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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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仮想空間の消失

 シニガミヒロインの世界では、現実世界と同様の授業が行われる。その合間にある休憩時間を利用して男子高校生たちはメインヒロインへアプローチする。

 1時間目終了後の休憩時間、赤城たちは自分の席へ座る島田夏海に近づいた。

 しかしそれよりも早く、滝田と谷口が夏海に声を掛けた。

「島田さんって武田信玄が好きですよね? じゃあ武田四天王だと誰が好きです?」

「甘利虎泰かな。そういえばその質問って2日前にも聞いたよね?」

 島田夏海の思いがけない言葉に質問した滝田は目を丸くする。

「そうでしたっけ?」

 島田夏海と滝田の会話を横で聞いていた赤城は考え込む。2日前彼女と会話をした時には、武田四天王の話は出なかったはず。ということは2日前滝田は夏海と会話したのか。だがそれでは昨日の滝田のステータスと計算が合わなくなる。赤城は矛盾を感じつつ島田夏海に尋ねる。

「どこで滝田君と武田四天王の話をした?」

「一昨日夕暮れ時の放課後の校舎で話したと思ったんだけど。あの時谷口君は、図書室に歴史の本を返しに行こうとしていたよね? その時に聞いたんだけど、覚えてないのかな?」

 島田夏海の答えを聞き、赤城の脳裏に一昨日のメインヒロインアンサーのシチュエーションが蘇る。

「その時は谷口君しかいなかったのか。そもそもどうして学校にいたんだ」

 赤城が矢継ぎ早に彼女へ尋ねる。島田夏海は少し困惑したような顔を浮かべた。

「滝田君一人だったよ。あの時学校に戻ったのは、学校に忘れ物をしたのを思い出したから。一昨日は谷口君たちが節子のお見舞いに来たでしょう。それであなたたちが帰った後で学校に戻ったんだけど、それがどうかしたの?」

「個人的な興味だ」

 赤城は咄嗟に答え、その場で考え込む。島田夏海の話は筋が通っている。だがそれが真実だとすると、どうしても昨日の谷口のステータスの計算が合わなくなる。この矛盾に赤城が悩んでいると、滝田の隣に立っていた谷口が赤城を睨み付けた。

「僕たちの会話に無断で参加しないてくださいよ」

 その直後、谷口の着ている制服のポケットの中にあるスマートフォンが突然振動した。谷口が辺りを見渡すと、誰一人着信に気が付いていない。谷口は嫌な予感を覚え、腹に手を置いた。

「ごめんなさい。島田さん。トイレに行ってきます。お話の続きはまた今度ということで」

「うん。2時間目の授業が始まるまで5分もないからね」

 谷口は首を縦に振り、教室のドアを勢いよく開け、トイレへ走った。

 

