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シニガミヒロイン  作者: 山本正純
第二章 カセイデミル
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お見舞い

 純白の壁に覆われた3階建ての建造物の自動ドアの前に、5人の男子高校生たちが、立つ。

 その建物の近くには『悠久中央病院』と書かれた看板が設置されていた。

 赤城恵一は悠久中央病院の外観を見上げる。

「ここだな」

「ああ、この病院に島田夏海の妹が入院している」

 多野が赤城の横顔を見ながら、呟いた。

「そんなことより、早く行きましょうよ」

 矢倉が赤城たちを促し、5人の男子高校生たちは、自動ドアを潜り病院の中へと足を踏み入れた。

 その先にあったのは、数10個のソファーと、受付と呼ばれるスペース。その空間にはエレベーターや階段が設置されている。

 そしてソファーには診察待ちの患者たち数十人が座っていた。

 1階に位置する空間を赤城たちは見渡す。

 その中で谷口が受付の近くに設置された見取り図を見つけ、指さす。

「見てください。これによると一階に診察室が設置されていて、2階と3階に病室があるようですよ」

 谷口の説明に、赤城たちは彼の元へ駆け寄った。

「ところで、島田節子の病室はどこだ」

 赤城が病院の見取り図を見ながら、首を傾げる。その質問に4人は答えることができない。

「そういえば聞いていなかったな」

 多野が頭を掻き、滝田がジト目になる。

「言い出したのは多野君でしょう」

「悪いな。大切なところが抜けていた。完全な俺のミスだ」

 

