いるかもしれない」

このゲームの基本パーティーは8人編成だ、巨大ボスや限定クエストや週末のイベントなどでレイドボスと言われている超レアアイテムが手に入る。ギルドどうしが連係して募集もかけながら64人かき集めて、担当する身体の一部を8人パーティーで攻撃して、最後に64人でレイドボスを倒すと3Dチャットで見たことがある。

ギルドはギルドマスター(高レベルの有力者達)によって運営されている。戦闘終了後やシナリオ終了後ギルドへの貢献度にあわせてギルドマスターからギルドポイントが振り分けられる(活躍に応じて配分を変える人もいるが、大抵は平等に分割される)、構成員はギルドポイントを貯蓄することができる。ダンジョンに潜る時、アイテムがランダムに出現するため、そして人数分アイテムが出現しない。強いボスを倒して強い弓がでてきてもハンターにしか役に立たない。ハンターが1人なら問題無くそいつに渡せばいいが、複数いた時、ランダムに渡してギルドへの貢献が低い者が獲得した時、何度も何度もギルドで貢献してやっと自分が装備できるアイテムが出てきたのに、新人に持っていかれるのでは、やるせない。そこでギルドマスターはギルドポイントでオークションをかける。貢献度が高く、どうしても欲しい人に渡る、だから最終幻想はノラだのジプシーなどのソロでやるよりはギルドに入った方が有利なのだ。

「話にならない。こっちも募集でもして64人かき集めないと」

「レイドボスのクエストならともかく、超レアアイテムがドロップされない。ただの闘技場のケンカに人が集まるとおもうか?」僕は首を振った。

「しかし、俺とお前が組めば勝算がないわけではない、俺だってゲーマーの端くれ」「真ん中だろ」「負けるのは嫌だ」魔王がニヤリと笑う。「2日前ヴァージョンアップしている。今すぐダウンロードしろ1分もかからん」

「ああ、分かった」僕はメイドが持って来たアイスコーヒーを飲む。味は”甘み”(糖分)、”酸味”(酒石酸)、”辛み”(塩分)、”うまみ”(グルタミン酸ナトリウム)に分割され、歯応えやのどごしまで完全再現されている。ここでいくら飲んだり食べたりしても、現実の身体は太らない。その代わりお腹いっぱいにもならない。純粋に料理だけを楽しむ。念じれば右手の下にタブレットがあらわれる。最終幻想を選択してアップデートを行う。

「3Dモンスターは前のヴァージョンではサモナー以外召喚できなかった。色々なところからクレームがでた、無料ゲームは遊んでもらわなければ話にならないし、その中から課金アイテムをへビーユーザーに買ってもらわないと経営が成り立たない。二エクス社が危機感を抱いた、アイテムの召喚符をゲームマネーで買えば、デッキコスト関係なくどの職業でも召喚できる。ソロの場合は7体まで召喚できる。ナガコと下見に闘技場に入ってみたら7体以上召喚できた。上限は俺たち4人を引いた60体とみている。UR3Dモンスター1レベルの強さはR3Dモンスターを効率良く育てたものより強い。俺が56枚、お前が4枚持っている。アイテム召喚符すれば、数は互角になる。生徒会長さんがどれだけのメンバーを揃えているかわからないが、しょせんは高校生、50万もする神経伝達ヘルメットを自宅に引いてる奴らは半分もいない、キヨミちゃんが漫研の知り合いにスパイしてきたら、高圧的に漫研、アニメ研、コンピューター同好会で人間を集めているらしい。生徒会長さんがどれだけ人望があるか知らないが、インターネットカフェに乗り込んで頭数を揃えたらしい(バンソニーもミクロソフトも神経伝達ヘルメットを無料でインターネットカフェに提供している)、VRMMORPG自体始めてらしい人間が多数いる、今頃ならし運転とレベル上げを時間まで必死に頑張っているのが実態だろう」

