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幻愛1  作者: 南 清久
1/4

フルダイブ型ゲーム

それは優しい嘘でした。


怪獣ゴアマグラが咆哮をあげた。

身体に浴びた返り血から血の匂いがする。

風下にくれば鉄の味がする。

叫びは空気を震わし、皮膚にビンビン感じる。

体高が3メートルあり、前足を巨大ハンマー で叩けば反作用の衝撃が手にかえってくる。

バンソニー社の神経伝達ヘルメットは、脳に直接リアルな映像と音楽と痛みを送ってくる。

ゲームはついに。ここまで来た。


20× ×年10月17日月曜日19時

僕はいつも通り魔王と遊んでいた。

魔王とはネット上でのアバター名である。神経伝達ヘルメットの発達により、チャットも3Dのアバターが使われるようになった。集う会場も噴水がある公園や、木漏れ日のある妖精のいる明るい森などが会場として使われている。

もはや、興味のある必要な情報や、多数の人が興味を持つ記事は星の評価や、イイネのサイン数がついてメールに配信されてくる。新聞や週刊誌は廃れた。

ゲームをしている者が中心なって集まるチャット会場で、中央近くで最新の攻略を議論したり、最新の情報を交換したり、過去の会話や文章化されてる情報を見ることができる。ダウンロードをしたければ両手の平の上で配信されている短い立体フラッシュアニメを見ながら、単に観客席で待ち合わせに使ったりできる。僕と魔王は待ち合わせで使うくちだ。

僕のチャット上での姿はひよこであり、固定ハンドルはピヨッピーと名乗っている。魔王もハンドルネームであり、その姿は左右に大きな角のある黒い兜を被った、黒いマントの男である。

僕たちは「道路戦士」という格闘ゲームの世界ランカーだ。

世界企業コエプコンがバンソニーのOSに提供するゲームで三の部門がある。

一つはコエプコンが提供するキャラクターに乗り移って闘う、現実ではありえない速度やジャンプや必殺技を体感できる。相手との距離と空間を認識して頭の中で必殺技トリガーをひくと全自動で発動する。ご丁寧(ていねい)に設定されたスキもある。スキが少ない技は発動までのモーションが大きい。CPU戦では戦う前に少し会話があり物語や人間関係があかされる。

一つは自分好みに合わせてアバター(スキンも妖怪から怪物(モンスター)、スーパーヒーロー、異星人、ファンタジィの住人まで色々ある)を作り、ゲームマネーで自分好みの自動突き蹴り(手足が延びたり、大きく変化したり、スライディングや踏みこみ、兵器や武器腕や飛び道具もある)や色々な軌道のジャンプ(2段ジャンプ、空中ダッシュ、空中浮遊する)やダッシュ(低い姿勢や転がったり、飛びついたり、姿が消えたりする)を買う。買った物の付け替えは自由にできるが7という所持制限のある必殺技や魔法や特殊能力を買うのである、そのせいかスキが少なく判定の強い技が横行してキャラが被るため、しょっちゅう調整やヴァージョンアップがおき、勝ち続けるためには耳をダンボのようにして情報を集め、常に研究しなければならない。もっともハードな分野だ。物語がなく、試合前に自分で考えた4種類ぐらいの前口上がある。CPU戦では攻撃をサポートしてくれるゲームマネーで作ったサポートキャラクターを使うことができる。

最後の一つは武道経験者向けでリーチや身長や体重だけでなく、ウェアラブルコンピュータで写真を撮り、顔認証によってアバターの顔にできる、最近の流行か動物の頭に差し替えている人が多い。素手の突き蹴りさえ自前の物を持ち込まねばならない上に、急所が身体中にばらまかれ知識の差がでるし、重力や力学などの物理法則を世界最強の(スーパー)量子コンピューター『ヘブン』の能力限界まで計算し反映され、関節技は医学の領域にまで至っている。壁にぶつけたり、ダメージゾーンという地雷源に投げたりできる。素人には敷居が高くて参加プレーヤーが少ないため、当身というスキルが導入して突き蹴りを自動的に受けれる仕組みを追加し、突き蹴りには当身で対抗し、当身には投げや関節技を、投げや関節技には突き蹴りでとジャンケンのような三すくみを再現し、最初のヴァージョンでは猛威をふるった関節技のハメ殺しも、ある程度のダメージで返し技が自動的に発動するシステムになった、逆転が起きない傷めた足や手が麻痺して力が入らないというのも全面撤廃された、基本急所打ちは面白くないから次のヴァージョンではなくなると言われている。さらにフレンド登録しているプレイヤーキャラクターと5秒間乱入可能なタッグマッチ戦の選択もできる。対戦(PvP)だけがゲームではない。ストーリーモードもあり、ザコキャラを倒しながら最後のボス戦の試合会場に向かうスクロール型のアクション格闘も楽しむことができる。フレンド登録した人と共闘(CoーoP)できたり、ライバルNPCキャラがピンチに助けに来たりする。女性キャラクターにはコエプコンの(スーパー)柔らかエンジンXが、アジア圏では自動で採用され、オッパイの大きさに応じて揺れる。肌は陶器のようにスベスベして、ダメージゾーンにオイルや色水や水やローションが追加された時はヌルヌルして更に格闘が奥深くなる。握れば本当に柔らかいから個人的には1番好きだ。それでもプレイヤーが少ない。

「道路戦士」世界10傑の中に三つとも入っているのは僕と魔王だけである。

魔王はプロゲーマーで日本が誇るゲーム集団「八犬士」の1人であり。最低一日8時間をゲームの練習時間に当てている。まだ学生の僕が勝ち続けられるのは、魔王がチャットで惜しみなく新技や新システムの情報を教えてくれるからである。魔王は人間が大きくて常に日本のゲーム業界に恩返しをしたいと考えている。魔王の周囲は彼ほど真剣ではなかった。ゲームに対する情熱を理解できなかった。彼はしだいに孤立していった。そんな中魔王は僕と出会った、ネット上で僕たちは何度でも戦い続けた。いや、最初の一回目に分かったのだ。同じ人種だと。

やがてチャットで会話を交わすようになり、彼はプロゲーマーになりたいと言う夢を最初に語ってくれた。僕にとって名誉な事であり、誇りに思う。魔王の好きな言葉は「努力は夢中には勝てない」