 その時、エレベーターのドアが開き、一階のホールに島田夏海が現れた。

 彼女を挟むように、百谷次郎と千春光彦が歩いている。

「百谷君。千春君。今日はありがとうございました」

 島田夏海が笑顔を見せながら2人に声を掛ける。それに対して百谷は軽く会釈した。

「こちらこそアポなしで来て、迷惑ではありませんか」

 百谷が心配そうな表情を浮かべると、彼女はそれを否定するように首を横に振った。

「いいえ。節子も喜んでいたから。入院生活で話し相手がいないと暇みたい」

「だったら明日も来ていいですか」

 千春が右手を挙げ島田夏海に尋ねる。

「いいけど、明日、節子は一時的に退院して入学式に参加するからね。この病院に来られても困るよ」

「分かりました」

 千春と夏海の会話を横で聞いていた百谷は咄嗟にポケットからメモ帳とシャープペンシルを取り出し、それに文字を記した。

 3人が赤城達の前を通り過ぎようとする。

 その時島田夏海の視線に、赤城達が止まった。彼女は5人の男子高校生たちを見つけると、突然立ち止まる。

「矢倉君たち。丁度良かったね。困っていたでしょう。節子の病室がどこにあるのかを教えていなかったから」


 島田夏海の左隣に立つ百谷はメモ帳を破り、軽く四つ折りにする。

「まさか多野君たちも節子ちゃんのお見舞いに来るとは思いませんでしたよ」

 百谷が率直に語り、咄嗟に多野の制服のポケットに四つ折りの紙を忍ばせた。

「それでは僕たちは、この辺で失礼します」

 百谷と千春が自動ドアに背を向け、島田夏海に頭を下げた。

「うん。じゃあまた明後日ね」

 島田夏海と言葉を交わした2人は自動ドアを潜り、病院から立ち去った。

 それから彼女は5人の顔へと視線を移す。

「案内するね」

 その少女は一度微笑み、エレベーターが設置された方向へ歩き始めた。

 その後ろを赤城達が歩く。その集団の中にいる多野は、百谷が忍ばせた紙のことが気になり、歩きながら制服のポケットを漁る。

 ポケットに手を突っ込んだ感触から、見知らぬ紙を見つけた彼は、それを取り出す。

 その紙は四つ折りにされているメモ用紙で、それを広げると手書きの文字が書き込まれていた。

『お前らは1週間以内に全滅する』

 百谷からのメッセージを読み、多野はその紙をクシャクシャになるまで握りつぶした。

 赤城は多野の行動を不審に思った。しかし今はそれどころではないと思い、言葉を飲み込んだ。

 島田夏海がエレベーターのボタンを押すと、滝田が右手を挙げた。

「島田さん。すみません。トイレに行ってきてもよろしいですか?」

「滝田君。分かったわ」

 夏海が首を縦に振る。そこで休む暇なく滝田は彼女に尋ねた。

「それで節子ちゃんの病室はどこですか?」

「二階病棟だけど、口で伝えると厄介なことになるから、二階のエレベーターの前で待ってるからね」

「分かりました。すぐに駆け付けます」

 滝田は少女に頭を下げ、急いで男子トイレへと向かった。

 それから間もなくしてエレベーターが到着し、5人の高校生たちはそれに乗り込んだ。

 それから1秒後、滝田は立ち止まり周囲を見渡す。

 病院の待合室に同じデスゲームのプレイヤーたちがいないことを確認すると、彼は白い歯を見せて笑った。


 5分後、滝田はエレベーターに乗り込み、中でボタンを押す。

 間もなくして鉄の箱が2階に到着し、ドアが開く。

 そこから彼が降りると、エレベーターの近くに谷口が立っていた。谷口は滝田を見つけ、右手を挙げる。

「随分遅かったですね。滝田君」

 谷口の近くには、島田夏海の姿がない。そのことを知り、滝田は額に手を置く。

「やっぱり抜け駆けは禁止ということですね。偶然便秘気味だったから、それを利用しようと考えていたのですが」

「無駄話は止めた方がいいですよ。早く行きましょうか。案内します」

 谷口は一瞬笑みを浮かべ、彼に背を向け歩き始めた。その後ろを滝田が歩く。

 白色のドアを横にスライドさせると、その部屋の中には、島田夏海と赤城達がいた。

 病室のベッドの端には、黒色のショートカットに垂れ目な低身長の少女が座っている。

 その少女の肌の色は白色で、ガリガリに痩せている。

「お姉ちゃん。今日は男子が多いですね」

 その少女は島田夏海と視線を合わせる。彼女の姉は一度首を縦に振った。

「うん。矢倉君たちはさっき紹介したけど、滝田君は、まだだったね。同じクラスメイトの滝田君です」

 島田夏海は入り口のドアの前に立つ滝田を指さす。それに対して滝田は少女に頭を下げた。

「滝田です。よろしくお願いします」

「こちらこそ。島田節子です。滝田先輩。よろしくお願いします」

 か弱き少女、島田節子は笑顔を見せ頭を下げた。


 午後3時。赤城達は病院から多野の自室へと移動し、今後の作戦について話し合う。

「ヤバいな」

 ベッドの上に座った多野がスマートフォンに表示されたステータスを見ながら呟く。

「何がですか?」

 多野の右隣りを歩く矢倉が首を傾げる。

「これを見ろ」

 そうして多野は矢倉に自分のスマートフォンを差し出した。


多野明人


レベル2

知識:0

体力:0

魅力:0

感性:0


死亡フラグケージ:20


累計EXP:150

Next Level Exp :50


「これを見てどう思う?」

 多野が疑問を口にすると、赤城たち3人が、矢倉が手にしている多野ののスマートフォンを覗き込んだ。

「どう思うって、死亡フラグケージが溜まってるじゃないか」

 赤城が驚き自分のステータスも確認する。そのステータスに映し出されたのは、多野と同じ物だった。

 同じように谷口たちもステータスを確認し、落胆する。

「僕も同じです。死亡フラグケージ20%。でもどうして……」

 矢倉が俯きながら床に手を置く。

 死亡フラグケージが溜まった理由が分からない赤城たちは唸る。すると突然谷口が手を挙げた。

「もしかして行動が間違っていたのかもしれません」

「谷口君。どういうことだ」

 多野が焦り谷口に聞き返す。

「ラブが言っていたでしょう。死亡フラグケージはプレイヤーの行動によっても加算されるって。そもそも僕たちは根本的な所を間違えているんです。いくらゲームだからって2時間程病室で会話を続けたら、迷惑でしょう」

「つまりゲームとは考えずに、現実的に考えろってことか」

 多野が顎に手を置くと、滝田が彼の言葉に続いた。

「ゲームであってゲームじゃない。デスゲームを現した言葉です。そんなことより気になったのは、2時間会話を続けたにも関わらず好感度経験値が100しか上がらなかったことでしょう。この問題を解決しないと、全滅です」

 滝田の言い分は正しかった。一回戦のゲームをクリアしなければ、ゲームオーバー。

 死亡フラグケージが溜まりきってもゲームオーバー。

 赤城達は初日から追い詰められた。


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