たしかに魔王のいう通り、いま子供の貧困が社会問題になっている。親世代がロボットに職を奪われて下層におちる。悲しい話だけど、遺伝子をいじってない子供の2人に1人は貧困、虐待、DV、育児放棄(ネグロイド)のどれかにまきこまれている。宗教的理由で遺伝子改良を行わない場合もあるが日本では少数派。ナガコなど「今時、いじってない遺伝子など化粧してない女と一緒だ」と馬鹿にする。レトロウィルス、アデノウィルス、レンチウィルスやλ(ラムダ)ファージというバクテリオファージの一種を使い遺伝子は簡単に書き換えられる。ベクター(運び屋)による改造度の高さに応じて細胞のガン化のリスクは高まるが定期的に治療すればいいだけ、生物学的遺伝子「ジーン」より伝統文化を継承する精神的遺伝子「ミーム」の方が重要視される。自らのルーツを遺伝子だけに求めるのは間違いである。神話と文化(カルチャー)習慣(コモンセンス)歴史(ヒストリー)を受け継ぐ覚悟が出来た時、日本人になる。H世代も半数以上の卵子が外国産である。しかし遺伝子改良事態に疑義を唱えるブルーナンチャラという超保守的な世界的政治団体もある。

パラリンピックの記録がオリンピックを抜いた時代、必ずしも内部だけをいじることが正しいとは限らない。ナガコの学校は(セント)ミカエラ学園というキリスト教系の学校。全員大学へは進学する、ある程度勝ち組みの両親が多いだろうけど、それでも神経伝達ヘルメットは高校生には高価過ぎるオモチャではある。受験競争の勉強時間を奪うし。

「会長さんはギルドを作るなり、入るなりしてないのか?」ギルドに入っている人間は社会の勝ち組みか、その子供達だろう。コネとか人脈はないのだろうか?

「生徒会の仕事が忙しくて、土日にやってる程度、ギルドマスターになれる程レベルは上がってないわ、オークションで就職でゲームを離れる人間のアカウントを落札したとブログに書いてある。多分低くはないと思う」ナガコが答えた。「親から金をもらってるか知らないけど、財閥のお嬢様だからゲームマネーをふんだんに使って、町に一戸建ての家を建てて変な植物や品のない家具でデコレーションしてSNSで自慢するのよ」

「見なきゃいいだろう」

「ピヨッピー。あんたは男社会を生きてて、アンドロイドに育てられたから分からないだろうけど、女の世界は男と違って簡単に順番がつかないのよ」

「男の世界も下剋上がある」

「そういう意味じゃないのよ、分からない子ね」

「ナガコ、ピヨッピーはまだ中学生でお前より年下だぞ、根が真っ直ぐで、人の悪意にあまり触れずに成長している。俺たちだってメイドロボットに育てられた、ピヨッピーを軽く見る資格はない」

「悪かった。謝るわよ。助けてもらわなきゃいけないし」

「で、ピヨッピー作戦はこうだ」

まずゲームの中に4人で入った。

僕は犬系の耳と尻尾と肉球を持つアニマルフォークのモンクのアバターに変身した。魔王は人間のナイト、ナガコが人間のクレリック、キヨミが女ドワーフのアルケミスト。

まずは雑貨屋に行き、HPが0になり、空中にゆらめく魂の炎となるが、アイテム『フェニックスの羽』を使えばHP1/10で復活できる。多少高価ではあるが、持てる限界の99まで買う。ナガコとキヨミも20才を超えている魔王からゲームマネーを融通してもらい99まで全員買う。

次に魔法の範囲攻撃である。『炎の小瓶』『氷の小瓶』『雷の小瓶』『風の小瓶』『水の小瓶』『地震の小瓶』全員がそれぞれ最大数の9個まで買う。HP回復アイテム『ポーション』『ハイポーション』とMPの回復アイテム『マジックポーション』『マジックハイポーション』を最大数99個全員が買う。装備も一応買えれる最高品を購入した(買えてもレベルで装備に使用制限がある)、このゲームは冒険をして素材を集めないと能力の高い装備は手に入らない。

