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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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もう一つの賭け

 仮想空間。4月10日の早朝。赤城恵一は悠久高校へと向かう通学路を歩いていた。その直後、彼の制服の中に仕舞われたスマートフォンが振動を始めた。

 嫌な予感から体を震えさせた彼は、その場に立ち止まりスマートフォンを取り出す。

 その予感は見事に的中する。スマートフォンに『処刑者リスト更新しました』という文字が表示され、彼は息を飲む。

 誰が死んだのかが気になった赤城は処刑者リストを閲覧してみる。


『2番。市川陸。朝練で堀井千尋に嫌われたため、剛速球が頭を直撃し頭蓋骨陥没する』


『9番。島崎海斗。朝練中、堀井千尋を傷つけるような発言をしたため、何者かに金属バットで撲殺される』


 処刑者リストに表示された名前を読み、赤城は思わずスマートフォンを地面に落としかけた。

 また2人クラスメイトが殺された。その結果に憤りを感じた赤城恵一は急いで学校へと向かう。


 午前7時45分。赤城恵一は2年A組の教室へ駆け付けた。教室内には既に、桐谷たちの姿がある。三好と村上と櫻井の3人は野球部の朝練のため教室にはいない。現在教室内にいる6人の中には矢倉永人の姿がある。矢倉は赤城を見つけると、すぐさま彼の元に駆け寄る。

「赤城君。さっき島崎君と市川君が脱落したらしいですね」

「悔しいよ。仲間になるはずだったあの2人が脱落したんだから」

 赤城は悔しそうに自分の机を叩く。すると矢倉は透かさず自分のスマートフォンを赤城に見せた。

「こんな時に言うのもどうかと思ったけれど、昨日のメインヒロインアンサーでS評価を4連発しました。これでレベル10です」

 矢倉のステータスを確認した赤城はスマートフォンを彼に返す。

「これで最後の賭けを成功させるために必要な経験値は1700経験値だ。それにしても珍しいな。どうやってS評価を連発したんだ」

 赤城が尋ねると矢倉は胸を張った。

「やっと必勝法に気が付いたんですよ。あのクイズゲームは基本的に空気の読み合いという駆け引き。どれを選べば島田夏海が喜ぶかを考えながらやったら楽勝でした。多分2日で800経験値は余裕かもしれません。残り900経験値を彼女との交流で稼げれば、2回戦進出も夢じゃない」

 矢倉の話を横で聞いていた桐谷が突然拍手を始める。

「まさか経験値補正の存在に気が付くとは。初心者のくせに中々やりますね。最後の賭けって言っていたけど、まさか最終日に1000経験値を稼ぐつもりですか?」

「悪いかよ」

 赤城恵一が桐谷の顔を睨み付ける。しかし桐谷は赤城の言動に腹を抱え笑う。

「これは傑作ですね。何度も言うけど、このデスゲームで生き残ることができるのは、恋愛シミュレーションゲーム経験者だけなんですよ」

「そいつはどうかな。現に難易度Aの小倉明美を攻略しようとしている上級者が脱落してるじゃないか。恋愛シミュレーションゲーム経験者が生き残るとは限らないってことだ。桐谷君。俺たちも賭けをしようか」

「何ですか?」

 笑うことを止めない桐谷が尋ねると赤城恵一は人差し指を立てた。

「俺と矢倉君、三好君の3人全員が2回戦進出を決めたら、俺たちの言うことを1つだけ聞く。1人でも生き残れなかったら、俺たちがお前らの要求を1つだけ聞いてやる」

「面白いですね。いいですよ。経験値補正のことが分かったくらいで初心者全滅という結果は変わらないと思いますが」

 桐谷が笑いながら杉浦の元に戻る。それから数分後、三好と村上と櫻井の3人が2年A組の教室に顔を出した。


 三好は鞄を自分の机の上に置くと、先崎に赤城の元へ駆け寄り、頭を下げた。

「悪い。市川君と島崎君は俺の目の前で死んだんだ。何もできなかった。本当にごめん」

「三好君は何も悪くない。こんな理不尽なデスゲームに俺たちを強制参加させたラブが悪いんだ。だからそんなに自分を責めるなよ。ところで三好君は死亡フラグケージは大丈夫なのか」

