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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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現実と虚構の早朝

『あっ、島田夏海が佇んでいる』


『A。やあ』


『B。島田さん』


『C。スラマッパギ』


『D。とりあえずチョップだ!』


 3日目のメインヒロインアンサーも同じ問題で幕を開けた。今回のシチュエーションは学校の校舎の廊下。その場所で赤城恵一と島田夏海は対面しているようだった。

「1番最初の問題の選択肢はチョップを選ぶな」

 多野の遺言が頭を過り、赤城恵一はベッドの端に座り右手を握りしめる。

「信念は曲げない」

 一言呟き彼はスマートフォンに表示されたBという文字をタッチする。すると、画面上の島田夏海は、思いがけない喜びに出会ったようにニコニコとした。

『赤城君。さっきはごめんね。あの人を見てたら怖くなって』

 スマートフォンから流れて来た言葉に、赤城恵一は聞き覚えがあった。それは昼休み終了直前に島田夏海と交わした言葉。これはどういうことなのか。その疑問を考えさせる時間を与えず次の問題が表示される。


『そういえば風の噂で聞いたけど、好きな人がいるって本当なの? 確か名前は……』

『A。白井美緒』


『B。島田夏海』


『C。島田節子』


『D。そいつはデマだ』

 

 意味が分からないと赤城恵一は思った。この問題の意図が見えない。なぜ問題の選択肢の中に幼馴染の白井美緒が含まれているのか。それさえも分からない。

 この選択肢の内どれが不正解さえも分からない。考えている間にも制限時間は減っていく。

 残り時間15秒。彼は直感でAという選択肢をタッチする。その後で、画面上の少女は、ジト目になる。


『やっぱり幼馴染の白井美緒さんのことが好きなんだ。じゃあ暴君と呼ばれる戦国武将に3人の姫が囚われてしまいました。しかし助けることができるのは1人の姫だけです。この場合赤城君だったらどうする?』


『A。白井美緒を助ける』


『B。島田夏海を助ける』


『C。島田節子を助ける』


『D。全員を助ける方法を一生懸命考える』


「絶対誰かを見殺しにしない」

 問題を読むと今朝ラブに宣戦布告した時の言った言葉が蘇る。あの時彼は誰も見殺しにしないと心に決めた。この問題は現在の状況と酷似している。即ち赤城恵一の答えは決まっていた。彼は静かにDという選択肢を選ぶ。


 メインヒロインの顔付きから、しみじみとした嬉しさが滲み出る。そして本日最後の問題が流れた。


『優しいね。それなら今度私のことを助けてくれる?』


『A。当たり前だろう』


『B。状況による』


『C。多分助けない』


『D。先崎に逃げるかも』

 

 本日最後の問題を読み、赤城は頬を緩ませる。

「信念は曲げないって言っただろう」

 赤城は胸を張りAという文字をタッチした。少し照れた少女は、人差し指を立てる。

『約束だからね』


 こうして本日のメインヒロインアンサーが終わりを迎え、スマートフォンに結果が表示された。

『結果発表。S評価2回。A評価1回。B評価1回。合計320好感度経験値を獲得しました』

 

 続けて本日の好感度経験値累計獲得ランキングが公開される。

『2年A組。好感度経験値累計獲得ランキング』


『第1位。桐谷凛太朗。3600経験値』


『第2位。村上隆司。 2600経験値』


『第3位。滝田湊。  2500経験値』


「桐谷は2回戦進出目前か。相変わらず経験値を稼ぐのが上手い」

 赤城が関心しながらランキングをチェックしていると、突然スマートフォンが振動を始めた。それから数秒後スマートフォンにメールが届いた。彼は嫌な予感を覚えながら恐る恐るメールを開く。すると彼の目に驚愕の文字が飛び込んできた。


『2回戦進出者。決定のお知らせ。3日目のメインヒロインアンサー終了時点で1回戦のクリア条件を満たしたプレイヤーが現れました。5番。岩田波留様。29番。高坂洋平様。39番。内田紅様。2回戦進出おめでとうございます。2回戦進出が確定しましたが、休む暇なく好感度経験値を稼ぎ続けてください』

「高坂って確かあの時A組所属を辞退した優男か。あいつ。桐谷より凄い奴だったんだな」

 赤城恵一はメールを感心の眼差しで読んだ。

 その直後処刑者リストが更新され落胆することも知らずに。


 その日の夜、彼は一睡もできなかった。誰も助けることができない贖罪が彼を襲う。

 彼は気晴らしにスマートフォンで自分のステータスを確認する。

 このゲームは鬼畜仕様だと赤城恵一は改めて感じた。その理由はステータスにある。


赤城恵一


レベル11

知識:30

体力:30

魅力:30

感性:20


死亡フラグケージ:55%


累計EXP:1290

Next Level Exp :710

 