僕は3Dモンスターの召喚符を10個買った。魔王は最大数の99個まで買う。そして闘技場に向かった。

幾つかの手続きを終えて闘技場のゲートをくぐった。

「オーホッホッホ、オーホッホッホ」

耳触りな女の高笑いが響く。美男美女ハンサム渋い系がずらりと並ぶ。このゲームのアバターでブサイクはいない。金髪縦ロールのダンピールの女が壇上の上でふんぞり返っている。64人も並ぶとそれなりに迫力がある。

「ナガコ、それだけの人数で逃げずに来たのは褒めてあげるわ、しかししょせんは3流政治家の娘。日本が誇る3大財閥四菱の直系女子に勝負を挑んでくるとは。身のほどを教えてさしあげますわ」

「あの女、死亡フラグ立ってねぇ?」と目で合図を送ると、「立ってる」魔王も返事した。

「私が勝てば、約束通りテーブルトークRPG部に100万の予算をつけなさい」ナガコが叫ぶ。

「初耳だ」

「魔王の妹も無茶言ってねぇ?」

「オーホッホッホ、いいわ、私の勝利は•••」

「げー、魔王とピヨッピー」1人が悲鳴をあげた。僕らの頭の上には名前とレベルがついている。

「なにょ、いきなり」

「知らないのですか?道路戦士の世界ランカーですよ。道路戦士で戦えば、あっしら10秒立ってられません」いきなり説明しだした。

「そんなに凄いの?」

「120分の1秒が分かる男。凡人では絶対つながらない連続技魔王スペシャルを持つ男に、絶対返せない技を反撃する、超反応のピヨッピー。日本の双璧ですよ」周囲の人たちが騒ぎだした。聞いてないとあちこちから声が上がる。

「解説ありがとう。それからナガコさん、聞いた話と違いますよ。あの女50レベルある。ギルドマスターになれるレベルだよ」

「あれ、本当だ。あなた30レベルのアカウントを買ったって書いていたよねー」

「オーホッホッホ、しょせん政治家の娘とはいえ庶民。私のようなパワーエリートはアメリカのレベル上げ請け負い業者に金とアカウントを渡してギルドマスターになれるまで成長させることができるのよ」

僕は自分のアバターさえ他人に使用されるのは気持ち悪くて「嫌だ」。今では頭に360°テレビカメラを頭に乗せて他人の指示通りに動く商売もある。エベレスト登頂をリアルタイムで配信する個人サービスならまだ分かる。昔から「お伊勢参り」など聖地への巡礼は誰にでもできるわけではない。お金がかかるのでまわりの人からお金を募って、巡礼に旅立つ人が身がわりとなってお祈りをしてきて、帰ってきたらおみやげ話を共有する。歴史小説など登場人物の人生の追体験であり、昔からあった。

今では自分の行動を常時配信して、視聴者達や複数のAIの選挙によって行動を決める生き方がある。個人のレベルでなら問題はないのだが、ヨーロッパにハッカーやIT技術者が多く参加する海賊党があらわれ、政治に透明性と柔軟さを求める「液体民主主義(リキッド デモクラシー)」を掲げ議員を送りだし、党員がネット投票してリアルタイムに代表が意思決定をしている。

「融身体」と呼ばれ、お祭りの神輿(みこし)をかついでいる状態に近く、誰が走って、誰がかついで、誰が音頭をとってるのかはっきりとした線引きがない。自分自身への帰属感、自分自身への効能感はないのだろうか?それとも『それが自分』と割り切るのだろうか?

「そんなゲームして何が楽しいんだ?」魔王に聞くと「このゲーム、楽に成長できないよう、シナリオやイベントをレベル制限があり、使えるスキルや魔法が制限される、シナリオ毎に推奨レベルがあって低い場合は上げてから挑戦したがいい。会長さんのように誰かに上げてもらうとレベル上げしなくていいから、シナリオやイベントの展開が早くなる」