「ああ、俺は現状75%溜まってる。市川君と三好君は昨日の時点で90%超えたって聞いたから、危険だった。あまり時間は残されていないから早めに作戦会議を始めよう」

「そうだな」

 三好に促され赤城はたった3人だけの作戦会議を始める。赤城は早速作戦についての話題を切り出す。

「今考えている作戦があるんだが、その前に三好君のステータスを確認したい」

「分かったよ」

 三好はスマートフォンに自分のステータスを表示させ、赤城と矢倉に見せる。


三好勇吾


レベル10

知識:30

体力:30

魅力:20

感性:20


死亡フラグケージ:75%

累計EXP:1800

Next Level Exp :200


「なるほど。残り3日で2200経験値稼がないといけないってことだな。大体の状況は察したよ。じゃあ三好君にも作戦を伝える。実はレベル11を超えてから経験値補正がかかるようになっているんだ。それとこれから言うことをやれば、2回戦突破も夢ではない。その前の下準備として最終日までに多くの経験値を稼いでほしい」

「何かよくわからないけど、何をすればいいんだ」

 それから赤城恵一は三好に耳打ちするように最後の賭けの全容を三好勇吾に伝える。その作戦を聞き三好は驚きを隠せず大きな声を出した。

「凄い」

 三好の大声に桐谷たちが注目する。それを受け赤城は人差し指を立てた。

「静かにしろ。この作戦は他言するな。邪魔されたら元も子もない。それで日曜日は何か予定があるのか」

「野球部の練習が午前中にある」

「その時に仕掛けろ。何を選べばいいのか。それはこれまで堀井千尋と接してきたお前なら分かっているはずだ。だから俺は口出ししない」

「了解。最後の賭けは日曜の午前中にやる。とりあえず日曜日の午後に赤城君の自宅へ行く。そこで結果を伝えるよ」

 そうして作戦会議が終わり、女子生徒たちが登校し、いつもの時間に朝礼が始まる。14人いたはずの男子生徒たちも現在では10人まで減っている。この世界の住人たちはそのことを気にせずありふれた学園生活を続けている。

 昨日と同じように高校の授業が淡々と繰り返され、昼休みがやってくる。その時間三好勇吾は高校の廊下を1人で歩いていた。


 昼休み開始早々に弁当を食べきった彼は、2年A組の教室から出て行った堀井千尋を探している。彼女は昼休み開始早々に教室からどこかに行った。

 三好勇吾には彼女がどこに行ったのかという大凡な見当が付いていた。休憩時間に毎回本を読んでいる彼女のことだから、図書室に行ったのだろうと三好は考えていた。

 本とは無縁な三好だが、少しでも好感度を上げるために図書室に乗り込まなければならない。

 2階の廊下の突き当りに、図書室のドアがある。三好は深呼吸して未知な図書室という領域に足を踏み入れる。

 引き戸を開けると、正面に大きな本棚があった。昼休みが始まって5分が経過したというのに、図書室の中には多くの文化系の高校生たちが集まっている。

 体育会系の三好は完全にアウェーだと思いながら、図書室にいるはずの堀井千尋を探す。

 両サイドを挟むように設置された本棚の通路を見渡しながら彼は歩く。図書室を1周ほどすると、貸出カウンターに堀井千尋が並んでいた。彼女は数冊の本を借りると、すぐに図書室から立ち去った。

 このままでは図書室に来た意味がない。このように危惧した三好勇吾は勇気を振り絞り、彼女を追いかける。

 そして廊下に出ると、堀井千尋の背後から声をかけた。

「堀井さん」

 三好の呼び声を聞き、堀井千尋は立ち止まる。だが彼女は中々言葉を返さない。

 強引に進めれば初日のように好感度が下がってしまう。それだけは避けなければならないため、三好は少し彼女を待つことにした。

 それから数分が経過したが、堀井千尋は一歩も動こうとしない。その行動に少しばかり苛立っていると、ようやく彼女が口を開いた。

「ばか」

 その一言を呟くと、彼女は三好から逃げるようにその場から去った。

 堀井千尋の後姿を見ながら三好は思わず首を傾げた。


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