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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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現実世界の密会

 その様子を監視ルームで山持とラブが見ていた。

「なるほど。岩田を仲間に引き入れて戦力増強ですか。ラブ様。これで状況が変わりましたね」

 椅子に座りプレイヤーの監視を続けている山持は、隣にいるラブの顔を覗き込む。

 ラブの顔は覆面で覆われているため表情が読めない。

「恋愛シミュレーションゲーム経験者を仲間にしても、状況は変わりませんよ。特に赤城様は、ここで終わりです。岩田様は先程爆弾について言及していたけれど、こっちには絶対に処理できない高性能爆弾があるから」

「相変わらずやり方がえげつないですね。ところで掲示板はご確認されましたか?」

「ええ。ありがとうございます。赤城様が一連の事件の黒幕だったっていうスレッドを起ち上げてくれて。おかげでネットでは大炎上中ですよ。それとあの件の進歩状況は?」

「明日には発見されるでしょう」

「これでプレイヤーYも動き始めます」

 ラブは自信を持ち腕と脚を組む。だが山持はラブの発言に違和感を覚え、疑問を口にする。

「ラブ様。本当はプレイヤーYが誰なのかご存じではありませんか?」

「Yが最初に妨害してきた段階から、目星は付けていますよ。でも私にはYを殺せない。それを良いことに、Yは妨害を繰り返してゲームを終わらせようとしている。それが許せないから、一度ログアウトするわ」

 山持はラブの発言に腑に落ちない表情を浮かべ、尋ねた。

「なぜですか? 明日は現実世界だと土曜日だから、この部屋で2回戦終了を見届けると思ったのに」

「現実世界でやりたいことができたからね。そろそろ真紀ちゃんも帰ってる頃だと思うし」

 ラブは一言告げ、山持の前から姿を消す。


「ただいま」

 椎名真紀は、自宅の玄関のドアを開けた。自宅には誰もいないことは分かっているのに、帰りの挨拶をした真紀は、何をやっているのかと考えてしまう。その時玄関を上がり右に曲がった所にある部屋の引き戸が開き、白色の覆面を被った白スーツの人物が真紀の前に現れた。

「おかえり」

 額にピンク色のハートマークが印刷された覆面を着用している人物は、真紀の挨拶に応える。その姿を見て、真紀はため息を吐いた。

「帰っているなら、玄関に鍵を掛けなくても良かったのに。それと2人きりだから、そのボイスチェンジャー越しに喋らなくてもね。その覆面で顔を隠さなくてもいいよ」

 真紀がジト目で覆面に隠された顔を見つめる。

「声に関しては自由でしょう。鍵を掛けたのは、空き巣対策。あの部屋にいたら、招かれざる客に侵入されたとしても気が付かないから。覆面で顔を隠したままなのは、そういう気分だから」

「それなのに、私が帰ってきたらすぐに顔を出したよね。私が彼を連れてきたら、どうするつもりだったの? えっと……」

 真紀は目の前にいる人物の名前を呼ぶのを躊躇う。その様子を伺い、ラブは彼女の顔を覗き込みながら、尋ねた。

「何です? まさか呼び方に困っているとか」

「ほら、ネットで有名になっているでしょ。お姉ちゃんって」

 真紀は白スーツの胸元に注目しながら、皮肉る。だが覆面は真紀と視線を反らし、失笑する。

「嫌味ですよね。これは変装用スーツで、胸を絞っているだけ。真紀と同じくらい胸はあるんだから」

「じゃあ、男装の麗人さんでいいよね。男装の麗人さん。私が彼を連れてきたら、どうするつもりだったの?」

「ここはラブって呼んでもいいのよ。盗聴器なんて仕掛けられないから。どうせ彼氏なんていないんでしょう。まだその段階じゃないから大丈夫かなって思って、警戒せず真紀の前に姿を現したってわけ」

