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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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登校イベント

 仮想空間。5月15日。赤城恵一は欠伸をしながら、ベッドから起き上がった。

 3回戦についての説明を聞いた後で、急に睡魔が襲い眠ってしまったらしい。大きく伸びをしながら、前後の記憶を整理した恵一の脳に、眠った間の記憶が蘇ったのは、それから数秒後のことだった。

 一時的に現実世界に戻って、椎名真紀と再会したのは、夢だったのではないかと恵一は疑う。だが、それとは別に真紀の言葉は信ぴょう性があると恵一は、心の隅で考えていた。

 これまで顔や声が似ている東郷深雪に対して、何も感じなかった理由。白井美緒の声を音声ファイルとして添付した、謎のメール。それら全てが、椎名真紀という隠しヒロインの存在で繋がる。

 ここまで考えた状態で、赤城恵一は改めて時間を確認してみた。午前7時20分。あれから1時間眠ってしまったという事実を知り、恵一の顔は青ざめる。

 最初に浮かんだ文字は遅刻だった。急いで準備しないと遅刻してしまう。

「マズイな」

 恵一は力強く唇を噛み締め、急いで学ランの裾に手を通した。

 それから制服に着替え終わると、教科書やノートなどを鞄に詰め込み、階段を駆け下りる。そうして玄関のドアを力強く開け、彼は通学路を走り始めた。朝食を食べる暇もなく。


 いつもの通学路を走っている恵一の耳に、後方から聞き慣れた声が聞こえたのは、自宅を出発してから10分が経過した頃だった。

「赤城君」

 その声を聞き、恵一は足を止め、後ろを振り向いてみる。そこにはなぜか、島田夏海の姿があった。

「島田さん」

「偶然だね。もし良かったら、一緒に学校行こ?」

 島田夏海が微笑んでくる。その一方で恵一は首を縦に振ることしかできなかった。

 何が起きているのか。恵一には理解できない。赤城恵一の隣を島田夏海が歩いているのは事実。後でこのイベントのことを岩田波留に相談しようと恵一が考えていると、突然夏海が、恵一の顔を覗き込んできた。

「もしかして、日本史の小テストについて考えてるの? 確か40点以下だったら居残りだったっけ」

 夏海の言葉を聞き、彼はハッとした。仮想空間とはいえ、真面目に学業に励んできた恵一だったが、昨日彼は勉強できなかった。放課後は、ラブによって敗者復活戦に参加させられ、気が付いた頃には翌日の朝になっていた。本来なら朝の隙間時間でも勉強はできたはずだったが、その時間は椎名真紀によって失われてしまう。つまり、赤城恵一には勉強する時間がなかった。

「勉強してない」

 本音を漏らす恵一に対し、夏海が微笑む。

「そんなことを言う人に限って、結構勉強しているんだよね」

「本当に勉強していないんだ。島田さん。良かったら勉強を教えてくれよ。日本史だったら得意だろう」

「いいよ」

 そんな何気ない会話をしながら、2人は学校へ向かっていた。

 その間、恵一は現実世界で白井美緒と一緒に学校へ登校した様子を思い出した。現実世界も仮想空間も違いはない。同い年の女の子と一緒に、何気ない会話をしながら登下校する日々は、恵一にとって懐かしく思えた。

 その思いに浸っていると、彼は疑問に感じた。ラブによって拉致されてから、現実世界では何日が経過しているのだろうと。一時的に現実世界に帰還した時に、椎名真紀に聞くべきだったのかもしれないと思い、恵一は深くため息を吐いた。

 突然現実世界に戻り、椎名真紀と再会したにも関わらず、抱いていた疑問の答えが聞けなかった。最低でもラブの正体については聞いても良かったはずなのに、なぜ尋ねることができなかったのかと、彼は後悔する。

 そもそも、どうやったら一時的に現実世界へ帰ることができるのかということさえ、整理できていない。椎名真紀の事情とデスゲームの目的は、時間の関係で前回は聞けなかったが、次に戻ることができたら聞いても良いのかもしれない。 このような考えが恵一の頭を過り、心の中で納得を示す。そんな彼から何かを悟った夏海は、恵一に対し優しく声を掛けた。

「大丈夫。日本史の小テストくらい簡単だから。あの先生、記述式の問題は、小テストでは出さないから最悪勘が働けば、40点以下にはならないよ」

 日本史の小テストについて悩んでいると感じた夏海の言動を聞いていると、恵一は後悔がどうでもよいことのように感じられた。そして彼は、彼女に対し微笑み返す。

「ありがとうな。楽になった気がする」

「それは良かった」

 夏海の顔が次第に明るくなり、2人は悠久高校の校門へ続く一本道を歩き始める。

「島田さんのメールアドレスが欲しい」

 もうすぐで悠久高校へ辿り着くといった所で、恵一は本音を漏らしてしまった。

 唐突な要求を後悔しても意味がないと思っていた恵一だったが、隣の島田夏海はケロッとした顔を見せていた。

「そういえば、まだアドレス交換をしていなかったね」

 夏海は制服のスカートのポケットの中からスマートフォンを取り出した。その展開は恵一にとって予想外なことだった。まさかここまであっさりと3回戦開始までに島田夏海のメールアドレスを入手することになるとは。

 恵一は、このチャンスを生かすため夏海と同様にスマートフォンを取り出した。

 夏海のスマホに表示されていたQRコードを恵一のスマホが読み取り、それを保存すれば、現実世界の物と同様にたった数秒で終わってしまうアドレス交換。

恵一は島田夏海のアドレスを保存すると、すぐに彼女にメールを送った。

『ありがとう』

 島田夏海のスマホに表示されたメールを読み、彼女は微かに頬を赤くした。

「俺からメールが届いただろう。ありがとうって」

 赤城恵一が夏海のスマホを覗き込むようにして、彼女に話しかける。

「うん。じゃあ、そのアドレスを登録しとくね」

 夏海は笑顔を見せ、再び歩き始めた。こうして赤城恵一のメールアドレス交換イベントはあっさりと終了したのだった。



「おかしいですね」

 監視ルームで違和感を口にしたのは、ラブだった。

「何がでしょう?」

 ラブの隣に立つ黒い服を着た男が聞き返すと、ラブは赤城恵一の姿が映されたモニターを指差す。

「登校イベント。さっきイベント解禁をお伝えしたんだけど、今の赤城様のレベルだと発生しないはずなんですよ? 島田夏海ルートで現在登校イベント発生条件を満たしているのは、滝田様だけのはずなのに。下校イベントの時と言い、何かがおかしい。バグかしら?」

 何かがおかしい。疑念を抱くラブは、モニターに映る赤城恵一と島田夏海の姿を見つめた。


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