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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
最終章 隠しヒロインの真実
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ラブの優しさと狂気

 武藤幸樹の言う通りだと赤城恵一は思った。このまま誰も脱出できなかったら、自分たちではなく、23人の男子高校生の中から5人の命までも奪われる。最も誰か1人でも図書室から脱出できたら、犠牲は3人だけで済むだろう。

 結局3人の犠牲がなければ、3回戦進出は不可能だった。そんなわけがないと、27人全員で生き残る方法を考え実行したことで、最悪の場合9人の命が犠牲になる敗者復活戦が開催された。

 こんなことになるのであれば、桐谷たちを犠牲にした方が良かったのではないか。そんな思いが恵一の心から湧き始める。

「ラブ。お前の目的が何かは知らないが、お前は間違っている。何がプレイヤー間の殺人等犯罪行為の禁止だ。確かに直接的な殺人は行われていないが、誰かを見殺しにするってことは間接的な殺人じゃないか。だから俺はお前の思い通りにはならない。絶対誰かを見殺しにしない。そして必ずお前をこの手で殴ってやる」

 不意に、ラブへ宣戦布告した時の自分の言葉が蘇る。過去の言葉を全否定された無力感。

 それによって赤城恵一は戦意を喪失した。

「美緒。ごめん。悲しませて」

 前触れもなく恵一は呟き、両膝を床に付けた。絶望感によって暗くなった恵一に対して、武藤は容赦なく冷徹な視線を向けた。

「早く俺にポイントをくださいよ。全員で生き残るなんて不可能な夢を見たおバカさん」

「武藤君。言い過ぎっすよ。君だって全員で生き残るという方法に賛同して、作戦に参加したっしょ?」

 武藤の言葉に怒りを覚えた長尾は彼に詰め寄る。だが武藤は、絶望する恵一のことを気にせず、腹を抱え笑うだけだった。

「岩田波留の援助が受けられたら、それでいい。そんな思いで作戦に参加したから、全員で生き残るなんて無様な作戦に関しては否定的だ。岩田君は優秀なブレインだから、利用価値があるからね」

「お前、どんな思いで赤城君が作戦に参加するよう呼びかけたのかが分かっているっすか?」

 下衆な態度を示す武藤に対し、長尾が怒りを露わにする。だがその怒りは武藤には届かない。


「他人に同情している暇があったら、早く手がかりを探した方がいいだろう」

 長尾と武藤の口論を近くで聞きながら、赤城恵一は、白井美緒の笑顔を思い出す。彼女の笑顔が頭の中で埋め尽くされていく度に、彼女を悲しませてしまうという罪悪感が強くなる。

「ごめん」

 恵一は小さく呟き、スマートフォンの画面上に表示されている『武藤幸樹』という文字をタッチする。

『武藤幸樹にポイントを譲渡しますか?』

 別のページで、このようなメッセージが表示されると、彼はYESという文字に触る。

 この文字をタッチしたら、自分は死ぬのではないかという迷いが一瞬、恵一の頭を過る。

 その恐怖を乗り越えるため赤城は瞳を閉じ、覚悟を決め、画面をタッチした。

「これでもう一度、パスワードを入力できる」

 武藤の喜ぶ声が恵一の耳に届く。ポイントを全て失った自分は、これで死ぬのだろう。

 こうなるのであれば、白井美緒に自分の想いを伝えるべきだった。そんな後悔の中、恵一に耳にラブの声が届く。

「死ぬって思った?」

 目を開けると、いつの間にかラブが恵一の顔を覗き込んでいる。赤城は驚き、思わず腰を抜かした。それでもラブは首を傾げ、恵一に話しかけてくる。

「そう簡単には死なないよ。なんで敗者復活戦のルール説明の時、長尾様のポイントを余分に増やしたと思う?」

 唐突な質問に、赤城恵一は答えることができなかった。数秒の沈黙の後で、ラブは言葉を続けた。

「ポイントの譲渡って言っても、全ポイントを渡すわけではありません。譲渡は必ず15ポイントごとと決まっているんですよ。だから赤城様の現在のポイントは3ですね」

「どうしてそんなルールにしたんだ。なぜ全ポイントを譲渡できるような鬼畜ルールにしなかった」

「どうしてあの時、長尾様に余分なポイントを付加したと思う? 15ポイントあればゲームとして成立するはずなのに、どうして23人の男子高校生へ投票するように指示したと思う?」

 ラブは覆面の下で頬を緩めながら、首を傾げ矢継ぎ早に質問する。だが、恵一はラブからの質問に答えることができない。

「分からないって顔してるね。23人の男子高校生に投票を指示したのは、チャンスを増やすため。でも、全ポイントを譲渡するシステムにしたら、死ぬじゃないですか? ポイントが0になった時点で死亡するんだから。そんなルールで、ポイントを譲渡できますかね? このゲームは、ポイントを譲渡したとしても必ず1ポイント以上残るようになっているんですよ。あまり開催されない敗者復活戦くらい、楽したいから」