 注目すべきは次のレベルに進むために必要な経験値。レベル10まではレベルを1つ上げるために100経験値必要だった。しかしレベル11移行になったら、必要な経験値が一桁増える。

「どこまで鬼畜なゲームシステムだよ」

 赤城は本音を語ったが、それと同時に現実を見せつけられる。残り4日で2710経験値を稼がなければ、ゲームオーバー。その現実を変えることはできない。

 ゲームシステムに対するツッコミを入れれば明るくなれると赤城恵一は思ったが、またラブの言葉が頭を過る。

「絶対誰かを見殺しにしないって言っていたけど、それは不可能ですよ」

「それと谷口君を殺したのはあなたですよ」

 昨日聞かされたラブの言葉が赤城の頭に浮かぶ。ラブの声は中々赤城の頭から消えない。

 

 赤城恵一は自室のベッド上で横になる。彼は悔しそうな表情を浮かべ、スマートフォンに表示された処刑者リストに目を通す。

『15番。谷口宗助。ラブに喧嘩を売ったためトイレの水で溺死』


『30番。前田奏太。メインヒロインアンサーで不正解を連発したから処刑』


『34番。森川瑠衣。小倉明美に嫌われたから、ガラス片が喉の頸動脈を切る』


『44番。多野明人。島田夏海に嫌われ階段から転落死』


『46番。大家碧人。小倉明美に嫌われたから、窓ガラスの欠片で全身の血管を切る』


『47番。横山雷斗。小倉明美に嫌われたから、雨のように降り注ぐガラス片によって全身を切り刻まれる』

 

 3日目のメインヒロインアンサー終了時点の残りプレイヤーは34人。6人もの男子高校生たちが脱落したという事実を赤城は悔やむ。赤城恵一は彼らを助けることができなかった。

 脱落者を救済することは不可能。どんなに頑張ったとしても赤城恵一は脱落者たちを見殺しにするしかできない。

「多野君の無念を晴らすことはできないのかよ。こんなゲーム。間違ってるって分かっているのに、誰かを助けることもできず見殺しにするだけで精一杯なんて。悔しい」

 頬を伝い悔し涙がベッドマットの上に落ちる。

 赤城恵一は絶望感の中で4月9日の朝を迎えた。



 現実世界では、13回目の男子高校生集団失踪事件発生から3日目の朝を迎えていた。

『次のニュースです。先日東京都東京都千代田区で発声した男子高校生集団失踪事件に巻き込まれたと思われる男子高校生が映った動画が、インターネットの動画サイトに投稿されました。警察ではこの動画を投稿したプレイヤーYと名乗る人物が何かしらの事情を知っているとみて調べを進めています』

 テレビから流れたニュースを聞きながら、薄いピンク色のチェック柄なパジャマを着た椎名真紀は、コーヒーカップに口を近づけた。

 彼女の前に置かれたテーブルの上には携帯電話とリンゴジャムが塗られた食パンとレタスの野菜サラダが置かれている。

彼女の席の正面には、青色の皿とガラスの器、ハートマークのコーヒーカップが置かれていた。食器が並んでいるだけで、何も盛り付けていない状況。自分が朝早く食べているだけだから、仕方ないと彼女は思い、1人で朝食を食べる。


 現在の時刻は午前6時5分。女子高生の彼女にとって朝食を食べるにしては早過ぎる時間帯。そんな彼女がこの時間に朝食を食べるのには訳があった。

 高校までの距離が遠いというのも理由の一つではあるが、1番の理由は早朝に行きたい場所があったから。

 椎名真紀は手早く朝食を済ませ、黒色のセーラー服に着替える。その後で彼女は携帯電話から動画投稿サイトにアクセスし、プレイヤーYの動画を観た。動画の再生回数は90分程前にも関わらず、50万回を超えている。

『ラブ。お前の目的が何かは知らないが、お前は間違っている! 何がプレイヤー間の殺人等犯罪行為の禁止だ。確かに直接的な殺人は行われていないが、誰かを見殺しにするってことは間接的な殺人じゃないか。だから俺はお前の思い通りにはならない。絶対誰かを見殺しにしない。そして必ずお前をこの手で殴ってやる』

 

 動画を見つけて以来、彼女は何度も短い映像を見続けた。そして動画の存在は彼のことが心配で夜も眠れなさそうな友達、白井美緒にも知らせた。

「絶対誰かを見殺しにしない」

 彼女は動画の中の赤城恵一の台詞を復唱し、教科書が入っている鞄を手に持つ。そうして彼女は自宅から高校へと向かった。

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