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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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推測のX

 その日の放課後、桐谷凛太朗の自宅に、千春光彦と百谷次郎が集まった。

 凛太朗の部屋で千春は、桐谷に尋ねる。

「どうでしたか?」

「突破口すら見えずタイムアップ。多分あの時間帯にどこかで何らかのイベントが発生するんでしょうね。下校イベントタイムがスタートしたのは、午後4時10分頃だったので、イベントが発生するのは劇場入りする段階。それを利用すればゲーム攻略できそうなんですけどね。ところでそちらはどうでしたか?」

「下校イベントなんて、最初から発生しなかった。イベントが発生していたら、確実に落せていたのに」

 百谷が怒りを露わにしながらハッキリと言い放つ。それに対し桐谷凛太朗は頬を緩めた。

「なるほど。2人の内1人もカードが入手できなかったら、下校イベントは最初から発生しないってシステムのようですね」

「Xの野郎。誰だか知らないが許せない」

 百谷の怒りは収まらない。その気持ちは千春も同じだった。

「確かに許せませんね。ゲームに必要なカードの大半を独り占めしているんですから。そういえばゲームの進行を妨げるような行為をしたら、即刻ゲームオーバーでしたよね」

 千春が思い出したように両手を叩く。

「そうだったな。だが処刑者リストが更新されない。おかしくないか」

 百谷が力強く指を組む。そんな2人とは別に、桐谷凛太朗は余裕たっぷりな表情を浮かべている。

「下校イベント争奪戦。このゲームは茶番だったんですよ。Xは僕たち30名のプレイヤーの中にはいません。このように仮定したら大きな謎の答えが見えてきますよね」

 桐谷凛太朗の推理を2人は理解できないのか、大きく首を傾げた。

「どういうことです?」

 千春からの問いに、桐谷は説明を始める。

「校舎の中にカードが隠されているんでしょう。それがどこに隠されているのかは、僕たちには分かりません。だからプレイヤーは校舎中を東奔西走しながら探すんです。こんな状況で1人のプレイヤーが20枚ものカードを回収できるでしょうか?」

「難しいな」

「最初から隠し場所がどこなのかを知っていないと無理でしょうね」

 唐突に零した桐谷の言葉に、千春と百谷は思わず顎を落とし驚く。

「だからどういうことなんですか?」

「Xの正体はNPC。そうだとした説明できるんですよ。NPCなら最初からカードの隠し場所を知っていてもおかしくないので。おそらくXはメインヒロイン13人の中にいます。正確な容疑者は10人ですね。現役アイドルの倉永詩織。家庭教師の大竹里奈。アニオタの佐原萌。この3人は悠久高校校舎内に入り込む術がないから、容疑者から外して構わない」

「2回戦は推理ゲームだったのか?」

 百谷の呟きに桐谷は首を横に振る。

「不正解。推理ゲームなんて生易しい奴じゃない。これは攻略法を間違えたら死にますよ」

「あの厄介なシステムがシニガミヒロインにも導入されているのかよ」

 何かを察した百谷は顎に手を置き深刻な表情を見せた。その隣に座っている千春も首を縦に振った。

「気を付けた方がいいですよ。相手は只者じゃないと思うから」

 千春が口角を上げると、桐谷は合点がいったのか両手を叩く。

「これで分かりました。なぜシニガミヒロインを全クリできるプレイヤーが1人もいなかったのか。Xは絶対に処理できない爆弾を使ってくる。このように仮定したら、この謎も説明できますね。千春君が言うように、Xは強敵のようですよ。それでもXが誰かなんて。僕には全く関係ない話なんですけどね」

 桐谷の真意は、恋愛シミュレーションゲーム経験者の2人でさえも理解できない。桐谷は誰がXなのかという話題に対して、興味を示さない。わざわざXについて言及しているのに、余裕たっぷりな表情を変えない。それが百谷と千春には理解できなかった。


