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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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現実世界の告発

 ベッドの上で眠っていた赤城恵一は、静かなクラシック音楽と共に目を覚ました。

 敗者復活戦終了後、恵一は突然の眠気に襲われた。そして気が付いたら、仮想空間内の自分の部屋で眠っていたのだった。

 そんなことを思い出しながら、恵一はベッドから起き上がる。

 机の上にデジタル時計は、5月15日の午前6時と表示されていた。今は敗者復活戦終了の翌日なのだろう。

 静かなクラシック音楽は鳴り止まない。これは目覚ましというわけではなく、新たなデスゲーム開催を伝える音。また新しいゲームが始まるのかと思い、緊張と恐怖が滲み出た顔で、机の上のスマートフォンを手にする。


『3回戦について。ドキドキ生放送が開始されました』

 休む暇なく3回戦が始まるのではないかと思い、恵一はドキドキ動画というアプリをタッチする。そして数秒間、スマートフォンが暗くなり、白い背景の部屋の中にスーツ姿のラブがいるという、いつもの動画が再生される。

『3回戦進出を決めた、24名の男子高校生の皆様。敗者復活戦で明らかになった隠しヒロインのことが気になって、眠れなかった人はいるのかな? そんな人のために、ヒントです。隠しヒロイン出現条件。8人の姫と8人の王子が揃う時、彼女は姿を現すだろう。これが条件ですよ。意味不明かもしれないけど、最低2人を生贄にしないと、彼女は姿を現さないからね。隠しヒロインのお話しは、これで終わり。次は3回戦についてね』

 ラブの話を聞き、恵一の中で迷いが生まれた。何人かの命と引き換えにしなければ、椎名真紀は姿を現さない。だがそれは、犠牲者を出さないという恵一の信念を否定する条件だった。

『3回戦は、6月9日から開催します。因みに3回戦は6人1組のチーム戦となっています。詳しいゲームの内容とチーム編成は、後日発表するとして、皆様には、3回戦開始までの間にメインヒロインのメールアドレスを入手するという内容のクエストに参加していただきます。簡単なクエストでしょう。2回戦を突破した皆様には。ただ入手すればいいだけっていうのも面白くないからルール追加。例えば、Aさんが東郷深雪のアドレスを入手したとしましょうか。それでAさんがBさんに東郷深雪のアドレスを教える。この行為を禁止します。最初からこんな行為ができないようにプログラミングされてるから、あまり関係ないけどね』

 ラブが笑いながら右手の人差し指を立てた。

『期限内にメールアドレスを入手しなかったら、3回戦でチームメンバーに迷惑をかけることになるから、注意してね。それとね。放送終了後から皆様のスマートフォンをアップデートします。今回のアップデートでは、メールの返信機能が追加されるから、お友達とアドレスを交換してもOKよ。メール機能の大幅アップデートって言っても、現実世界の人とは連絡できないから。あっ、忘れてたけど、恋愛シミュレーションゲーム経験者には御馴染みの、登校イベントやデートイベントが解禁されたから、一杯好感度を上げてね。それでは次は、6月8日の夜にお会いしましょう』

 メールの返信機能追加と聞き、恵一の頭にある考えが浮かんだ。別に隠しヒロインの椎名真紀と対面しなくても、メールの差出人とメールでやりとりをすればいいのではないかと。

