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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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幼馴染との再会 後編

 その人物を見た赤城恵一は両目を見開く。

「ラブ」

 恵一の口から出た名前に、白井美緒は聞き覚えがあった。あの動画で恵一が宣戦布告した人物。それだけではなく、数時間前に投稿された覆面の人物と、声や姿も似ている。

「ダメでしょ。正体明かしたら。思ってるよね? これ以上友達は失いたくないって。あのこと話したら、友達失っちゃうよ。あの時みたいに」

 ラブと呼ばれる人物の狂気に満ちた瞳を見た椎名真紀は沈黙する。暗くなった真紀の顔を見て、美緒は怒りを爆発させる。

「あなたが恵一を拉致した犯人? なんでこんなことをしてるの? あなたと真紀はどういう関係? 答えて!」

「答える義務はないよ」

 そう言いながら、ラブは暗く狂気に満ちた瞳で、真紀の顔を見つめつつ、スーツのポケットから拳銃を取り出す。

「真紀ちゃん。携帯出して。早くしないとあなたの友達殺しちゃうよ」

 拳銃の銃口を白井美緒に向け、椎名真紀は唇を強く噛んだ。

「やめろ!」

 怒りを露わにした赤城恵一の声が地下室に響く。彼は体を震わせながら、白井美緒の前に立つ。美緒は、ラブと呼ばれる人物から漂う狂気に満ちた雰囲気が怖く、思わず恵一の衣服の裾を掴む。


 一方椎名真紀は、ラブの指示に従い、自分の携帯電話をラブに渡す。それを受け取ったラブは、操作しながら覆面の下で頬を緩めた。

「真紀ちゃん。おめでとう。これで計画に一歩近づいたわ。じゃあ、一緒に行こう」

 ラブは強引に椎名真紀の右手首を掴み、鉄製のドアの方へ一歩を踏み出した。それを見た白井美緒が叫ぶ。

「真紀を離して!」

「うるさいよ」

 ラブは一瞬真紀から手を離し、スーツのポケットの中からスタンガンを取り出した。そして素早く美緒の背後に回り込み、スタンガンを彼女の首筋に当てる。すると美緒の体は、地下室の床に倒れてしまった。

「美緒」

 恵一と真紀が同じタイミングで彼女の名前を呼ぶ。その後で恵一はラブの顔を睨み付けた。

「美緒に何をした」

「安心して。スタンガンで気絶させただけだから、命に別状はないよ。彼女の体は、これから来る仲間が回収するけどね」

 それからラブは、再び真紀の右手首を握り、彼女の顔を覗き込む。

「真紀ちゃん。気が付かなかったかな? この家の前に黒いワンボックスカーが停車してたでしょ。あの中には私の仲間がいて、あなたが友達を連れてきたら、私に連絡が入るようになってたの。勝手に一時的に赤城様を現実世界に帰した罪は重いよ?」

 ラブが覆面の下で笑みを浮かべ、真紀の

手を繋ぐ。そしてラブは、強引に真紀の手を引っ張り、鉄製のドアの前に立った。

「これで一時的に現実世界へ帰ることができなくなるよ。真紀ちゃんがいないと、誰もサブコンピュータにはアクセスできないから。最後に気絶してる美緒に何か伝えた方がいいかもよ。じゃあね」

 適当なアドバイスの後、ラブはドアを開け、真紀と共に地下室から立ち去った。

 そして残された恵一に迷いが生じる。ラブを追って、真紀を助けだすのか。それとも目の前で倒れている白井美緒を助けるのか。

「早く美緒に会いに行きたい気持ちは分かるけど、それはできないよ。現実世界に戻ってきたとは言ってもあなたは、この部屋から出られない。この部屋から出ようとしたら、あなたは死んじゃうから」