 何かがおかしいと赤城は思った。これまでのラブなら、冷酷非道に容赦なく男子高校生たちを殺害するはず。だが、敗者復活戦には微かな優しさが隠されているように、恵一は思った。


 図書室から脱出できるのは1人だけ。誰か1人でも脱出できたら、残りの3名が死亡。誰か3人を見殺しにしないと、生き残れないルールだけど、極力図書室内での殺人が避けられているような気もする。

 もしかしたらラブは、悪い奴ではないのかもしれない。そんなことを恵一が考えていると、ラブが再び恵一の顔を覗き込んできた。

「すっかり忘れていましたよ。聞きたかったことがあるんだよね。白井美緒が死んだって嘘を吐いたのはどうして?」

 優しさを感じ取ったのも束の間、ラブは暗く重たい闇のような瞳で、恵一の顔を見つめてくる。その瞬間、恵一は恐怖から生唾を飲み込んだ。

「嘘を吐かないと、現実世界の人間関係という爆弾は解除できないと思ったからな」

「誰の入れ知恵かな?」

「答える必要はない」

 赤城恵一の体に悪寒が走る。あのメールの存在は隠さないといけないのではないか。そんな予感がして、赤城は唇を固く閉じた。

「そう。あれほど白井美緒と現実世界で再会したいって言っていたから、驚きましたよ。美緒を殺したっていう発言は。でも、誰かさんの入れ知恵は攻略法じゃないんだよね」

「どういうことだ?」

「どんな嘘を吐いたって無駄だってこと。あの娘達は確実に嘘を見抜く。嘘つきが嫌いな彼女は、確実に赤城様のことを嫌いになる。それなのに下校イベント発生するなんて、バグかな? それとも赤城様を殺すことが目的なのかもね?」

 恐怖から一転、恵一はラブの発言に違和感を覚えた。

「ラブ。俺の質問にも答えてくれ。どうしてお前は、白井美緒という名前を知っているんだ?」

「愚問ですね。あらかじめ拉致する男子高校生の人間関係について調べていたから。そうしないと、仮想空間での恋愛に現実世界の人間関係をフィードバックできないでしょうよ」

「違うな。だったらどうして、小倉明美を利用しなかった。あの時お前は、島田夏海に俺の幼馴染、白井美緒の存在を吹き込んだ。本来ならその役割は小倉明美が務めるはずだろう。だがお前は、自ら白井美緒という存在を匂わせた。つまりお前は……」

「白井美緒のことを知っているとでも言いたいのですか? もしそうなら、どうします?」

 ラブは瞳を閉じ、覆面の額に印刷されたハートに右手で触れる。

「お前が美緒の友達だったら、説得するさ。こんなくだらないデスゲームを何度も開催して、多くの男子高校生を殺してきたということを知ったら、美緒は傷つく。これ以上美緒を悲しませないために、自首してくれ」

 真剣に頭を下げる恵一。それに反し、ラブはクスッと笑った。

「やっぱり似た物同士ね。プレイヤーYとあなたって。あなたたちが出会ってしまったら脅威になるわ。悪いけど、目的が達成されるまでは自首しない。それが答えですよ。Yさん」

 ラブは右腕を前へ突き出し、ピースサインを作った。その一方で赤城は思い出す。

「まあ自分を責めずに、プレイヤーYを恨んでくださいよ。あのトラブルの発端を作ったプレイヤーYが谷口君を殺したって解釈もできるから」

 あの時ラブと対峙した時の台詞。あの時は怒りによって、プレイヤーYという存在をスルーしてしまった。


 ここで彼は頭の中で、谷口が亡くなった経緯を整理してみる。谷口は、ゲームに対する悪口を言ったため溺死した。その出来事から数時間前、赤城恵一はラブに宣戦布告したのだった。本来ならば、ゲームマスターへの宣戦布告発言をしてしまえば、ラブによって殺されるはず。だがあの時は何も起こらなかった。それで安心して、谷口がゲームに対する悪口を発してしまったとしたら。

 そう考えると、恵一の体に戦慄が走った。谷口を殺したのは、プレイヤーYという解釈もできる。ということは、ラブに歯向かったにも関わらず、死ななかった理由にもプレイヤーYが関与しているのではないか。

 プレイヤーYは、なぜか赤城恵一を助けようとしている。このような図式が浮かぶと共に、疑問が生じた。

 プレイヤーYは誰なのか? 

あのメールの差出人の正体もYなのか?

 多くの謎が頭に浮かぶと、突然恵一のスマートフォンに通知が届いた。


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