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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第一章 崩壊する平穏
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メインヒロインセレクト

 突然目の前に首が切断された遺体が現れたら、人はどうなるのか?

 間抜けに腰を抜かし、恐怖に一歩も動けない人。

 その場から安全な場所へと逃げ出すために、奇声を挙げ、ドアに猛スピードで体当たりする人。

 恐怖から怯え、女々しく涙を流す人。

 顔が強張り、声すらも出せず呆然とその場に立ち尽くす人。

 グロテスクな現実に、嘔吐を繰り返す人。

 体育館は、様々なリアクションをとる人々が共存する空間へと変貌する。彼らを支配するのは、殺害に対する恐怖である。

 

 大量の嘔吐物と血液の匂いが漂う体育館のステージの上で、ラブは手を叩いた。

「20番の山口武やまぐちたけし様が脱落です。あっ、ご自由にどうぞ。吐いたり、泣きわめいたり、叫んだりしてもいいよ。どうせここは仮想空間だから」

 ラブからの爆弾発言に男子高校生たちが驚く。

「どういうことだ?」

 一人の男子高校生が尋ねる。

「そのままの意味ですよ? ここは仮想空間なの。あなたたちを体ごと仮想空間に監禁したということね。だからいくら叫んでも、助けはこない。話戻すけど、デスゲームの基本ルールは簡単。これから行われるゲームを全クリしたら、生きた状態で現実世界に戻れる。だけど、ゲームに負けたら遺体となって家族やお友達と対面することになる。単純明快でしょ?」

 おかしいと赤城は思った。この現代社会に仮想空間が存在するはずがない。それが存在するのは近未来ファンタジーの世界だけのはずだ。赤城は疑惑の目でラブを見る。

 それからラブは淡々と説明を続けた。


「恋愛シミュレーションゲームと聞いて安堵した皆様。残念ながらゲームオーバーは現実世界の死というお約束は健在ですので、お忘れなく。まあ、この中には既に異性と付き合っている人も何人かいるみたいですから、緊張しなくても大丈夫ですよ。現実世界の女性とお付き合いしたことがある人だったら、楽勝です。恋愛テクニックはこっちの世界でも通用しますから。長話はここまでにして、予選を行います。予選は普通にプレイしていたら、誰も死なないから、安心してください。予選ゲーム前半戦のゲームは、メインヒロインセレクト」

 ゲーム名がラブによって発表され、集められた47名の男子高校生たちは息を飲む。

「まずは皆様の制服のポケットに仕込んでおいたスマートフォンを取り出してください。そのスマートフォンは、予選と本選のゲームに使うので、大切に使ってくださいね。今は『メインヒロインセレクト』っていうアプリしか入っていないけど、ゲームが進んだら、メールアプリとか必要最低限なアプリは解禁するからね。因みに皆様が持っていたスマートフォンは全て回収して、破壊しておきました。それでは皆様、スマートフォンに表示された唯一のアプリ『メインヒロインセレクト』をタッチしてください」

 ラブは明るい口調で破壊という言葉を使う。これまで576人もの男子高校生たちを殺してきた男達であるという事実は信ぴょう性が高いと赤城恵一は思った。


 47人もの男子高校生たちはにスマートフォンを取り出し『メインヒロインセレクト』という名前のアプリをタッチする。その画面には、13名のヒロインに関する文字情報だけが映し出されている

 しかし、拉致された集団の中には、恐怖により指先が震え、思うように体が動かせない人や、次々と起こる惨劇に戸惑う人もいる。そんな彼らがスマートフォンをタッチした後で、ラブはルール説明を始めた。

 「ルールは簡単です。恋愛シミュレーションゲームのメインヒロインを13人から1人選ぶだけです。メインヒロインは変更できませんので悪しからず。制限時間は2分間。ゲーム開始の前に1つだけヒントです。難易度Cは初心者向け、難易度Bは中級者向け、難易度Aは上級者向けです。選択はヒロインの名前をタップすればいいからね。話し合いは禁止ということでゲームスタート」

 赤城恵一はスマートフォンに表示されたヒロインの情報に目を通す。


『ナンバー01。島田節子しまだせつこ。病弱な後輩。無印。難易度A。B70 W55 H76』


『ナンバー02。底辺アイドル。倉永詩織くらながしおり。無印。難易度A。B76 W57 H85』


『ナンバー03。歴女な一面もある文系女子高生。島田夏海しまだなつみ。A組。難易度C。B82 W56 H79』


『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子みつはしえつこ。B組。難易度C。B76 W58 H80』


『ナンバー05。体育会系元気ガール。樋口翔子ひぐちしょうこ。C組。難易度C。B74 W56 H80』


『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋ほりいちひろ。A組。難易度B。B71 W54 H80』


『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣ひおきまい。B組。難易度B。B78 W60 H83』


『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈おおたけりな。無印。難易度B。B86 W58 H84』


『ナンバー09。ツンデレ転校生。石塚明日香いしづかあすか。C組。難易度A。B76 W54 H79』


『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。平山麻友ひらやままゆ。A組。難易度A。B71 W53 H77』