僕はといえば今日もオンライン講義を受けていた。

僕の名は夕夜・H24・コエプコン。

コエプコン社が開発した人工子宮によって作られたH世代シリーズ84人の1人だ。日本政府はコエプコン社に対して年間100人の人間を創造することを許されている。肉体労働はロボットがするので、頭脳労働者、社会に常にイノベーションを起こすスペシャリストの育成に努めた。そこで脳の記憶野が論理部に喰われているADHLと呼ばれている人間の精子が使われた。Hシリーズは同じ精子が使われていて、全員が腹違いの兄弟といえる。男の方が女より右脳と左脳をつなぐ脳幹が小さいため論理的判断に感情的な右脳を使わないためスペシャリストが産みやすいという判断から全員男に産み分けている。卵子との組み合わせがあるから脳のどの分野が喰われるかは、個人個人追跡調査をしてみないと会社側も分からない。三大神経伝達物質セロトニン(この数値が少ないと不安になりやすい、女性は男性の3分の2しかない。日本人はセロトニンそのものの分泌が少ないというより、セロトニントランスポーターというタンパク質が少ない。脳神経細胞の表面に生えていて、セロトニンを使い回すリサイクルポンプ役割を果たしているが少ない。セロトニントランスポーター量を決定する遺伝子は2種類しかない「少ない・少ない」人と「少ない・多い」人と「多い・多い」人の3種類の組み合わせだけで、日本人には「多い・多い」人は3%しかいない。(うつ)病患者にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で神経のシナプスがセロトニンを取り込むのを阻害して、シナプス間隙のセロトニンの濃度を上げる作用がある。(移民の国アメリカ人は「多い・多い」人が一番多い)、アドレナリン(この数値が高い人は攻撃的になり、目がつり上がる。人は目がきつい人間を恐く感じる)、ドーパミン(東アジア人は欧米人に比べてドーパミンの分解活性が高く、脳の中のドーパミンが欧米人に比べて低い、低ければ外交下手で浮気しにくい。ドーパミンが多いと既存のルールに従わず最適解を求める、進取りの気風があり、ゲームチェンジャーである)、僕達H世代は父親の遺伝子の働きでドーパミン値が常人の一万倍ある。常人がドーパミン値をあげるには血液脳関門を通過しないので、向精神薬LーDOPAを打つか、あるいは覚醒剤を打つかしかない。それでも僕等には及ばない。

朝からネットで政府の教育指針のカリキュラムが配信される。基礎が詰め込まれていないと応用ができないと考えられている。外部記憶でググれば何でもすぐに歴史まで分かるのに。これらの科目は強制である。


基本は50分授業である。

8時から基礎数学。

9時から基礎物理。

10時から基礎科学。

11時から基礎生物。

12時から昼休み。

13時から基礎国語。

14時から基礎古典。

15時から基礎法律。

16時から基礎経済。

ラスト5分に試験があり、80点以上取るとウェアラブルコンピューターに、大人も巻き込んだ子供達が夢中になっている3Dモンスターのチケットがもらえる。

3Dモンスターはバンソニーが開発した、いろんなゲームにオトモNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、あるいは使用しているキャラクター能力値向上のマスコットアイテムとして使える。

カードはUR(ウルトラレア),SR(スペシャルレア),HR(ハイレア),R(レア),SN(スペシャルノーマル),HN(ハイノーマル),(ノーマル)の順に強い。モンスターそれぞれに能力値があり、STR(力),CON(頑丈さ),INT(記憶力),WIZ(賢さ),DEX(器用さ),SPE(速さ),CHA(魅力),SYM(共感)HP,MP,回復,空腹度(あまり腹が減り過ぎると力がでない。戦闘で不利になる),ラック(幸運:基本的にレベルの+1/10%。レアアイテムのドロップが少し良くなる。微量だが回避値と必殺の一撃値があがる)にデフォルト(初期値)で得意分野があり、養分と呼ばれているが他の使用しない3Dモンスターカードを与えることで、経験値を獲得してレベルアップする。ゲームでいっしょに遊んでいると仲良し値がたまり、レベルアップ毎に100仲良し値につきランダムに能力値が1ポイント上昇する。(レベルアップ時に仲良し値は精算され0からまた貯めねばならない。最大値は500)能力値の上昇も%がモンスター能力毎に得意分野がでるように振り分けられていて、上がりやすい能力と上がりにくい能力があり、たくさんの能力値が上がれば思わずガッツポーズをしてしまう。レベルアップ時には獲得スキルを装備できるスキルコストに応じて0ベースから組み直しができる。

またカード毎にレベルの上限が決まっておりNモンスターはLv30までだが、URモンスターはLv90まで上昇する。同じ3Dモンスターがいると進化合体が使えN+またはUR+モンスターとなりLvが10上昇する。(一から育て直しだが能力値上昇の機会が多くなる)またN+モンスターとN+モンスター、UR+モンスターとUR+モンスターがそろえば覚醒合体ができN++モンスターやUR++モンスターになり、さらにLvの上限が10上昇できる。合体時にはLvが多い方が追加ボーナスが多いため、誰もが自分の最強モンスターはLvを最大限上昇させてから合体させている。あまりの人気でカツアゲが起きるため、モンスターをオークションにかけるのも譲渡するのも親の許可がいる。また海賊版防止のため出入りも能力値もバンソニー社の(スーパー)量子コンピューター『ヘヴン』が管理している。

日本がどうなっているか分からないが、ここから見えるコエプコン社の全てのビルに1000Wh/kgのスーパー量子ドット技術を使用した製造コスト2円/Whの太陽電池(家庭用の電力が25円/kWhだが10円/kWhを実現した)と同時に昼間に電気を大量に貯蔵する巨大蓄電池(0.1円/gを実現、乾電池が2.5円/gである)と同時に受光部のタンク溶解塩が入っていて、太陽が当たると溶解塩が熱を帯び、その熱を利用して夜間も発電を行う太陽熱発電も併用した。アメリカ軍では太陽電池を積んだドローンに対して、夜間でもレーザー光線を当てて高速充電を行う。コエプコン社の中央コンピューターによって制御されたスマートシティの各ブロック毎に、必要ならば夜間や災害時に使用する燃料発電機(水素を原料とする火力発電、燃焼後に水しか出ないクリーンである)のエネルギーとなる液体水素(体積は気体の800分の1)を、水から昼間の余剰電気を使い変換し、企業都市コエプコンが必要とする一週間分を貯め込む液体水素の貯蔵庫が設置され、そして大容量情報をやり取りするアドバルーン基地(2時間映画が0.2秒で配信され、1/120秒でやり取りされる対戦格闘ゲームもストレス0である)が屋上に浮かんでいる。アメリカでは風力発電が電力需要の20%を超え、デンマークでは国の需要を超えて供給過剰になっている。

