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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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 27人のプレイヤーたちの行動を、モニター越しに監視しているラブは、キャスター付きの椅子に座り、足を組む。

 ゲームマスターの手には、スマートフォンが握られていて、その画面には3回戦進出者の名簿が表示されていた。

『3回戦進出者。3番。桐谷凛太朗。26番。阿部蓮。38番。石田咲』

 その結果を覆面越しに見つめたラブは、頬を緩めてみせる。

「これで残る席は1つ。綺麗に条件が揃っちゃったね」

 そう言いながらラブは、右隣りに立つ黒服の大男と視線を合わせた。

「はい。そうですね」

「明日には決着が付くはずだけど、ちゃんと準備してるよね?」

「はい。準備は夜明けと共に整います」

「そう。ところで、例のダンボール箱が盗まれたって聞いたけど」

 ラブは冷徹な視線を部下に向けた。その瞬間、部下の体に悪寒が走る。

「そのようですが、問題ないでしょう。あれが盗まれることも想定済みだから」

「そうね。美緒を悲しませないためにやったことだろうけど、やっぱり未来は変わらない」

「あのダンボールを盗んだ犯人について心当たりがあるのですか?」

「もちろん。最初から分かっているから。犯人は……」

 間が悪く、ラブのスマートフォンにメールが届く。ラブは視線をスマートフォンに向け、メールの文面に目を通した。


『あなたたちの作戦は、既に分かっています。誰かの遺体の顔を、赤城恵一に整形して彼の家に送り込む。そうやって赤城恵一の死を偽して、事件の真相を隠蔽する。だから私は、あなたたちから整形した彼の遺体を奪いました。赤城恵一黒幕説を捏造したのも、あなたたち。赤城恵一をスケープゴートにして、自分たちはゆっくりと計画が遂行される日を待つ。えげつないですね。追伸。あのことをネットに拡散させたくなかったら、現実世界での時刻、今日の午前6時までに自首しなさい。ただし自首するのはゲームマスターのラブ。本人とする。プレイヤーYより』


「おもしろいじゃない。プレイヤーYによる脅迫状」

 ラブは笑いながら、自分のスマートフォンを部下に渡す。

「お言葉ですが、あのことが致命傷になって、計画が凍結する可能性もあり得ますよね」

「確かに……」

 ラブは静かに瞳を閉じた。そうして真紀との会話を思い出す。

「プレイヤーYがあのことを告発したら、状況は一変するよね」

「あのことってどっちだっけ。警察組織が隠蔽している奴だったら、痛くも痒くもないけど、彼女の名前がバレたら、厄介だよ。捜査が進展しちゃうから」


 再び瞳を開けたラブは、覆面の下で唇を噛む。

「どっちよ。警察組織が隠蔽していることだったら大丈夫だけど、別の方だったら致命傷。違うわ。計画自体は私がいなくても遂行できるから、自首することで致命傷を回避することも可能」

 ブツブツと呟きながら、ラブは様々な考えを巡らせる。だがどんなに考えても、有効な方法が分からない。すると部下の男が、ラブに尋ねた。

「ところで、プレイヤーYの目的は何でしょう。ゲームを終わらせることが目的だったら、捜査が一気に進展する新事実を公表しますよね。あの事実が判明したら、警察が真相に辿り着くのも時間の問題。そうなれば計画に関わった人間が全員逮捕されて、計画自体が凍結する。だからここは、プレイヤーYの取引を受けた方が良いのでは?」

 その問いかけを聞きラブは、高笑いを始めた。

「最初から分かっていることよ。あのダンボール箱を盗んだのは、美緒を悲しませないため。だから分かったわ。プレイヤーYが告発しようとしていること。プレイヤーYは警察組織が隠蔽した事実を公表して、ネット上で叩かれている標的を赤城恵一から、警察組織に誘導しようとしている。ネット上には腐敗した警察組織を叩く人間が一杯いるからね。即ち、取引に応じる必要はない」

 断言したラブは、プレイヤーYから送られてきたメールを削除する。

 

 同時期、椎名真紀は黒色のコンピュータが壁に埋め込まれた小部屋の中心でため息を吐いていた。

「これでお姉ちゃんを惑わせることができたら、いいんだけど」

 真紀が手にしている携帯電話の送信履歴には、先程ラブに送信した脅迫メールが表示されていた。

 その後で彼女は、送信履歴に残されたメールを削除する。それから彼女は、小部屋の中心から後ろへ3歩下がる。

「ここでお姉ちゃんが戻ってきたら、厄介ね」

 不安が口から零れ、真紀は気分を落ち着かせるため深呼吸する。そして彼女は、メールを打ち始めた。音声データを送付させ、文面を打つ。

『白井美緒は死んだって嘘を吐いて。それが修羅場イベントの攻略法』

 送信ボタンを押した真紀は、携帯電話を閉じる。

「これで赤城君にメールが届いたらいいんだけど」

 本当に赤城恵一にメールが届いたのか。不安を募らせた真紀は、欠伸をしながら自分の部屋に戻る。


 仮想空間。午後4時40分。赤城恵一は相変わらず、岩田波留と共に対策を相談している。だがいくら考えても、有効な方法は分からない。仮想空間内では、現実世界の問題は解決できないのだから。

