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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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裏切りと挑発

 ゲーム開始3日目の早朝。赤城恵一は急いで学校へと向かった。昨晩の結果を滝田に問い詰めるために。

 朝礼開始30分前の2年A組。その教室の滝田の机の周りを囲むように多野たちが立っている。

「滝田君。昨日のランキング結果は何だ! お前。俺たちを裏切ったのか。抜け駆けは禁止だってあれだけ言っただろう」

 赤城が問い詰めるよりも先に、多野が滝田を睨み付けている。しかし滝田は反省せず、腹を抱えて笑った。

「逆に聞くけど、いつまで友達ごっこを続けるつもりですか?」

「何だと。俺は全員で生き残るために互いに協力することでゲームを攻略しようとしているだけだ!」

「そんなの幻想ですよ。全員で生き残る方法なんてあるはずがありません。このゲームは誰かを蹴落とさないと自分は生き残れない仕組みなんです。だから僕は君たちを裏切って、自分だけ生き残ります」

「お前。本気で言っているのかよ。恋愛シミュレーションゲーム初心者のお前に何ができる」

 多野と滝田の口論が続く。それを聞きつけ桐谷と杉浦が滝田の元へ歩み寄る。

「そもそも根本的に間違っていますよ。いつ僕が恋愛シミュレーションゲーム初心者だって言いましたか?」

「いつって滝田君は初心者向けの難易度Cのメインヒロインを選んだから」

 多野の隣に立っている矢倉が気弱に答える。だが滝田はそれを聞き失笑した。

「これは傑作ですね。まさかそんなことで勘違いするとは、やっぱり君たちは馬鹿ですね。僕が難易度Cのメインヒロインを選んだ理由は、攻略が簡単そうだから。だって恋愛シミュレーションゲーム経験者は必ず難易度B以上のヒロインを選ばなければならないなんてルールは存在しないでしょう」

「簡単そうだから。そんな理由でお前は島田夏海を選んだのか」

 多野が両手を強く握りしめ怒る。

「そうですよ。カモが多そうな難易度Cのメインヒロインを選ぶことで、自分が生き残りやすくしようって思ったんです。本当はもう少しだけ友達ごっこに付き合おうって思っていたのですが、必要な情報は手に入りましたから。君たちは用済みです。お疲れ様でした」

「お前。自分が生き残れば他人がどうなってもいいなんて考えているのか」

 沈黙と貫いていた赤城が滝田に対して怒鳴る。しかし滝田は全く反省せず、ヘラヘラとしている。

「これはデスゲームですよ。このゲームは誰かを見殺しにしないと自分は生き残れないんですよ。だから裏切ったっていいじゃないですか。それとあなたたちは昨日何をやっていたのですか?」

「俺たちはどうやって経験値を稼ぐのかを話し合っていたじゃないか。そんなことも忘れたのかよ」

 赤城の解答に滝田は腹を抱え爆笑する。

「話し合いしか行わなかったじゃないですか。その差ですよ。僕はあれから島田夏海と公園で二人きりで話しましたよ。公園のベンチに座ってね。皆で協力して明日から本気出すなんて、無駄なことをやっているから負けるんです」

 突然の裏切り。多野は言葉を失い表情が曇っていく。その彼を嘲笑うように桐谷が顎に手を置きながら笑みを浮かべた。

「もしかしたら多野君は、全員で生き残る方法を模索しようと言って、僕たちを騙そうとしているのかもしれませんね。もしくは自分だけが死ぬのが怖くて誰かと心中しようとしているか。いずれにしろ脱落者を出さずにゲームクリアなんてあり得ません。だから裏切られる前に裏切りましょうよ。同じメインヒロインを狙うライバル同士が協力していたら、全滅しますよ。まだ死にたくないのなら、ライバルを仲間にしない方が賢明ですね」

 

 桐谷は多野たちを煽る。その挑発に谷口は納得したのか谷口は滝田の説明に納得したのか、右手を大きく挙げた。

「ごめんなさいね。僕もチームから抜けます」

「谷口君。まさか君も僕たちを裏切るのですか?」

 矢倉が真剣な顔付きで尋ねる。

「はい。全員で生き残る方法があるなんて根拠がない自論を展開して、リーダーを気取っている多野君が信じられません。滝田君の話を聞いてハッキリしました。犠牲者を出さずに全員で生き残る方法なんてないって。だから自滅する前に裏切ります。偽善者さん。今までありがとうございました」