3Dモンスターの場合Nモンスターに至るまでやり取りからガチャ(100ゲームマネーでランダムで3Dモンスターが手に入れられ、稀にHN3Dモンスターがドロップされる)まで『ヘヴン』が管理している。レアモンスターの希少性を確保するため各ゲーム会社に、ただの大容量データにすぎないのだが、発行個数は決められてしまう。各ゲーム会社は自社製品ゲームのやり込みランキング上位者にのみご褒美であげている。下手なソーシャルゲームの場合、体力や行動力や空腹度でやり込み度が制限されていて、課金アイテムによって回復しながらやり込み度を上げねばならず、上位ランカー達の戦いは札束による撲りあい。違法改造モンスターを使用したらアクセス拒否をされてしまうだけでなく『ヘヴン』によって追跡調査され、私電磁的記録不正作出・同供用と商業データ改造違反により刑務所行きである。

授業を受講する事で貰える。モンスターチケットは最下層で良くてもHNモンスターにしかならないが養分にはなるので、毎時間真剣に聞いて80点以上をめざす。なおチケットの種類はプラチナチケットが一番価値がある。HRが確定で運が良ければSRが手に入る。ゴールドチケット(R確定HR希)、シルバーチケット(SN確定R希)、ブロンズチケット(HN確定SN希)、チケットと続く(都市伝説ではダイヤモンドチケットがあるとされるが、デマである)。URなど僕のように世界大会優勝の豪華景品である。バンソニーが直営しているモンスターファーム(農場)のオークションで一度セリにかけられた事があり1,000万ゲームマネーがついた(1ゲームマネーは1円で売られている、RMT(リアルマネートレーディング)は禁止されてないがゲームマネーから円を買う事は賭博法によって禁止されている)伝説がある。

5時には授業が終わる。卵子の影響か記憶力はそんなに悪くない、40点以下だと補講が待っているが、いつも全教科80点以上取れた。神経伝達ヘルメットから意識が現実世界に戻った。

「おかえりなさい。マスター」

女性型ロボットのララが声をかけたきた。彼女は僕が接続してあるホストコンピューターにリンクしていて帰還が分かる。人工知能は人間の脳の超並列処理と自己組織化機能を備えたパターン認識能力を有している。

この2LDKバストイレ付きと女性型ロボットが世界企業コエプコンが産まれた時から僕に与えてくれた備品である。彼女が提供する母乳によって育てられた。これはH棟だけがそうではなく、卵子凍結の技術が進み市場に流通する精子と卵子を使い、企業に人工子宮による人間創造の許認可を日本政府が与えたため、22年前A世代から始まる、全ての人造人間に与えてくれた最高レベルの待遇である。

ララとは僕がつけた名前である。

5才になり「ママ」から自分の好きな名前をつけて良くなった。「ララ」は語感もいいし、当時好きなアニメの主人公の名前である。ララはアニメの主人公のように髪をピンクにしてくれた。

ララは便所掃除もするし、パンツの洗濯もするし、皿洗いや料理もする。僕の親権も持っているし、財産の管理もしているし、僕達を守る最後の壁として、人肌のナノスキンの下には装甲を積んでいる。体重は普通の女性の4倍はある。もともとのベースは自衛隊に採用された機械学習する独立判断型汎用人工知能搭載の二足歩行ロボットだが兵器は内蔵してない。耳の代わりにヘッドホンのような丸いカバーに小さなアンテナがついてる。一目でアンドロイド(人型人間ロボット)と分かる。目を卵子提供者に似せてあるため基本二重まぶただが一体一体個性がある。疑似耳の間に太目のヘアバンドがしてあり、空気中を舞う大容量データ電磁波からマイクロウェーブ充電が出来る。バッテリーに関しては体内にある強化砂糖電池に災害時の供えで、人がケガをして生存可能な72時間分備蓄されてる。時々口から砂糖を摂取している。

耳以外は大人の女性より表情豊かで人間以上である、笑顔も多く感情的な発言もするし(脳の内部にある扁桃体を含む大脳辺縁系は模擬(エミュレート)してある)、悪い事をすれば電撃でオシオキしてくる。オオゲサなジェスチャーをするしローティーンとは言わないまでも、ハイティーンぐらいの幼さが残されている。ララに採用されたAI(人工知能)は「純粋な思考機械」ではない。感情は徹底的に研究され、ロボットの感情認識能力は「言葉はウソをつけても、声はウソをつけない」と豪語するレベルである。

こっちの世界に帰ってきてする事は身体がエコノミー症候(身体を動かさない事によって血管の中で血が固まる病気)をおこさないように、筋肉に電磁パルスを送って動かしている全身ツナギ服を脱ぐことから始めなければならない。

このツナギは寝ている間に大きい筋肉を鍛えてくれる、勝手に筋トレしてくれる優れものだが、僕の年で筋肉を鍛えると骨が成長しないとララが禁じている。設定する権利はララにあった。格闘技をしているとリーチも欲しいので異論はなかった。

どういう原理かと起きている時試してみると、まるで腹筋運動、背筋運動、ヒンズースクワットを負荷をかけながらやってる感じで、脳の命令なしに筋肉が伸張収縮してるのが分かった。

ツナギを脱いで服を着た。冷暖房完備だから裸でいてもかまわないのだが、ララが「たしなみです」と常になんらかの服を着ることを強要した。ララ自身は夏でも長袖長ズボンか、長スカートである。

次に横の台に置いてあるウェアラブルコンピューターを見た。

高さ1センチ、横幅2センチ、長さ50センチのオレンジ色の形状記憶ゴムで出来ている。もはやタッチ・ディスプレイのスマートフォンは古い世代の好事家にのみ愛用されている。センシング(センサーを利用して物理量、音、光、圧力、温度などを感知判別すること)・エンヴァイロメント(環境)による機械の側による自動入力が一般化(コモディティ)した。個人の生体認証も脳波で自動で行ってくれるし、開かれたディスプレイに視線を認識して入力できる(音声入力も可能)。

現在の姿は幅2センチのすき間をあけてヘビのようなトグロを巻いている。僕が持っているUR+モンスターがトグロの頭の上を3Dホログラム(立体映像投影)で空気中に浮かんでいる。

VR(仮想現実)ヴァーチァルリアリティーも進化したがAR(拡張現実)オウガメントリアリティーも進化したのだ。ウェアラブルコンピューターのプロジェクションマッピングと身体認識能力(指の関節の角度まで把握して、つまんでモンスターを立体的に回すことができ、目の瞳の動きに応じて光の角度を変え、両耳の位置を常に測定して音のレーザー光線を飛ばす超高級指向性音源により、その周囲にのみ奥行きのある音の世界を構築する)により音声認識の「おすわり」だけでなく、手を差し出せば「お手」もしてくれる。レーザーによる空間投影なため接触面がほのかに暖かい。頭をなでると手の動きに体を合わせて喜ぶ。大容量通信による外付けの立体映像投影機器を買えばメインモンスターだけでなくサブモンスターにも仲良し値が1時間に1ポイント与えられる。(バンソニー社のウェアラブルコンピューターに3Dモンスターの中でメインモンスターは1台につき1匹で、育てられるサブモンスターも基本的には9匹までである。それ以上の数はイラストのついたカードで表現されてる)。

