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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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現実世界の下校イベント 後編

「やっぱり私は信じないといけないよね」

 放課後の通学路を園田陸道と椎名真紀と一緒に歩く、白井美緒は力強く首を縦に振ってみせた。

「信じるって。まさか一連の事件の犯人は赤城君だっていうあのデマを信じるのか」

 美緒の後ろを歩く園田が驚くと、美緒は背後を振り返り、首を横に振った。

「そうじゃなくて、あの掲示板の書き込みは全てデタラメだってこと。私は恵一が無慈悲に男子高校生たちを殺してきたなんて信じない。私は恵一の味方だから」

 椎名はその台詞を待っていたかのように、一瞬頬を緩める。

「その台詞を赤城君に聞かせたい。凄い絆で結ばれているって俺でもわかる」

 一方の園田は、白井美緒の発言に関心を示し、腕を組む。

「そうだよね。もう一度恵一の声が聴きたい。あの動画じゃなくて、会話を交わしたいよ。私と恵一は小さい頃から一緒だったから、5日も会わないことなんてなかった。一緒にいた人が遠くに行ったら、その人の大切さに気が付くって良く言うよね。その言葉が独りになって本当だって良く分かった」

 椎名真紀が見た白井美緒の横顔は、彼に会えないことに対する寂しさに溢れていたように見えた。

「本当に独りだって思ってる?」

 真紀から思いがけない質問を聞き、美緒は途惑いを隠せない。美緒は立ち止まり真紀と視線を合わせる。

「真紀がいるから独りじゃないってことは、分かっている。でも私は恵一が隣にいないと、孤独感に襲われるの」

 美緒は体を小刻みに震わせ、涙をアスファルトの上に落とす。そんな彼女を真紀は慰めた。

「泣かなくても大丈夫。赤城君は絶対に犯人じゃないから。あの事件が発生し始めた1年前から赤城君が拉致されるまで、美緒と赤城君は一緒に過ごしてたんでしょう。デスゲームのゲームマスターなんてする暇はないはず」

 真紀の意見に美緒は同意する。

「恵一は隠し事ができないから、あり得ないよ」

「でもパソコンを使って誰かに指示していたとしたら」

 美緒の後ろで園田が反対意見を口にする。

「園田君。少し黙って」

 真紀が人差し指を立てる。それに対し園田は肩を竦めた。

「俺も赤城君が黒幕なんて考えていないけど、俺たちの通う高校から赤城君だけが拉致されたって状況には違和感を覚える。その理由が分かれば、何かが進展すると思うんだが、現状はあのスレッドが正しく思える。ただあの動画の赤城君の言葉は演技じゃない。白井さんなら分かるだろう。赤城君は目の前で人が死んでいく様子を楽しむような奴じゃないって」

「それは私が1番分かってる。だからあの書き込みは全てデマだと思う」

「逆に安心したよ。どんな困難が立ち塞がっても美緒は赤城君のことを信じるって分かったから」

 園田と美緒の会話に真紀が口を挟む。すると園田は人差し指を立て、白井美緒と視線を合わせた。

「白井さん。掲示板に赤城君が黒幕じゃないって書き込むなよ。こんな状況で赤城君を擁護するような書き込みをやったら、火に油だからな。炎上は永遠には続かないから、辛抱してくれ」

「分かった」

 白井美緒が首を縦に振った時、3人は美緒の自宅の前へ到着していた。美緒は自宅の前で立ち止まり、2人へ頭を下げる。

「園田君。真紀。今日は送ってくれてありがとう。私は大丈夫だから、また来週学校で会おうね」

 美緒は2人に笑顔を見せた。そして彼女は玄関のドアを開け、彼らの視界から消える。真紀は、美緒の表情から哀しみが漏れているように見えた。

 自宅へと戻った白井美緒は、そのまま自分の部屋に籠る。ベッドの上に自分の体を倒すと、瞳から涙が溢れてくる。それだけではなく胸が熱くなる。

 目の前で幼馴染が拉致された瞬間がフラッシュバックされ、美緒は悔しそうにベッドマットを掴む。

「何で私も拉致しなかったのよ。気絶した私を攫うのは簡単なのに。こんな気持ちになるんだったら、私も恵一と一緒の拉致された方がマシだった」

 怒りが込み上げていき、美緒は自分の部屋の中で叫ぶ。これは明らかな近所迷惑だが、ここまでやらないと自分の気持ちを整理できない。それから美緒はベッドマットが湿る程涙を流し続けた。


