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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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隠しヒロインの正体

「聞いてくれ。この図書室の秘密が分かった」

 赤城恵一は長尾紫園と西山一輝がいる机の周りに戻るなり、告げた。

「何っすか。秘密って」

「敗者復活戦攻略に関係あるのか?」

 次々に長尾と西山が聞くと、赤城は机の上に1冊の本を置く。

「10年越しの遺言。多野著。この本を読んで分かったんだよ。ここにある本は、シニガミヒロインに関わった人物の記憶をノベライズ化した奴なんじゃないかって」

「信ぴょう性が薄くないっすか?」

 半信半疑な長尾に対し、赤城はページを捲り、文章を指でなぞった。

「この本の一節、10年前、多野は福井県の大震災に巻き込まれ、多くの友人を失ったのだった。俺はこの本の通り、あの時2階の男子トイレで会話を交わしたんだ。もちろん本と同じ内容で。悠久高校なんて仮想空間の高校名が複数の小説で出てくるはずがない。郷田著の小説にも、悠久高校に関して言及されていただろう。だから分かったんだ。この図書室には、恋愛シミュレーションデスゲームで命を落とした人間の記憶が保存されてあるって」

「仮にそれが真実だとして、何の目的でそんなことをやっているんだ?」

 西山が右手を挙げ、首を傾げる。しかし赤城には、そこまで真実を導いていなかった。

「まだ分からないけど、何か理由があると思う。特に理由もないんだったら、こんなことをする必要がないからな」

 新たな謎が浮上する中、長尾紫園が手を叩く。

「その謎を解くよりも、今は隠しヒロインの正体を明らかにする方が良いっすよ」

 長尾の一言で、赤城はハッとした。図書室の秘密よりも隠しヒロインの正体を明らかにする方が先決だった。このまま何もしなかったら9人が命を落とすのだから。

「それで分かったのか。隠しヒロインの正体」

「ああ、たった今候補者を4人まで絞り込んだ所っすよ。ハッキリ言うと、このゲームは恋愛シミュレーションゲーム上級者じゃないと攻略できなかったかもしれないっすね」

「4人か。どうやったんだ?」

 攻略法について気になった赤城の目に、机の上に置かれた文字が殴り書きされている紙が止まる。

「まずは、シニガミヒロインに登場する13人のヒロインの整理。各ヒロインを属性で振り分けたら、西山君が発見した100枚のカードの出番っす。100枚って言っても、34枚はハズレみたいな感じだったらからスルーして構わないっすね」

 長尾は説明しながら、机の上に置かれた71枚のカードの束を手にした。

「恋愛シミュレーションゲームにも属性っていうのがあったんだな。炎と相性がいいのは水って感じの奴だろう。相性って」

 その赤城の発言を聞き、長尾は目を点にしてため息を吐く。

「違うっすね。RPGみたいに明確な相性があるわけじゃないっすよ。簡単に言えば個性みたいな奴っすかね。例えば歴女な一面もある一面もある文系女子高生。島田夏海。彼女の場合は、歴女と文系女子高生という複数の属性を持っていて、その属性に合わせたアプローチをしたらクリアしやすくなるって感じっすね。それで残った66枚のカードを使った推理ゲームが始まったっす。恋愛シミュレーションゲームでは、同じ属性を持つヒロインが省かれる傾向が強いっす。例えば1つのゲームに文系女子高生のヒロインは1人しか登場しないって感じに」

「その作業は俺も参加したよ。2人で相談しながら、このヒロインは属性が被るから違うだろうって。それと、さっきも言ったけど、あの34枚のカードはハズレじゃない」

 西山が自信満々に腕を組む。

「どういうことだよ」

「あの34枚のカードには、カタカナが1文字ずつ書いてある。何枚かは被りがあるから、全ての文字が揃っているわけじゃないけど」

 そう言いながら西山は34枚のカードの束を恵一に渡した。その後で恵一は、1枚ずつカードを観察する。一通り観察を終えた彼は、カードを整理するために机の上にカードを表向きに置き始めた。