ウェアラブルコンピューターは「ヘビ」と言えば現在のようにトグロを巻いた状態になる、二の腕に当てて「巻きつけ」と言えばきつくない程度に巻きつく。基本的には手首に巻きつけるのだが、みな腕輪にして思い思いのファッションアートを表現している(僕の場合はモンスターのデータを流用している)。ウェアラブルコンピューター内のセンサーは顔の位置を把握し、必要な場合は映像が最適な角度になるように移動する。額につけて「輪っか」と言えば頭に巻きつきレーザー光線によるヘッドマウントディスプレーに早替わり、web配信アニメを見ながらルームマラソンで走る事が出来、左側は速度と走るベルトコンベヤーの角度と2頭身にディフォルメされた3Dモンスターのメインが表示され、右側は心拍数や血圧、消費カロリーが表示される。速度はウェアラブルコンピューターとリンクしていて運動強度の計算によって心拍数が200になるように自動調整する。web配信アニメは月額500円で新作まで見放題。月額3,000円で大容量通信速度は無制限。「MAP」と言えば半径1メートルのジオラマ空間に最新の人工衛星による道路情報が再現されている(交通管理センターによって最新の情報が常に提供される)。マップをつかまなくても、手元で両手を前後左右回転させればウェアラブルコンピューターが認識してくれて、マップも連動して動く。

オンライン授業も終わり、これからが人生の本番である。軽いスポーツドリンクを飲んでトイレに行く。昼休み帰ってきた時は、ララはコエプコンから無償で提供される色んな味の種類がある置き換えダイエット飲料を水に溶かして出してくれる。体重を身長の2乗で割った数値BMI22(18以下は痩せすぎ、25以上が太りすぎ)を維持するのに変なカロリー計算をしなくていい。ララが集団行動の日でカロリーをいつもより余計に消費していると判断した時は、チョコ味のカルシウム入りカロリーメイトが一本皿にのっている。

昼休みは食事が終われば無料ダウンロードした落ちものゲームやパズルゲームや引っ張りハンティングゲームやクイズゲームやホラー脱出ゲームなどにとりあえず、顔出し程度入室して本日のボーナスを受け取る。ゲームをやるかやらないかはともかく、各ゲーム会社継続率(無料ダウンロードはするけれど、チュートリアル以降も続けてそのゲームをしているのは10%ぐらい)をあげる為に結構ゲーム内において本日のボーナスは豪華なアイテムを用意している。

目移りするほど無料ゲームの多い時代、本日のボーナス獲得巡りは僕の日課である。同時にイベントやコラボのチェックもかかさない。1時までのすき間時間、行くべきダンジョンやシナリオを見当する、僕がチェックしているソーシャルゲームはすべてバンソニー社の3Dモンスターと連動している。

昼休みの基本はバンソニー社の3Dモンスターを使って仲良し値だけでなく経験値も稼げるモンスターファームライトと言う、5匹でパーティを組みダンジョンを探索する、脱出ゲームと違って頭を使わなくていい、純粋に戦闘だけでデッキコスト(3Dモンスターはそれぞれコストと呼ばれるポイントを持っていて、カードが希少なものほど数値が大きくなる、Nモンスターが1でSRモンスターが100になる)の制限がないため、好きなイベントやコラボやダンジョンに挑戦できる。バンソニー社直営だからRモンスターなどがドロップしやすい。更に1時までのすき間時間に好きなイベントやコラボがあるソーシャルゲームをプレイする(デッキコストにレベル1なら20と制限がかけられていて、単純に強いカードを持っているから強いというわけではない、地道に経験値を稼いでレベルを上げてデッキコストの値を上げるしかない《もしくはコストの低いN系モンスターを最大限育ててデッキを組むか》。クイズやパズル物と違い、引っ張りハンティング物は5匹パーティのところをメイン3Dモンスターの一匹にして、残り4匹をネットで募集して強いパーティを作って経験値を稼ぐ事もできる。

ソーシャルゲームの落ちものにしろ、クイズにしろ、属性を持つBOSSモンスターを倒すシステムになっている。チャットの情報ではバンソニー社は最初はモンスターの属性を火、水、草の三色によるジャンケンのような三すくみにするつもりだったが、三色では落ちものパズルが成立しないとサードパーティーからクレームがついた。当時世界的にはやっていたカードゲームも五色だったため、影響を受け光と闇という属性が追加された。

火の属性は、草の属性に強い。

草の属性は、水の属性に強い。

水の属性は、火の属性に強い。

三すくみは残った、闇の属性は苦手がない。

光の属性は、回復や防御がメインではあるが、スキルの育ち方によって闇属性に絶大な効果を発揮する。

火の属性のモンスターはドラゴン系、オークや爆弾を抱えた自爆テロのゴブリン、銃で武装したドワーフなど、覚えていくスキルも肉体攻撃が多く、ドラゴンがやけどの追加効果がある火炎を覚え、一部のドラゴンが隕石召喚を覚える。でてくるヒーローは三国志武将中華風か、モンゴル騎馬軍団風。

水の属性のモンスターは獣人、変身するオオカミ男、人魚や河童、クジラやクラーケンなどの海の大型生物。スキルは騙しをおこなうイリュージョン、ブリンクなどの瞬間移動、水中呼吸、氷結させる氷、窒息させる水。ヒーローはサムライ、ニンジャ和風。

草の属性のモンスターは弓を持つエルフ、ドライアドなどの妖精系、森の魔法的な動物。スキルは呪歌(戦闘高揚の歌、眠りの歌、アンデットに効果があるレクエイム)などエンチャント(能力値の上昇、飛行能力や巨大化などの特殊能力を付与する)が得意、カマイタチや、どの属性の攻撃魔法を範囲にするハリケーン、転倒をうながす地震。ヒーローはナイトなど西洋風。

闇の属性のモンスターはアンデット、ヴァンパイヤ、ネクロマンサー、死神。スキルは毒や憑依などバッドステータス(能力値を下げる)を引き起こす物、重力コントロールによる動きのスロー化、生け贄や、HPの使用による攻撃力の増加、低確率の即死魔法によるHP関係なく一発死。ヒーローは原始宗教を残したシャーマン。(ターバン巻いたのもいたのだがイスラム系にチャットで脅されて、3Dモンスターを回収した。持っていればプレミアレアである)