 白井美緒を自宅に送った園田陸道と椎名真紀は、駅に向かい歩いている。先程は椎名の後ろを歩いていた園田だったが、今は彼女が彼の隣にいる。

 車道側を歩いていた園田陸道は、頭二つ分小さい椎名の横顔を見て、顔を赤くした。園田と椎名は付き合っているわけではない。それなのに椎名は、園田の隣にいる。まさかこんな近くに好きな女の子がいるなんて。園田は可愛らしい椎名の横顔を見て、息を飲みこむ。

 すると椎名は彼の右腕を優しく掴んだ。突然の行動に園田が赤面しながら驚くと、彼女は笑顔を見せる。

「園田君……」

 椎名は何かを言いたそうに園田は思った。しかし彼女の言葉を遮るように、彼は気になったことを口にしてしまう。

「何で俺と一緒に帰ろうとしたんだ。椎名さんの家は家族が厳しいから、寄り道とかは御法度で、学校が終わったらすぐに帰らないといけないって言っていただろう」

「もういいから」

 椎名が園田の右腕から手を離しながら、静かな口調で園田の疑問に答える。

「ああ、家族と喧嘩したのか。何かホッとしたな。椎名さんだって反抗することがあるって分かったから」

「私も園田君と同じだよ。違いは一つもない。だけど異性と一緒に帰ったことはないから、緊張しているけれど」

「マジかよ」

 まさか椎名真紀も自分と同じように緊張していたとは。さらに異性と一緒に下校した経験もなかったとは。予想外な答えに園田は驚きを隠せない。

「車道側を自ら歩く男子ってポイント高いよね」

 真紀は陸道の顔を見つめ微笑む。どの仕草も愛おしく、園田の心臓は破裂寸前な程鼓動が速くなった。

 しばらく2人並んで歩いていると、椎名は園田の赤く染まった顔を上目遣いで見つめた。この瞬間、園田の鼻から血が垂れ、彼は咄嗟に指で拭う。真紀は彼の行動を気にせず、本題を切り出す。

「そろそろ事件の見解が聞きたいな」

「そういえばそれが聞きたくて俺を誘ったんだったな」

 園田は思い出したように首を縦に振る。もう一度鼻を指で拭うと、血液は付着しなかった。陸道は言葉を続け、頭で推理を整理しながら見解を口にする。

「これまでの事件を統計的に調べてみると、男子高校生が拉致されてから3日後に、10人以上の遺体が発見されているんだ。事件発生から6日後。つまり明日までの拉致された男子高校生48人の半分、24人の遺体が発見される。それをピークにして、単発的に遺体が見つかり、事件発生30日後には、48人全員が殺害される。全員の遺体が発見されてから早くて3日、遅くて1週間以内に次の集団拉致事件が発生。この流れを12回繰り返しているんだ」

「この発言は不謹慎だけどね。最初に発見された遺体を第1グループと仮定すると、なぜ第1グループの遺体が、事件発生から3日後に発生されたのかも謎だよね」

「その謎が解けたら苦労しないさ。兎に角これは犯人がある法則に基づき行動しているって証拠になる。多少の誤差はあるけど、同じタイミングで遺体発見とか。おかしいだろう」

「もしくは警察組織が情報操作してるとか」

 冷徹な視線を椎名が向けると、園田の思考回路が一瞬停止した。

「まさか。警察の中に黒幕がいるのかよ」

 園田は椎名の突拍子もない推理を聞き、目を大きく見開いた。

「おかしいよね。模倣犯を作らないためかもしれないけど、拉致された男子高校生が1か月以内にダンボール箱に敷き詰められた状態で、自宅に送り届けられるってことしか報道されていないから」

「それは、残酷な方法で殺されたから規制が入っただけだって」

「そうだといいんだけどね」

 椎名真紀は腑に落ちないような表情を園田に向けた。

 5分後、2人は駅の構内にいた。そのまま2人が乗る2番ホームに園田が向かう。その場所には数十人の学生服を着た高校生たちが集まっている。2人がホームに姿を見せた頃、電車はホームに到着していた。

 ギリギリだったと2人は思いながら、電車へ乗り込む。列車が発車してからも、2人は座席に座り事件について話し合った。だが結論は出ないまま、園田が降りる駅に到着してしまう。

「また月曜な」

 名残り惜しそうに園田陸道が笑顔を作り、椎名真紀も微笑み返す。それから園田は列車から降り、発車コールを聞きながら走り去る電車を見つめた。

 車窓越しに2人の視線が合わさる。駅が遠ざかっていき、彼の顔が見えなくなると、独りになった椎名真紀は小さな声で呟いた。

「ごめんなさい。あなたを巻き込んで」


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