 一方暗い顔付きとなった多野は昨晩の出来事を思い出した。

『S評価0回。A評価0回。B評価2回。不正解2回』

 昨晩のメインヒロインアンサーの結果を受け多野明人は絶望した。彼の現在の死亡フラグケージは95%。残り5%ケージが溜まれば彼は無残な死を遂げる。

「自分だけが死ぬのが怖くて誰かと心中しようとしているか」

 先程の桐谷の言葉が頭に浮かび、多野は思い切り首を横に振った。

「違う。俺は本気で全員で生き残る方法があるって考えているんだ。だから誰かを巻き添えにして死ぬなんて、微塵も考えていない!」

 説得力がない多野の声に、滝田と谷口は耳を貸さない。そうして滝田と谷口は多野の元から離れていく。突然の裏切り。多野は悔しそうに握り拳を作り、強く机を殴った。

「なんでだよ! こんなの絶対おかしい。誰かを見殺しにしないと生き残れないだと。俺はそんなことできない。そもそもこれ以上の被害者を出さずにゲームをクリアするなんて不可能なのか! 犠牲者を出さずに40人全員でゲームクリアなんて夢物語を信じる奴はいないのかよ!」

「結局自分が助かればそれでいいってだけの話でしょう? 全員で生き残る方法なんて考えている奴は、ただの偽善者ですよ。自分が生き残るためなら誰かを見殺しにしないといけない。それがシニガミヒロインをクリアするためのルールなんですからね。誰かを殺す覚悟がないと死にますよ。全員で生き残るなんて馬鹿な方法を考えているのは多野君だけです」

 多野の怒りに対して、桐谷が冷徹な笑みを浮かべ人差し指を立てる。


「そんなことない!」

 赤城は強い口調で桐谷に反論する。

「まさか君も全員で生き残るなんてこと考えているのですか?」

 桐谷が首を傾げてみせる。それに対して赤城はハッキリと答えた。

「そうだよ。俺もこんなゲームおかしいって考えている。そうやって誰かを見殺しにしたら、ゲームマスターの思う壺だ。だから俺はラブにハッキリ言ってやる」

 赤城は机の上に立ち、周囲を見渡しながら叫ぶ。

「ラブ。お前の目的が何かは知らないが、お前は間違っている! 何がプレイヤー間の殺人等犯罪行為の禁止だ。確かに直接的な殺人は行われていないが、誰かを見殺しにするってことは間接的な殺人じゃないか。だから俺はお前の思い通りにはならない。絶対誰かを見殺しにしない。そして必ずお前をこの手で殴ってやる」

「お前忘れたのかよ。ラブに歯向かって殺された山口のこと。そんなこと言ったらラブに殺される」

 少しだけ冷静になった多野が赤城を責める。

「多野君。ここまで言わないと怒りが収まらないんだ。これでスッキリした」

「お前は何も分かっていない。俺は目の前で同い年くらいの男子高校生が死ぬところを見たくない。あんなことを言ったら、このクラスに所属する男子高校生たちの目の前で死ぬことになるんだぞ。命を粗末にするような言動は許さない」

 多野が一歩を踏み出して赤城を責める。

「確かに俺が悪かった。今後ラブを挑発するような発言は自重する。でもおかしくないか。あの発言から三十秒ほど経過しているにも関わらず、何も起きない。無慈悲に男子高校生たちを殺してきたラブなら、何かしらのアクションを起こすはず。例えばこの場で俺の首を切断して、他のプレイヤーに挑発したらどうなるのかを伝え、プレイヤーたちを絶望の淵へと追い詰めるとか」

 赤城は自分の右手に自分の首を当てる。そしてそれを右から左へと動かし、首を切断するようなジェスチャーをする。

「じゃあペナルティとして死亡フラグケージが上がっているのではありませんか?」

 矢倉が首を傾げながら右手を挙げる。その指摘を受け赤城は自分のスマートフォンを矢倉に見せた。

「昨日見せただろう。あの時の死亡フラグケージは55%だった。そして昨日のメインヒロインアンサーは不正解を出さなかった。つまり死亡フラグケージは55%でストップしているはずなんだ」

「それが上がっていないってことは、謎ですね。何も起こらなくて良かったけど、気になります。どうして何も起こらなかったのか?」

 赤城たちは一生懸命考えたが、答えは分からない。その間も時間が流れていき、8時15分を迎えた。


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