 この部屋で最初に椎名真紀と再会した時の彼女の言葉が蘇り、赤城恵一は決断する。

 この部屋を出れば死ぬ。おそらく椎名真紀が言っていることは正しいと、恵一は思う。

 ラブを追って真紀を助ければ、自分は死んでしまう。そうなれば白井美緒を悲しませてしまうだろう。

「ごめんな。真紀。でも俺は、お前を見捨てない」

 真紀に対する謝罪の言葉を口にした後で、恵一は気絶している美緒を床に仰向けに寝かせ、彼女の額に優しく触れた。

「悪いな。守ってやれなくて」

 美緒に対し申訳ないような顔を向けた後で、恵一は美緒が所持するスマートフォンを使い、救急車を呼ぼうとボタンを押した。

 だが、何回か呼び出し音が鳴った時、恵一の体に異変が起きた。突然体が白い光に包まれていく。

 そうして赤城恵一は仮想空間に戻され、彼が手にした美緒のスマートフォンは、床に落ちた。


 再び鉄製のドアが開く音が、白井美緒の耳に届いたのは、赤城恵一が消えてから数分後のことだった。

 全身が痺れ、起き上がることすらできないため、美緒には誰が入ってきたのかが分からない。そんな状態の少女の顔を、地下室に侵入した人物が覗き込む。

「酷いことするなぁ。お嬢ちゃん」

 黒色の野球帽を深く被り、水色のパーカーを着た男は、頬を緩めた。

 聞いたことがない男の声を聞き、美緒は薄らと瞳を開けた。しかし、視界が霞んでしまい、彼女の瞳は男のシルエットしか映さなかった。

 やがて、男が床に落ちているスマートフォンを拾い、それを美緒の上着のポケットに仕舞う。それから美緒の体は、男によって抱きかかえられ、地下室から持ち運ばれた。


「あれ? なんでこんなとこで、寝てるんだよ」

 聞き覚えのある声を聞き、白井美緒は瞳を開けた。すると、園田陸道の顔が飛び込んでくる。

「ここはどこ?」

 美緒が体を起こすと、木の板らしきものが指に触れた。首を左右に振り様子を見ると、木製のベンチに寝かせられていたことが分かった。さらに、周りでは子供たちがブランコや滑り台で遊んでいる。

「東都中央公園だよ。俺は椎名さんにメールで呼び出されたんだけど、白井さんは何で公園のベンチで寝ていたんだ?」

 何となく場所を把握した美緒は、頭を巡らせ何があったのかを思い出す。

「真紀の家に行ったら、ラブって人にスタンガンで襲われて……」

 スタンガンを当てられた首筋に触れながら美緒が思い出すと、彼女の頭に椎名真紀と赤城恵一の姿が浮かんだ。

 ハッとした美緒はベンチから立ち上がる。

「真紀がラブに攫われたの」

「ラブに会ったのか?」

「うん。顔は額にハートマークが書かれた覆面着けてて分からなかったけど、黒いスーツを着ていたよ。恵一は驚いたような顔して、ラブって呼んでたし」

「えっと。ちょっと待てよ。何で赤城君の名前がここで出てくるんだ?」

 状況が飲み込めない園田が疑問に感じ首を傾げると、美緒は説明を始める。

「真紀の家の地下室に、コンピュータがあって、それに向かって真紀が携帯でメールを送信したら、恵一が出て来たの。何か夢みたいだったけど、ちゃんと会話したよ。そしたら同じ所からラブが出て来たの。冷酷な感じで怖かったから、思わず恵一の服の裾を握っちゃった。なぜか恵一はパジャマ姿だったけど」

「他に何か言っていなかったのか?」

 美緒の話に興味を示した園田は、彼女に迫り尋ねてくる。

「ラブは真紀のことを、真紀ちゃんって呼んでた。それとラブは真紀の携帯を見て、計画に一歩近づいたって言ってたよ」

「それって、椎名さんが一連の事件に関与してるってことか? 普通の家だったら地下室なんてないだろう」

「やっぱり真紀は知ってたのかな? 恵一が今どこで何をしているのか」

 園田の声に納得した美緒は、悲しそうな表情を彼に見せた。

「ラブと椎名さんが繋がっていることは事実かもしれない。だが、椎名さんは悪い奴じゃない。現に離れ離れになっていた白井さんと赤城君を会わせたじゃないか。それに、椎名さん自身がラブに騙されて、利用されてる可能性もゼロじゃない。だから信じてやれよ」

 園田の励ましを受け、美緒は顔を上げ前を向いた。

「そうだよね」


 同時刻。首都高速を1台の黒塗りの自動車が走っていた。その車内の後部座席には、ラブと椎名真紀が座っている。

 真紀は黙り込み、車窓から東都中央公園の方を見つめている。真紀は、こうなることを想定していた。そろそろ園田陸道がベンチの上で眠っている白井美緒を見つけ保護している頃だろう。そう思った真紀は、ポーカーフェイスを貫いた。

 するとカーラジオから、ニュースが漏れて来た。

『男子高校生集団失踪事件について、速報が入ってきました。警察の発表によりますと、周辺の防犯カメラを解析した結果。今朝3人の男子高校生を解放したと思われる、黒い野球帽を深く被った、水色のパーカーを着た男が現場付近に出没していることが判明しました。警察では、その不審者の行方を追っています』

 ニュースを聞きながら、椎名真紀は隣に座るラブに聞いた。

「美緒の目の前で私を攫ったらどうなるか分かるよね?」

 心配が顔からにじみ出ている真紀に対し、ラブは覆面の下で笑みを見せた。

「大丈夫。警察を脅迫してるから、椎名真紀誘拐事件は公にならないよ。報道協定云々抜きにしても」

 不気味な笑みでラブが車窓を見つめている中、自動車は猛スピードで走る。


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