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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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怖い人

 ラブは覆面の下で笑みを浮かべてみせる。

「脅かせてしまってごめんなさい。ラブは神出鬼没なんですよ。いつでもあなたたちの前に現れることができる。気まぐれだけどね」

 ラブは視線を島田夏海に向ける。その瞬間、彼女は息を飲み込んだ。妙な胸騒ぎを感じた少女は、赤城恵一に隠れるように、彼の背中に回り込む。そうして彼女は赤城の制服の裾を強く握った。少年は一瞬背後を振り向き彼女の顔を見る。その顔は何かを怖がっているように見えた。

「助けて。この人。怖いよ」

 島田夏海が囁く。その声を聞いた赤城は首を縦に振った。

「ラブ。お前はなぜ俺の前に現れた。なんで島田夏海はお前のことを怖がっているんだ。俺の疑問に答えろ」

 赤城が怒鳴り疑問をラブにぶつける。一方のラブは両肩を落としてみせた。

「暇つぶしに遊びに来たんですよ。これ以上の質問は、彼女に退場してもらってからにしないとね」

 ラブは冷徹な視線を島田夏海に向ける。その直後、島田夏海は赤城の制服の裾から手を離した。

「赤城君。私、この人と顔を合わせたくないから」

 夏海が赤城に言い残し、何かから逃げるかのように階段を駆け上がる。その彼女の後姿を見つめながら、ラブが一歩を踏み出す。

「さあ、質問に答えましょうか。島田夏海が私のことを恐れている理由は、答えることはできません。秘密です。その代わりこの世界のルールについてお答えします。この踊場の空間だけは一時的に管理者権限で言論の自由が許可されているから。安心してください。このことは今晩の生放送でも話すよ。赤城様だけに伝えたらアンフェアだからね」

「前置きはもういい」

 赤城が急かすようにラブに解答を促す。それに対し、ラブは額のハートマークに右手を置く。

「1時間目終了後の休憩時間に谷口様が脱落しましたね。そして彼に関する記憶は、シニガミヒロインをプレイする男子高校生たちしか覚えていない。こうなった理由は、脱落と同時に彼の存在していた痕跡が消去されるから。この世界の住人の記憶は脱落と同時に改ざんされていくよ。最初から谷口君なんていなかったって思うように。その方がやりやすいでしょう。死んだ奴のことが忘れられないから振られたってなったら、不条理じゃないですか。あっ、それとこれも言い忘れていたことだけど、脱落者と交代する形で男性モブが追加されるからクラスの人数は変わらないからね」

「不条理だと。このデスゲーム自体が理不尽じゃないか。大体なんで俺をゲームオーバーにしなかったんだ。俺はあの時、お前を挑発する発言をしただろう。あんなことを言えば俺を殺すんじゃなかったのかよ」

 赤城が反論するとラブは静かに赤城の元へ近づく。

「そんなに死にたかったのですか?」

「それは違う」

「ちょっとトラブルがあってね。トラブル処理とただ殺すのもつまらないって理由から、あなたを生かします。色々と精神的に病んでいる頃でしょう。階段から転落していく多野様を助けることができなかったとか。あの電話を着信したプレイヤーの周囲に特殊なバリアが展開されるから、どうやっても彼を助けることはできなかったんだよ。あれは絶対に壊せない」

 次第に赤城恵一の顔は強張っていく。赤城は茫然と立ち尽くす。それからラブは赤城の前まで歩み寄り、彼の耳元で囁く。

「絶対誰かを見殺しにしないって言っていたけど、それは不可能ですよ。さっき説明した固い壁がそれを拒むから、脱落者が死んでいく様子を黙って見ることしかできない。分かったでしょう。見殺しにするしか選択肢がないってことが」

 ラブは沈黙する赤城に追い打ちをかけるように、冷酷な言葉を彼に伝えた。

「それと谷口君を殺したのはあなたですよ。あの時あなたがあんなことを言わなかったら、私を怒らせることはなかったのに。あの時点であなたを殺せなかったから、安心して暴言を呟いたのかもね。死亡フラグケージ99%だったから遅かれ早かれ彼は死んでいたんだけどね。まあ自分を責めずに、プレイヤーYを恨んでくださいよ。あのトラブルの発端を作ったプレイヤーYが谷口君を殺したって解釈もできるから」

「お前が殺したんだろう。お前がこんなデスゲームを開催しなかったら谷口君は死ななかった。谷口君だけじゃない。500人以上の男子生徒たちは死ななくて済んだ。それが分かっているのか。お前らのやってきたことを棚に上げやがって。俺はお前を許さない!」

 赤城はラブの言動に激怒する。しかしラブは当然のように反省しない。

「だから言いましたよね。これまでゲームオーバーになった連中は負け犬だったって。最後に今回は見逃すけど、今度私を挑発したら白井美緒を消すから」

「美緒を消すだと。お前。美緒に危害を加えたら絶対に許さないからな」

 当然の怒りの込められたリアクションに、ラブは腹を抱えて笑った。

「そう言うと思いましたよ。語弊がありましたね。赤城様の記憶から白井美緒を消すって意味です。あれを使えば人間の記憶を改ざんすることなんて簡単だから。ということで質問コーナーは終了です。それではまた会いましょう」

