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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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告白

 恵一の瞳に飛び込んだ来たのは、真っ白の天井だった。

「良かった。目が覚めて」

 病院特有の薬の匂いが漂う中、島田夏海はベッドの上で寝かせられている赤城恵一の顔を覗き込んだ。

「ここは?」

「悠久中央病院。あれからパトロール中の警官に助けてもらったの。アリアさんは、殺人未遂で警察に現行犯逮捕」

 島田夏海によって、失神していた時のことを聞かされた恵一の頭に、北原の顔が浮かぶ。

「北原君は?」

「警察で事情聴取を受けているよ」

「それは良かった」

 夏海の話を聞き、恵一は安堵した。あのタイミングで北原がゲームオーバーになっていたなら、島田夏海の中から北原という存在が消えているはず。それは即ち、北原の生存を意味していた。

「ねぇ。どうして私を庇ったの?」

 唐突に夏海が尋ねてきて、恵一は自分の目の前で死んでいった男子高校生たちの顔を思い出した。システムに拒まれ、助けることができなかった人々。だけど、今回はなぜか自然に体が動き、島田夏海を助けることができた。

 思考を巡らせた結果、彼は結論を導き出す。

「それは……」

 恵一の口から語られる理由を聞き、夏海は微笑む。

「そう。やっぱり赤城君って優しいね。そこが好きだけど」

「えっと。それって……」

「もう一度言わせないでよ。ピンチの時に助けてくれる。そんなあなたのことが好きだって」

 夏海は赤面しながらナチュラルに告白すると、顔を隠しながら病室から立ち去った。

 それと同時に、恵一の体は白い光に包まれた。


 島田夏海の告白の様子を監視ルームで見学していた椎名真紀は、隣に立つラブと共に驚愕を露わにしていた。

「逆プロポーズ。どうして? 」

「どうしてって。真紀ちゃんが仕組んだことじゃないの?」

「私が仕組んだことだったら、こんなに驚かない。下校イベント争奪戦の時からおかしいとは思っていたけど……」

「そうですね。あの時、初めておかしいと思いましたよ。真紀ちゃんが赤城様に白井美緒が死んだって嘘を吐けって指示した時から。真紀ちゃん。本当は殺すつもりだったんじゃないの?」

 核心に触れるラブからの質問に真紀は失笑した。

「その通りです。本当は殺すつもりでした。今更なことだけど、本当は3人を解放するって警察とマスコミに犯行声明を送ったでしょ? あの3人の内の1人は赤城君のはずだったんだよね。あそこで殺して、彼をゲームから解放する手筈だった。予め確保しておいたウイルスのワクチンを注射した上で」

「やり方が鬼畜ですね。そうやってゲームから解放されたけど、意識が戻らない赤城様と幼馴染の彼女を再会させる。それが目的だったんでしょ?」

「赤城君の救出とゲームを潰す。それが私の目的だから。本当は敗者復活戦の時にゲームに干渉して負けさせようとも思ったけれど、止めたよ。彼女の気持ちが分かったから。お姉ちゃんも分かっているよね? どうして私の作戦が失敗したのか? どうして登校イベントが起きたのか? どうして逆プロポーズなんてプログラムすらされていないイベントが起きたのか?」

 重なる質問にラブは唇を強く噛み沈黙した。それに追い打ちをかけるように、真紀は首を傾げ、尋ねた。

「ここでやっとゲームをクリアした人が現れたんだけど、本当に彼を現実世界に戻すの?」

 ラブはモニターに視線を向け、覆面の下で不敵な笑みを浮かべた。

「そういうルールですから、現実世界に戻しますよ。そろそろ記念すべき初めて恋愛シミュレーションデスゲームを制した、赤城様がログアウトするから、真紀ちゃんは会いにいったら? どうせウイルスのワクチンを所持しているんでしょう? 私は行かないといけないことがあるから」

「そう」

 真紀は短く答えると、仮想空間からログアウトした。それに続きラブもログアウトする。

 そうして残った1人の黒ずくめの男は、通常通りにプレイヤーの動向を監視していた。すると、ラブたちと入れ替わる形で水色のパーカーを着た野球帽を深く被った男が、突然現れ、その男の頭に銃口を密着させた。



「ここは?」

 赤城恵一が目を覚ますと、見覚えのない白い壁に覆われた部屋にいた。その部屋の壁には、椎名真紀の家で見た黒色のコンピュータが埋め込まれている。

 一体何が起きているのか。そう思いながら周囲を見渡すと、床に3人の男が倒れていた。

 恵一の足元にはスマートフォンが転がっていて、彼はそれを掴んだ。

『ゲームクリアおめでとうございます』

 簡単なメッセージが表示されても尚、恵一は状況を理解できない。

 恵一は改めて同じように床に倒れている男の顔を見た。すると彼の顔は次第に青ざめていった。そこに倒れていたのは、矢倉永人、北原瀬那、滝田湊の3人だったのだ。

「赤城君」

 後方にあるドアが開き、椎名真紀が顔を覗かせた。

「真紀か。あれからどうしたんだ。ここはどこだ? なんで矢倉君たちがここで倒れているんだ? 美緒は無事なのか?」

 焦った恵一は、矢継ぎ早に真紀へ質問した。一方の真紀は、冷静に彼からの質問に答えていく。

「美緒は無事よ。それは保証する。ここは研究所って呼ばれる現実世界の施設。赤城君はシニガミヒロインをクリアしたんだよ。島田さんに恋心を抱かせて。それで、どうして矢倉君たちが、このシニガミヒロインのコンピュータ室で倒れているのかを説明する前に、誤解を解こうかな。赤城君たちはラブに騙されている」