「そう」

 玄関先で話し込む真紀は、靴を脱ぎ、リビングへと向かう。その隣をラブが歩く。

「男装の麗人さん。今日は園田君と一緒に帰ったよ」

 歩きながら椎名真紀はラブに報告する。それを聞きラブは、楽しそうに話す彼女と顔を合わせた。

「それは良かった。今日を逃したらチャンスはなかったからね」

 真紀は廊下で立ち止まり、笑顔から一変して、暗い表情をラブに見せる。

「どうして赤城君を計画に巻き込んだの?」

「真紀と同じくらい利用価値があったから」

 同じように廊下に立ち止まったラブは体を回転させ、真紀と対面する。

「利用価値って。分かっているの? 私が通う高校で赤城君だけを拉致したことで、美緒が傷ついているってことに」

 真紀は怒りを露わにする。だがラブは反省せず、苦笑いするだけだった。

「白井美緒。彼女は明日、絶望の淵から突き落とされることになるでしょう。邪魔者を早い段階で排除しないと、計画に支障が生じるからね」

「美緒に危害を加えたら絶対に許さないから」

 怒っている真紀にラブは覆面の下で頬を緩ませた。

「赤城様と同じことを言いましたね。美緒が妨害してきたら、命の保証はできないけど、直接危害は加えないよ。精神的に追い詰めるだけ」

「お姉ちゃんって美緒のことを恨んでいたっけ」

 真紀が首を傾げてみせると、ラブは淡々とした口調で答えた。

「恨んでないよ。でもあなたも彼女を悲しませようとしているよね。だから私とあなたは同罪……」

「勝手に仲間に入れないで!」

 真紀は怒りの余り、ラブの言葉を遮り怒鳴った。それに対しラブは冷たい視線を真紀に向ける。

「計画に関わっている時点で、仲間でしょ。まさか計画について、誰にも話していないよね」

「もちろん。でもプレイヤーYがあのことを告発したら、状況は一変するよね」

 真紀がリビングに向かい一歩を踏み出すと、ラブは首を傾げおどけてみせる。

「あのことってどっちだっけ。警察組織が隠蔽しているアレに関することだったら、痛くも痒くもないけど、彼女達の名前がバレたら、厄介だよ。捜査が進展しちゃうから。万が一私の正体を警察が突き止めたとしても、こっちには現状27人の人質と、アレがある。だから警察は下手に手出しできない。2枚も切り札があるのだから、目的が達成される日まで、ゲームを遂行できるってわけ」

「その切り札を使ったら、テロリストになっちゃうよ。それでもいいの?」

「テロなんて計画してないよ。これで話すことはなくなったから、研究所に向かうわ。美緒に寄り添ってもいいけど、あなたがデスゲームに関与していることは話さないでね。Yみたいに妨害したら、命の保証はできないよ。あなたが妹だとしても」

「嘘つき。あなたは私を殺せないでしょ」

 真紀は事実をラブに突きつける。しかしラブは覆面の下で頬を緩め、自信満々に腕を組み直すだけだった。

「次にこっちに帰ってくるのは、週明けだから留守任せたわ。あの時のように友達を失いたくなかったら、邪魔しないでね」

 ラブは真紀に告げ、廊下を引き返す。後ろから空気が漏れるような音と何かが床に落ちる音が聞こえ、真紀は振り向く。そこにはラブの姿はなく、額にハートマークが印刷された覆面だけが残されていた。少し遅れて玄関のドアの開閉音が聞こえ、ラブが素顔で外出したと真紀は察する。


 椎名真紀はそれを拾い、廊下の白い壁に投げつけた。

 そのタイミングで真紀の頭に美緒の言葉が過った。

「恵一のために何かができたらいいんだけど」

 白井美緒にとって赤城恵一は特別な存在だということを、彼女と接している真紀は知っている。美緒は四六時中幼馴染のことを心配している。今は何とか日常生活を送れているようだけど、それも明日になれば、ラブによって絶望の淵に叩きつけられてしまう。

「事情を話したら、美緒は私と一緒にゲームを潰してくれるのかな」

 本音が口から零れてしまう。それくらい椎名真紀は悩んでいた。事情を話せば、彼女を危険な目に遭わせることになる。それだけは避けなければならない。

 それとは裏腹に、白井美緒を絶望から救いたいという思いも強くなる。赤城恵一の次に彼女を救うことができるのは、自分しかいないのではないかと真紀は考えてしまう。

 白井美緒は明日自殺する。そんな嫌な予感を抱いた真紀は葛藤の中で、苦しむ。

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