 恵一が次の一手を決めた時、スマートフォンの画面に砂嵐が走り、生放送は終了した。


 その頃、生放送映像を撮り終えた真っ白な部屋に、黒ずくめの屈強な男が姿を見せた。

「ラブ様。プレイヤーYとの取引の件。やっぱりラブ様の読み通り、警察組織が隠蔽している方でしたよ」

 ラブの部下がタブレット端末を手に持ち、頭を下げる。

「そう」

 ラブが短く答えると、部下の男は力強く唇を噛み、タブレット端末をラブに差し出す。

「ただ、告発の方法が問題なんです」

「方法? ただあの事実を掲示板に書き込んだだけじゃないの?」

「口で説明するより、実際に見ていただいた方が分かりやすいかと」

 部下の男はタブレットをタッチした。すると映像が再生される。

 そのビデオに映し出されていたのは、拳銃を構えたラブの姿。画面の中でラブは、続けて銃口を武藤幸樹に向けた。

『さっきスマートフォンを投げつけたでしょ。あれ少し痛かったから、お返しね』

 次の瞬間、武藤幸樹は心臓を撃ち抜かれ、そのまま亡くなった。これは、敗者復活戦でラブが武藤を射殺した瞬間の映像だった。

「この映像が、赤城様が宣戦布告した時と同じようにネット上で拡散されてるだけとは言わせませんよ。こんな映像が出回っても、痛くも痒くもないからさ」

 プレイヤーYと名乗る動画投稿者の新たな流出動画を観ても尚、表情を変えないラブに対して、部下は首を横に振った。

「この映像が投稿された同時刻、マスコミと警視庁に対し、一斉メールが届いたそうです。内容は……」

 部下からの報告を聞き、ラブは覆面の下で笑みを浮かべた。

「面白いですね。とりあえずシステムのセキュリティを強化しといて。最悪な事態が発生しない内に」


 ラブによる生放送終了から10分が経過した頃、スマートフォンのアップデートが終わった。自室に籠っている恵一が、確認のため、メールアプリをタッチしてみる。すると、画面に先程まで存在していなかった返信と新規メッセージという文字が追加されていた。

 赤城恵一は首を縦に振り、一昨日届いた謎の差出人によるメールに返信してみる。現実世界の人間とは連絡できないというラブの言葉を忘れて。

『椎名真紀か?』

 その直後、突然耐えられない程の睡魔が、恵一を襲う。体が重たくなるような感覚の後、恵一の体はベッドの上へ倒れた。


 同じ頃、椎名真紀はリビングのソファーに座り、欠伸をしながらテレビを見ていた。

『男子高校生集団失踪事件について。進展があったようです。只今入ってきた情報によりますと、マスコミ各社や警察に犯行声明文が届いたようです』

 女性アナウンサーが原稿を読み上げた数秒後、コピー用紙に印刷された犯行声明文がテレビ画面に映った。

『私は男子高校生集団失踪事件の犯人グループの1人です。現在私たちは、27名の男子高校生を監禁しています。1年間続いたゲームがマンネリ化してきたのが不満なので、独断専行で人質を3名だけ解放します。解放するのは以下の3名。武藤幸樹さん。西山一輝さん。長尾紫園さん。もちろん殺してないよ。嘘だと思った警察の皆様。早く東都港へ急行してください。そこの第一倉庫の中に3人がいるから。プレイヤーY』

 事件の犯人の仲間と思われる人物から送られた、突然の犯行声明文。騒然とした空気が流れるスタジオの中で、アナウンサーは一呼吸置き、口を開いた。

『人質を解放する東都港から中継です。山田さん』

 若い女性のアナウンサーがニュース原稿を読み上げあげた直後、テレビ画面にハゲ頭の黒色スーツの男が映った。その男の手にはマイクが握られていて、その背景には朝日に照らされた海が見える。それに加え、救急車とパトカーのサイレンの音がお茶の間に流れた。

『山田です。私は今、東都港にいます。先程同局にプレイヤーYと名乗る人物から、マスコミ各社と警察に犯行声明文が届いたのはご存じのことと思われます。残念ながら人質を解放するという第一倉庫前には立ち入ることができませんでした。ご了承……』

 カメラが担架に乗せられ、救急車に運ばれる3人の男子高校生を写す。

『分かりましたでしょうか? プレイヤーYの予告通り、3人の少年が救急車へ運ばれました。新たな情報が入ってき次第、お伝えします』

 カンペを見ながら、アナウンサーが状況を視聴者に伝えた。

「無事に発見されて良かった」

 ニュースを観ていた真紀は安堵の表情を浮かべた。その直後、彼女の携帯電話にメールが届く。携帯電話を開き、メールを画面に表示させた彼女は、微笑んだ。

『椎名真紀か?』

 たった一言のメッセージを読み、彼女はテレビのスイッチを切り、携帯電話で『プレイヤーY』と検索してみる。

『速報。プレイヤーY。再び動画投稿』

 最初のページに表示されたのは、いずれもまとめサイトだった。ニュースよりも、ネットの方が早い。動画投稿という趣旨のスレッドには、直接問題の動画へ移動するリンクが張ってある。

 リンクに沿って動画を再生させた彼女の瞳には、武藤幸樹がラブによって射殺された瞬間が映った。先程のニュースでは、動画が配信されたことは公表されていない。おそらく動画の内容が残虐だからという理由なのだろう。そんな一般人の考えとは裏腹に、椎名真紀は真実を知っていた。

「誰が最初に気が付くかな?」

 余裕たっぷりに頬を緩めた真紀は、携帯電話を閉じた。その後で彼女は欠伸をしながら、リビングから姿を消す。


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