「どういうことだよ」

 真紀の話を理解できない恵一が首を捻ると、真紀は説明を始める。

「どうして同時期に拉致されたってだけで、警察は男子高校生集団失踪事件の被害者って確定したんだと思う? それは死因が同じだからだよ。今の矢倉君たちは昏睡状態に陥っているだけ。そんな彼らをどうやって殺すと思う? この部屋から出して、外の空気を吸わせる。簡単でしょ?」

「意味が分からないな」

「前に私の家の地下室で言ったよね。あの部屋から出て行ったら死ぬって。あれと同じ理由。ラブの仲間が密かに開発したウイルスの発症方法は、回りくどい奴なの。まずスタンガンに似た形の圧迫式注射器で被験者の体にウイルスを注射する。その後で被験者の体を仮想空間に送り込む。それから現実世界に体を戻し、現実世界の空気を吸わせたら、体内のウイルスは物凄い勢いで増殖して、彼らの体はウイルス感染によって死に至る。赤城君を拉致するために邪魔だった美緒にも、同じ注射をしたみたいだけど、仮想空間に行かない限りは発症しないから、安心して」

「何となく理屈は分かったけど、何で現実世界の空気を吸わせただけで死ぬんだよ」

「空気中には見えない細菌が漂っているというのは、保険の授業で習ったよね? 個体差はあるけど、ウイルスの潜伏期間である2日以内なら、普通に現実世界の空気を吸っても問題ない。だけど、仮想空間の空気を吸ったウイルス感染者が、再び現実世界の空気を吸収したら、ウイルスによる感染症で死亡。現実世界と仮想空間の空気中に漂う細菌と体内に蓄積されたウイルスが合体することで、初めて死に至る。そのウイルスが遺体から検出されたら、警察はあの事件の被害者としてカウントする。まあ、感染力が非常に高いウイルスを散布するって言って、ラブは警察組織を脅迫しているみたいだし」

 真紀の口から語られる真実に、恵一は驚きを隠せない。

「それじゃあ、仮想空間での死は?」

「ただの演出。この部屋にいる限り、彼らは大丈夫だけど、シニガミヒロインのコンピュータを止めない限り目を覚ますことはない」

 そう言いながら椎名真紀は、唐突にスタンガンを彼に見せる。それを見て恵一は焦る。

「それは何だ?」

「スタンガン型圧迫注射器。これに注入されてるワクチンを投与したら、外に出ても発症しない。本当は予備も含めて15人分しか用意してないんだけど、長尾君達を逃がすために、3人分を投与したから、結局は12人分しかないんだけどね」

「長尾君達を逃がした?」

「言っていなかったっけ? 敗者復活戦で負けた3人の男子高校生は私が助けて、警察に保護してもらったって。それでもシニガミヒロインのコンピュータを止めない限り意識は戻らないんだけどね」

「それを早く言えよ」

 椎名真紀は可愛らしく舌を出し、頭を下げる。

「ごめんなさい。中々言うタイミングが見つからなくて」

 謝りながら真紀は恵一の首筋にスタンガンを近づける。そうして数秒間、それを押し当てられた恵一は、真紀に尋ねる。

「これでワクチンは11人分しかないんだよな? つまり現在あのゲームの中にいる半数の男子高校生は助からないってことだ。それだと全員救えない」

「そんなことなら、大丈夫。遺体からウイルスが検出されるって言ったでしょ? 遺体から検出されたウイルスを国際微生物研究所が調べたら、ワクチン開発は可能なはず。生きたサンプルを関係各所に渡すという意味で、長尾君達を警察に保護してもらったし、国際微生物研究所に、解毒剤を投与した15人の血液を提出したら、早くても数週間以内に解毒剤は完成するはずよ。ウイルスの特性を警察に伝えたら、彼らはそれなりの装備で助けに来る。そうすれば解毒剤を投与されていない人を外部に運んでも、死なないよ。でも、解毒剤を投与されてない人は解毒剤ができるまで、無菌室で過ごすことになるけど」

「そうか」

 恵一が納得した後で真紀はスタンガン型の注射器を彼の首筋から離し、ドアを指差した。

「赤城君。解毒は済んだから、シニガミヒロインを終わらせに行くよ」

 そう言い真紀は、恵一の右手を強く引っ張り、シニガミヒロインのホストコンピュータが埋め込まれた部屋から立ち去った。


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