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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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ラブの過去 前編

「真紀。お前は何者なんだ」

 真紀の話を聞き、恵一は疑問を口にした。すると真紀は目の前にある女性が浮かぶカプセルの方を再び撫でた。

「言ったでしょ。私はこの中にいたって。疑問に思わなかった? どうして私の顔と東郷深雪の顔は似ているのかって。どうして東郷深雪はプロトタイプっていう異名が名付けられているのかって。どうして東郷深雪の声を聞くことと死ぬことは同義なのかって。その全ての答えは簡単。私の正体は……」

 真紀が次の言葉を発するよりも先に、ラブが声を荒げた。

「真紀ちゃん。そんなことを言ったらあなたは友達を失っちゃうよ」

「その真紀ちゃんって呼び方。やめてよ。私は椎名真紀じゃないんだから。あなたは友達を失うのが怖いだけ。この際、罪を認めたいの。法では裁かれないとはいえ、私が大量殺人の原因だから」

 何かがおかしいと恵一は思った。ラブと真紀の口論を聞いていると、まるで自分自身が白い霧の中で迷っているような感覚に襲われる。

 恵一の頭を疑問が埋め尽くしたのと同時期、真紀は恵一と顔を合わせ、真剣な表情で真実を語った。

「赤城君。私の本当の名前は東郷深雪。計画のプロトタイプとして生まれた存在」

「それじゃあ、椎名真紀というのは誰なんだ。計画って何だよ」

 思わぬ事実を聞かされ恵一は取り乱す。すると真紀改め深雪はラブに近づき、覆面の頭を掴んだ。

「その覆面は必要ないよね。椎名真紀」

 真紀によって覆面が剥がされ、恵一は思わず自分の目を疑った。目の前にいる黒いスーツを着た人物。その覆面の下から現れた素顔は、東郷深雪と同じだった。

「やっぱりダメね。早々に殺すべきだったわ」

 覆面を剥がされたラブの声は、椎名真紀と同じ。目の前で一体何が起きているのか。赤城恵一には、サッパリ分からない。

「真紀。何がどうなっているんだ」

「えっと。どっちに聞いてるの?」

 恵一の隣に立つ東郷深雪は首を傾げる。その最中、椎名真紀は胸の間に仕込まれたボタンを押した。すると空気が抜けるような音が流れ、ラブの胸が膨らんだ。

「悪いな。いきなり真紀の本名が深雪だって言われて、混乱しているんだ」

「じゃあ、赤城君が椎名真紀だと思っていた私から話そうかな。私が存在している理由。私はシニガミヒロインのプレイヤーを管理するために生まれた。拉致した男子高校生たちを黙らせて、強制的にデスゲームへ参加させるために。たった一言でゲームの敗者たちを殺すことができるって所は、あのゲームのヒロインと同じだけどね」

 東郷深雪は一呼吸置き、椎名真紀と視線を合わせ、言葉を続けた。

「それと同時に、椎名真紀本人の影武者として学校に通う。本人はデスゲームのゲームマスターとしての仕事とか忙しいから、私がアリバイを作る必要があったの。時々本人と入れ替わりながら、私は椎名真紀として高校に通い続け、美緒や赤城君と友達になった。このアリバイトリックには、プロトタイプの私が普通に現実世界の高校に通うことができるのかっていう実験も含まれているけど」