 男子トイレの中に籠った谷口は、周囲を警戒しながら自分のスマートフォンをポケットの中から出す。

 ホームボタンを1回押すと、通知という文字が彼の目へ飛び込んできた。

『通知。仲間外れはダメよ。ダメダメ。死亡フラグケージ29%加算』

 谷口は息を飲み自分のステータスを確認する。死亡フラグケージ99%という文字が先崎に目に映る。

「ふざけるな。僕が一体何をしたって言うんですか。大体あんな女の機嫌を取り続けないと生き残れないなんておかしいです」

 怒りが込み上げてきた谷口は思わずトイレのタイルを強く踏みつけた。その直後彼の手に握られていたスマートフォンが震え始める。

『東郷深雪』

 マナーモードにしているにも関わらず、スマートフォンから静寂なクラシック音楽が流れる。その音楽はゲーム開始初日の朝に聞いた物と同じ曲。

「死亡フラグケージが満杯になったプレイヤーは、ゲームオーバーです。事件事故に巻き込まれて死んでいただきます」

 ラブの言葉が頭を過り、谷口が焦る。

「嫌だ。死にたくない」

 谷口の頬から汗が落ち、彼は急いで洋式トイレの蓋を開け、スマートフォンを便器へ落とす。だが音楽は鳴り止まない。

『留守番電話サービスです。本日午前9時47分』

 何をしてもダメだった。スマートフォンを壊せば悪魔の声を聞かなくて済むと思ったのは間違いだった。谷口は急いでその場から逃げようとする。しかしそれは許されない。

『ごめんなさい』

 スマートフォンから流れたのは、予選の敗者決定戦の時に聞いた東郷深雪の声。それを聞いた谷口は一歩も動けなくなった。

 やがて見えない何かに頭を鷲掴みにされ、谷口の顔は洋式トイレの中に押し込まれる。

 谷口は必至にもがき苦しむが、体は思うように動かない。見えない何かは容赦なく彼の頭を便器の中へ押さえつけていく。便器一杯に溜められた水は、彼を溺死させるには十分にある。

 谷口宗助は最期に学校のチャイムを聞いた。それから間もなくして谷口の体は白い光に包まれ消えた。


 2年A組の2時間目の授業は数学だった。当然のように数学の秋山先生は出入り口の引き戸を開け、教室へと入ってくる。

 それから数秒後、39人の男子高校生たちのスマートフォンが一斉に振動を始めた。先生はそのことを一切気にせず教卓の前に立つ。

 男子生徒たちは何かが起きたという嫌な予感を感じながら女子生徒と共に一斉に立ち上がった。

「起立。礼。着席」

 日直の号令と共に授業が始まる。

「教科書の6ページを開きなさい」

 ありふれた授業の中で赤城は違和感を覚えた。1時間目終了後の休憩時間から谷口は教室に戻ってこない。それなのに先生はそのことに一切触れない。

おかしいと思った赤城は大きく右手を挙げた。

「先生。谷口宗助君がトイレから戻っていません」

 流石に先生に対してタメ口は失礼だと思った赤城は敬語で秋山先生に尋ねた。しかし先生は首を傾げる。

「何を寝ぼけているんだ。谷口宗助なんて生徒は内の学校にはいない」

 先生はハッキリと断言する。何が起きたのか。赤城にはさっぱり分からず、彼は自分の席に着席した。

 最初から谷口宗助という男子高校生がいなかったかのように、授業は淡々と進む。

 そして2時間目終了後の休憩時間。赤城恵一は透かさず最後に谷口を会話を交わした島田夏海に声を掛ける。

「島田さん。谷口君はどこに行ったんだろうな」

「谷口君って誰?」

 島田夏海の問いを聞き赤城恵一の頭は真っ白になった。

「1時間目が終わった後の休憩時間に話しただろう。一昨日に節子ちゃんのお見舞いに一緒に行った。始業式のロングホームルーム直前の休憩時間で武田信玄の話をした。七三分けの同級生」

 赤城恵一は必至で谷口のことを思い出し島田夏海に説明する。だが彼女は赤城の話を聞いても合点がいかないような表情を浮かべるだけだ。

「そんな人。最初からいなかったよ」

 島田夏海の一言を聞き、赤城は彼女の元から去る。その後で彼はクラスメイトへ手あたり次第に谷口について尋ねた。しかし女子生徒たちは、全員谷口の存在について覚えていない。彼の存在について覚えているのは男子のみ。

 その事実を信じられない赤城恵一は、教室を飛び出し男子トイレへと向かった。だが、どこにも谷口宗助がいたという痕跡はない。

「さっきまでいたはずなのに。どうしていなくなっているんだよ。やっぱり犠牲者を出さずにゲームクリアはあり得ないのかよ」

 赤城は悔しそうにトイレの壁を思い切り叩いた。トイレの中でスマートフォンを取り出しホームボタンを押すと、1日目の朝に見たメッセージが表示された。

『シニガミヒロイン処刑者リストが更新されました』

 赤城は恐る恐るシニガミヒロインというアプリをタッチして処刑者リストを確認する。


『15番。谷口宗助。ゲームに対する悪口を言ったため溺死』


 処刑者リストに刻まれた文字は、谷口の脱落を裏付けた。この瞬間赤城恵一は察した。シニガミヒロインの世界から谷口宗助は消失したと。


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