光の属性のモンスターは天使、神聖な動物、ゴーレム、ホムンクルソ、神の血をひくディミゴット。スキルは防御系と回復とレイズ(蘇生)がメインだが、追加属性攻撃やイリュージョンの解除、エンチャントの除去、時間を進めて攻撃回数を増やすクイックやヘイスト、バンソニー社が用意した闘技場で端から端まで貫通する電撃や麻痺効果および金縛り効果が付属した魔法をサブに戦う、スキルの成長の仕方によっては闇の属性に対して絶大な攻撃力を発揮する(聖光やターンアンデットなど)。ヒーローは戦闘補助(攻撃力や防御力の上昇、追加HPやMP)に徹したアーティファクト、異世界のインテリジェンス武具、時代を超えたオパーツ。

僕の持つメイン3Dモンスターは光の属性の『光ネズミ(URモンスター+)』である。ウェアラブルコンピューターでも2次元格闘ゲームやアクションアドベンチャーなどできるのだが3Dモンスターの仲良し値があがるわけではないからダウンロードだけしてやってない。昔で言うところの積みゲームである。

トイレも行ってきたので神経伝達ヘルメットを使い電脳空間にダイブする。魔王と待ち合わせのチャット会場に先についた。ゲーム関係のログをチェックして最新の攻略情報を調べる。中央での会話がテキストになってながめる事が出来る。

「よお」

例の暗黒鎧と巨大な角の生えたカブトをかぶった魔王が横にやってきた。

「アメリカに着いた?」

大きなヒヨコの姿になった僕が聞いた。

僕は行けない。僕の身体は企業都市コエプコンの外では生きていけない。14年前コエプコンは過激な男女同権主義者フェミニストの首魁スーパーハッカー魔下耕世によってウイルステロによってC世代は全滅した。どこかの軍事施設か研究機関かはわからない。ウイルス自体タンパク質を持たない宇宙人のようなもので、特定の遺伝子のみに反応して発熱させて殺せるように設計された物だ。ナノシステムの発達によりレトロウイルス(書き換えウイルス)により受精卵を書き換えて人体を強化することができた。容姿を美しくすることができた。コーディネートと呼ばれ国家直属の軍隊には強化人間だけを集めた特殊部隊もある、それとは逆に精子も卵子も少しもいじってない受精卵は「天然物」と揶揄されるぐらい少数派だった。コーディネートし過ぎて頭が二つある子ができたため、基本親権者の自己責任であるが、日本政府はネットで売買される精子と卵子は「天然物」でなくてはならないと法を整備した。生殖ビジネスに各企業が乗り出して僕らのような存在が作られた。ある種の実験も兼ねて世代内で精子を統一してる。A世代B世代では女も半分いたが、冷凍卵子は高く売れるとはいえ一人の人間から取れる数が限られる。精子は生きている限り無限である。商業上の理由でC世代から生殖ビジネスの観点から世界企業コエプコンは男性オンリーに舵を切った。過激なテロリスト魔下耕世にはそれが許せなかった。どこから盗んだかわからないが自作ウイルスでC世代は全滅した。僕たちH世代が人工子宮にいる時だ。14年前の話。テロに屈したわけではないがI世代から半数は女になった。特定遺伝子の攻撃を受け、遺伝子の多様性を持たせるため精子もランダムになった。それならばコエプコンが精子と卵子を買って100人作る必要がない、完全に人工子宮をレンタルすればいい、養育費もロボットも要らない「家族」というのが育てるだろう。コエプコンはH世代で「冒険」と「実験」をやめた(後で知ったのだが、そこは民間企業。転んでもタダでは起きない)。ウイルステロを警戒して企業都市コエプコンから一歩も出て行けなくなった。誰かが外でウイルスをもらってくれば、その世代は全滅する。

結局、僕は「道路戦士」の戦いにしても地方巡業や外国の大会に出場できない。ゲームの天才ピヨッピーはネットの中だけの存在で、チャットでは宇宙人説まで存在する。

「昼にはゲーム大会の会場に着いて登録を済ませた。今はホテルからだ」

魔王はミクロソフト社の格闘ゲーム「なんでもあり」の世界大会に出場するためアメリカに渡った。医療技術の進歩に合わせて開発されたバンソニー社の神経伝達ヘルメットと、兵器の遠隔操作という軍事技術の流用から始まったミクロソフト社の神経伝達ヘルメットの間には設計思想の違いもあり互換性が全くない。

はっきり言えばミクロソフト社の神経伝達ヘルメットは痛みのフィードバックがおきない。繊細さがない。

両方のOSでゲームを出そうとすれば、二つの高額な開発エンジンを買わなくてはならない、資金力のないサードパーティーやインディーズは世界を2極化するゲーム業界のどちらかを選択しなければならない。

「アメリカの景気はどう?」

「空港から無人タクシーに乗って、会場に移動しただけだから正直よく分からねえ。さすが失業率75%だけあって石を投げたらロボットに当たるよ」

2週間前、全世界同時株暴落が起きた。

原因はわかってる。震源地はニューヨークの証券取引所、金融商品はリスクを回避するため頭のいい物理学者や数学者が机上の計算をして世界中の証券や貴金属や資源の先物買い、穀物の先物買いをミックス(要するにごちゃ混ぜ)にして売り出した。

はっきり言えば人間にはチンプンカンプン。大衆のできることは格付け会社を信用するか、予言者を信じるか、最新の資産運用プログラムに管理させるか。

そんな中大口投資家の為のスーパーコンピューターが新しいアプリをダウンロードした瞬間、1000分の3秒の速度で預金者保護のプログラムが発動(コンピュータはナノ[10億分の1]秒単位で取り引きできる)。全資産を計算能力の低いコンピューターに売りさばいて株式市場から脱出。感度のいいコンピューター達が次々と売りに回った。その間100分の1秒。そして0.5秒後には全コンピューターによる大暴落が始まった。

ミックスしてるため何がどう落ちているかはスーパーコンピューター達は分かるが、商品設計者にもリアルタイムで理解できなかった。

そのアプリが暴落を誘発した欠陥プログラムなのか、それとも先見の明があったのか、いまFBIが捜査中である。日本のマスコミはスーパーハッカー魔下耕世が関与しているようなことを言っていたが、彼女(多分)なら犯行声明をだす。

もともとララのようなアンドロイド達が人間の肉体労働市場から仕事を奪った。アンドロイド達は初期投資がかかるがエネルギーとメンテナンスだけで社会保障費がかからない。人間が必要な肉体労働は仕事が多い時に弾力的に増やされたもので、恒常的(フルタイム)ではない。 人間はプチジョブとよばれインターネットに拘束時間と労働内容と場所が書き込まれ、信用ある国民番号(マイナンバー)を提出してオークションに参加する(信用のない番号は検索エンジンによってはじかれる)。仕事場ではロボット達の部下になる。