「何となく分かった。要するにお前は椎名真紀本人のクローンだってことか」

 恵一が顎に手を置き、深雪の話を解釈する。その後で深雪は首を縦に振った。

「正確にはクローンじゃないけど、分かりやすく言うと、そういうこと」

「じゃあ、もう1つ聞く。どうしてこんなことをしたんだ。真紀が一連の事件の黒幕だってことを美緒が知ったら、悲しむじゃないか」

 怒りが籠った恵一からの質問に、黙り込んでいた本物の椎名真紀が、カプセルを見上げながら頬を緩める。

「あの娘たちの無念を晴らしたかっただけ。この10年間、私は抜け殻のように生きて来た」

 そう言い真紀は過去のことを語り始めた。


 10年前の4月。椎名真紀は両親と共に福井県にある小さな村へ引っ越してきた。

 緑豊かな森林に覆われた村。未だに道路がアスファルトで固められていない砂利道を、父親が運転する軽自動車で進んだ。

 その道中、自動車の後部座席の窓から幼い椎名真紀は村の様子を覗きこんでみた。すると舗装されていない道に沿った田んぼに、1人の女の子が飛び込み遊んでいるのが見えた。

 その女の子は、真紀と同い年のようで健康に焼けた褐色の肌に短髪が特徴的だった。

 女の子の近くには、金髪碧眼の女の子とマッシュルームカットの女の子の姿もあった。

 窓越しのため、楽し気に話す女の子たちの会話までは聞き取れなかったが、泥まみれになりながらも元気に遊ぶ同い年くらいの女の子を見て、真紀は楽しい気分になった。

 それから数分後、真紀たちを乗せた車は日本家屋の前で停まった。如何にも田舎という印象を受ける日本家屋。その隣には赤い屋根の一般的な住宅が建っている。

 新しい家を真紀が見上げていると、隣の家から三つ編みの小学4年生くらいの女の子が現れ、手を差し出した。

「あなたが真紀ちゃん? 私は隣の家に住んでる大竹里奈。学校まで私が送るから、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 元気よく真紀が挨拶した後で、大竹里奈と握手を交わした。

 椎名真紀が住むことになった小さな村には、小学校が1校しかない。子供も少なく、村民たちは全員が顔なじみ。なぜか村に住む子供たちは全員女の子という特殊な環境の中で、自分は過ごすことができるのかと、真紀は心配になった。

 しかし、翌日に控えた入学式で、その不安は解消される。

 小学校の1年生の教室。合計12個の机が並べられたその部屋にある、自分の席に座った真紀は、周囲を見渡してみた。

 教室の一角にある机の周りを村の田んぼで元気に遊んでいた3人の女の子たちが囲み、楽しそうに話している。

 教室の隅では、大人しそうな雰囲気を漂わせた黒色のボブヘアの女の子が本を読んでいた。その女の子の机の前で、ポニーテールに結った女の子が楽しそうに微笑んでいる。

 一方で教室の窓側の席に座る、後ろ髪を1つに結った女の子が、退屈そうに窓を覗きこんでいた。

「節子ちゃん大丈夫?」

 茶髪を肩まで伸ばし、前髪を軽くウェーブさせた低身長の女の子の声が聞こえ、真紀は声がした方を振り向く。

 そこには後ろ髪が腰まで届きそうなほど長いストーレートヘアに、右頬に小さな黒子がある女の子が立っていた。

「うん。しばらくは大丈夫だって」

「それは良かった」

 あのストレートヘアの女の子の名前は節子なのだろうか?

 そんなことを真紀が考えていると、突然彼女の顔を2人の女の子が覗きこんできた。

 1人は肩まで伸びたストレートの黒髪に、首筋に小さな黒子がある女の子。

 もう1人は釣り目に赤色の眼鏡をかけた、黒髪を赤色のヘアゴムでツインテールにした女の子。

「私の名前は、小倉明美だよ。よろしくね。真紀ちゃん」

 明るい口調で小倉明美が挨拶した後で、隣に立つツインテールの女の子が頭を下げた。

「私は三橋悦子。よろしくお願いします」

「相変わらず悦子は、真面目ね」

 真紀は、目の前で楽しそうに話す2人を羨ましく思っていた。すると、小倉明美が真紀の深刻な顔を覗きこんできた。

「この村に来て、まだ数日しか経っていないでしょう。私が色々と教えてあげる。まず金髪の子の名前は、木賀アリアちゃん。帰国子女でアメリカ出身なんだって。次はアリアちゃんの前にいる焼けた子は、樋口翔子ちゃん。この教室で1番足が速いの。その隣は日置麻衣ちゃん。将来の夢は舞台女優だってさ」

 それから小倉明美は、クラスメイトたちに関する情報を1つずつ紹介していった。楽しそうに話す様を見て、椎名真紀は小倉明美と友達になりたいと思うようになった。

「ごめんなさいね。耳が疲れたでしょう」

 三橋悦子が謝ると、真紀は首を横に振った。

「大丈夫。明美ちゃんの話しを聞いて、この村のことが分かったから、馴染めそう」

「本当!」

 明美は目を輝かせ、真紀に近寄る。その直後教室のドアが開き、長い黒髪全体をウェーブさせた低身長の女の子が教室の中に入ってきた。

 その女の子、平山麻友が入ってきて、12人の1年生は出揃った。これからこの12人で楽しい小学校生活が始まると思うと、椎名真紀は笑顔になった。

 しかし、この時彼女たちは知らなかった。楽しい一時が一瞬で崩れ去ってしまうことに。


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