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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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ある少女の奇行と1stゲームの結果

「お前がXか」

 赤城恵一は授業の合間に休憩時間に、校舎内にいる同級生の男子高校生たちに片っ端から声を掛けていた。Xというプレイヤーがカードを独占していることが、彼には許せなかった。こうやって尋問していけば、誰がXなのか分かると彼は思ったが、誰も何のことなのかさっぱり分からないようだった。

 ここは教室に戻って島田夏海と会話を交わした方が得策ではないかと思ったその時、赤城恵一の視線に1人の少女が入った。

 最初に彼の目に飛び込んできたのは巨乳だった。正確なことは彼には分からないが、バストは90くらいあると恵一は感じる。

 巨乳な割に痩せているスレンダーな体型に、肩まで伸びたストレートの黒髪。首筋に小さな黒子がある少女は、大人な魅力を漂わせている。

 正面に立っている彼女が誰なのか。赤城恵一には見当が付かないが、1つだけ分かっていることがあった。彼女はモブキャラではないと。


 その少女は一瞬頬を緩め、奇行に走る。それは一瞬の出来事だった。突然彼女は赤城恵一に抱き着く。少女は恵一より頭一つ分小さいため、巨乳は彼の腹に当たった。学ランやワイシャツを通して、柔らかい胸の感触を恵一は感じ取る。突然の出来事に赤城恵一は思わず赤面した。

 当たり前のことだが、赤城恵一は男だった。このシチュエーションで性的な興奮を感じないはずがない。

 やがて恵一のあそこがズボン越しに少女の体に触れる。それを待っていたかのように、少女は笑みを浮かべ、彼から離れた。

「素直ね」

「いきなり何だ!」

 赤城恵一が怒りを露わにすると、少女は悪戯に笑った。

「自己紹介がまだだったね。私は2年B組の学級委員長。小倉明美。よろしくね。これで少しは不安が減ったかしら。やっぱり相手の名前が分からないと、不安になりますもん」

 呆気にとられた赤城恵一の耳元で小倉明美が囁く。

「白井美緒ちゃんのことが好きな赤城恵一君」

「公然わいせつ行為は校則で禁止されているでしょう。学級委員のクセに」

 思考回路が追い付かない赤城恵一の耳に別の少女の声が聞こえた。小倉明美の背後から、釣り目に赤色の眼鏡をかけた、黒髪を赤色のヘアゴムでツインテールにした少女が彼女の両肩に手を置き、正面に立っている赤城恵一の顔を覗き込む。

「ごめんなさいね。明美が変なことして困らせたみたいで。確か2年A組に赤城君でしたね。今回は許してください」

 その少女は小倉明美の右腕を強く掴み、2年B組の教室へと戻る。

「あの言動確か……」

 赤城恵一は先程のツインテール女子高生のことを思い出す。あの時の彼女の言葉からは、校則を絶対に守るという強い意志が感じられた。それに彼女は小倉明美と一緒に2年B組の教室へ戻った。それらを頭の中で検索してみると、1人の少女の名前が浮かび上がる。

「マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子か」

 彼女が三橋悦子だとしたら。そんな推測が赤城恵一の頭に浮かんだが、それはどうでもいいことだった。彼女が三橋悦子だとしても。別人だとしても。島田夏海一筋でゲーム攻略を目指す赤城にとっては些細なことに過ぎない。

 彼は結論を出さず、そのまま自分の教室に戻った。


 昼休み。教師が教室から去った後で、矢倉はカードの裏に記されたQRコードを、自分のスマートフォンに読み込ませる。

『3番目の交渉権を獲得しました』

 このような文字がスマートフォンに表示され、彼は落胆した。その様子を心配した赤城と三好は彼に近づく。

「どうした?」

「今日は無理かもしれません。赤城君か滝田君が先に島田さんと下校したら、チャンスはないんでしょう」

 そう言いながら矢倉は2人にスマートフォンを見せた。

「大丈夫だ。今日がダメでも明日がある」

「言われてみたらそうでしたね。ところで赤城君の順番はどうでしたか?」

「まだ分からない」

 赤城は周囲に教師がいないことを確認してカードを矢倉の机の上に置いた。朝礼の段階からカードを入手したが、島田夏海との会話やX探しで忙しく、カードを読み込む時間はなかった。遅くなってしまったと感じながら、赤城恵一はスマートフォンでQRコードを読み込む。

『1番目の交渉権を獲得しました』

 表示された文面を読み、赤城恵一はガッツポーズをとる。


 その瞬間桐谷たちと一緒に弁当を食べていた滝田のスマートフォンが、彼のズボンのポケットの中で振動する。滝田はスマートフォンを隠すようにして、ズボンからそれを取り出す。

