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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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現実と虚構の交錯

 いつものように赤城恵一は仮想空間内の高校へ向かう。午前8時現在、2年A組の教室には10名の男子高校生たちが集まっていた。その中にいる赤城は周囲を見渡し矢倉の姿を探す。しかしそこに彼の姿はない。それどころか、多野と谷口が座っていた席には、見かけない男子生徒が座っている。彼らは多野たちに代わり追加されたモブキャラだった。

 赤城は嫌な予感を覚え、処刑者リストを閲覧した。しかしそこに矢倉永人という文字は記されていない。そのことに赤城は安堵する。

「良かった」

 すると赤城恵一の元に三好勇吾が近づいた。

「赤城君。昨日の続きを話そう。初心者同士仲良くゲームクリアを目指そうと思うが、俺たちと組むか」

「そのことか。俺は大賛成だ。丁度仲間が欲しかったからな。それでどういう状況なんだ」

 赤城が尋ねると三好は肩を落とした。

「結構苦戦しているよ。中々距離感は掴めない。櫻井や村上の行動をマネたり、メインヒロインアンサーで正解を連発したりで、何とかレベル8まで上り詰めた。残り3200経験値を4日間で稼がないといけないから、キツイよな。単純計算で1日800経験値稼がないと脱落。因みにこの状況は市川と島崎も同じだよ」

 三好が本音を漏らす。三好の話を聞き赤城は苦労しているのは自分だけではないことを悟った。

「そうか。俺は4日間で2710経験値稼がないといけない。そんなことより問題なのは土日だな。休日は中々メインヒロインと接触する機会が少ない」

 休日対策ができていなければ負ける。そういう考えに行きついた赤城と三好の周りに市川と島崎が歩み寄った。

 たった4人の小さなグループを横眼で見ていた滝田は桐谷の元へ駆け寄った。


 桐谷の周りには5人の男子高校生たちが集まっている。7人目の仲間になった滝田は桐谷に対して話を切り出した。

「昨日面白いことに気が付いたんですよ。彼女たちって僕たちを纏めて呼ぶときは何とか君たちって言いますよね。その呼び方によって誰が1番好感度が高いのかが分かるんです。一昨日島田夏海攻略組で1番好感度が高かったのは矢倉君。一昨昨日の段階で赤城君たちを含むグループのことを彼女は矢倉君たちって呼んでいました。そして昨日同じグループのことを滝田君たちって呼ぶようになった。これは昨日の段階で僕が1番好感度が高かったからと思われます。桐谷さん。これは何か使えると思いますか?」

「誰が1番好感度が高いのかが分かるくらいじゃないですか。別のクラスにライバルがいる僕や杉浦君にとっては重宝するシステムだと思いますよ。何しろ別のクラスの累計経験値ランキングは閲覧できないので、どれだけライバルと差を付けたのかが分からないからね」

 丁度その頃杉浦薫が勢いよく2年A組の教室のドアを開けた。彼は血相を変え桐谷に駆け寄る。

「どうしたのですか?」

 杉浦の身に何が起きたのかを察する術がない桐谷が首を傾げると、杉浦は強く床を踏みつけた。

「高坂がいるC組に行ってきた」

 

 杉浦は目を瞑り先程の出来事を思い出す。A組へと向かう前に杉浦は平山麻友を狙う高坂洋平が所属する2年C組の教室へ乗り込んだ。その時お河童頭の優男、高坂洋平の周りには彼と同じC組に所属する男子高校生たちが集まっていた。

 高坂のことが気に入らない杉浦は先崎に彼の元へ駆け寄り怒鳴る。

「高坂」

 自分の席に座る高坂洋平は不敵な笑みを浮かべ、ライバルの顔を見つめる。

「確か杉浦君でしたかね。まさか君も2回戦進出を祝ってくれるのですか?」

「そうじゃない。何でお前が俺より早く2回戦に進出するんだよ。お前は平山麻友と違うクラスで話す機会もない。おまけにお前はこれまでの休憩時間、彼女がいる2年A組に行ったことがない」

