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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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帰宅

「それにしても不便ですよね。メールアプリがあるのに、アドレスを交換する手段がないのは」

 多野の部屋で滝田がガラス製のコップに注がれた炭酸ジュースを飲みながら、呟く。

「そうだな。アドレスは直接入力できない仕様になっているから、連絡が取りにくい」

 多野が滝田に同意するように不満を口にした。

「でもマップアプリを見たら、各プレイヤーの自宅が分かるから最悪自宅を尋ねたらいいでしょう」

 谷口はスマートフォンのマップアプリを赤城達に見せる。

 地図上で多野家という文字が表示され、赤い丸が点滅している。

 その地図をスクロールさせていくと、下向きの矢印と藤田家という文字が表示された。

「いくらゲームだからって、これはないだろう。個人情報管理がなっていない」

 この事実を知った赤城が思ったことを口にする。

「それで明日はどうするんですか?」

 矢倉が右手を挙げ、多野たちに尋ねた。

「厄介だということだけは分かる。明日は休みだから、島田夏海との接点が失われるからな」

 多野の言葉に続くように、滝田が情報を整理する。

「あの時彼女は言っていましたね。明日は節子ちゃんが入学式に参加するから、病院に行っても無意味だって」

「だったら彼女の自宅へ遊びに行けばいいだろう」

 赤城が自信満々に意見を述べる。だが多野たちはその意見を聞き、タイミングを合わせたかのように首を横に振った。

「それは無理ですよ。このマップアプリには、それぞれのプレイヤーの自宅は表示されていますが、彼女の自宅までは表示されていないようです」

 滝田は説明するつもりで、マップアプリの検索機能で『島田夏海』と検索してみる。

 だが彼女の自宅は検索にヒットしない。

 次に滝田は、『赤城恵一』と検索してみる。

すると地図上に赤城の自宅が表示された。

「彼女の自宅が分かったとしても、今は無理だな。いきなり押しかけたらストーカーみたいで、好感度が下がる」

「だったらどうするんだよ。このまま明日は何もせず休めと言いたいのか。休んでいる間も時間は一刻と迫っているんだ。時間を有効活用しないと、俺たちは終わる」

 赤城が苛立ち、目の前に置かれた机を強く叩く。

「仕方ないだろう。ここは冷静に対策を議論して、明後日から一気に経験値を稼ぐ。これしかノーリスクで勝ち上がる方法はない!」

 不穏な空気が一室を包み込み、赤城と多野の口論する。そんな2人の間に矢倉が仲裁に入った。

「喧嘩は止めてください。僕は目の前で同じ男子高校生が死ぬのを見たくないんです。それは皆も同じでしょう。だからここは協力して対策を考えましょうよ」

 矢倉の言葉を聞き、赤城は冷静さを取り戻す。

 それから赤城たちは、今後の作戦について話し合ったのだが、有効な作戦は何一つ思いつかなかった。

 

 午後6時。会議を続ける赤城達のスマートフォンが一斉に震えた。その画面には、メール着信の文字。

 赤城たちは嫌な予感を覚えながら、メールアプリをタッチして、受信された文面を読む。

『ラブです。仮想空間内のご両親に代わってお伝えします。今日は部活もないのだから、早く帰ってきなさい。午後6時30分以内に帰宅しなかったら、お仕置きですよ。それと、学校で出された課題も提出しないと、ゲームオーバーね』

 そのメールの差出人はラブだった。そのメールを読み赤城たちは一斉に立ち上がる。

「お仕置きか。帰宅しなかったら嫌な予感がする。ということで俺は帰らせてもらうよ。じゃあまた明日。またこの部屋で作戦会議をしようぜ」

 赤城が多野に頭を下げ、素早く帰り支度を整えた。

 それに続くように矢倉たちも多野の家から自宅へと戻る。


 午後6時25分。ギリギリで帰宅した赤城は、仮想空間上の家族と共に夕食を食べ、自室に籠った。

 部屋に設置されたベッドの上で横になった彼は考え込む。効率的に好感度を上げる必勝法はないのか。

 この最大の悩みは、考えれば考えるほど分からなくなる。自室に籠り五十分間、彼は一生懸命考えたが、必勝法が見えてこない。

 その時彼の右手の中にあったスマートフォンが震えた。その画面には通知の文字が表示されている。

『通知。一分後にドキドキ生放送が始まります』

 またこの瞬間に誰かが殺されたのではないかと赤城は思ったが、通知を読む限りではそうではない。

「生放送ってまさか」

 赤城はスマートフォンに表示された文章を読み今朝の出来事を思い出す。遅刻はゲームオーバー、あの時届いたメールの文面が頭を過り赤城は焦りながら、ドキドキ動画をタッチする。

 

 そうして生放送という文字をタッチすると、画面上にラブの姿が映った。背景は今朝と同じ白い壁に覆われた空間。

『皆様。学習能力が高いですね。尊敬します。現在の閲覧者数は40名です。ちゃんと不正は行われていないようですし、全員合格ですね。まあ今回の生放送は、別に見なくてもいいんですよ。また動画はアップするから。まずは皆様。仮想空間内での学園生活1日目はいかがだったでしょうか。死亡フラグケージギリギリの人もいるみたいだけど、よくこの時間まで生き残ることができましたね。今回のプレイヤーたちは優秀ですよ。ここまでの段階で10人くらい脱落してもおかしくないのに』

 ラブが腕を組み、説明を続ける。

『1日目終了を目前にして、プレイヤーの皆様から幾つかの疑問が出て来たようですので、この場を借りてお答えします。メールアドレスを交換できずに困っている方もいらっしゃることでしょう。ゲームが進むとメールアドレス交換用のアプリも解禁されるので、我慢してくださいね』

 

 それからラブは3回手を叩き、カメラ目線でプレイヤーたちに伝えた。

『午後8時よりメインヒロインアンサーが開始されます。シニガミヒロインってアプリをタッチしたら、自動的に画面が切り替わりますよ。因みに問題はランダムだからね。仲間で1か所に集まってゲームをプレイしたいって考えている人もいるみたいだけど、それはレベルを上げるまでお預けです。忘れているかもしれないけど、プレイヤー間で話し合って選択肢を選ぶことは禁止だからね。他にも色々とレベルを上げるごとに解禁される要素もあるので、お楽しみに。最後に桐谷様。今朝の交渉は認めましたが、今後は止めてくださいね。ゲームマスターとの交渉は、ある手続きととってからにしていただきたい。ということで生放送を終了します。それでは皆様。生き残ってくださいね』

 砂嵐が画面を走り、動画は途切れた。現在の時間は午後7時55分。

メインヒロインアンサー開始まで残り5分。赤城恵一は自らの両頬を叩いた。


「大丈夫だ。俺は予選で1回だけS評価の答えを導き出したじゃないか」

 赤城恵一が自分に言い聞かせるように呟き、両手を強く握る。しかし彼の顔はどこか不安に満ちていた。

 自信を不安が入り乱れ、赤城恵一は『シニガミヒロイン』をタッチする。

 ゲーム開始まで残り1分。彼は目を瞑り精神を集中させた。このゲームで全問不正解なら即死亡。何問か間違えただけでも、いずれ追い詰められていくだろう。

 そして瞳を再び開け、スマートフォンを握り直すと、画面が切り替わり夕日に照らされた校舎が映った。


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