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異世界転移 両親が失踪してはや一年

作者: 義高

――先日の警視庁の発表によると、近年行方不明者が増加傾向にあり、今年度も――

 俺はTVから流れてくるニュースを聞き流しながら学校に行く準備をする。

 学生一人暮らしの朝は忙しい。弁当の準備に、その余り物で朝飯、食器を洗って身だしなみ。それから夜に回せるものは回して、あらかじめ用意しておいたバッグを取ると自転車に乗って・・・いけない今日は燃えるゴミの日だ。先に出して行かないと。

 戸締りをして出かける頃にはいつもの時間。マズイ、急がないと。

 親切にしてくれる近所のおばちゃんに挨拶しながら学校へひた走る。

 これが俺のいつもの日常だ。



「おーす、悟志(さとし)

 学校に着くと同じクラスの裕也(ゆうや)がUFOが一面に掲載された怪しげな本を片手にやってきた。これはいつものあれか?

「おはよう。・・・お前、またオカルトの本か?」

「おう。昨日最新号が出たんでな、まだ読んでる途中だから持ってきた」

「いや、持ってくんなよ・・・」

 裕也はオカルト好きだが悪いやつじゃない。むしろ面倒見もいいし、何かと相談にのってくれる良いヤツだ。成績もよく、ルックスもそこそこ。オカルトさえなければモテモテだったろう。

「それより見てくれ。最近の失踪事件に関する興味深い考察があってな?」

「いやそれ、去年大誤報やったじゃねーか。ヨーロッパで大量失踪とかいっておいて、実際はいつもの新興宗教が山奥でセミナーやってただけとかいうアレ」

「いやいや、今回は違うんだよ。UFOがよく目撃される場所があってだな」

 こりゃダメだ。先生も来たことだしうまく切り抜けよう。

「先生来たぞ。没収されないようにしまっとけ」

「おう。続きは休み時間な」

 学校では万事この調子だ。もう一度いうが悪いやつじゃない。



 放課後は少し居残りして裕也に勉強を教えてもらう。どうしても家事にかける時間が多いため、高校に入ってからは成績が落ち気味だった。

 無い袖は触れないので塾にも行けない。いや、行く時間もないんだけどさ。

 そんなことをぼそっと話したところ

「なら俺が教えてやろうか。人に教えると復習になっていいんだよ」

 なんてカッコイイ。実際こいつは俺に勉強を教え始めてから成績をあげやがった。

 それでいて俺の成績もしっかりと向上させ、今は中の上あたりまで来ている。

 本当に感謝してるし、頭が上がらない。

 ・・・たとえ勉強に合間にちょいちょいオカルト知識を植えつけようとしていてもだ


「あはは、人面犬って何それ。そんなのいるの?(笑)」

「おま、人面犬は由緒正しい都市伝説だぞ!?これは昭和の終わりから~」

 この勉強会には他にも参加者がいる。裕也の教え方がうまいので一緒に参加していくものが結構いるのだ。

 俺という結果もあるしな。

 今日は隣の席の(はるか)さんが一緒に参加している。

 新学期最初の挨拶で、『私の苗字が普通すぎるので、名前で呼んでください』といった面白い人だ。それに人当たりもよく、男女わけ隔てなく接するので人気が高い。

「遥さん、これ話長くなるよ・・・」

「ほう、ならここで問題だ。人面犬がはやった平成元年に、消費税を施行した当時の首相は?」

 ぐっ、やぶ蛇だった。でもこんなクイズがテストに出たりするんだよな。



 帰宅後に家事や宿題を済ませる。

 風呂上りの自由な時間が作れた頃には11時になっていた。


 今頃みんな何処(どこ)で何をやってるんだろうな・・・

 不意に、いなくなった家族のことを考えてしまうタイミングがある。

 こんな風呂上りに何気なくベッドに腰掛けたとき、張っていた糸が緩んだときに訪れる。

 一人暮らしにも理由がある。何も好き好んでしているわけじゃない。


 海外に転勤していた両親が不意に失踪したのだ。

 それもちょっとした役職に就いていた父親が母を伴ってパーティに出席している最中だ。

 当然事件性が考えられ、地元警察や会社の協力の下で捜査がされたのに二人は見つからなかった。部屋から部屋への移動中の5分、という短時間での出来事だったこともあるのだろう。