 午後7時。痩せた体型に水色の淵の眼鏡が特徴的な男子高校生、松井博人は多くのアイドルファンたちと共に、小さな劇場の裏口を張り込んでいる。この場所から彼が攻略しようとしている倉永詩織が出てくることは、ゲーム開始3日目で分かってことだった。俗に言う出待ちをしているファンの中には桐谷凛太朗の姿がない。同じヒロインを狙うライバルがこの場にいないことを、松井は喜びガッツポーズをとる。

 松井以外のファンの目当ては、倉永詩織ではない。そのため松井は肩身が狭い思いをしている。今日の目的は公演の感想を一言彼女に伝えること。ブログに書き込むよりこっちの方が効果的に好感度を上げることができるのではないかと思い、松井は毎日作戦を続けて来た。

 そろそろアイドルたちが裏口から出てくる時間帯という所で、松井の耳にクラスメイトの女の子の声が届く。

「松井君」

 その少女は彼の名前を呼び、唐突に彼の右腕を掴む。松井が首を右に動かすと、小倉明美の笑顔が見えた。小倉明美は相変わらず悠久高校の制服を着用している。

「何でお前がここにいる」

「冷たいのね。分かっているクセに」

 その一言に何かを察した松井は目を大きく見開く。顔が次第に青ざめていき、小倉明美の顔しか見えなくなった。

「まさか……」

「多分松井君が考えていることは正解だよ。でもね。私はあなたが考えている以上のことができるのよ」

 小倉明美は恐怖で引きつった松井博人の耳元で小悪魔の如く囁く。

「松井君って本当は好きな女の子がいるんでしょ。その女の子とは片思い中で、恋愛感情を通り越してストーカーのようなこともやっている。確かスマートフォンの待ち受け画面も女の子を隠し撮りした写真だったよね」

「何でそんなことを知っているんだ」

 松井博人は声を荒げた。その反応は誰が見ても図星だと認めているような物だった。

「良かったよね。その画像も消去されたから女の子にキモイって言われなくて」

 悪戯に笑う小倉明美は未だに松井博人の右腕を掴んでいる。松井はその手を振りほどき、激怒した。

「だからなんでそのことを知っているって聞いているんだ!」

「私は何でも知っているから。兎に角あのことは誰にも言わないからね。また遊びましょう」

 小倉明美は松井博人の体を抱き、強引に2人の唇を近づける。一瞬の出来事に松井は何もできず、成されるがまま小倉明美の唇が自分の唇に触れた。

「出て来たぞ」

 近くにいるオタクたちの声が松井の耳に届く間も、2人はキスを交わし続ける。その様子を茶髪を肩まで伸ばし、前髪を軽くウェーブさせた低身長の少女が見つめていた。その少女、倉永詩織は哀しそうな表情を浮かべ、その場から立ち去った。

 

 それからいつもの時間に、メインヒロインアンサーが行われた。今回も脱落者が出なかったことを、赤城恵一がベッドの上で喜んでいると、シニガミヒロインのホーム画面に3回戦進出者の名簿が掲載された。

『3回戦進出者。滝田湊。達家玲央。宮脇陸翔。小嶋陽葵。内田紅。高坂洋平。藤田春馬。岩田波留。北原瀬那』

「初日で9人か」

 赤城恵一は結果をベッド上で寛ぎながら眺める。どうやら三好勇吾は下校イベントに失敗したらしい。名簿に村上と櫻井という名前が掲載されていないことから、堀井千尋は1人で帰ったことは明白なことだった。

 それ以上に彼は、桐谷凛太朗のことを気にしている。恋愛シミュレーションゲーム上級者の彼なら、初日から現役アイドルと下校すると赤城は考えていた。だが名簿には桐谷の文字がない。

 また島田節子を攻略する百谷次郎と千春光彦の名前も掲載されていない。これも不可解だと恵一は思った。

「明日は滝田君が一番最後に誘うんだよな。だったらまだ勝機がある」

 赤城恵一は明日に期待して眠る。しかしこの時の彼は知らなかった。明日は絶望しかないことに。


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