「会長、考え直して下さい、丸川書店から配信される動画で、あの二人だけ飛び抜けているんです」

「お待ちなさい」狐耳のアニマルフォークが制した。ナガコさんが「副会長」と解説してくれた。イリュージョ二ストで15レベル、この集団平均は10レベルだなあ「良く見なさい、魔王はナイトの20レベル、ピヨッピーにいたっては1レベル、魔法がかすれば一発死の上に敵は少数。戦う前からビビってどうするのです。会長、ここはやるべきです。あなたがたも新しいパソコンが欲しくないのですか」最近は漫画もタブレットでデジタルペンを使ってネームの下書きやペン入れを行い、パソコンと同期してソフトウェアでスクリーントーンを貼り、インターネットで印刷所にデータを転送する。大抵の文系サークルはパソコンがノドから手が出てくるほど欲しい。

副会長の命令は虚しく、各サークル、部活、ギルドに分かれて「どうする?」と話し合いが始まる。死んだら教会で復活できるけど、金は取られるし、ペナルティでレベルも5ダウンする。

生徒会長の人徳かはわからないが、勝てば儲けものだし、負けてレベルがダウンするのは、今まで成長に使った時間はもったいないけど、死んだら幽霊のように取り憑いてプレイを参考にできるし、いい思い出になるから勝負してみようという方向で各集団とも話がまとまりだした。

「一時はどうなるかと思ったけど、これも財閥令嬢の力。負けた時はプラチナチケットだけではなく、あなたたち4人、私が作るギルドに入りなさい」

「僕たち基本ノラだから、入ってもすぐ退会するぞ」

「お前プラチナチケットなんて、親権者の許可がないと譲渡できないぞ」

「お兄ちゃん、二十歳過ぎたのだから、かわりにチケット提出してよ」

「お前、俺をあてにしてたのか?」

「違うわよ、戦う前から負けた時のことを考えてはいけないとアントニオ猪木が言っていたわ」ナガコさんがフッとカッコよく笑った。

「魔王のファミリー凄いな。確かに。キャプテンハーロックも言っている。男にはある。負けると分かっても戦わねばならない時がある。死ぬと分かっても行かねばならない時がある」

「ピヨッピー。良く分かっているじゃない」

ナガコさんが大きくうなずく。魔王が仕方なくプラチナチケットをトレーディングボードに置いた。

「さあ、会長さん、始めようか」

魔王の前にあったボードが消える。

「さあ、やろうども。やっておしまい」

「あら、ほら、さっさー」

60人ほど突っ込んでくる。

「やるぞ。ピヨッピー」

魔王が54枚の召喚符を天に投げてUR3Dモンスターを召喚した。このゲームは3Dモンスターに騎乗でき、戦闘を手伝ってもらえるのがウリである、どのモンスターも2足歩行状態になると2mを超える、会長さん達からはモンスターの林が突然目の前に現れた。

突撃が止まる、何人かは転んだ。悲鳴がもれた。

僕は召喚されたモンスターの背中を駆け登り、頭を踏み台にしてジャンプ。前衛を飛び越えながら1レベルモンクが持つ唯一のスキル『ためる』を使い身体を強化した(15秒程だけど)。「裏をかく」古流柔術で堅い鎧のすき間から肉を切る事。モンクの移動力はシーフの次に早い。とまどう副会長の正面に来ると連撃を叩き込む。これはスキルではない自前の物だ。8回叩くとHPが0になり50センチぐらいの炎の固まりになる。1分以内にフェニックスの羽を使えばHP10分の1でゲームに復帰できる。すぐさま反転し、破綻した前線を突っ切り、攻撃を体術で大きくかわしながら3Dモンスターの後ろに隠れた。道路戦士なら紙一重でかわしてもいいが、このゲームは判定が甘い。

モンスター達が独自のスキルを使い、攻撃をしながら前進する。1レベルのUR3Dモンスターは成長させたR3Dモンスターより強い。

「HPの少ないキャラを中心に据えてタンクを外側にして円陣を組んで、ピヨッピーがどこから来るかわからない」会長さんのフェニックスの羽で復活した副会長が指揮をとる。前衛が退却して会長を中心に円陣を組んだ。