 そんな2人のスマートフォンが、振動を始める。おそらく、3回戦進出者が決定したという内容の通知が届いたのだろうと、2人は思った。案の定2人のスマートフォンには、同じ内容の通知が表示されている。

『3回戦進出者。3番。桐谷凛太朗。26番。阿部蓮。38番。石田咲』

「良かったな。これで全ての条件が整った。後は白井美緒という現実世界のヒロインを何とかすれば、確実に成功する」

 岩田波留は嬉しくなり、スマートフォンの画面から赤城恵一の顔へ視線を移し、笑顔を見せた。だが喜んでいるはずの恵一は、なぜか首を傾げている。

「これはどういうことだ?」

 疑問に感じた恵一は、岩田に自分のスマートフォンを見せる。恵一のスマートフォンには、3回戦進出者を知らせる通知の他にも、メールの着信を知らせる通知も表示されていた。もちろん岩田のスマートフォンには、メールが届いていない。

 赤城は疑いつつ、メールアプリをタッチして、届いたメールを確認してみる。

『白井美緒は死んだって嘘を吐いて。それが修羅場イベントの攻略法』

 差出人不明のメール。それは、赤城恵一が抱えている問題の答えだった。

「このメール。不審だな。このメールから察するに、赤城君が修羅場イベントに巻き込まれていることを知っている。そしてメールという形で攻略法を伝え、赤城君を助けようとしているんだ」

 恵一のスマートフォンを覗き見ている岩田が冷静な分析を口にする。赤城自身も、岩田の分析通りの意見だった。

「そもそも、このメールの差出人を信じていいのか」

 赤城恵一は、メールの差出人のことを疑っている。その時、岩田は恵一の元へ送られたメールに、ファイルが送付されていることに気が付く。

「ちょっと貸して」

 そう言い岩田は、恵一のスマートフォンに表示されているメールの送付ファイルというタグをタッチした。すると音符マークが表示されている画面に切り替わった。

『私は恵一の味方だから』

 スマートフォンから流れた少女の声を聞き、赤城恵一は思わず腰を抜かす。その顔は、両目を大きく見開き、驚いているようだった。

「美緒」

 送付された音声ファイルは、白井美緒の声。ラブによって拉致されて以来聞いていない幼馴染の声を、恵一は懐かしく感じた。

「えっと。その女の子の声が、問題となっている白井美緒さんの声というのは分かった。だけどメールの差出人は、どうして美緒さんの声なんかを音声ファイルとしてメールに送付したんだ」

 岩田は驚きを隠しきれていない恵一に対して、疑問を投げかける。数秒の沈黙の後、赤城は冷静さを取り戻し、顎に手を置いた。

「確かに妙だな」

「単純に考えると、音声ファイルはメールの差出人からのメッセージ。即ちメールの差出人の正体は、白井美緒さんということになるけれど、そうなると疑問が生じるよね。どうして美緒さんは、赤城君がピンチに陥っていることを知っているのか。恋愛シミュレーションデスゲームに巻き込まれているってことを、差出人は知っているように思える。だから差出人の正体が美緒さんということになると、彼女自身がデスゲームの関係者ということになる」

「残念ながら、それは違うな。狂っているデスゲームの関係者の中に、美緒がいるはずがない。あのメッセージと同じように、俺も美緒の味方だ」

 岩田の意見を、あっさりと否定してみせた恵一の顔付きは、この瞬間から明るくなる。先程の暗く絶望している顔付きとは別人のようになった恵一は、音声ファイルをスマートフォンに保存する。

 そのメールは、ラブによって送られるメールと同様に、返信できない。そのため恵一たちには、メールの差出人の正体を突き止める手立てがない。

 だが岩田は、違和感を覚えたのか赤城の元へ送られたメールを凝視し、呟く。

「やっぱりおかしい。差出人のとこ、名前じゃなくてアドレスになってる。しかもそのアドレスのドメイン名、現実の携帯会社の物と同じだ。言っている意味は分かるよな」

「ああ、このメールは、現実の携帯電話を使って送信された可能性が高いってことだ。それに付け加えるなら、このアドレスのドメイン名は、美緒が使ってる携帯会社の奴じゃない」

 謎は深まり、2人はメールのアドバイスを踏まえ、対策を練り直す。

  


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