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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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カード収集

 2回戦のルール説明が行われてから数時間後、赤城恵一はいつものように悠久高校へと向かった。

 ゴールデンウィーク明けで久しぶりに学校で島田夏海に会える。その期待よりも、2回戦を攻略できるのかという不安が彼の心を支配していった。

 赤城は通学路を歩きながら、自分に言い聞かせるように呟く。

「大丈夫だ。下校だったら毎日美緒とやってきたじゃないか」

 下校イベント争奪戦。このゲームを攻略する自信が彼にはあった。現実世界での経験があれば、3回戦進出も夢ではないと思っていた。この瞬間までは。


 いつもより30分早く登校した赤城は、下駄箱に靴を入れ、昇降口を見渡す。彼の周りには数人の男子生徒たちが、下駄箱を1つずつ開けていた。

 その内の1人。天然パーマが特徴的な男子高校生の高橋空が大声を出す。

「見つかった」

「ホントかよ。小嶋」

 その大声を聞き、下駄箱を物色していた背の低いスポーツ刈りの男子高校生、宮脇陸翔が駆け寄る。

「ああ。だが大竹里奈Cって書いてあるから、ハズレだな」

 高橋は見せびらかすように宮脇にカードを見せた。そこには確かに『大竹里奈C』と書いてある。

「何だよ。同じクラスの石田にやるしかないな」

「石田君が樋口翔子のカードを持っていたらいいんだがな」

 樋口翔子を攻略しようとしている2人の男子高校生たちは、笑いながら昇降口を去った。

 その2人の後姿を見つめながら赤城恵一が呟く。

「本当に隠されているみたいだな」


 それから赤城恵一は校舎内に隠されたカードを探し始めた。校舎内にいる赤城の同級生たちは、全員目を皿のようにして隠されたカードを探していた。

 しばらく彼が廊下を歩いていると、2年C組の教室の前で矢倉とすれ違った。矢倉は赤城を見つけると、すぐさま彼に近づく。

「赤城君。遅かったですね」

 矢倉は3枚のカードを握っている。しかしQRコードがプリントされた面しか見えないため、赤城には誰のカードを矢倉が持っているのかが分からなかった。

「矢倉君。そのカードは?」

 恵一が疑問を口にすると矢倉はカードの表面を彼に見せる。

「堀井千尋B。島田夏海A。樋口翔子A。校舎を隅から隅まで探索して、やっと見つけた3枚です。堀井千尋のカードは三好に譲るとして、もう1枚島田夏海のカードが欲しいですね」

「樋口翔子」

 赤城恵一は何かを思い出し、C組の教室へと視線を向ける。

「どうしました?」

「樋口翔子のカード。C組の宮脇君か高橋君に譲った方がいいんじゃないか。俺たちがそのカードを持っていても無駄だ。そのカードは校舎内に2枚しかないんだったら、需要はある」

