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PAっと見D!  作者: B光
3/4

ちっちゃな嘘とちっちゃな攻防

25時44分に投稿!やった宣言通りに間に合った(白目)!

 『今日中に初戸さんの乳房を揉みます(意訳)』

 そう柔花が宣言してからもう2時間が経とうとしていた。その間、柔花が2階を訪れることは一度たりともなかった。いつもと変わらない、1時間目からの体育が辛い月曜日だ。

 だがそれが却って、この先に起こる出来事を暗示しているかのように感じさせる。

 はっきり言って柔花は凡人だ。だが昔から胸に関しては常人を遥かに凌ぐ知識量と強い執着心を誇っていた。ある時には唯一のコンプレックスである低身長を活かし、ランドセルを背負った小学生を演じてまでして堪能しようとしたことまであった。

 そんな柔花が極上の果実二つを前にして諦めるはずがあろうか。

 ましてやそれが人工物だと知ったら一体柔花はどうなるのか……。


Π


 それから2時間後の午後12時15分。とうとう何事もなく昼休みが訪れた。

 「柔成くん、今日は屋上で食べない?」

 「あ、うん。いいよ」

 ウチの学校は今時珍しく屋上が開放されている。なんでもいじめ問題がマスコミで多く取り上げられ全国でもその対策が練られ始めていた時期に県の教育委員会も例にもれず県内の学校の屋上閉鎖の判断が下したが、長年「絶対に好きな人と結ばれる」と噂され、判断が下された頃には校内ひいては県内でも屈指の告白スポットとなっていたため、OBや現役生から怒涛の猛反発を受けてやむなく判断を棄却したという。

 それでも世間の風潮から現在は屋上が開放されるのは昼休みの時間である12:20~12:45だけと校則で決められている。加えて風紀委員が常時2人配置されているので、あまり居心地がよいとは言えない。だが意外にも女子が集団で昼食をとりに来ることが多く、初戸さんと付き合う前まではよく連なる山景を眺めながら昼食を味わっていたものだ。


 だが、今日の屋上は何かが違っていた。

 愛らしい熊のキャラクターが描かれたレジャーシートを敷いて女生徒の姿はまばらにある。

 天気は予報通りの快晴で、燦々と降り注ぐ日差しは体中に優しい温もりを巡らせてくれる。

 顔見知りの風紀委員は相も変わらず「自分の時間を潰された」と不満そうにぼやいている。

 それなのに得体のしれない、漠然とした不安が俺を襲ってくる。いや、むしろ襲いかかろうと牙を剥き出しにして身を潜めているような――。

 ……一応警戒しておこう。


 「よいしょと、ふぅ~」

 いつもの左奥のスペースに持ってきたレジャーシートを敷き、俺たちは腰を下ろした。

 何気なく見上げると雲が自由に形を変えながら空の中を泳いでいた。

 「春らしい空だね、柔成くん」

 「……え?あ、あぁ、そうだね」

 とにもかくにも、まずメシだ。腹が減っては午後の授業は受けられぬ。

 俺は巾着袋から二段重ねの弁当箱を取り出した。

 「あ……」

 唐突に初戸さんがどことなく寂しそうな声を漏らした。

 「どうしたの、もしかしてなんか用事思い出した?」

 そう尋ねると初戸さんは無理やり目を細めたような笑顔で両手を振って否定の意を示した。

 ?一体なんだった……。

 突き詰めるのも悪いと思い、弁当を食べ始めることにした。白米を食べながら、夏目漱石の「こゝろ」に出てきた一節で「鉛のような飯を食いました。」というものがあったことを思い出した。

 それから食べ終わるまでの間、俺たちの間に談笑の何も一つもなかった。


Π


 そんな折、一瞬にして事態は一変した。

 初戸さんが忽然といなくなったのだ。昼飯を黙々と食べ切った後、何気なくぼーっとしている間に物音一つ立てずに消え去ったのだ。そんなこと普通に考えておかしいし、そもそも初戸さんは教室に戻るときは必ず一言掛けてくれる人だ。

まさか……嫌われた?

昼飯の時もどこか挙動がぎこちなかったしその前には何か言いたげだったのに変に遠慮させて聞けなかったし、もしかしたら……。

全身に嫌な汗が吹き出す。その汗が自責と後悔の念を覚醒させ、俺を急き立てた。

ーー早く追わないと。

俺は無我夢中で立ち上がり、出口へと一直線に走り出した。

しかし、何故か出口であるはずの扉は平坦なコンクリートの壁の続きとなっていた。何度もノブを捻ってもうんともすんとも返事をしない。

やがて自分がこの無限に広がる密室の中に閉じ込められたということに気づいた。

どういうことだ。確かに全く話もせずに昼飯を食べてたけれど、まさか顔見知りの風紀委員(アイツ)が俺の存在に気づかないはずがない。第一さっきまで声高に雑談していた女生徒たちはどこに行った。


まさか……!


Π


私は今、中庭である人を待っています。屋上で柔成くんとろくな会話もできずお昼ご飯を食べ終わり少し俯いていた時、友達から先輩が中庭に大至急来てほしいとの旨を聞き、慌ててここに来たのです。

ですが一向にその方の姿が見えません。もう12:45になりました。

今頃、柔成くんは教室に戻っている頃でしょう。話し辛さから一声掛けずに行ってしまったことを未だに申し訳ないと感じています。あとできちんと理由を述べて謝りましょう。


友達の言っていた先輩がやって来ました。「先輩」とだけ聞いていたので漠然とした不安があったのですが、この方なら安心ですね。

「ごめんね〜こんな時間に呼び出しちゃってさ。もう昼休み終わっちゃうもんね」

「いいえ気にしないでください」

丁度いい機会。彼女に柔成くんのことについて相談に乗ってもらおう。もしかしたらあの日のことで柔成を長く苦しめているのかもしれませんし、最近のぎこちなさの原因こそそれなのかもしれませんし。

もしそうだとしたら私は柔成くんをもっと分かっているようになりたい。

「PADだったって、俺の愛は変わらないよ!」、そう言って彼はこんな私を認め勇気づけてくれたのだから。


「それで、その用事ってなんですか、お姉さん?」



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