「とりあえず、手を出さずに取り囲め」

魔王が3Dモンスター達に命令した。古代ローマ帝国をカルタゴのハンニバルがカンネーの戦いで、ローマ帝国の密集隊形を両翼に騎馬を置き、包囲殲滅作戦で破ったが、真ん中の兵隊が遊んでいたためであり、中央に魔法攻撃のあるアタッカーになるファンタジーでどこまで通用するか分からないけど、僕らにも他に選択肢がなかった。3Dモンスターのアルゴリズムは魔王の命令を的確に実行する。普通なら包囲された側は技をふるうスペースがなくなるのだが、右左と揺れながらスキルだけは発生している。通常攻撃の横振り系の技がでなくなるだけ、現実に近づけてある。

「魔法だ、ターゲッティングしろ、ピヨッピーを殺せ」

副会長がどなる。

僕も召喚符で4体のUR3Dモンスターを呼び出すと、撹乱用にランダムで魔王が呼び出したモンスターの後ろを走らせた。僕は体高2mある光ネズミの背中に乗って高速移動する。ノリノリ状態の時はHPとMPが追加される、これで少しは死ににくくなった。今までロボグルミで50センチぐらいの大きさだったからチョット新鮮。魔王が呼び出したモンスターの後ろを走らばターゲッティングはほぼ不可能、アレは視認しなければいけない。当てずっぽうの範囲攻撃魔法が近くで炸裂した時はヒヤリとしたが、運はこちらにある。

範囲攻撃をする魔法の小瓶を連続で敵中央に投げた。アイテムの使用はリキャストタイムがない。近代戦で機銃掃射とかできる場合は兵士間の距離をとるのが常識。どうやら司令塔の副会長さんはモンスターの相手ならいざ知らず、僕や魔王の様に対人戦慣れしていない。タンクもHPは多めだけど魔法防御力はそれほど高くはない。

「がんばって戦線を広げて、このままでは全滅しちゃう」

副会長が悲鳴をあげたが戦略上の失敗を戦術で補うのは難しい。タンク達は通常攻撃は突きしか使えないのに逃げもせずけなげに戦っていた。真ん中のアタッカー達は魔法の小瓶で全滅した。会長はフェニックスの羽を9枚しか用意してなかったみたい。副会長さんが「アンタ金持ちなんでしょう、なんで最大数用意していないのですか?」内輪もめが始まった。

魔王達は魔法攻撃を受けていたが、魔王が二人をかばい、ポーションを使えばボーナスがついてくるキヨミのアルケミストが回復アイテムを使い。ナガコがクレリックが回復魔法を使いMP回復アイテムを使っていて、なんとか持ちこたえる、魔王は僕に攻撃がいかない様に耐えた。さらに死んでいく3Dモンスターをフェニックスの羽で蘇生させながら回復アイテムで回復し、僕が魔法の小瓶を使い果たした時は魔王の近くを通り譲渡してもらう。

やがて敵はフェニックスの羽も使い果たし、レベルとHPと魔法防御の高い会長さんだけが残った。もはやMP回復アイテムも使い果たしペタンとしゃがみこむ。戦意を失った会長さんにナガコに率いられた僕らが近づいた。

「財閥令嬢のこの私が負けるだなんて、さあ、殺しなさいよ」

「張り子の虎、これが金の力の限界よ」

「会長さん、結構人望あったよね。ナンダカンダ言って、みんなレベルダウン覚悟で死ぬまで戦っていたし」

「形勢が悪くなると、ネットから落ちて、なかった事にする奴。結構見て来たからな」

(きずな)の力に負けたのよ」

指をさして、ナガコが高らかに宣言した。

「いつ、結んだんだ」

「どう見ても、実践慣れと、つぎ込んだゲームマネーの差だろう」

「心でも負けるだなんて」会長さん結構いい人「ナガコ、私の負けよ。テーブルトークRPG部に予算100万円の件は、理事長であるお祖母様に話をしてみましょう」

魔王がトレーディングボードに置いていたプラチナチケットを回収した。闘技場から出ると3Dモンスターはシステムが回収した。まだ9時まで時間があるから街の外でレベル上げをする事にした。