「そうですね」

 矢倉は赤城に樋口翔子のカードを手渡す。それを受け取って赤城恵一は2年C組の教室へと乗り込んだ。


 2年C組の教室内には、既に昇降口で見かけた高橋と宮脇の姿があった。教室の隅で何かを話し込んでいる2人に赤城は近づきながら、声をかける。

「高橋君。宮脇君。このカードを君たちにやるよ」

 赤城は樋口翔子のカードを2人に見せると、高橋は宮脇よりも早く、そのカードを手に取った。

「ありがとう。確か君は2年A組の赤城恵一君だったな。島田夏海を攻略しようとしている。彼女のカードを石田君が持っているらしいから、俺から頼んでみるよ」

 高橋が頭を下げ、赤城から離れた席に座る茶髪のマッシュルームカットが特徴的な石田咲を見る。そして石田へと近づき、彼の机を叩いた。

「石田君。さっき大竹里奈のカードをやったよな。それと交換でお前が見つけた島田夏海のカードを譲ってほしい」

「分かった」

 不愛想に石田は了承して、カードを高橋に渡す。それから高橋は受け取ったカードを赤城に渡した。

「お礼だ。助かったよ」

「こちらこそ」

 交換によって島田夏海のカードを手に入れた彼は、2人と席に座っている石田に対して頭を下げ、教室を後にした。ドアの前には矢倉が立っている。

「どうでしたか?」

 矢倉の問いに対して赤城はカードを見せた。そのカードを見て、矢倉は安堵する。


「面倒くさい」

 2年A組の教室の中で滝田湊は、桐谷凛太朗の隣で呟く。なぜか教室には女子生徒の姿はなく、男子たちはカード探しに没頭しているのか、数人しか教室にいない。

「カード集めのことですか?」

「そうですよ。わざわざカードなんて集めなくても、条件さえクリアすればいいんでしょう。どうもやる気になれません」

「そうですね。条件をクリアする方法を考えないと、無駄になりますよね。特に難易度が高い奴は」

 一部のプレイヤーたちは、カード探しに没頭しない。現に桐谷と滝田は全くカードを探そうとしていないのだ。

「気になっていることがあるんですよ。このままカードを探さなかったらどうなるのか?」

 唐突に滝田が疑問を口にすると、桐谷は皆目見当が付かないといわんばかりに首を傾げた。

「分かりませんね。その答えによっては、強制的にカードを探さないといけないことになりますが」

「カード探しなんて、面倒くさいですよ。そうとも言えなくなる状況になるかもしれないけどね」

 2人が会話を交わしていると、杉浦が教室に戻り、ガッツポーズを見せた。

「最初に交渉する権利をゲットしましたよ。これで高坂より先に攻略してやる」

「良かったですね。僕たちには関係ないことですが」

「桐谷君。それはどういうことです?」

 桐谷の発言に疑問を感じた杉浦は思わず首を傾げた。

「僕と滝田君はカード探しをボイコットしているということです。杉浦君だって明日になったらカード探しから解放されるんですよ」

「言われてみたらそうですね」

 桐谷の指摘に頷いた杉浦は笑みを零した。


 赤城恵一と矢倉永人が2年A組の教室に戻ると、席に三好勇吾が座っていた。何かを考えているような素振りを見せる三好の机の周りに赤城と矢倉が集まる。

「三好君。これ差し上げます」

 矢倉はそう言い彼の机に堀井千尋のカードを置いた。

「矢倉君が持っててくれて助かった。どんなに探しても見つからなかったから、カードを独占してる奴が持っているのかと思っていたんだ」

「そんな奴がいるのかよ」

「ああ。専用ページを見たら分かった。だが名前が変なんだ」

 三好は周囲に先生がいないかを警戒しながら、机の上に自分のスマートフォンを置いた。

「何だと!」

 三好のスマートフォンに表示された文字を読み、赤城は思わず大きな声を出した。

『残りカード0枚。X。カード所持数。20枚』

 意味が分からないと赤城恵一は思った。

 校舎に隠された殆どのカードはXが独占している。ラブが言うにはカードを複数枚所持しているプレイヤーの名前が公表されるらしい。だが表示されているのはXという文字のみ。明らかにそれは名前ではない。

 ここで赤城恵一は疑問に感じた。

「誰だよ。Xって。名前が公表されるんじゃないのか」

「分からない。だがXって奴がゲームに参加しているのは明らかだな。そいつが誰で何が目的でカードを独占しているんだ?」

 三好が疑問点を指摘したが、赤城たちにはその答えが分からない。


「えげつないですね。ラブ様」

 山持は監視ルームでスマートフォンを操作して、カードの所持者を確認している。その結果を受け彼は右隣りに立つラブの横顔を見つめた。

「本当の恐ろしさはこれからです」

 ラブは冷たい視線をモニターに向けると、続けて呟く。

「最初は正義感が強い奴が死ぬ」


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