『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌さはらもえ。無印。難易度B。B71 W51 H75』


『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美おぐらあけみ。B組。難易度A。B92 W60 H83』


『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀きがアリア。C組。難易度A。B85 W60 H82』


「何だよ。無印って」

 赤城恵一は、少ない文字情報に目を通しながら呟く。

 すると、どこからか奇声が聞こえて来た。

「アイドルだ。アイドル一直線」

 奇声を放ったのは、黒縁眼鏡に太った体型の高校生。その風貌は如何にもオタクである。

「何だ。あいつ」

 赤城は小声で呟き、スマートフォンの画面に注目する。スマートフォン画面の右端には時計が表示されていて、時間が刻一刻と減っている。

 残りの制限時間は1分程。赤城の結論は決まっていた。恋愛シミュレーションゲームとは無縁の生活をしていた彼は、初心者である。

 だからラブが言っていたように、初心者向けの難易度Cのキャラクターを選択すればいい。

 このような思考が頭に浮かび、赤城恵一は、島田夏海の名前をタップする。

 多くの男子高校生たちは必死で1分以内にメインヒロインを選択する。

 全ては自分が生き残るために。


 それから1分後、スマートフォンが震え、予選ゲーム前半戦の制限時間を迎えた。

「制限時間終了のようです。それではゲームの結果発表をします。とりあえずスマートフォンの画面をご覧ください」

 ラブがマイクを握りながら、男子高校生たちの顔を見下ろす。

 そして間もなくしてスマートフォンの画面が更新され、このような文字が表示された。


『ナンバー01。病弱な後輩。島田節子。2名。10番。百谷次郎ももたにじろう。17番。千春光彦ちはるみつひこ


『ナンバー02。底辺アイドル。倉永詩織。2名。3番。桐谷凛太朗きりたにりんたろう。31番。松井博人まついひろと


『ナンバー03。歴女な一面のある文系女子高生。島田夏海。8名。6番。川栄探かわえいさぐる。13番。滝田湊たきだみなと。15番。谷口宗助たにぐちそうすけ。16番。新田健一にったけんいち。24番。小林優馬こばやしゆうま。35番。矢倉永人やくらえいと。44番。多野明人たのあきと。48番。赤城恵一』


『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子。3名。14番。達家玲央たついえれお。18番。中田蒼汰なかたそうた。26番。西山一輝にしやまいつき


『ナンバー05。体育会系元気ガール。樋口翔子。5名。12番。高橋空たかはしそら。22番。竹下達也たけしたたつや。30番。前田奏太まえだそうた。32番。宮脇陸翔みやわきりくと。42番。後藤隼人ごとうはやと


『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋。7名。2番。市川陸いちかわりく。8番。石川太郎いしかわたろう。9番。島崎海斗しまざきかいと。21番。三好勇吾みよしゆうご。23番。中村晴樹なかむらはるき。25番。村上隆司むらかみたかし。40番。櫻井新之助さくらいしんのすけ


『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣。3名。7番。小嶋陽葵こじまひなた。19番。中西優斗なかにしゆうと。33番。武藤幸樹むとうこうき


『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈。4名。4番。入山朝日いりやまあさひ。28番。古畑一颯ふるはたいぶき。38番。石田咲いしださく。43番。鈴木大河すずきたいが


『ナンバー09。ツンデレ転校生。石塚明日香。1名。39番。内田紅うちだこう


『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。平山麻友。2名。11番。杉浦薫すぎうらかおる。29番。高坂洋平こうさかこうへい


『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌。3名。26番。阿部蓮あべれん。36番。藤田春馬ふじたはるま。37番。藤田冬馬ふじたとうま


『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美。5名。1番。飯田悠斗いいだゆうと。5番。岩田波留いわたはる。34番。森川瑠衣もりかわるい。46番。大家碧人おおやあおと。47番。横山雷斗よこやまらいと


『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀アリア。2名。41番。北原瀬那きたはらせな。45番。長尾紫園ながおしおん

 

 スマートフォンに映し出されたのは、誰がどのメインヒロインに投票したのかが分かる名簿のような画面だった。

 その結果を受け、ラブが覆面の顎に手を置く。

「面白いですね。同じ難易度Cなのに、マニュアル人間の理系女子高生、三橋悦子が3名と不人気なのは。一番人気はナンバー03、歴女な一面もある文系女子高生の島田夏海で8名。それとナンバー12、二重人格者な学級委員長、小倉明美が5名なことも興味深いですね。ツンデレより巨乳キャラの方が人気高いのかな? 適当な感想はここまでにして、後半戦のゲームを開始します」

 

 前半戦のゲームはゲームマスターに歯向かった不良少年、山口武以外のプレイヤーたち全員が攻略に成功した。

 13名のヒロインから一人のメインヒロインを選択するだけのゲーム。

 そんな簡単なゲームの中に、予選後半戦の恐るべき罠が仕掛けられていたことを、生き残った47人のプレイヤーたちは知らなかった。

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