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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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現実世界の波紋

 ラブの部下は恋愛シミュレーションデスゲーム『シニガミヒロイン』を強制的にプレイさせている男子高校生たちの行動を小部屋で監視中だ。

 現在48台ものモニターが設置された監視ルームにはラブの部下である山持しかいない。

 山持は先程の赤城恵一の過激な発言を聞き、男はスマートフォンを手にする。そうして彼はラブにメールを打った。

『赤城恵一。ラブに対する宣戦布告発言確認。処刑しますか?』

 それから数十秒後監視役の男の元にメールが届いた。

『その様子って録画してあるよね?』

『はい。一応録画してあります』

 山持がメールの返信ボタンを押す。その瞬間、彼の脳裏に疑問が浮かんだ。ゲームの一部始終は全て録画されてある。そのことはラブとその部下たちなら周知の事実のはずだ。それなのにラブは動画が録画されているのかを確認してきた。明らかにこの行為は矛盾しているだろう。

「マズイですね。もしあのメールの相手がラブ様じゃなかったとしたら……」

 山持の脳裏に不安が過る。その直後大男のスマートフォンにメールが届いた。

『今回は見逃していいよ♪』

 山持がメールの文面を読み、顔を上げる。その瞬間、大男の顔は一気に青ざめた。48台のモニター全てに砂嵐が走っている。

「くそ。やっぱりそういうことかよ」

 素に戻った彼は机の上に置かれたノートパソコンを操作してプログラムを修正していく。30秒ほどで全てのモニターにプレイヤーたちの様子が映る。


 その出来事から数分後、48台あるモニターは学校生活の昼休みの様子を映していた。この時間を使い男子高校生たちは積極的にメインヒロインにアプローチしている。

 その退屈な様子を山持が監視していると、突然大男の背後に、白い光に包まれたラブが現れる。ラブは彼の右肩を掴んだ。

「緊急事態ですよ」

 背後から聞こえたラブの声を聞き、山持はモニターから視線を反らす。

「ラブ様。ログインは午後4時からのはずではありませんでしたか」

「だから緊急事態って言っているでしょう。こっちにいると現実世界の情報に疎くなるよね。だからゲームマスター自ら伝えに来た。現実世界のスマートフォンもこっちの世界で使えるようにして助かりましたよ。説明しやすくなったから」

 ラブはスマートフォンを横向きにして、大男に渡す。


『ラブ。お前の目的が何かは知らないが、お前は間違っている! 何がプレイヤー間の殺人等犯罪行為の禁止だ。確かに直接的な殺人は行われていないが、誰かを見殺しにするってことは間接的な殺人じゃないか。だから俺はお前の思い通りにはならない。絶対誰かを見殺しにしない。そして必ずお前をこの手で殴ってやる』

 その画面に映し出されたのは、赤城恵一が教室の机の上に立ちラブへ宣戦布告する様子の動画だった。

「この動画がインターネットの動画投稿サイトにアップされたんですよ。男子高校生集団失踪事件は劇場型犯罪として世間で騒がれているから、すぐに動画が拡散されていて手の打ちようがないんです。これで世間にバレちゃいましたね。私たちがデスゲームを開催してるって」

「それで動画の投稿者は?」

 山持がラブの説明を聞き血相を変える。

「プレイヤーY。そう名乗っていますよ。動画の発信元を知り合いのハッカーに調べてもらっているから。最もあの映像が出回ったところで、警察は何も掴めないから、心配しなくても大丈夫。映像を解析しても場所を特定できるような物は映っていないことは既に証明済みだからね。それとプレイヤーYもしくはその協力者は内部の人間ってことになるよね?」

「はい。あのネットワークにアクセスできるのはプロのハッカーでも困難ですから。ラブ様の自作自演ってことも考えられますけど」

「まさか私を疑っているの?」

「プレイヤーYはラブ様のスマートフォンを使って情報を聞き出したんでしょう。あれを使えるのはラブ様しかいません。だからこの事件の犯人はラブ様ではありませんか?」

 ラブの部下は真剣な表情になり、上司を問い詰める。しかしラブは仮面の下で声を出し笑った。

「まさか。私が犯人だったら、こんな回りくどいことはしませんよ。わざわざ情報を聞き出してハッキングする必要がありません。ハッキングして動画を流出させればいいんだから」