「待て。まだ話が」

 ラブは赤城恵一の前から姿を消す。それと同じタイミングで赤城のスマートフォンが制服の中で振動を始めた。


 丁度その頃校舎の廊下を島田夏海が歩く。彼女は歩きながら深いため息を吐いた。突然彼女の前に現れた額にピンク色のハートマークがプリントされた白色の覆面の人物のことを、夏海は一切覚えていない。しかしあの人物を見ていると妙な胸騒ぎを感じる。

「また会いましたね」

 背後から聞こえて来た声を聞き、夏海の足が止まった。彼女の体は小刻みに震えている。

「そう。驚かなくてもいいじゃないですか。私は神出鬼没だって言ったでしょう。赤城様とはお話が済んだから、今度は君と話そうと思ってね」

 恐怖から一歩も動けない島田夏海の腕をラブが掴む。

「触らないで」

 夏海はラブの手を振り払う。その反応にラブは肩をすくめた。

「やっぱり嫌われているようですね」

「あなたは誰?」

 緊迫した空気の中で島田夏海が尋ねる。それに対してラブは人差し指を立てた。

「それは秘密です。長話もあれなので要点だけお伝えします。実は赤城恵一様には、好きな人がいるんですよ。彼は幼馴染の白井美緒さんのことが好きなんですよ」

「えっ」

 ラブの口から語られる事実を島田夏海は茫然と聞いていた。間もなくして授業開始3分前を告げるチャイムの音が響く。それが鳴り終わり彼女が背後を振り向くと、そこにはラブの姿がなかった。その代り廊下を赤城恵一が走っている。島田夏海が静かに一歩を踏み出すと、後ろから赤城が駆け寄り彼女を追い越した。それから彼女は小さく首を縦に振る。

「赤城君。さっきはごめんね。あの人を見てたら怖くなって」

 赤城恵一は夏海の声を聞き立ち止まる。そうして彼は夏海を顔を合わせた。

「そういえば島田さんはあの覆面の人を知っているのか?」

 赤城からの質問に対して夏海は首を横に振った。

「分からない。直感的に妙な胸騒ぎがしたから、危険な人だと思う。だけどそれとは裏腹に懐かしい感じもする」

少年は少女の言葉の意味を理解できなかった。それから続けて、夏海は恵一に訪ねた。

「さっきも仮面の人に会ったよ。その人から聞いたんだけど、赤城君って好きな人がいるんだよね。名前は白井美緒さんで2人は幼馴染の関係だって聞いたけど、本当なの?」

 赤城は額に手を置いた。受け答えによっては好感度が下がる可能性もある。そのため解答は慎重にしなければならない。しかし幼馴染の存在を隠すことは彼女に嘘を吐くことになるのではないかという疑問が彼の頭に浮かぶ。真実と虚構の狭間で彼は悩んだ。

「そんな奴の言うことを信用するのか。あいつは危険な奴だから島田さんを騙しているかもしれないだろう」

 赤城はこう言うだけで精一杯だった。

「そうだよね。幼馴染の女の子がいるのなら、私なんかよりその子と仲良くした方が楽しいよね。早くしないと授業遅れるよ」

「ああ」

 赤城は一瞬夏海の顔を見る。その顔はどこか寂しそうに見えた。

 

 5時間目開始のチャイムの音と共にラブは監視ルームに戻ってきた。

「お疲れ様です。ラブ様。タイミングを間違えましたね」

 椅子に座る黒服の男が椅子を回転させラブと顔を合わせる。

「どういうことですか?」

 ラブが首を傾げ疑問を口にすると男はモニターを指さした。

「あのまま2年B組に行ったら大量虐殺祭を近くで観れたのに」

 モニターに映るのは血塗れで横たわる3人の遺体。殺害現場は教室で遺体の近くにはガラス片が散らばっている。

「結構派手にやっちゃいましたね。教室内にいた他の生徒たちは無事ですか?」

「はい。何人かは軽傷を負ったのですが、いずれも命に別状はありません。メインヒロインたちは全員無傷ですのでご安心ください。そして死亡者は3人のみ」

「3人ってことは1人生き残ったってことですね。今回も全滅すると思ったのに。小倉明美攻略組。唯一生き残った岩田波留様は今後彼女に飼い殺されますよ。面白くなってきました」

「ラブ様。そろそろログアウトしないと、現実世界のお勤めができませんよ」

 部下からの指摘を聞きラブは男の耳元で囁く。

「そうだね。留守はしっかり任せたから。そろそろ2回戦進出者が出てきてもおかしくなから、そっちの処置もよろしく。じゃあ、いってきます」

 ラブは素直に従い、部下の大男の前から姿を消した。


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