 不可能犯罪のようだものだった。

 結局捜査は打ち切られたものの、身寄りを失くしたことを不憫に思った親類と会社の補助で暮らしていけている。

 俺は周囲の助けで生きている。感謝の心を忘れないようにしよう。

 そう心に刻んでそのままベッドで横になった。



 今日も裕也の勉強会だ。いや、今日はもう一人講師がいる。

「僕は思うんですよ。これは召喚されたんじゃないかと!」

「しかし発光現象はUFOの方がしっくりこないか?」

「それは上からの光でしょう。地面から眩しい光。これは魔方陣です!」

 間違った、もう一人頭の痛いやつがいる。

 アニメやライトノベルが大好きな大野だ。俺も好きで見てたし偏見は無いが、おまえは現実でそれを真剣に言うのか。

「うん。その線も考えられるね。下からライトアップすると綺麗だし!」

 遥さん、あなたは何を言っているのですか。


「でも実際問題として行方不明者が増えてます。昨日もニュースでやってましたし」

「おい、大野」

「あ、悟志君すみません・・・」

「気にするな。事実だし、遺体で見つかったわけじゃない。何処かで元気にやってるさ」

 見れば遥さんもすこし気まずそうにしている。

 まあ、気を使わせるよな。これは仕方ないので流そう。それに俺もちょっと気になった。

「警視庁の統計のニュース?そんなに増えてるの?」

「ううん、昨夜のニュースの方じゃないかな?」

「そう、そっち。都内で一家が失踪したそうだ。それも荒らされた形跡も無し」

「夜逃げとかじゃなくて?」

「寝たきりのお爺さんがいて、当日もデイケアを予約していたらしいわよ?」

 確かにそれはおかしい。


「しかも同じようなケースがここ何年かで数件あるらしいのです!」

 そこからは大野の独壇場だった。

 この世界とは別の世界が存在し、そこでは人族が魔族に追い詰められている。

 王国は異世界から勇者を召喚して世界を救おうとしている。

 世界の理?とかなんとかの関係で、こちらの人間は誰がいっても俺ツエーができて勇者様確定!勝ち組!


 ・・・どうしてこうなった。

 結局のところ勉強会は大演説会となり、遥さんの『みんなも気をつけよう』という、どう気をつけたらいいのか良くわからない言葉で締めくくられた。


 異世界召還ねぇ・・・



 俺もあの独特の雰囲気に呑まれたのか、家に帰ると両親の事件の捜査資料を引っ張り出していた。被害者家族向けに作成されたそれは、簡単に事件のあらましと失踪当時の状況が書かれていた。


 なになに・・・


“祝賀会場を出て控え室に戻る約5分の間に通路で失踪。現場から10m離れた場所にいたドアボーイが被害者の慌てた声と、被害者がいた通路に通じる背後のドアから漏れた光を確認する。”


 ・・・漏れた光?

 当時は呆然としていて読み飛ばしていたけど、何だこれ。

 施設のライトだったらこんな書き方しないよな・・・


“被害者の声は現地語ではなかったため正確ではないが、同僚の日本人と内容を確認した結果、以下の発言だと想定される。『なんだこれは』『床から光が』。この証言内容から床を調査するも、発光弾や設置型の兵器を使用した形跡も無く、建築物に損傷は全く無かった”


 おいおい、マジかよ・・・

 そりゃ異世界に召喚されたら見つからないよね。

 いやいや、アニメかよ!?