「そうですね。それにしてもプレイヤーYは許せませんよ。ラブ様に成りすまして情報を聞き出すなんて」

 大男の発言を聞きラブは仮面の下で頬を緩めた。

「なるほど。兎に角警戒を続けてくださいよ。プレイヤーYの目的はゲームを潰すことだと思うから」

 ラブの口ぶりは、犯人に心当たりがあるように思えた。だが部下はそのことに触れず、首を傾げ尋ねる。

「それで赤城恵一は処刑しますか?」

 するとラブは腕を組み考え込んだ。

「プレイヤーなんて一瞬で殺せるけど、それでは面白くないよね。だから彼には自滅してもらいましょう」

「ペナルティとして死亡フラグケージを加算するのですか?」

「そこまでしなくても大丈夫ですよ。あの動画の中で彼は言っていましたよね。絶対誰かを見殺しにしないって。それが不可能だってことが分かれば彼を追い詰めることは容易です。そしてトドメに死亡フラグを立てる。これで彼を精神的に追い詰めます。ということで、数か月ぶりにシニガミヒロインの世界にログインするよ」

「まさかあっちの世界に永住するつもりですか?」

「大丈夫。やることを済ませたらこっちの世界に帰ってくるから」

 48番のモニターに、悔しそうな表情を浮かべトイレの壁を思い切り叩く赤城恵一の姿が映る。ラブは不気味に笑いながら、画面を見た。



 強く激しい雨が降る。空を覆う黒雲から雷鳴が響く。その音は白井美緒の悲鳴を掻き消した。

 彼女がいるのは生活環のあるリビング。その部屋に横たわっているのは、彼女の幼馴染である赤城恵一だった。恐怖によって目が大きく見開かれ、顔も歪んでいる。全身に何度も刺されたような痕が残り、首の頸動脈は綺麗に切断されている。

 それは紛れもなく赤城恵一の遺体だった。

「嘘……だよね」

 白井美緒は目の前に広がる光景を信じることができない。彼女は思わず床の上に倒れている彼の体を何度も揺さぶった。しかし彼は決して動かない。氷のように冷たくなった赤城恵一の右手の上に涙が落ちる。

 大切な幼馴染の遺体と対面した少女はその場で泣き崩れた。涙が枯れるほど泣き続け、間もなくすると暗く重たい喪失感と絶望感が彼女を支配していく。


「いやぁぁぁぁ」

 その悲鳴と共に白井美緒は病室のベッドの上で跳ね起きた。

 体中から汗が溢れ呼吸が荒くなる。暗い部屋の中で呼吸と汗によって額に張り付いた前髪を軽く整える。

 いつ幼馴染の遺体と対面してもおかしくないという状況は、白井美緒は恐怖の淵へと追い詰めていく。不安と恐怖が頭を過り、彼女は中々眠ることができなかった。やっと眠れたと思ったら、幼馴染の遺体の前で泣き崩れるという内容の悪夢を見てしまう。その度に何度も悲鳴を上げ、ベッドから跳ね起きる。悲鳴を聞きつけた看護師が、美緒の病室に駆け付ける。この一連の流れが一晩の間に何度も繰り返された。

 そんな彼女の耳にスマートフォンのバイブ音が届く。彼女のスマートフォンはベッドの近くに置かれたオーバーテーブルの上に置かれている。美緒はベッドから降りテーブルの上に置かれたスマートフォンを手にした。

 現在の時刻は午前5時30分。この時間帯に届いたのは1通のメールだった。

「真紀からだ」

 突然の友達からのメールに美緒は驚き、慌てて文面に目を通した。

『こんな時間にメールしてごめんなさい。いつもなら寝ている時間だよね。赤城君が拉致されたって聞いて心配しているよね。そんな美緒のために面白い動画を見つけたから、これを見て元気になって』

 そのメールにはURLが貼られている。白井美緒は首を傾げURLをタッチした。

 動画投稿サイトにアクセスされ、スマートフォンの画面上に動画が映し出される。

『ラブ。お前の目的が何かは知らないが、お前は間違っている! 何がプレイヤー間の殺人等犯罪行為の禁止だ。確かに直接的な殺人は行われていないが、誰かを見殺しにするってことは間接的な殺人じゃないか。だから俺はお前の思い通りにはならない。絶対誰かを見殺しにしない。そして必ずお前をこの手で殴ってやる』

 その短い動画に映し出されたのは赤城恵一の顔。その動画を目にした白井美緒は言葉を失った。

 まだ赤城恵一は生きている。その事実に白井美緒を安堵する。しかし動画上の彼の言葉の意味が分からない。

 唯一分かるのは、彼が危険なことに巻き込まれていること。


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