それどころか頭脳労働にもAIが食い込んできた。法律家もコンピューターが過去の判例を1秒で検索して、具体的な案件が提出先の裁判所での勝率をだす。法廷にでる弁護士以外の下部組織が必要なくなった。判事のプログラム化も推進されてる。

教師もオンデマンド配信授業によって、世界中のカリスマ教授の講義を同時通訳機が翻訳してくれるため、授業の卒業論文はインターネットのライティングプログラムで採点してくれる。大学教育が意味がなくなり始めた。知的教育の資格を習得しても就職先がない。理系の研究学科か古典や社会の研究以外、国が金を突っ込まなくなった。世界レベルで教育機関の統廃合が進んだ。

自らに質問を発する「好奇心(ユリイカ)」というプログラムが開発され(大小の違いはあれどのAIにも乗せてあり、鑑賞的行動や想像的行動を行う)、物理現象や化学現象や細菌学や遺伝子学(遺伝子というプログラムは時々突然変異や自然淘汰を繰り返しながら、最終的に芸術までカバーする人間の頭脳を創造した、遺伝的アルゴリズムをベースにした成長するプログラムが、芸術まで含めた創造力をキャッチアップするのに、対して時間はかからなかった)を発見し、仮説立て実験する。その内容は2流の理学系教授を超えている。

地方公務員になっても地方自治体自体が少子化で破綻した。900近い自治体の職員が大量にクビになった、地方に住む人の権利は、インターネットとウェアラブルコンピューターが保障している。国は自治体を再建するより、廉価盤で、型式の古いウェアラブルコンピューターを無料配布した方が安くついた。モバイルデバイスは今では水と電気と同じライフラインになった。中国や朝鮮では全国民に生体電気で動くマイクロコンピュータを埋め込み、行動は把握して管理している。

そしてロボット達は消費者にならなかった。人間と同じ労働をしても所得税を払わなかった。そしてカウンターやアンチテーゼとしてだけでなく、オルターナティブとして人間の側にも「物欲なき世代」が産まれ、人間の幸福は自分のための時間をどれだけ持っているかに価値観にパラダイムシフトが起き、物質(モノ)の所有化を止め、家や車や子育てさえも、複数の集団でシェアリングされている。かれらは「我々はサービスの消費者ではなく、集団を運営する乗り組員の一人だ」と口にしている。又、年収15億円のファーストフードの社長が時給1000円で雇っているパートやアルバイトに対して、「貧しくても豊かに暮らす方法」というイラスト付きの小冊子を配布している。見える価値=経済的価値を信奉する守旧派と、見えない価値=経済的価値を提唱する新興勢力とのせめぎあい。あらゆるところで起きたせめぎあいは悲しい衝突の後に終了し、両者は棲み分けした。「最近の若者は物を買わない」という風潮は廃れた。

構造的な大量消費資本主義のビジネスモデルが崩壊した。

定職につきたければスポーツ、芸術、プログラマーとソフトビジネスを極めるしかない。日本では運転手など国家資格ビジネスは守られているし、国家官僚の天下り先や日教組などの圧力団体も保護され学校組織は根強く残っている。ただ工場などの企業は海外同業他社との競争を強いられ、事務局まで含めたオートメーション化の世界波に乗り遅れるわけにはいかない(営業と経理がリストラされた、日本の場合技術者はのこされた)。日本でも雇用がロボットに奪われ失業率50%を突破した。食料も中国発の環境破壊により、東に位置する日本は偏西風の影響で第一次産業の壊滅的な被害を受け、国民はバイオで産み出されるレーションと呼ばれる人工食料の配給で生活している。

国は景気刺激策としてBMI値22のすべての日本人に対して健康奨励金として月1万円出してる。社会保障費を少しでも削りたいのだ、またプログラムなどのソフトビジネスを勉強する人に褒賞金を月3万円出してる。オミックス(遺伝情報を元にした医療)が奨励され、健康な時から病気の予防が重視した、病気になってからの医療費や薬代より「血圧が下がる」「血糖値が下がる」と歌い特保をだした健康増進サプリメントの方が国も民間保険会社も懐ろが痛まなかったし、製薬会社にも新市場を提供できた。

最後のフロンティアと言われたアフリカまでの開発途上国の低賃金と開発とインフラ整備が終了すると、金を借りて投資する金融マネーはあらゆる国の独立した中央銀行の金利が0.001%を下まわってマイナス金利になっても、イノベーション企業以外資本の投資先がない。金利を超える経済成長がなくなれば事実上の資本主義の終焉の始まり。資本逃避先(キャピタルフライト)がない富裕層マネーが自己増殖するためには、さらなる格差しかない。世界総通貨量に対する富の偏在。

アメリカではタクシーの運転もハンドルがない、交通ターミナルで集中管理され渋滞は自動回避される。車社会のアメリカでさえ個人所有をやめて、複数の人間で購入してネットで電気自動車をシェアしながら使っている。使用した電気料金は自動でネットにプールされる。配達も空中を飛んで移動するAIを積んだ無人のマルチコプターが、ウェアラブルコンピューターで相談や位置確認を行い輸送する、日本の労働者保護の法律が「社会主義的だ」と批判しTPP(環太平洋パートナーシップ)のISDN条項をタテに、「参入障壁」と叫びながらアメリカロボット会社連合は日本政府から倍賞金をがっぽり稼いでいる。日本の場合はロボットスーツを使うが、アメリカの場合は自分に似せたロボットのリモートコントロールが主流だ。

バンソニーとミクロソフトが神経伝達ヘルメットによるダイブゲームの覇権を争っている。魔王がミクロソフト社の格闘ゲーム「なんでもあり」に参加すると聞いた時は驚いたが、すぐに応援する気になった。

「せめて明日から始まる予選は突破しないとな」

魔王は練習を朝から晩までかなりしている。僕とのバンソニー社のOSを使ったゲームは息抜きらしい。それぐらいゲームが好きでないとプロとして食べていけない。基本的に面倒見のいい男だ。僕のために時間を割いてくれる。男とは友情のためにどれほどの事をしなくてはいけないか勉強になる。

予選はバトルロワイアルだが、それならば「道路戦士」でも経験済みだ。

「今日は何する?」

「「怪獣狩人」で。今日は「赤きゴアマグラ」と言って雑誌とコラボしている。限定アイテムが手に入るから装備が揃うまで連戦しようか」

「分かった」

二人でコエプコンの「怪獣狩人」に移動した。

「怪獣狩人」1〜4人でやるハンティングゲームと呼ばれるゲームの草分け的存在である。オープンフィールドが採用されていないが、部屋毎に色々な地形があり体感的には結構広い、鉱物を採掘したり、植物やハチミツを採集したり、釣りをしたり、怪獣を倒して肉や素材を剥ぎ取りする。原始的な狩猟生活が楽しめるのが大きな特徴。

