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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第三章 下校イベント争奪戦
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裏切りの罠

 赤城恵一が何者かによって拉致されたから5日が経過した。昨日から白井美緒は退院して彼がいない高校生活を送っている。

 目の前で彼が拉致されただけでなく、犯人に襲われた彼女のことをクラスメイトたちは気にかけている。

 そんなクラスメイトたちに心配をかけるわけにはいかないと思ったのか、白井美緒は平静を保とうとしていた。授業中彼女の後ろの席に座っている椎名真紀は、彼女が無理をしているのではないかと思っていた。

 美緒は昼休み中に一口も弁当を食べなかった。授業中はノートを取らずに黙って黒板を見つめている。赤城恵一のことを心配していることは、誰が見ても単純明快だった。

 5時限目終了後の休憩時間、椎名真紀は虚ろな視線で黒板を見つめている白井美緒に近づき、声を掛ける。

「美緒。本当に大丈夫?」

一瞬遅れ、美緒は真紀に対して笑顔を見せた。

「大丈夫」

「そんな風には見えないけど。その笑顔だって無理しているように見えるし」

真紀の洞察力には負けると美緒は思い、表情を真顔に戻す。

「やっぱり分からないよ。こうやって高校に通うことが正しいのか。この瞬間も恵一は危険なゲームに巻き込まれているかもしれないのに。どこかに恵一を危険なゲームから助け出す方法があるかもしれないのに」

 白井美緒は自分の右手を強く握りしめた。

「そんな方法があったら、今頃警察が対処しているよね。だから今は赤城君のためにノートを取り続けることしかできない。空白の授業の内容を埋めるために」

「これまで500人以上の男子高校生は拉致されて1か月以内に遺体となって帰ってくる。だから恵一のためにノートを取ったとしても、無駄になると思う」

 白井美緒は暗い表情になり、瞳から涙を零した。

「諦めているの? 赤城君が生きて帰ってくるって考えないの?」

 椎名真紀が率直な疑問をぶつけると、白井美緒は再び拳を握りしめる。

「私だって恵一が生きて帰ってくるって信じてる。でも心のどこかで自分の考えを否定しようとしている。この矛盾を何とかしたい」

「悔しいよね。プレイヤーYによって何が起きているのかは分かったけれど、何もできないなんて」

 真紀が美緒の言葉を代弁するかのように呟く。その後で美緒は小さく首を縦に振った。

「悔しい。恵一のために何かができたらいいんだけど」


 その時椎名真紀の制服のスカートの中に仕舞われた携帯電話が振動を始めた。そのことで何かを察した彼女は頬を緩め、美緒に一言告げる。

「美緒。赤城君が帰ってくるまでの辛抱だからね」

 そうして真紀は教室のドアを開け、トイレへと向かった。


『皆様。ご理解いただけましたか。補足説明すると、今日の放課後からある特定の場所で帰宅イベントが発生します……』

 監視ルームに1人の黒ずくめの男がいた。その男、藤井はノートパソコンの画面を凝視している。画面は縦に二分割され、右側の画面にラブが2回戦のルールを説明する様子。左側の画面には動画再生ソフトが表示されている。

「そろそろか」

『ルール違反についてはVTRをご覧ください』

 そのラブの台詞を聞き、藤井は動画再生ソフトにポインターを合わせ、右クリックする。

『ルール違反に注意しよう』

 左側の画面にこのような文字が表示され、藤井は安堵する。これでラブのサポートが終わると。

 その瞬間、藤井は妙な違和感に襲われた。それが何なのか。藤井には分からなかったが、ノートパソコンの画面に注目している度に強くなる。

『始めよう』

 このような文字が藤井の頭に浮かび、彼の目が次第に虚ろになっていく。


 それから数分後に2回戦のルール説明が終わった。現在監視ルームには生放送動画の撮影を終わらせたラブの姿がある。藤井は現在48台のモニターを黒ずくめの大男が目を皿のようにして、プレイヤーたちの行動に集中していた。稼働しているのは48台の内30台のみ。それぞれの画面に生き残っている男子高校生たちの行動が表示されている。またその男の手元にはノートパソコンがある。

「お疲れ様でした」

 ラブが手を上へと伸ばしながら、椅子に座る藤井に近づく。

「ラブ様。良いのですか? 本来ならこの時間帯は……」

「大丈夫。私にはアリバイがあるから。抜かりないですよ」

「そうですか」

 ラブが藤井の顔を覗き込む。そして彼の目が虚ろになっていることに気が付くと、ラブは意地悪に尋ねた。

「そういえば現実世界だと今何時でしたっけ」

「確か午後2時17分頃だったかと」

 質問の意図が分からず藤井は困惑する。それを気にせずラブは大男に抱き着いた。

「じゃあゲームでもしませんか。2回戦終了時点で生き残っている男子高校生の数が、1人以下だったら私の勝ち。13人以上だったらあなたの勝ち。あなたが勝ったら、生き残っている男子高校生の内1人だけ現実世界に戻すってことでどう?」

「そいつは面白いですね。そのゲームに勝ったら、赤城恵一をログアウトさせて……」

「やっぱりね」

 部下の言葉を遮り、突然モニターに大量の血液が無作為に付着する。大男は何が起きたのか理解できなかった。心臓から血液が噴き出している。目を見開き背後を振り向くと、彼の目に拳銃を握ったラブの姿が映った。

 その瞬間藤井は理解できた。ラブに撃たれたことに。

「あなたがプレイヤーYの内通者だってことは分かっているんですよ。プレイヤーYはなぜか赤城様を助けようとしていますし、あなたはあの時だって赤城様を推していた。一番の根拠は私の提案するゲームに参加しようとしたこと。普通はゲームに参加しませんよね。目的に反しているから」

「ちが……」

 突然の銃撃で体を思うように動かせない藤井は途切れ途切れに弁明する。だがラブはそれに聞く耳を立てない。

「裏切り者」

 ラブがもう一度拳銃の引き金を引き、銃弾を発射させる。物凄いスピードで銃弾が大男の心臓へと食い込み、彼はそのまま息を引き取った。例の如く、遺体は白い光に包まれていく。

 その現象を見下ろしながら、ラブは机の上に置かれたノートパソコンを起ち上げた。そしてプログラムを修正しながら、覆面の下で頬を緩ませる。

「サブリミナル効果による洗脳プログラム確認。このノートパソコンは滅多に使うことはないから、気が付かなかったけど、いつから仕掛けられていたのかしら」

 ラブはノートパソコンをシャットダウンさせた後で、それを床に叩きつけた。凹んだノートパソコンに銃弾を撃ち込むと、パソコンは完全に機能を失う。

 監視ルームのドアが開き、別の男が拳銃を構えて部屋の中へと入ってくる。

「ラブ様。まさか……」

 部下の言葉を察したラブは手にしている拳銃を握り直し、銃口を新たに監視ルームに侵入してきた男に向ける。

「それ以上言わないで。無駄な詮索は御法度だから。報酬を2倍にするから、手筈通りに事を進めてくださいよ。ウイルスは全削除したから、安心してパソコン使ってね。山持さん」

 

 同じ頃、高校の女子トイレの中で椎名真紀が籠り、携帯電話を見つめていた。スカートすら落とさずに携帯電話の画面に注目する彼女は深呼吸してから、それをスカートのポケットの中へと仕舞う。

「大丈夫」

 小声で呟くと、授業開始2分前となっていた。椎名真紀は急いで教室へと戻る。


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