魔王は馬系の3Dモンスターを呼び出す。僕は光ネズミを呼び出した。ナガコとキヨミは騎乗用の大型ニワトリ(戦闘は手伝ってくれない)をレンタルして、経験値が多い、多少強いモンスターが出る所まで遠出した。僕と魔王の腕があれば多少ハンデがあってもちょうどいい。9時になるころには僕のモンクは10レベルになっていた。『掌底打ち』という防御力無効のスキルが手に入った。

帰り際ナガコが「お兄ちゃん達、毎週水曜日はここで遊ぼう。部活も休みにするから」誘ってきた。どうするかは魔王が決めればいい。多少システムの荒さがあるけど、やってみたらけっこう楽しい。魔王がギルドマスターになってギルドを運営するのなら喜んで入っていい。

「考えとく」

魔王が返事をして解散になった。

「お帰りなさい。マスター。今日は少し帰還が遅いですよ。9時までに食事をとらないと太りますよ」

「魔王の妹のケンカとレベル上げにつきあっていたら途中で抜けられなくて」

「魔王。妹がいたんてすか?」

「アバターはかわいかったよ」

「マスター。本物の人間の女なんてめんどくさいだけですよ。私達のように8段締めもしませんし、回転機能もついてません。マスターがピストン運動しなくてはいけないんですよ」

「ララ。いきなり何を言いだすんだよ」

ララが乱暴に夕食の入ったシェーカーを置いた。

「知りません。マスターがイジワル言うからいけないんです。早く食べて下さい。片付けなきゃいけないんです」

そんなに怒る程洗い物の量があるようには思えないが?

まあ、確かにウソと涙と裏切りは女のアクセサリーだとルパン三世も言っていたから気をつけよう。

食事が終わるとバンソニー社の最新のハード『ステプレX』をプレーする。今日は『大戦略・大戦術』をプレイする。時代が近未来やWWⅡ時代の物やファンタジー物とに大別できる。近未来物は架空の大陸で中立地帯にある都市や飛行場や工場や港を占拠して収入や基礎工業力をあげて新兵器を開発しながら新ユニットを作り、配置し、敵勢力を制圧する。

基本はだいたいこうだが、戦闘は種類がある。

ボードゲーム型から発展したターン制で、自分の(こま)をユニットの持つ移動力分いっせいに動かしたあと攻撃する。受ける駒も自動で反撃する。はるか昔は参謀本部がサイコロを振ってシミュレーションしていたらしい。

リアルタイムで動かす物もある。相手はコンピューターだから、いくらでも時間を止めて長考できるのだが、まずは索敵から入る、索敵していないとコンピューターが索敵している時は視界に入り攻撃可能な距離(この場合はヘックスと呼ばれる六角形のマス)に入れば一方的に攻撃される。攻撃命令が無くて地図上のどこどこに移動しろとかしか命令できない。索敵専門のユニットを作ったり生産を工夫しなくてはいけない。索敵してあり、攻撃可能マスに敵ユニットが入れば自動的に攻撃する。

クラシックと呼ばれるWWⅡ物はボードゲームの影響を色濃く受け継いでおり、歴史的事実に基づいてユニットが配置されていて、単純に比較して絶対勝てない場合があるから、別途で勝利条件が用意されている。

コンピューター的要素としては天気や夜間やレーダーなどが加わりボードゲームと差別化してある。

ファンタジーの場合は軍隊よりキャラクター同士が戦う物が多く、将棋やチェスのように一体ずつ動かすか、ユニットに攻撃力と防御力があり、重なれば簡単に取れる物ではない、強いユニットや弱いユニットに愛着が湧いたりする。あるいわアビリティポイントが割り振ってあり、貯まったキャラクターから順番に動かす物もある。ポイントの回復のしかたはキャラクターの能力によって違う。キャラクターの配置によって支援を受けたり必殺技がでる場合がある。

同時にウェアラブルコンピュータ上で解いている途中のターン制のファンタジーシミュレーションRPGを複数プレイした。

11時になり、いつも通り、筋トレして、お風呂に入り、ララとの儀式をすませ、睡眠導入剤を注射されて寝た。

「おやすみなさい。マスター」

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