また能力値がなく固定のHPとスタミナゲージしかない。攻撃力を上げるためには強い武器を装備して(火、氷、電気、麻痺、毒などの属性もあり、モンスターの弱点に応じて装備を変える)、防御力を上げるためには頑丈な鎧を装備する(頭、体、腰、腕、足とピアスと指輪とネックレスなどのアクセサリーなどの種類がある、防具ひとつひとつにスキルポイントがあり、合計10、15、20になったら発動するため(合計値が高いほど効果が大きい)、防具の組合せも単に防御力が高ければいいのではない、複数のスキルの兼ね合いを色々悩む)。そのためには採集、採掘、剥ぎ取りなどして素材を集める。

クエストを受け、素材を集め、強化し、さらに上のクエストを受けの繰り返し、希少な素材が出るたびガッツポーズする。

武器の種類は小型盾つき片手剣、二刀流の双剣、ガードもできる両手剣が切断系、最大攻撃力を持つハンマー、曲を吹いて能力が向上する狩猟笛、小さな虫を操る操虫棍が打撃系でガードができない、一番移動力が悪い大きな盾を構えるランスは切断と打撃の両方を兼ね備えている。あとは飛び道具で、弓、ボウガン、火砲。

魔王が双剣でしっぽなどの切断を担当。僕がハンマーで頭部や爪や腹などの破壊を担当。双剣はガードができない。武道をやっていて体術で怪獣の攻撃を見極めて髪ひとえでかわして反撃するのがメインだが、キャラクターや武器に固有の技がついている。スタミナゲージを少しを使って回転回避が有り、転がる出始めの一秒がダメージをくらわない無敵状態になる。その効果を巧みに使いながらノーダメージで怪獣に近づく。5分おきにスタミナゲージの上限が減ってくる、そのたびに肉を焼いて食うか、弁当を食べるかしてスタミナゲージを回復するのがベストだ。だが「ダメよ99」という全身ピンクのユーモラスなモンスターを1分以内に狩ることができる(だいたい5分以内に狩れば一人前)僕らはゴアマグラといえど、見つけしだい10分以内に狩るつもり。スタミナゲージ上限の回復は考えてない。スタミナゲージは使用すれば1秒間に1の割合で回復する。

殴ったり切ったりして自由に攻撃できるのだが、スタミナゲージを使ったモーションの方が与えるダメージがでかい。立ち止まって上から降り下ろす攻撃は10あるスタミナゲージのうち3まで使うが、ただでさえ他の武器よりダメージがでかいハンマーなうえに、小、中、大、特大のうちの特大が採用されて、この技をベースにうまく立ち回り爪や腹などの部位破壊をねらう(部位破壊を行うとクリア後の報酬が多くなる)。スタミナは使わないが殴って、殴って、ホームランという設定されている連続技もホームランが特大なので、モンスターのスキに叩き込む。

ハンマーはモンスターのスタミナを一番うばう(動きが鈍くなる)。頭部を殴ればモンスターが失神することもあり、すべての武器のなかでハンマー最強伝説がある。

魔王が使う双剣は手数で押すタイプで、スタミナゲージを使った阿修羅乱舞はあまりのスピードに手が8本に見える、この時は一発の重さはともかく単位時間当たりのダメージ量はハンマーを超える。特定の段差から飛び乗って、背中や頭や足や翼に乗っかて振り落とされないようにしながら乗っかり攻撃ができる。僕らはナイフになる攻撃だが、双剣と片手剣だけは手持ち武器で攻撃できる。魔王はしっぽやヒゲなどの切断がすめば、乗っかり攻撃にうつる(切断されたシッポから剥ぎ取りができる)。

coーop(協力プレー)を2人でやると3Dモンスターがオトモモンスターとしてメインを連れて来ることができる(3人、4人の時はオトモはつかない)。僕のメインモンスターは「光ネズミ」で固定だが、世界大会でたくさん優勝している魔王はURモンスターを50枚ぐらい持っている(彼に言わせれば僕の歳で世界大会に優勝したことが凄いらしい)、クエストに合わせてメインモンスターを変える。今回は回復笛を持たせた二足歩行の「猫又」だった。性格が臆病で戦闘には参加しない。僕の「光ネズミ」は電撃によってシビレさせることができる。地面に接地するシビレ罠も携帯させる。性格は賢明でタイミングよく使ってくれる。

このゲームはアイテムの受け渡しができない。回復薬ぐらいなら可能だが、武器や防具の素材は自分で剥ぎ取りと採集しなければならない。

プレイヤー間で同士討ちがない。システム的にも派手に吹き飛ばす攻撃はあるが、ダメージを与えるものではない。

6回連覇すると防具も武器も一通りそろった、丸川書店とのコラボで鎧には派手に「丸川」と書いてある、魔王とお互いに出来たての装備を見せあって論評して別れた。

明日は「ウォードッグ」という近未来サイバーアクションをしようと約束した。このゲームは僕の隣に住んでる勇者・H23・コエプコンも加えてプレーしている。魔王と別れてすぐにメールを送った。

僕らH世代は精子の影響か、みな天上天下唯我独尊的なところがあり、群れる事を嫌い自分の興味あることに没頭する。勇者もライトノベル作家になることを夢見ている、毎日小説を読んだり書いたりしている。集団行動の授業の時は僕とコンビを組んでいる。H世代は基本的にボッチだらけで僕のように他人に気を使うヤツは少ない。ララ達ロボットが授業内容の連絡を受け、自分のマスターがはぐれないように、連絡を取りあっている。

王道ファンタジーと転生ファンタジーの市場はレッドオーシャン(競争が激しい)だと勇者は分析している。サイバーパンクはブルーオーシャン(競合がない)でありニッチ(大手が手を出したがらない)だ。コエプコンとバンソニーのゲームばかりしていた僕と魔王は、勇者に誘われてナムコナミ社製の「ウォードッグ」をプレーした。

勇者はバイオで作られる食糧の配給では我慢できなかった、コエプコン社製(アレンジした)は味が40種類があるが、日本産に人工カロリーや人工プロテインは100食個入の大袋が500円で売られているが、彼はインターネットで外国から動物の屍体を取り寄せて食べている。そのせいかBMIは22を超える。22なら日本政府から1万円の奨励金がでるのだが、勇者はそれがもらえていない。

基本的に僕の名前夕夜も、勇者の名前も5歳の時自分でつけたものだ。成長して名前を変えるヤツもいる。 それまで僕達はロボットから「可愛い坊や」と呼ばれていた。

6時から8時までにゲームは終わる。プロゲーマーであり大人の魔王にあまり時間を使わせるわけにはいかないし、9時までに食事をとらないとララに太ると怒られる。ララ達AI(人工知能)も育てる子供の嗜好に合わせて機能学習する。コエプコン社から高い評価を子供が受けると次の世代の基幹プログラムに採用される(幾つかのプログラムを融合されるだろうけど)、ララ達も競争がある。