 俺の中の常識と非常識がせめぎあっている。

 その日は混乱する頭でなかなか眠れなかった。



「両親は異世界に召喚されたのかもしれない」

 勝者は非常識の方だった。

 辛そうな目で俺を見る裕也、仲間を見つけた喜びを満面の笑みで表す大野、何ともいえない複雑な表情をしている遥さん。大野、俺は仲間じゃない・・・と思う。言い切れない自分が辛い。

 俺は至って正気であるということをこいつらに理解させるため、鞄から昨夜の捜査資料を引っ張り出すのだった。


「いや驚いた。これなら確かにつじつまが合う」

 理解してくれてありがとう裕也。でもあの目はしばらく忘れられそうにない。

「素晴らしい!友達の両親が勇者だなんて、僕も頼んだら魔法とか教えて貰えるかな!?」

 落ち着け大野。両親が勇者なわけないだろうし、そもそも行方不明だ。

「ライトアップされてショービジネスの世界に・・・今頃スーパースターだね」

 あれ、遥さんってこんな子だったっけ・・・?いや、元から残念な(こんな)子だ。

「まあ、こういうわけで俺の頭がおかしくなったわけではないんだ」

「もちろんだ。俺は信じていたよ」

 裕也・・・


「そうなると悟志君も注意したほうが良いです。海外では行方不明者の家族もその後失踪する事件が何件か起きています」

「それは何で・・・?」

「一説には本命が残された家族だったという話があります。これは最初の召喚がニアミスだったんでしょうね」

 それは酷い。目標確認ちゃんとしろよ異世界!いや、そもそも召喚するなって話だけど。

 そのまま大野が説明してくれた他説としては、別件で異世界召喚、家族が迎えるために召喚、家族の居ない家に居るのが辛くて転居。最後がすごいリアル、というかこれだろう?


「待ってください、逆に考えたら悟志君の側にいれば異世界に召喚されるかも!」

 何を言い出すんだ大野!おまえは暴走しすぎだ!

「おまえ一人を向こうに行かせるもの心配だな。俺はお前を魔方陣から引っ張りだすことにしよう」

 頼りになるよ裕也。でもピントがずれているからな。

「えー!?私悟志君のことは好きだけど、家族と離れ離れになるのはちょっと・・・」

「あ、うん。ありがとう。みんな、魔方陣から逃げる方向でお願いします」

 遥さんの天然が!顔が火照る!裕也ニヤ付くな!


 結局その後、みんなで反復横とびの練習をして帰った。

 俺は恥ずかしさをごまかすように人一倍動いた。

 いい汗かいた。



 窓からの陽射しで目が覚め、時計を見ると8時を過ぎていた。しまった、寝坊だ。

 どうして昨日はあんなに反復横とびをしてしまったのか。

 いや、分かっているんだ。思い出すと今でも顔が火照ってくる。

 気を取り直して着替えを始める。


「朝飯は食えそうにないな。せめて昼飯だけでもコンビニで買っていくか。」

「あら、今起きたの?寝坊よ」

「仕方が無いじゃないか、昨日は疲れてたんだから」

「あなたもう高校二年生でしょ?しっかりしなさい!」

 もー、母さんは朝からうるさいな・・・


 ・・・母さん?

 さび付いたロボットのような動きで声のする方へ向くと、母が隣の部屋でいつものエプロンをつけて洗濯物を干していた。

「お父さんが下で新聞読んでるから、先に下りてらっしゃい」

 え、えー!?


