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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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現実世界の下校イベント 前編

「不謹慎かもしれないけど、おかしいと思う」

 4月10日の放課後。授業が終わり生徒たちは部活動や自宅へと帰るため教室を飛び出して行く。椎名真紀も同様に帰宅準備を整えていると、唐突に園田陸道は彼女の顔を覗き込みながら呟いた。

「それはどういうことですか?」

 椎名は何のことだか分からず、手を止め困惑した。そんな彼女に園田は疑問を口にする。

「東京都千代田区には30校もの高校がある。これまで拉致されてきたのは男子高校生だけだから、女子高を除外すると大体24校くらい。拉致されたのは48人だから、単純計算で1校辺り2人が拉致されていてもおかしくない。でもこの学校で拉致されたのは赤城君だけ。何かおかしいと思わないか?」

 真紀は一瞬何かを考え、優しい視線を園田に向ける。

「一緒に帰っていいから、園田君の見解を聞かせて」

「えっ?」

 突然な新展開に園田陸道は赤面した。彼女で出会って一目惚れしてから1年後に、好きな女の子と一緒に通学路を歩く日が来るとは。

 これは夢ではないかと思い、園田は頬を抓ってみる。その仕草を見て、椎名真紀は微笑む。

「かわいい。夢じゃないから。確か園田君も私と同じ電車通学で、降りる駅は違うけど同じ路線に乗っていたから、車内でゆっくりお話しができるはず」

「そうだな。まさか出会ってから1年も経っていないのに、好きな女の子と2人きりで下校できるなんて思っていなかった」

 園田は本音を零してしまった。あの発言は園田は椎名のことが好きという事実を自白しているようなものである。それはクラス公認の周知の事実になりかけているが、椎名真紀自身は鈍感なのかその事実に気が付いていない。これが語るに落ちるという奴なのかと思っていると、彼の視界から真紀の姿が消えていた。真紀は先程の園田の発言が聞こえていなかったようで、自分の前の席で座っている白井美緒に声をかけていた。

「美緒。一緒に帰っていい?」

 相変わらず情緒不安定な表情の白井美緒は首を縦に振る。

「分かった」

 美緒は一言告げ、椅子から立ち上がる。彼女が真紀の後ろを歩く。それから真紀は頭の上にクエスチョンマークを掲げた園田に対して微笑む。

「ごめんなさい。美緒を1人で帰したら、自動車が行き交う交差点を飛び出して自殺するんじゃないかって心配になったから。その代り美緒を自宅に送ってからは2人きりだよ」

 途中までは2人きりじゃない。その事実は正しいが、これは凄いことではないかと園田は思ってしまう。白井美緒は椎名真紀と同じくらい可愛らしい容姿をしている。そんな彼女と一緒に登下校を繰り返す、赤城恵一が羨ましいと考える男子高校生たちも多いらしい。

 これは両手に花な状態で下校するという最高なシチュエーションではないか。ポジティブシンキングな園田は笑みを浮かべ、3人で高校の下駄箱に向かった。

 

 散り際の桜が咲いている通学路を3人は歩いている。この道は歩道が整備されていないため、前後から走る自動車を避けながら歩かなければならない。

 しかし見通しが良い道が続くため、不審者を警戒する小学生たちも同じ道を通過して自宅へと帰る。

 園田陸道は自分の前を歩く2人の少女を見つめながら彼女たちと一緒に行動を共にする。

 椎名真紀と白井美緒は真横に並んで歩いていた。赤城恵一のことや男子高校生集団失踪事件のことに触れてはいけないという空気を感じ、園田は黙り込む。

 だがその心配を他所に白井美緒は正直な思いを口にする。

「本当は、この道を恵一と一緒に歩くはずだったのに。やっぱり恵一に危険なことをさせている人のことが許せない」

「ラブのことが許せないんじゃないのかよ。ネット情報だとラブっていうのがデスゲームのゲームマスターで、1番悪い奴だって」

 白井美緒の後ろを歩く園田陸道が突っ込みを入れると、美緒は体を後ろに向け、園田の顔を見る。

「ラブが人名とは限らないから。組織の名前かもしれないし、ラブが1人とは限らない。だから私は恵一に危険なことをさせている人のことが許せないって回りくどい発言をしたの。ネットの情報で踊らされるのは嫌だから」

