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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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図書室の秘密

 見覚えのある高校の校舎の廊下を、赤城恵一は歩いていた。恵一の隣には、当たり前のように、幼馴染の白井美緒がいる。窓から夕日が差し込んでいることから、夕暮れ時の出来事だろう。

 しばらく2人が歩いていると、廊下の片隅で1人の少女が佇んでいるのが、恵一の視界に移った。

 腰の高さまで伸びたストレートの後ろ髪に、可愛らしい二重瞼が特徴的な少女。そんな彼女は、どこか悲しそうな表情を浮かべ、窓から見える住宅街を見つめていた。

 それから数秒後、恵一の隣にいた幼馴染は、その少女を見つけると、笑顔になって彼女の元に駆け寄る。

「あっ……」

 白井美緒の声はノイズで掻き消されてしまう。そのため、恵一には美緒が少女に何を話しているのかが分からなかった。だが、彼も分かることがある。白井美緒と少女は親しげに会話をしているということだった。


「大丈夫っすか?」

 どこからか声が聞こえ、誰かが恵一の体を揺さぶった。徐々に開いていく恵一の瞳は、真っ白な天井と、心配そうに覗き込む長尾紫園の顔を映した。

 このデジャヴなシチュエーション。敗者復活戦開催直後の時間まで巻き戻されているのではないかと恵一は思った。だが、その考えは近くにいた西山の一言で覆される。

「いきなり本棚の前で倒れたから、心配したよ」

 西山は赤城が倒れる直前のことに関して言及している。ということは時間がループしていないことの証明になるのではないか。

「どれくらい気絶していたんだ」

 恵一は微かに残った頭痛に耐えながら、仰向けの体勢から立ち上がった。

「大体2時間くらいっすね。制限時間は残り1時間50分っす」

「そういえば、武藤君の姿が見えないが」

 恵一が周囲を見渡しながら2人に尋ねる。しかし2人は黙り込み、彼からの質問へ答えようとしない。

 沈黙の時間が流れ、やっと西山が真実を打ち明ける。

「殺されたよ。ラブによって」

「ちょっと待て。ポイントが0にならない限り、誰も死なないんじゃなかったのかよ」

「……」

 西山は言いにくそうな表情を見せる。これ以上西山の口から語らせるのは苦だと思った長尾は一輝の肩を持ち、彼の言葉に続けた。

「あれは1時間前のことだったっすね」


 赤城恵一が倒れてから1時間後。西山一輝は1人で100冊もの本から1つずつカードを抜き取るという単純作業を終わらせた。その後で、彼は床に倒れている赤城恵一の体を長尾の元へ運んだ。それから彼は他に該当箇所がないかと1つずつ本の背表紙に注目しながら歩き始める。

 すると貸出カウンターの近くに設置された本棚で、西山は武藤幸樹と再会した。武藤の手には1冊の本が握られている。

「西山君。何か手がかりは見つかったかな?」

 西山は咄嗟に100枚のカードの束を背中に後ろ手の状態で隠し、堂々とした表情を見せつける。

「さあね」

「何か隠したように見えたけど、どうでもいいわ。俺はとんでもないお宝を見つけたからな」

「お宝?」

「俺は運が良かった。こんな膨大な本の中から、隠しヒロインの正体を突き止める本を見つけることができたんだからなぁ。このゲーム。俺が勝つ」

 自信満々な武藤幸樹は、急いで貸出カウンターへ向かい走った。この状況はマズイと西山は感じる。これから100枚のカードを長尾に見せて、隠しヒロインの正体を特定するという時に、あっさりとパスワードを入力されてしまったら元も子もない。

