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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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幼馴染との再会 前編

 警察病院の前で、椎名真紀に決意を述べた白井美緒に、野次馬の中にいた園田陸道が声を掛けた。

「白井さんも気になってきたのか?」

 右手を挙げながら話しかけてくる園田に、美緒は顔を彼に向ける。

「うん。もう少ししたら、真紀もこっちに来るみたい」

 偶然街中で出会った白井美緒の口から、椎名真紀の名前を聞き、園田は思わず赤面した。

「本当か?」

「もちろん。園田君って真紀のことが好きなんでしょ。だから黙っているのは可愛そうだって思って」

 美緒に自分の気持ちを言い当てられ、園田は照れながら頭を掻く。

「良かったよ。野次馬として問題の警察病院に駆け付けて。真紀さんとは、連絡先を交換していないから、休日での接触は絶望的だからな」

「ところで、警察は何で家族の面会を許さないと思う?」

 喜ぶ園田に対し、白井は彼に疑問をぶつけてみた。その問題は難しいと思った園田だったが、昨日椎名真紀と下校した時の会話が頭に蘇る。


「おかしいよね。模倣犯を作らないためかもしれないけど、拉致された男子高校生が1か月以内に自宅に送り届けられるってことしか報道されていないから」

 その椎名真紀の言葉に対し、園田陸道はこう答えたのだった。

「それは、残酷な方法で殺されたから規制が入っただけだって」

「そうだといいんだけどね」


この時に腑に落ちない椎名真紀の顔を、園田は忘れない。

「まさか、警察の情報操作か? 伏せられている殺害方法に、この謎を解く鍵があるとしたら……」

 閃く園田が顎に手を置き、美緒は封鎖された警察病院を見つめた。

「そもそも、何で警察病院を封鎖したんだろう。この病院に入院していた患者を全員別の病院に転院させて」

「兎に角、この事件。何か裏があるのは確実だな」


 謎が解けないまま30分が経過した頃、警察病院の前に椎名真紀が姿を見せた。野次馬の中から白井美緒を見つけた椎名は、彼女の隣に園田陸道がいるのを知り、目を丸くする。

「園田君?」

 真紀に声を掛けられた園田は右手を挙げた。

「偶然だな」

 この場に園田陸道がいるという予想外な展開に、椎名真紀は途惑う。しかし、彼女は考えを巡らせ、この状況を利用しようと決めた。

「園田君。突然だけど、メールアドレスを交換しない?」

 携帯電話を取り出す椎名真紀と顔を合わせた園田はベストタイミングだと思った。園田自身、真紀の連絡先が欲しいと思っていたのだから、それは無理のないことだろう。

「俺も欲しかったんだ」

 園田はスマートフォンを取り出し、真紀と通信することでメールアドレスを入手した。

 そのやり取りの後で、真紀は美緒の肩を優しく叩く。

「まだ私の家には行ったことがないよね。だから迎えに来たよ。話は私の家でするから」

「分かった」

 白井美緒が首を縦に振る。その後で真紀は携帯電話を開き、時間を確認した。現在の時刻は午前9時31分。帰宅する頃には10時になっているだろう。

 それから真紀は、園田の目の前でメールを打つ。すると、園田陸道のスマホに椎名真紀からのメールが届いた。

「園田君。ありがとうね。私の家の住所をメールしたから、今度遊びに来て」

 そう言い真紀は、ウインクしながら歩き始めた。腑に落ちない陸道は、静かに彼女の後姿を見つめ、彼女から送られたメールを読む。

「あれ?」

 椎名真紀から送られてきたメールには、確かに椎名家の住所が記されていた。しかし、それとは別の文章が、彼のスマートフォンには不可解な要求が表示されている。

『追伸。午前11時。東都中央公園の遊具広場に来て』


 午前10時。椎名真紀と白井美緒の2人は、どこにでもある一軒屋の前で立ち止まる。その青い屋根に2階建ての家は、椎名真紀の自宅。

 真紀が玄関のドアを開けた瞬間、彼女の自宅の近くに1台の黒色のワンボックスカーが停車した。真紀は、そのことに気が付かず、美緒を中へ通す。

「入って。親は仕事でいないから、気を遣わないで」

 美緒は真紀の指示に従い、彼女の家に入り、玄関で靴を脱いだ。その直後、先に上がった真紀は、突然頭を下げた。

「ごめんなさい。私のせいで赤城君は、危険なゲームに巻き込まれることになったの」

「どういうこと? 真紀のせいって」

 要領を得ない真紀の謝罪に、美緒は途惑いを隠せない。そんな彼女を察した真紀は、携帯電話を開き、静かに歩き始めた。

「一緒に来て。実物を見た方が理解しやすいと思う」

 真紀は玄関の先に続く廊下を右に曲がり、2階へと続く階段の前で立ち止まった。そして彼女は右手で微かに凹んでいる白色の壁に触れ、その箇所と横にスライドさせた。するとテンキーが現れ、真紀はパスワードを入力する。そうして壁に埋め込まれた隠し扉が開くと、椎名真紀はその先にある暗闇の空間を指さした。