「父さんたちはな、勇者で社長をやってきたんだ」

 意味が分からない。混乱する頭を振り、とりあえず学校には体調不良で休むと連絡した。声が震えていたのはこの場合良かったのか。

 テーブルに着くと父はは失踪前と代わらない様子で椅子に座っている。母も洗濯物を干し終わったのか、そのまま父の隣に腰掛けた。

「お父さん、それじゃわからないわよ」

「そうか、そうだよな。順を追って話そう」


 そこから始まった説明という名の異世界冒険譚、いや企業改革?は昼過ぎまで続いた。

 あの時はかっこよかったわ。母さんこそ凛々しい美人秘書姿が素晴らしかったよ。やだもう。あははは。

 ちょいちょい入る、惚気(ノロケ)まじりの合いの手がイラッとくる。ここは我慢だ・・・

 久しぶりに食べる母の手料理の味も、話のインパクトに押されて記憶に無い。


 話の内容をまとめるとこうだ

 本当に異世界に召喚され、勇者として魔族に占拠された村々を次々と開放する。

 圧倒的な勇者パワーで魔王城まではわりとすぐに到着したらしい。

 問題はここからで、今の魔王はたとえるなら商社の三代目。

 早世した先代の跡を急遽(きゅうきょ)継いだは良いものの、古参の社員の一部や活きのいい新入社員の一部がいうことを聞いてくれない。

 魔王はそんな足を引っ張ってばかりの社員に嫌気がさして城に引きこもってしまった。

 そこにやってきた勇者で元の世界では現地法人の社長の父。

 その組織としての惨状を見るに見かねて、そのまま魔王軍改革をしてきたそうだ。

 結果はいまやブラック企業からホワイト企業に変貌し、二人の召喚主の王国とも良好な関係を気づきつつあるそうだ。


 いや、なにやってんの?

 俺の中の常識が非常識に果敢に挑んでいる。頑張れ常識。

「未だに信じられないし混乱してる。それに一年でそんな成果が出せたの?」

「誰が一年だと言った?」

「いや、失踪してたのそれくらいでしょ。それとも以前から異世界に行ってたの!?」

「まさか。まあ、こちらでの期間はそれくらいだな。でも向こうでは?」

 その言葉にハッとする。時間の進みが違うってこと?

「それじゃ何年行ってたのさ?」

「それは・・・ううん、まあいいじゃないか」

 父はちらりと母のほうを見て、思いっきり言葉を濁した。

 つられて見れば、母さんは笑顔だけど目が笑っていない。これは深くつっこんじゃダメだ。

 だけど異世界で何年も過ごしたにしては老けたようには見えないし、二人とも逆に若返っているような?

「私たちは勇者をやっていたのよ。少しくらい元気になってもおかしくない思わない?」

まだ何も言ってないのに!まるで心を読んでいるかのようだ。

「私たちは一年間だけいなかった。つまり()()()()()()()()()()()()。そうよね?」

 俺は本能に従い無言で首を縦に振るしかなかった。


 そのあと心を落ち着けてから聞いてみたけれど、二人が戻ってきた理由は単純だった。

 『世界も落ち着いたし、元世界に俺を一人残したままで心配だから帰ることにした』

 ついでに争いで世界に蔓延していた負の力を転移魔法の原動力として消費したし、勝手な都合で召喚するなと叱ってきたので、しばらく誰かが召喚される事もないだろうとのこと。あちらの世界の水が合ってそのまま移住した人もいたそうだけど、それ以外の人も時間差はあれどこちらに戻って来るらしい。

 色々と言いたいこと、思うところはあった。

 それもトイレ休憩に向かう途中、風呂場の脱衣所で脱ぎ捨てられた白銀の鎧を見た瞬間に全てが吹き飛んだ。

 常識、また勝てなかったよ。



「というわけで両親も戻ってきて、召喚の恐れもなくなった。みんなには心配かけたな」

 俺はこのところ連日となっていた放課後の勉強会(もはや相談会だが)で、いつもの三人に両親の帰還を説明すると、反応は概ね喜んでくれた。

 大野だけ異世界召喚の可能性が無くなって嘆いていたが、本当に異世界に行っていたことを話すと回りが引くほどの大興奮だった。その後は戻ってきて仕事はどうするのとか、異世界で何をやっていたのといった、お決まりの質問に言える範囲で答えて終わった。

 ちなみに仕事は誘拐されていたことに(魔法とかで)して、少し後に日本の本社で復帰できるそうです。異世界ですごい人生経験を積んでしまったせいなのか、両親は自信に溢れ、人間としての器の大きさまで身に着けていた。これなら職場が変わっても問題なく活躍できるだろう。


 帰り際、昨日休んだことを心配してくれていた遥さんにお礼を言った。

『もう召喚されることもないなら安全でしょう?気分転換に遊びに行こう!』と、こちらの想定外のお返事を貰った。父さん、母さん、戻ってきてくれてありがとう!


 こうして両親が異世界に召喚された俺に、前よりちょっと嬉しい日常が帰ってきた。

お読み頂きありがとうございます。

相変わらず改行や段落がしっくりきません。あとジャンル。

時間が出来たら懲りずに次回作を書こうと思います。

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