「確信を突いていくな。って赤城君のことに触れずに楽しく下校しようと思っていたのに。なんで自ら嫌なことを思い出そうとしているんだ」

「じゃあ園田君は恵一のことが心配じゃないの?」

 白井美緒が立ち止まり真顔で尋ねてくる。

「俺も心配だ。不謹慎な発言で申し訳ないけど、本当は嫌な現実から目を反らしたいんじゃないのか」

「でも恵一のことを思い出すと、安心するから」

 彼女の発言から園田は察した。白井美緒は園田以上に赤城恵一の安否を心配していると。

 そんな中で、園田のスマートフォンが制服のポケットの中で震える。何事かと思いポケットから取り出し、画面を見ると、突然園田の顔が強張った。目を大きく見開き、スマートフォンをアスファルトの上に落とす。

 平静を装うことができない園田のスマートフォンを椎名真紀が拾い、黙り込む。2人に何が起きたのか。白井美緒は全く分からず困惑する。

「どうしたの?」

「ああ。実は俺のスマートフォンは、男子高校生集団失踪事件に関する掲示板に新しいスレッドが立ち上がったら通知が表示されるよう設定されているんだ。口で説明するより、実際に見た方がいい。椎名さん。俺のスマートフォンを白井さんに見せてやれ」

「でもこれを見たら……」

 椎名真紀が心配そうに狼狽える。

「言っていただろう。ネットの情報で踊らされるのは嫌だって。白井さんなら大丈夫だから。頼む」

 園田は椎名に頭を下げた。椎名は観念したらしく、美緒に園田のスマートフォンを見せる。


『プレイヤーYとラブの正体が分かった件』

 スレッドのタイトルが美緒の瞳に映り、画面をタッチする。

001:*** 名無しさんがお送りします

『プレイヤーY。及びラブの正体は赤城恵一だ。これまでの男子高校生集団失踪事件の被害者たちには、当たり前なミッシングリンクがある。それは最低2人は同じ高校に通っている同級生が拉致され続けて来たことだ。過去12回を統計的に調べると、今回は特殊。赤城恵一が通う高校のみ、彼しか拉致されていないのだから。それもそのはず。赤城恵一こそが黒幕で、近くで同い年の男子高校生が死んでいく様子を楽しんでいるのだろう』


002:*** 名無しさんがお送りします

>>001

『自作自演かよ。そういえばゲームマスターはプレイヤーの中に混ざっていたってケースは珍しくないもんな』


003:*** 名無しさんがお送りします

>>002

『そうだよ。自己顕示欲が強い奴はプレイヤーYが投稿したような動画をネットにアップして世間にアピールしたがるよな』


004:*** 名無しさんがお送りします

『あの動画。見方を変えたら犯行声明に聞こえね?』


005:*** 名無しさんがお送りします

『自分がゲームマスターだってバレたくないから、同じ高校に通う同級生を自分以外は拉致しなかったということですな』


 掲示板のコメントは物凄いスピードで書き込まれていく。このスレッドは炎上しているのは明白だった。

「信じない。恵一が悪者なんておかしいから」

 白井美緒は瞳を閉じ、スマートフォンを園田に突き出す。園田はそれを手に取り、ポケットに仕舞った。

「そうか。こういう奴は大半が嘘だから気にしない方がいい」

「だから気にしないって言っているよね」

 ネット上で赤城恵一が叩かれていることに対して白井美緒は憤りを感じ、頬を膨らませた。そのやり取りを近くで聞いていた椎名真紀は、スカートの中で携帯電話が振動していることに気が付く。

 椎名真紀は携帯電話を開き、相手を確認すると、すぐにそれを自分のスカートの中に仕舞う。その謎の行動に気が付いた園田は首を傾げ彼女に尋ねる。

「電話じゃないのか?」

「うん。間違い電話だったから」

 2人の前で電話に出るわけにはいかない。そう思った真紀は電話に出ることができなかった。


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