 そのピンチに気が付いた時には遅く、武藤幸樹は再び貸出カウンターの席へ座り、スマートフォンをノートパソコンに接続していた。

 椅子に座った彼は、ペラペラと本のページを捲り、名前を確認。そして彼は堂々とキーボードを叩いた。


『イシキマナ。パスワードが違います』

 あっさりとポイントを失ってしまった武藤の頭に怒りが込み上げてきて、彼はケーブルからスマートフォンを抜き取る。

「完全に負けたねぇ」

 貸出カウンターの上で腰を掛けていたラブが、冷徹な視線を武藤に向ける。

「ふざけるな。この本にちゃんと書いてあるじゃないか! 郷田亮は悠久高校生徒会長の石城マナと約束を交わしたって。だから俺は本の中の手がかりを信じたんだ!」

 理不尽なデスゲームに対する怒り。それを代弁するかのように、武藤はラブにスマートフォンを投げつけた。それは思い切りラブの腹に命中したはずだった。だがラブは、何事もなかったように歩き始め、貸出カウンターの上に置かれた本を手にした。

「へえ。郷田著の約束。下巻。まさかこの膨大な本の山から、こいつを見つけるなんて思わなかった。偶然見つけただけなんだろうけど、こんなゴミ小説。捨てるわ」

 ラブは笑いながら、スーツのポケットの中に隠された拳銃を取り出し、至近距離で本を撃ち抜いた。瞬く間に本が粉々にされていく。様を見つめていたラブは、続けて銃口を武藤幸樹に向けた。

「さっきスマートフォンを投げつけたでしょ。あれ少し痛かったから、お返しね」

 次の瞬間、武藤幸樹の心臓から血液が溢れた。サイレンサーが取り付けられているためか、銃声はしなかった。だが、硝煙の匂いが周囲を漂う。

 その一部始終を近くで見ていた西山一輝は、怖くて何もできなかった。そうして数分程燃えると、武藤幸樹の体は白い光に包まれ消えた。それに合わせ貸出カウンターは、何事もなかったように、修復されていった。


 長尾の話しを聞き、赤城恵一は鳥肌を立てた。微かな優しさは幻だった。そう思わせるように、ラブは容赦なく武藤幸樹を殺した。

 そのことに憤りを感じた赤城は、机を思い切り叩く。

「絶対に許せない!」

 恵一はラブがいる貸出カウンターの方向へ睨みつけた。その直後、恵一の頭に疑問が浮かぶ。

「この本にちゃんと書いてあるじゃないか! 郷田亮は悠久高校生徒会長の石城マナと約束を交わしたって」

 これは武藤幸樹の最期の言葉。その言葉の中には、郷田亮という名前が含まれている。

 赤城恵一は、この恋愛シミュレーションデスゲームに強制参加させられた日の早朝のニュースで郷田亮という名前を、ニュースで聞いていた。


『男子高校生集団失踪事件について。速報が入ってきました。埼玉県警の発表によりますと、先日失踪中の高校二年生、郷田亮さんの遺体が、段ボール箱に敷き詰められた状態で発見されたとのことです。警察は遺体を遺棄した不審者を追っています』


 どういうことなのか。同姓同名の別人かもしれないと言う推理は、悠久高校という仮想空間に高校名が最期の台詞に含まれている事実であっさりと否定される。

「まさか!」

 赤城恵一は、居ても立っても居られず本棚へ向かい走り始めた。どこかで多野著の小説を見た気がして。それを読めば図書室の秘密が解き明かされるのではないかという予感がして。

 その目的の本は、1分も経たない内に見つかった。

『10年越しの遺言 多野著』

 多野という苗字の作者の小説は、この1冊しかない。恵一はその小説を手にして、ページを無意識に捲ってみた。すると、彼の目に驚愕の文章が映る。

『多野明人は、悠久高校2階の男子トイレの中で、クラスメイトの赤城恵一に想いを語った。今から10年前、多野は福井県の大震災に巻き込まれ、多くの友人を失ったのだった。その中には、彼の幼馴染も含まれて……』

 偶然開いたページには、あの時多野明人と交わした会話の内容が繊細に描かれていた。

 あの時男子トイレの中で2人が会話していたことを知っているのは、多野本人と赤城恵一しかしらないはず。つまり、誰もこの文書を書けるはずがない。

 そう思いページを閉じた時、恵一の脳裏に真実が浮かんだ。

「そういうことか」

 図書室の秘密を知った恵一は、堂々と長尾の元へ戻った。


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