「それで、絞り込んだ4人の隠しヒロイン候補者というのは?」

 赤城恵一は作業しながら、長尾に尋ねる。

「この4人っすよ」

 そうして長尾は、4枚のカードを恵一に差し出す。


『完全記憶能力を持つ大学生。式部香子』


『ミステリアスな校医。蒼井芽衣』


『トラブルメーカー。小松佐紀』


『甘味処の看板娘。藤原熊乃』


「本当はもう1枚。悠久高校生徒会長。石城マナってカードもあったんだけど、不正解だから省いたっす」

 長尾が頭を掻く中、赤城恵一の作業は終了した。


『ア2枚』


『イ3枚』


『オ2枚』


『カ1枚』


『キ3枚』


『ク1枚』


『コ2枚』


『サ1枚』


『シ2枚』


『ツ1枚』


『ナ2枚』


『ノ1枚』


『フ1枚』


『マ3枚』


『ム1枚』


『メ1枚』


『ラ2枚』


『ル1枚』


『ワ1枚』


『グ1枚』


『ジ1枚』


『ブ1枚』


「こうしてみると、不思議だな。3枚も同じカードがあるカタカナもあるなんて。多分暗号なんだろうって思うけど」

 西山が整理された34枚のカードを見ながら呟く。

「暗号……」

 恵一は顎に手を置きながら、4枚の隠しヒロイン候補者の名前と整理整頓された34枚のカードを凝視する。

「まさかね」

 小さく呟いた恵一は、何枚かのカードを手に取り並べてみた。


『アオイメイ』


『コマツサキ』


『シキブカオルコ』


『フジワラクマノ』


「やっぱりカードを並び替えたら、候補者4人の名前になる」

 予想通りの結果に恵一は腕を組み納得した。しかしそれを西山は否定する。

「俺も最初に、並び替えたらヒロインの名前になるって考えたけど、候補が減らないし、まだ10枚カードが残っているしで却下したよ」

 確かに西山が言うように、まだ場には10枚のカードが残されている。

「まだだ。残された10枚のカードの中には、生徒会長の石城マナの名前も含まれている」

 赤城恵一は断言して、机の上でカードを並び替えた。それを見た長尾が呆れた表情を見せる。

「いやいや。だから石城マナは不正解確定だから、意味ないっすよ」

「違うんだ。机を見ろよ。残された5枚のカード。キーワードかもしれないだろうが」


『ア1枚』


『ナ1枚』


『ム1枚』


『ラ1枚』


『グ1枚』


 現在机の上には、この5枚のカードが、5人のヒロインの名前とは別に並べられている。

「アナグラムだと!」

 閃いた西山が机から前のめりになる。

「アナグラム。確か文字を並び替えた暗号だったな。ご丁寧に隠しヒロインらしい5人の名前のカードまで作ってあるってことは、この5人の名前自体もアナグラムなのかも」

 赤城と西山の推理を夢中で聞いていた長尾紫園は感心して、両手を叩いた。

「凄いっすね。1人だったらここまで真実に辿り着ける自信がなかったっすよ」

「直感で推理しているだけだから、まだ確証はないけど」

 赤城恵一が頭を掻き、西山が唸る。

「アナグラム。結構難しそうだな。蒼井芽衣は、どう考えてもヒロイン名にはならないし」

 西山は確認するために、白い紙に鉛筆で考えられる組み合わせを書いてみた。


『あいお いめ』


『あいお めい』


『あおい いめ』


『いあい おめ』


『いめい あお』


『いめい おあ』


『おいめ あい』


『おめい あい』


『めいい あお』


『めいい おあ』


 同じ要領で各ヒロインのアナグラムを考えてみた西山だったが、どれもしっくりこない。

 そして数十分後、西山は唸りながら恵一たちと顔を合わせた。

「やっぱり石城マナのアナグラム、シイナマキが一番しっくりくるような気がするな」

「シイナマキ」

 その名前を赤城恵一はどこかで聞いた気がした。だがそれを、彼は思い出すことができない。

「シイナマキ」

 再びその名を呼ぶと、恵一の頭に再び激痛が走った。


 見覚えのある高校の校舎の廊下を、赤城恵一は歩いていた。恵一の隣には、当たり前のように、幼馴染の白井美緒がいる。窓から夕日が差し込んでいることから、夕暮れ時の出来事だろう。