『2番目の交渉権を獲得しました』

 滝田はカード探しに興味を示さない。それにも関わらず、順番が自動的に決定した。

「なるほど。どうやらカード探しは茶番のようですよ」

 何かを確信した滝田は桐谷に自分のスマートフォンを見せびらかす。

「何もやっていませんよね」

「もちろん。カードなんて入手していません。つまりわざわざカードを入手しなくても、順番は決定するってことです。敵が2人いた場合、どちらかがカードを入手してQRコードを読み込ませ結果が表示されたら、入手しなかった奴に、残ったカードの結果が表示されるって仕組みなんでしょう」

 滝田が自信満々に憶測を語る。その後で桐谷は百谷次郎と千春光彦の顔を見る。

「問題は誰もカードを入手できなかった場合。百谷君と千春君が欲しがっている島田節子のカードは2枚ともXって奴が持っているようです。面白い実験です。果たして2人の内1人もカードが入手できなかったらどうなるのか? 気になりますね」

「そういう桐谷君はどうなんですか?」

 焦りを隠せない千春が尋ねると、桐谷は笑ってみせた。

「関係ありませんよ。カード探しなんて茶番に付き合いません。今はどうやって現役アイドルと下校するのかを考えないといけないので」

 すると桐谷のスマートフォンに着信があった。周囲を警戒しながらスマートフォンを取り出した後で、桐谷は頬を緩ませる。

「どうやら同じメインヒロインを攻略しようとしているライバル、松井君がカードをXから入手したみたいですね」

 桐谷のスマートフォンには『2番目の交渉権を獲得しました』という文字が表示されている。

「松井君は1番ですか。もう1つ気になっていることがあるので、良かったですよ。松井君が動いてくれて」

「気になること?」

 百谷が首を傾げる。それを受け桐谷は白い歯を見せた。

「放課後。僕の家に来てください。その場で話します。それまでお楽しみに」


 いつもと同じ授業風景が流れ、放課後を知らせるチャイムが鳴るのと同時に、赤城恵一のスマートフォンが震えた。教師が去った後で画面を確認すると『赤城恵一のターン。残り5分』という赤色の文字が表示されていた。どうやら5分以内に島田夏海と一緒に下校できるよう動かないといけないらしい。

 赤城が教室を見渡すと、そこに島田夏海の姿はなかった。

 どこで下校イベントが発生するのか。赤城恵一には分からない。だが彼は単純に考え、鞄を掴み昇降口へ向かうことにした。

 放課後の校舎の廊下を多くの生徒たちが歩いている。赤城恵一は早歩きで生徒たちを追い越した。

「ダメでしょう。廊下を走ったら」

 唐突に彼の後ろから聞き覚えがある声が聞こえ、赤城恵一は立ち止まる。その彼の後ろで三橋悦子が仁王立ちしている。

「三橋さん。少し急いでいるんだ」

「でも廊下を走るという行為は……」

「三橋さん」

 三橋悦子の声を遮るように、お河童頭の垂れ目男子高校生、達家玲央が声を掛ける。

 達家玲央は一呼吸置き、右腕を差しのばした。

「三橋さん。良かったら僕と一緒に帰ってください」

「えっと。達家君。いいですよ。その代り校則に違反するようなわいせつ行為を発見したら先生に告発するから」

 達家玲央は喜び、彼女の前に立っている赤城恵一に近づく。そうして彼に親指を立てるポーズを見せてから、耳元で囁いた。

「助かったよ。足止めしてくれて」

 そのやり取りの後、赤城は三橋から離れ階段を降りる。


 案の定昇降口の前に島田夏海が佇んでいた。そこで改めて自分のスマートフォンを見ると、残り時間が30秒になっている。誘うなら今しかない。そう思った赤城恵一は勇気を振り絞り、下駄箱の前にいるメインヒロインに声をかけた。

「島田さん。良かったら俺と一緒に帰ってくれないか」

 間が開き、島田夏海は赤城恵一と顔を合わせる。

「今はちょっと……」

 タイムアップを迎える。第1ゲーム。赤城恵一は断られた。その直後物陰に隠れていた滝田が島田夏海に近づき、彼女を誘う。

「島田さん。僕と一緒に帰ってくれませんか?」

「病院に寄るけどいいよね」

 赤城恵一の目の前で、滝田は下校イベントを発生させた。島田夏海は赤城恵一のことが見えていないかのように、彼のことを気に掛けず、滝田と共に昇降口を後にする。

 目の前で誘われたという屈辱と絶望感から赤城恵一は一歩も動けなくなった。そんな彼に矢倉が近づき、彼の右肩に触れる。

「どうやら滝田君と下校したみたいですね。順番が回ってこなかったからすぐに分かりました」

 現実を突きつけられ、赤城恵一は悔しそうに右手を握る。

「大丈夫だ。まだ明日がある」

 唯一の救いは三橋を足止めさせて、達家に誘うチャンスを与えたこと。良いことをしてすがすがしい気分になったのと同時に、赤城恵一が疑問に感じた。赤城恵一の言葉と滝田湊の言葉。それは同じだった。それなのに彼女は赤城を断り、滝田を選んだ。

 その謎の答えが分からない彼はチャンスすら回ってこなかった矢倉と共に、下校する。


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