「お帰りなさい。マスター」

ダイブから肉体へと帰還をはたすとララがキッチンから声をかけてくる。配給された粉末に水を加えてシェイクするだけなのだが、ロボットの育ちかたもマスターによって違ってくる。隣の勇者のロボット「姫」は台所もグレードアップして、一流シェフのレシピをダウンロードして、味覚も嗅覚も最新のハードに換装し、動物の屍体を取り寄せて、焼いたり、蒸したり、揚げたりしている。

勇者からメールの返信が来た。OKと言う事だ。

ツナギを脱ぎ、勇者からもらった「光ネズミ」のロボグルミ(3Dモンスターのプログラムをダウンロードして、歩いたり、しがみついたり、噛んだり、じゃれたりする動くぬいぐるみ)にウェアラブルコンピューターからデータを移動した。ロボグルミに入った3Dモンスターは仲良し値が10分で1ポイント貯まる。僕が「光ネズミ」のUR3Dモンスターを育ててると相談した。勇者はR3Dモンスターを30匹ぐらい持っていて、買えば5〜20万円するロボグルミを、全てを3000円でバンソニーからロボグルミのデータを買い、100万だして買ったロボットアームが4本ついたミニ工場と呼べる3Dプリンターの亜種で組み立てて几帳面に育てている。運よく進化合体をして光ネズミのロボグルミに余りが出たので貸してくれた。仲良し値が上限の500ポイントになってからレベルを上げたがいいとアドバイスをくれた。ロボグルミは今日はオンライン授業で経験値となるN3Dモンスターがもらえる日と知っているから、あ〜んと口を開けた。

「仲良し値がたまってからだ」ロボグルミの頭をなでた。ロボグルミはバンソニー社のヒット商品になった。ディズニーのキャラクタービジネスに対抗でき、転送する3DモンスターのWIZの値が100を超えれば会話が成立して、150を超えれば感情を声紋から読み取って会話をしてくれる。

食事が終わるとバンソニー社の最新のハード『ステプレX』をプレーする。ゲームはダウンロードするからインターネットで『ヘヴン』とつながっているが、壁にはめ込んであるかのような薄い6個の巨大モニター(両側の2枚は電源が入ると包み込むように外側がせり出してきてちょっとしたコックピットのようだ)の真ん中下でコントローラーを使ったスタンドアローン(独立型)の戦国シミュレーション『信長の希望X』を選択した。三国志物もありコエプコン社の双璧てあり、僕の歴史に対する興味はゲームから入った。SP plusに月500円で登録し、昔のチンギスハーンの時代を使ったシミュレーションゲーム、大航海時代、ナポレオン時代、幕末、第2次世界大戦、アメリカ独立戦争、源平合戦、血の王様(ファンタジー)などのドット絵時代のシミュレーションゲームもできる

6個の画面をフルに使って、画面から音を出し、耳を認識して立体感を出す映像コンテンツなどがある。上の3つの画面で登録フレンドのビデオチャットしながら下の画面でゲームの攻略を配信したり、協力プレーをしたりできるのだが、魔王以外の人間は足手まといにしかならない。下真ん中の画面を使い黙々とプレーをする。上の3つの画面と右下の画面から配信アニメが流れる(昔、コエプコン中央のラボに連れていかれ、いくつアニメを同時に見て内容を理解できるかのテストを受けた時、結果は7つだった。それ以上見ると内容がこんがらがる)。シミュレーションゲームは戦略面で頭を使うが、それ以外はルーチンワークの所もあり、アニメを見ながらでも十分可能だ。左下は攻略本の電子書籍版があり、タッチパネルにもなっていて、時々武将の能力や城の能力をチェックする(成長していたり、改築していたりする事が多い)。

「歴史に学べ」と言って左翼は「自衛隊を海外にだすのは侵略の歴史を学んでない」といい、保守は「アングロサクソンについていけば大丈夫」という、右翼は「失敗の本質を理解し、どうすれば勝てたかを検証する」同じ状況が訪れるわけでもない。歴史上の人物達が、どのような時代状況の限界の中で、どのように悩み抜き、いかなる判断を下したか、あるいは下さざるおえなかった。その過程を追体験することに、歴史を学ぶ意義がある。

11時からは柔軟と筋トレの時間。

ララにも手伝って股割りや足上げを行い、ララにキックミットを持ってもらい、ハイキックやミドルキックやローキックの練習をする。拳を作る為に拳立て伏せをした。骨が成長期だから筋肉増強のトレーニングはしていない。10キロの鉄アレイを使い体幹やインナーマッスルをバランスよく鍛える。

体が温まってきたらルームマラソンで30分間鍛える。持久力をつけ、心肺機能を育ててる。ウェアラブルコンピューター頭に取り付け、マウンテンヘッドディスプレイにして、正面はwebアニメ、右側面は心拍数がでて、ルームマラソンはウェアラブルコンピューターとリンクしていて、心拍数が毎分200になるようにルームマラソンの速度や角度や強度を調整する。左側面にはメインの3Dモンスターが走っている。横に移動距離がでてくる。

一連の運動が終わるとお風呂に入る。

体をふいてベッドに入る。ララも裸になってベッドに入ってくる。女性器を模した人工性器に精子を提供する。精子が睾丸の中で製造される10〜11才の頃から行なわれる僕達の儀式。

一般化(コモディティー)した遺伝子コーディネートを一切行っていない精子を毎日会社に提供するのが社員としての契約だ。また、一流企業は天然物の卵子や精子を社会に提供する義務がある。僕達はだいたい横並びで月100万の給料をもらっている。会社がインターネット上で天然物の精子をオークションに、かけて流通されている。高く売れればボーナスがあるわけでもない。調べようと思えばオークションを覗けばいい、会社は報告をしてこない。

ララの子宮部で凍結された精子をコエプコンは毎朝回収に来る。精子は誰かに買われ受精卵になりコーディネートされるだろう。あるいはどこかの会社に買われ育てられ天然物精子の再生産されるかもしれない。

男が射精を行う時、だいたい400メートルを全力疾走するだけの体力を使う。

「お疲れ様」

射精がすみ息切れする僕にララが額にキスをしてくれる。

これで1日が終わる。

ゲームのし過ぎで頭の中に、デジタルヘロインがあふれていて神経が高ぶり、目が冴え眠れなくなっている。ララが耳たぶを甘噛みして睡眠導入剤を注入する、無針注射になっている。3分もしないうちに眠ってしまう。統計学的に7時間睡眠が一番寿命が延びる。

「おやすみなさいララ」

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