 しばらく2人が歩いていると、廊下の片隅で1人の少女が佇んでいるのが、恵一の視界に移った。

 腰の高さまで伸びたストレートの後ろ髪に、可愛らしい二重瞼が特徴的な少女。そんな彼女は、どこか悲しそうな表情を浮かべ、窓から見える住宅街を見つめていた。

 それから数秒後、恵一の隣にいた幼馴染は、その少女を見つけると、笑顔になって彼女の元に駆け寄る。

「あっ……」

 ノイズが消えていき、白井美緒の声が恵一の耳に届く。

「真紀だ」

そうだったのかと赤城恵一は思った。椎名真紀。彼女は白井美緒の友達。恵一と真紀は、面識があるものの、あまり会話をしたことがなかった。だから思い出せなかったのか。それとも……


 フラッシュバッグを引き起こし、恵一はフラフラとした動きで、貸出カウンターへ向かう。

「真紀。影で俺を助けていたのは、お前だったのか」

 危なっかしいと思ったのか、長尾と西山が彼の後を追う。その心配を他所に、恵一は倒れることなく、貸出カウンターの席へ座ることができた。

『シイナマキ』

 聞き慣れた名前を打ち、エンターキーを押すと、すぐに結果がアナウンスされた。

『シイナマキ。ノートパソコンのアクセスが許可されました』

 そのままノートパソコンが開き、おめでとうと書かれた血文字の壁紙が表示される。それに合わせて、貸出カウンターの近くにいたラブが拍手を始めた。

「赤城様。敗者復活戦勝利。おめでとうございます。それでは奥にあるドアから脱出してください」

「その前に答えろよ。真紀とお前らの関係。なんでアイツがシニガミヒロインの隠しヒロインなんだ!」

 恵一は祝福ムードを壊すように、怒鳴った。しかしラブは、恵一の怒りに怯むことなく覆面の下で不敵な笑みを浮かべていた。

「お知り合いでした?」

「質問に答えろ!」

 睨み付ける恵一の顔をスルーして、ラブが敗者復活戦を締めくくるコメントを発表した。

「敗者復活戦勝者の赤城恵一様。改めておめでとうございます。さて、隠しヒロイン。現実世界から来た少女。椎名真紀ですが、ある条件を満たさなければ出現しません。もしかしたら3回戦開催中に条件が満たされて、皆様の前に姿を見せるかもしれませんね。それでは、皆様さようなら」

 そうしてラブは、恵一の質問に答えることなく白い光に包まれ消えたのだった。


 敗者復活戦は、新たな謎を残し幕を閉じた。勝者となった恵一は、長尾と西山に付き添われ、閉じられているはずの出入り口へ向かう。

「俺たちの分まで精一杯頑張れよ」

 勝者になった者を西山が励ます。その隣で長尾は首を縦に振っていた。

「現実世界での帰還を期待しているっすから」

 2人の敗者に励まされながら、赤城恵一は静かにドアをスライドさせる。このドアを潜れば、また理不尽なデスゲームに参加させられる羽目になる。

 そこに恐怖を感じていた恵一だったが、敗者復活戦で目標を持つことができた。

 隠しヒロイン。椎名真紀と接触する。どんな出現条件が待っていても、恵一は真紀と話がしたいと思った。

 赤城恵一は強く首を縦に振って、決意の一歩を踏み出した。


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