「少し暗いから、気を付けて」

 真紀は隠し扉の中に消え、美緒は彼女を追いかける。その先の空間は薄暗く、彼女たちは階段を降りる。しばらく階段を下ると、目の前に鉄製のドアが見えた。


 真紀は重たそうなドアを楽に開けてみせる。ドアの隙間から、明るい空間が広がる。最初にその部屋に入ったのは椎名真紀で、白井美緒は彼女に続いて部屋の中に入り、目の前に広がる空間を見渡した。

 その部屋は、黒色のコンピュータが壁に埋め込まれているだけで無機質な物だと美緒は思った。

「この部屋は何?」

 美緒の口から出た誰もが思う疑問を、真紀はスラスラと答える。

「シニガミヒロインのサブコンピュータって言っても分からないよね」

「シニガミヒロイン?」

「私のせいで赤城君がプレイヤーとして参加させられているゲームの名前ね」

「だから、何で真紀のせいなの? ちゃんと説明して!」

 白井美緒が椎名真紀を追及する。それを受け、真紀は深呼吸してから携帯電話を取り出す。

「今から美緒が1番会いたがっている人に会わせるから。説明は後ね」

「それって……」

 真紀は美緒の答えを聞かず、携帯電話を開きメールを打つ。

「出ておいで。送信」

 真紀が鼻歌交じりに送信ボタンを押す。すると次の瞬間、コンピュータの近くの壁が白く光り始めた。

「えっ」

 一瞬で光が消え、その場所に1人の男が現れた。その男の顔を見て、美緒は思わず声を漏らした。そして次第に、彼女の頬に涙が落ちる。

 その一方で、再びサブコンピュータ室に呼び出された赤城恵一は驚いていた。なぜか目の前には、再会を望んでいた幼馴染の白井美緒がいるのだから。その近くには、自分を再び呼び出したと思われる椎名真紀の姿もある。

 まさかと思い、恵一は真紀を問いただした。

「どうしてここに美緒がいるんだ! 美緒は巻き込まないって約束しただろう」

 この恵一の発言にカチンと来た美緒は、右手で握り拳を作り、拳を震わせ怒鳴る。

「他にも言わないといけないことがあるでしょ。私は会いたかったんだよ。明日になったら恵一が遺体になって戻ってくるかもしれないって思って、怖くなって眠れなくなるほど。だから……」

 恵一は静かに美緒の方へ歩み寄り、彼女の頭に優しく触れた。その距離は、僅か3センチ程しかない。こんなに近くに、会いたかった幼馴染がいる。そう思うと、美緒の顔は赤く染まっていった。

「悪いな。ただいまって言えなくて。この体だって5分もすれば、あっちの世界に強制的に戻される。お前は俺を助け出したいって思っているんだろうが、助けは無用だ」

「どうしてそんな冷たいことが言えるの? 恵一が危険なことに巻き込まれていることは分かっているよ」

「何も分かっていない!」

 幼馴染の少年が声を荒げ、美緒の体がビクっと動いた。それから彼は呼吸を整えて、本音をぶつけた。

「あっちの世界には、邪魔者を容赦なく殺すような奴がいる。俺を助ければ間違いなくお前はラブに殺されるだろう。俺はそれが嫌なんだよ。だからラブに目を付けられる前に、諦めてくれ。それと絶対に生きて帰ってくるから待っていてほしい。これが俺の本音だ」

「うん」

 短く答えた美緒は、不安な気持ちが消えたような気がした。そのやり取りを近くで見せられた真紀は、一度咳払いする。

「久しぶりの再会のムードを壊して悪いけど、生きて帰ってくるっていう言葉はプレッシャーになるよ。私の作戦は一種の賭けだから」

「仕方ないだろう。俺は約束は守る男だからな」


 完全に置いてけぼりになった白井美緒は、状況を飲み込めない。さらに自分の助けはいらないと言いながら、真紀の助けを必要とする彼の言動を理解できず、彼女の顔は徐々に暗くなった。

「ちゃんと説明して。まるで真紀が、どこかから恵一を呼び出したみたいだけど、何がどうなってるの? 今恵一はどこで何をやってるの? どうして私の助けはいらないって言ったのに、真紀を頼るの?」

 矢継ぎ早な美緒からの質問を聞き、真紀は重たい口を開いた。

「今日は、私の正体について話そうと思って赤城君を仮想空間から呼び出したの。実は私……」

『真紀ちゃん』

 どこかからボイスチェンジャーの不気味な声が流れ、真紀は唇を強く噛み、言葉を飲み込む。

 数秒後、コンピュータの前に白い光が現れ、そこから額にハートマークがプリントされた覆面を被る黒色スーツの人物が姿を見せた。


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