「だからどうしたのですか?」

 高坂が冷徹な視線で杉浦を睨み付けた。その表情に杉浦は息を飲む。

「兎に角俺はお前がチート行為をやったんじゃないかって疑っているんだよ」

「チート行為ね。ゲーム上のプログラムを改造してあり得ないことをやってのけるオンラインゲームではよくあることでしたね。ただチート行為はゲームの進行を妨げる行為として罰される可能性があります。だからそんな危ない橋は渡りませんよ。彼女と同じクラスに所属するあなたが僕よりも早く2回戦に進出しなかったとしたら、君の実力は大したことがないってことじゃないですか?」

 杉浦は高坂に言い返すことができず、2年C組の教室を立ち去った。


「ということがあった。桐谷君も悔しいだろう。自分よりも先に2回戦進出を決めた高坂と内田が憎いんじゃないか」

 杉浦が桐谷に対して悔しそうに詰め寄ると桐谷は冷静に答えた。

「確かに悔しいですね。とりあえず2回戦であの3人を叩き潰せばいいだけの話ではありませんか。僕よりも早く2回戦進出を決めたあの3人は許せませんね」

「それもそうだな」

 桐谷の声を聞き自信を取り戻した杉浦は打倒高坂を誓う。


 いつものように椎名真紀は現実世界の高校へ向かう。午前7時現在、多くの会社員たちが歩道を歩いている。この歩道沿いに白井美緒が入院する病院があるのだが、彼女は病院へと行かず歩道上に立ち止まり携帯電話を開く。

 会社員たちは彼女の横を通り過ぎていく。誰も歩道に佇む女子高生のことは気にする素振りを見せない。

 椎名真紀は雑踏の中で目を瞑り深呼吸する。通勤する会社員たちの足音が聞こえ、精神を集中させ再び瞳を開ける。

『必ず終わらせてみせる』

 それから彼女は携帯電話でこのような文字を打ち、送信ボタンを押した。しかしこの文面は送信されることはない。何度やってもメッセージの送信は失敗に終わる。

「昨日の夕方はできたのに」

 彼女は青空を見上げながら頬を膨らませ、一歩を踏み出した。


 午前8時。椎名は高校の校門をくぐり2年1組の教室へと向かう。

 2年1組の教室には10人の同級生たちが集まっている。クラスメイトたちはこのクラスに所属するはずだった赤城恵一の安否を案じている。

 クラスメイトたちは1か所に集まっている。その中に混ざった椎名真紀は周囲を見渡し白井美緒の姿を探す。しかしそこに彼女の姿はない。

「いるはずがないよね」

 真紀が言葉を漏らすと1人の女子が彼女に声を掛けた。

「椎名さん。白井さんから何か聞いてる?」

「いいえ。まだ美緒は入院中だよね。あの動画だったらメールで知らせたけど」

「そう。ところであの動画観たよね。どう思う?」

「よく分からない。これが率直な感想だよ。プレイヤーYがどうしてあんな動画を投稿したのかも分からない。どうしてあの動画に映った男子たちが同じ制服を着ていたのかも不明。結構謎が多い動画だよね。あの動画を観ていたら、汚れたマットを叩くように謎という埃が一杯出てきそう」

「汚れたマットって。椎名さんって謎な例えするよね」


 女子生徒が目を点にすると、椎名の意見に賛同するように後頭部に寝ぐせがある黒縁眼鏡の男子高校生、園田陸道そのだりくみちが自分の席から立ち上がった。

「椎名さん。やっぱり君も事件のことが気になるのか。あの動画を参照にプロファイリングすると、赤城君はデスゲームに強制参加させられていると思うんだ。あの動画の台詞は全てデスゲームを連想させるものだからな。間違いない」

 その男子高校生が自信満々に推理を話すと、椎名真紀は彼をジト目で見た。

「まとめサイトの考察と同じだから、カンニングしたでしょう。如何にも自分で推理したようなこと言って」

「偶然まとめサイトと同じ推理に行きついただけだって。大体あの動画から得られる情報を元に推理したら、誰でもデスゲームを連想するだろう」

 探偵気取りの園田が胸を張る。

「確かにあの動画を観ただけだと、誰でもデスゲームを連想するよね。誰かを見殺しにするとか。その推理だとラブっていうのがゲームマスターって奴かな」

「多分な」

 園田と椎名の推理をクラスメイトたちは何気なく聞いていた。


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